[2000年11月]
砂糖生産地から
沖縄県や鹿児島県南西諸島において基幹作物であるさとうきび。このさとうきびから砂糖を作り出すほかに様々な用途に利用するための取り組みがされています。今回沖縄県農林水産部糖業農産課係長真武真一氏にさとうきびの総合利用を紹介していただきました。ケーンセパレータを用いることによってパルプ原料や茎の表面に付着するワックスからは医薬品等の有用成分の活用など。さとうきびには様々な利用価値がありそうです。
沖縄県農林水産部 糖業農産課 係長 真武 真一
1. はじめに
さとうきびは、沖縄県農業を支えている基幹作物として、農家経営及び地域経済において重要な位置を占めているが、これまでは、甘味資源作物として砂糖を製造することのみに利用されてきた。
さとうきびを原料として製造する甘しゃ糖については、輸入糖との間に相当の価格乖離があることから、引き続きさとうきび生産及び甘しゃ糖製造のコスト低減努力が強く求められているが、価格の改善は厳しい状況にあるため、さとうきびを単なる甘味資源作物として利用するだけでなく、砂糖以外の有用成分を抽出して有効活用する高付加価値化(さとうきびの総合利用)が課題となっている。
さとうきびの総合利用による高付加価値化を推進することにより、沖縄県の基幹作物であるさとうきびを利用した新たな沖縄産品が創出されれば、新産業の育成、雇用の拡大、さとうきび生産振興及び地域の活性化等、大きな経済効果が期待される。
2. ケーンセパレータ
本県に立地する製糖工場は、さとうきびから砂糖生産のみを目的とした機械装備が確立している。工場に搬入されたさとうきびは細断・細裂・圧搾を経て蔗汁とバガスに分けられる。バガスは工場の熱源として蒸気を生産し、その高圧蒸気で圧搾機及び発電機を駆動させる。また低圧蒸気は蔗汁の加熱・濃縮・結晶化等の各工程で利用される。このシステムの特徴としては、熱源のほとんどをバガスに依存していることである。そのため、現行では有効な生物資源であるバガスの利用は熱源が第一義的であり、その余剰分を堆肥等に利用しているにすぎない。また、現行のシステムから生産されるフィルターケーキ及び廃糖蜜には有用成分が含まれているものの、ほとんどが利用されることなく極めて安価で取り引きされている。
ケーンセパレータは、さとうきびの茎の表面に付着するワックス、堅い表皮(ラインド)、蔗汁を含む柔組織(ピス)を機械的に分割し、それぞれの器官別に異なる特製を有効に利用するところが特徴である。ワックスには医薬品、健康食品、化粧品に利用される有用成分が含まれている。ラインドは非木材ボード及び紙パルプ原料として有望である。ピスは食物繊維や最近特に注目を集めているキシリトールの原料として有望であることが分かってきた。特に非木材紙源料としてのラインドの活用法に見られるように、さとうきび副産物は森林資源を代替する可能性があり、この新しいシステムを導入することによって、さとうきびを環境保護機能を有する甘味資源作物として位置づけることができる。
3. ケーンセパレータの作動原理
図にケーンセパレーションシステムの模式図を示す。
トラッシュを除去したさとうきびの茎は、約30cmに切断され高速コンベアで (1) へ運ばれる。(2) の2つの搬送ロールによって楔状カッターに押し込まれた茎は縦軸方向に中央部から2つに裂かれる。その茎は両側に分かれ、いずれも柔組織部(ピス)を削り取り (3) の高速カッターへ運ばれる。削り取られた柔組織は (7) に貯まる。柔組織部除去後 (4) の高速カッターで茎の表面に付着しているワックス層が取り除かれる。ここで柔組織部とワックス層が削り取られた外皮部(ケーンラインド)は紙パルプ用として (5) の細断装置へ運ばれ、約5mm幅に細断される。一方、ボードパルプ用として、細断されず (6) のローラーへ運ばれる。
4. さとうきび総合利用についてのこれまでの県の取り組み
ケーンセパレータを用いた、これまでの沖縄県の取り組み概要は以下のとおりである。
○平成5年度 |
ケーンセパレータの実験機を農業試験場に導入 |
○7年度 |
ラインドからパルプを試作 |
○8年度 |
郵政省のハガキ「さくらめーる」にラインドパルプを含んだバガスパルプが採用される(毎年2月発売) |
○9年度 |
黒砂糖新商品の試作(農試・黒砂糖工業会) |
○10年度 |
ラインドパルプを使用した製品見本を作成(三菱製紙) |
○11年度 |
サミット広報用ポスターに上記の用紙が採用(1万枚) |
〃 |
ピスの搾汁液で黒砂糖新商品のサンプルを作成 |
○12年度 |
本土食品企業と共同でワックスを採取し、健康食品をターゲットとした精製及び分析を実施 |
〃 |
ラインドパルプを用いて、沖縄郵政管理事務所で九州・沖縄サミット記念ハガキを販売(4万部:10枚セット) |
5. 今後の方向性と取り組み
これまでのさとうきび総合利用は、製糖副産物をいかに有効に活用するか、という視点で検討されてきたが、ケーンセパレータで分離したピスから得られた搾汁液で含みつ糖(黒糖)を製造すると、従来の含みつ糖と分みつ糖との中間的な製品ができる。平成11年に沖縄県黒砂糖工業会で試作をして、東北大学で食味検査等を行った。その結果、セパレータで試作した含みつ糖は、従来通りミルで搾汁し製造した含みつ糖と比較して、「あっさり」として「マイルド」であり、被験者(学生)には好評だった。
含みつ糖は、色・味・香りが独特で、用途が制限的に消費されていたが、セパレータを用いて製造した含みつ糖は、従来の含みつ糖の用途を広げ需要を拡大する可能性がある。
現在、国産含みつ糖は、菓子メーカーなどの業務用用途においては、外国産の品質向上や内外価格差のメリット等から外国産に置き換わる傾向が一層強まることが予想されている。そのため、一般消費向け市場へシフトする原動力として、セパレータを用いて製造した国産含みつ糖の開発が進めていく必要がある。
沖縄県では12年度に、農業試験場にある実験機を県内の含みつ糖工場に移設し、パイロットプラントとして稼働させ、実用化に向け、茎分割技術、加工技術、利用技術のそれぞれの技術分野について検討を進める計画となっている。