フランス料理発展の歴史は中世にまでさかのぼります。当時料理の先進国はイタリアであり、フランスは料理に後れを取っていましたが、フランス王室とイタリアのメディチ家との縁組みにより、イタリアの料理技術がフランスへ伝わりフランス料理が一層華やかになっていきました。その後時が経ち、フランス革命後、それまで王室に仕えていた料理人はその技術を生かし、街に出てレストランを開いていき、フランス料理が大衆化していきました。
日本の懐石料理には、食べる料理の順番が約束事として決まっている。フランス料理の場合も同じで、前菜、スープ、魚料理、肉料理、サラダ、チーズ、デザートの順に進んでゆく。これがいわゆるフルコースだが、よほど正式な宴会でない限り、この全部のコースを食べることは滅多にない。レストランへ食事に行った場合、普通は前菜 (温かいものか冷たいもの) かスープ、メインディッシュとして魚料理か肉料理、チーズ、そしてデザートを注文する。これなら日本人でも食べ切れるのではないだろうか。因に、家庭では前菜かスープ、魚か肉か卵料理、付け合わせとして温かい野菜料理、サラダ、チーズ、ヨーグルト、デザートとして果物をいただくのが一般的である。クリスマスや記念日、友人を家に招く時は、コースの数は同じでも主婦が腕に縒りをかけて作り、気の利いた料理が食卓を飾り、果物の代わりに一手間かけたデザートが登場する。
ところで、フランス料理を食べた後の感想として、メインディッシュ迄の料理の美味しさとは別に、デザートの印象が残るような気がする。家庭に招かれた時など、その家伝来の秘密のレシピーがあり、こちらが褒めるとマダムは嬉しそうに「メルシ」と言いながら微笑み返してくれる。レストランで食事をした際も、デザートのコースになると、ワゴンサービスで見せてくれる。大きな店では10種類以上も用意してあり、どれも美味しそうで選ぶのに迷ってしまう。
この「選ぶのに迷う」というのは、それだけ変化に富んでいるからであろう。実際、和菓子に比べると、形といい、材料といい、多様性に満ちている。
 皇后風お米のババロア |
具体的に例を挙げてみよう。形からみた場合、小麦粉と卵とバターをベースにして焼き上げたものとして、ビスケット、タルト (パイ)、シュークリーム、スポンジケーキ、クレープ、マドレーヌ等がある。次に、卵をベースにしたものでは、プディング、メレンゲ、温かいスフレ (後述のスフレの箇所A参照)、ババロワ、アイスクリームやムース類がある。また、果物を使ったものでは、フルーツポンチ、コンポート (果物のシロップ煮)、ムースやゼリー、アイスクリームやシャーベットがある。
材料の点から注目してみると、砂糖以外に使うものは、卵、乳製品ではバター、牛乳、生クリーム、チーズ、澱粉類では小麦粉、お米、そば粉、パン等が使われる。果物もよく用いるが、苺やりんご、オレンジなどその季節の旬のもの以外に、干したレーズンやプルン、缶詰の洋梨やパイナップルも珍しくはない。ナッツ類ではアーモンドやくるみ、特にアーモンドは、丸のままや粉末、薄切り、粗切りと形を変えて頻繁に登場する。この他に、冷たいデザートのつなぎとしてゼラチン、香り付けには、バニラ、シナモン等のスパイス、チョコレートやコーヒー、紅茶、ワイン、ブランデーやリキュールのアルコール類、カラメルが脇役となる。
更に、食べる時の温度を考えた場合、常温、温かい状態のもの、冷たいものとに分類できる。常温でいただくものはビスケットやタルト、スポンジケーキ等。スフレ
Aは、泡立てた卵白が熱で膨らむのを利用したもので、オーブンで表面が最も盛り上がったら間髪を入れずに供するとよい。また、冷やしておくものでは、アイスクリーム、シャーベット、ババロワやムースがある。
今迄述べてきたように、一口にデザートと言っても、複数の材料を組み合わせることによって幾多のバリエーションをもたらす。形は立体形な物から平たい物、丸や四角い形、味に付いては甘いものや果物の酸味、チョコレートの苦味があり、色合も鮮やかな赤い色や淡いパステル調の色彩、渋い茶色と広範囲である。更に、いただく時の温度も考え合わせれば、身近にある材料が千変万化する。「この身近な材料を何十倍にも変化させて楽しむ事」こそフランス文化の真髄である。
このように、見た目も美しく、食べて美味しく、中に入っている材料の香りや食べた時の触感といい、五感を駆使して味わえるデザート。デザートもそれなりの役目を果たしている。
