砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 視点 > 産業 > 21世紀甘蔗糖生産のコストダウン

21世紀甘蔗糖生産のコストダウン

印刷ページ

最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2001年4月]
日本甘蔗糖工業会 会長  太田 正孝


1.甘味資源作物と砂糖の新世紀
2.南西諸島におけるさとうきびの重要性の再確認
3.国産甘蔗糖生産コストの現状
4.儲かるさとうきびづくりでコストダウン
5.歩留の向上でコストダウン
6. 周辺技術の応用でコストダウン
A.宇宙衛星・リモートセンシングの活用
B.さとうきびから高付加価値物質の分離



 昨年、食料・農業・農村基本法に基づいて策定された基本計画では、平成22年度の努力目標として砂糖自給率34%、てん菜・さとうきびの作付面積、10a当たり収量、生産量、国産糖の生産量等が明示され、国産糖の位置付けが明確になり、今年は実質その初年度である。  さらに、昨年10月からは、「糖価安定法」が「糖価調整法」に生まれ変わり、砂糖類課、畑作振興課が本年1月6日に統合され、さとうきび・てん菜の生産から砂糖の製造・消費まで一元的に担当する特産振興課が設置された。砂糖業界は正に21世紀とともに砂糖新世紀を迎えることとなった。  糖価調整法下の新制度は内外価格差を是正すべく関係部門が合理化し、生産性の向上を図り、砂糖の価格を下げて需要の拡大を図ることがその主題であり、新制度の維持は関係者の協同した取組でコストを削減することが、関係者に与えられた新世紀初頭の大きな課題であると理解している。この課題を鹿児島県の甘蔗糖企業から日頃考えていることを述べさせていただき関係者のご批判をいただきたい。




(1)最も高い経済波及効果
 薩南諸島では、平成11年度で全農家の65%、作付面積の51%、全生産販売額の32%がさとうきびであり、台風・干ばつ常襲地帯の基幹作物だといわれている。
 離島経済におけるさとうきびはこのような数字で表される以上のものをもっている。残念ながら離島経済の活性化について地道な研究成果をみる機会がなく、相変わらず地元関係者は公共工事に頼る傾向がみられ、大島郡 (奄美大島・喜界島・徳之島・沖永良部島・与論島等) の郡民所得 (最新統計の平成9年度) の76%が公務を含めたサービス産業で、土木建築業が14%、農業が5%、一方、労働力構成では農業が19%である。
 離島の農業経済について、唯一、沖縄県 (全県離島であり統計をとりやすい) で平成2年度産業連関表の407部門を分析した「サトウキビ部門の県経済への波及効果」の労作がある (本誌3月号で沖縄県農林水産部糖業農産課の大城健氏が平成7年沖縄県産業連関表 (278部門表) を用いた県内波及効果を4.29倍と報告している。鹿児島県は平成2年度の県産業連関表による分析 (32部門) で「さとうきび生産の県経済に及ぼす波及効果」は3.97倍と推定している。薩南諸島に限定すると現実味があるが基礎資料がないので、ここでは広範囲詳細な407部門の分析をした沖縄県の平成2年の資料 (表1) を参照する)。これによると波及効果の最も高いのは砂糖原料作物で、その生産額 (売上) ベースの誘発係数は3.21であり第2位のと畜2.61や21位の馬鈴薯1.82、24位の肉用牛、28位の甘藷、42位の果実等の農産物を、また、23位の道路関係公共事業の1.81、48位の農林関係公共事業の1.75をはるかに超えている。競合作物の馬鈴薯は単に選別し、島外から移入された段ボールに入れて送られるだけなのに対し、さとうきびの場合、後述するようにコスト2/3はさとうきび代 (123億円) であり、残り1/3は島内で支払われる従業員人件費 (31億円)、さとうきび輸送費 (10億円)、JA 手数料 (2億円) 等々であるので、第一次波及効果だけで1.5倍あることからもその波及の高さは納得できよう (いずれも鹿児島県の例)。
 さとうきび代金は薄く広く支払われるので、島の飲食店・小売店等サービス産業への循環も大きく他の産業を支えている。さとうきびは基幹作物であるばかりではなく、南西諸島の活性化のための最もコストの安い最も効果的な基幹産業であることをまず島の人たちがそして関係者が再認識する必要があろう。また、国民的にみても南西諸島保全の最もコスト安なのがさとうきび振興といえるであろう。

表1 沖縄県経済への波及効果の高い産業部門一覧
〔生産額 (売上) ベースの誘発係数の順位〕
順 位 部 門 名誘発係数
1
2

8

21

23
24

28

41
42

48
砂糖原料作物 (実質)
と畜 (肉鶏処理含む)

養   蚕

馬 鈴 薯

道路関係公共事業
肉 用 牛

甘   藷

野   菜
果   実

農林関係公共事業
3.20752
2.60615

2.01346

1.81865

1.81436
1.80041

1.78614

1.75720
1.75719

1.74528
資料:サトウキビ部門の県経済への波及効果;沖縄県農試 家坂他

(2)さとうきびの役割と島別マスタープランの明示
 さとうきびは単に経済波及効果だけでなく、複合経営する場合、園芸作物との輪作・間作作物として不可欠であり、牛の飼料としては梢頭部、葉柄が、盛夏の食欲減退期には糖蜜が用いられ、バガスはきのこ類の菌床としても特別の効果がある。飼料→推肥、バガス敷料推肥は物質循環型農業としても重要である。最低生産者価格制度で安定した見通しができるので大規模専業農家へ計画的に拡大できる。台風・干ばつ常襲地帯の南西諸島の農家は気象条件の変動による収量の波があり、さとうきび以外の作物はさらに市場の動向の変化による価格の変動にさらされる。大きな地域の統計では気象条件が平均化されるので徳之島の直近9年間の主要農産物の10a当たり収量、販売単価、10a当たり粗収入の最高・最低と変動をみると (表2) さとうきびが最も安定していることが分かる。またさとうきびの場合、豊作でいくら増産しても一定の価格で全量販売できる強みがある。
 農家が作付計画するときにどのような割合で (例えば、きび・園芸・畜産を5:3:2) 複合経営していくのが良いのか、島ごとの特徴に合わせ県として例を示し、それに合わせた一貫した営農指導をお願いしたい。県として島別に10年先を見通した農業マスタープランを公表し、市町村行政も県の出先機関の関係者も共有できるさとうきびに対する一貫した長期方針が21世紀の目標として示されることを期待したい。大きなくくりの県とか郡の目標では各島にとっても意義は薄められ意味をなさない。またさとうきびの重要性を認識しても誰かがさとうきびを作るであろうでは意味がない。島経済を最も心配する県と市町村、JA が一体となった島別農業のマスタープランの必要性を感じるところである。
表2 徳之島主要農産物の直近9年間の変動
〔生産額 (売上) ベースの誘発係数の順位〕
  サトウキビ サトイモ ジャガイモ タンカン キ ク 肉用牛子畜
販売単価
(円/kg・本)
(千円/頭)
Max 21.14 510 224 374 48.0 431
Min 20.41 239 132 299 34.7 239
Max/Min 1.04 2.13 1.70 1.25 1.38 1.80
10a当り収量
(kg/10a)
(百万本/10a)
Max 7,398 1,028 1,215 38.0 335
Min 5,477 874 811 30.8 165
Max/Min 1.35 1.18 1.50 1.23 2.03
10a当たり