デザートには、3つの役割があると言えよう。1つ目は、心の緊張を解すことである。本当に美味しいデザートに出会った時、人はどのような表情をするであろう。一口食べて美味しいと解ってから、二口目を口に運ぶのと同時に目を閉じて味わい、喉元を過ぎる頃から顔が綻びてくる。苦いものや酸っぱいものを食べた時は対照的で、表情が強張る。この顔付きが甘い物を食べている人の心理状態をよく表している。
2番目に、デザートに使う材料に付いては前に述べたが、食材を幅広く取ることができる。最も簡単なものでも3〜4種類は使うので、旬の果物を生かすなどして、変化を付けて食べていれば、より良い健康状態が保てる。
3番目の役目として、アルコールの解毒作用がある。食事の初めに甘い物を食べると、満腹感が早く起きて食欲がなくなるが、デザートは食事を締め括るばかりか、こちらの意義は大きい。ところでフランスでのお酒の飲み方は、食前酒、食事中のワイン、少量の食後酒と使い分けており、理に適っている。食前酒の代表格は、ペルノーやアブサン (ベルモット) だが、アルコール度数は低く、茴香(ういきょう)や蓬(よもぎ)など薬草入りで胃腸の働きを高める。食事中はワインで通し、食後には、アルコール度数の高い食後酒を飲む。食後酒には、ブランデー類の甘くないものと、甘味の強いリキュールとがある。リキュールとしては、コワントローとグランマルニエ (共にオレンジ入り)、シャルトリューズ (修道僧が作っており、甘草など50種類以上の薬草が入る) や郷土色豊かなジェネピ (アルプス蓬入り) などがある。食後酒は、アルコールが体内で食物を燃焼させ、消化を促進する働きをする。食後酒を表すフランス語の digestif (ディジェスティフ) には、文字通り、「消化を助ける」の意味がある。
このように、食事の最後にデザートを食べ、リキュールを飲むのは、薬に頼らずに自然な食べ物の組み合わせから体調を整える「医食同源」の現れである。
 小タルト (タルトレット) |
最後に、地方に見られる興味深い習慣を御紹介しよう。ノルマンディーやブルターニュでは、宴会が長時間続くとか。そこで、途中でリキュールに浸した角砂糖を食べ、2時間ほど休み、その後再び宴が再開されるようだ。
ご馳走を食べる時は、最低2時間ぐらいはかけてゆっくりしたペースで食べる事、更に食事中に楽しい話をし、笑うことも消化に良い。フランス料理はヘルシーでない、というイメージが日本にはある。が、実際には、フランク王国を統一した王シャルルマーニュが法令集に定めたハーブの使い方は千年を越える伝統があり、栄養面から見た野菜や果物の摂り方、先に記した食習慣など学ぶべき医食同源の考え方は多くあると言えよう。
デザートを作る時に、砂糖は欠かせない材料だが、その過程で大切な働きをしている。
先ず、材料に砂糖を加えれば、甘味を出し、杏など酸味の強い果物やカカオのように苦味の強いものに使うと、味が和らいで食べ易くなる。
苺やりんごなど果物のジュースをそのまま置くと空気に触れて色が悪くなるが、砂糖を加えて湯煎にかけるだけで、砂糖が溶け出すと同時に、果物本来の色が蘇える。つまり、色止めをして、ツヤを出す。
 桑の実入りスポンジケーキ |
卵を泡立てるのも砂糖なしにはあり得ない。全卵であれ、卵白であれ、元の材料の3〜4倍に膨み、ベーキングパウダーを使わずにスポンジケーキは作れるのである。泡立てて空気が入るのと同時に卵をしっかりさせる。
フィンガービスケットやメレンゲを焼く前に表面に粉砂糖をふるが、これは粉砂糖が材料の水分を吸収し、表面を乾かすためである。別の場合で、砂糖を表面にふって上火を利かせると、砂糖が溶けてツヤが出、更にはカラメル化して焼き色が付く。
ジャムを作る時に砂糖を入れるのは、煮つめて水分を飛ばしながら保存力を与えている。
終わりに、砂糖の歴史を振り返ってみると、大昔は薬と考えられていたほどで、砂糖が手に入り易くなったのは、最近の200〜300年のことである。他の調味料と比べれば、その科学的性質から利用範囲が広く、使い方次第では健康にも良いのが砂糖である。その「砂糖」を活用してフランス料理のデザートのような多彩で甘くておいしいデザートを作り、毎日の生活に彩りを添えてはいかがでしょうか。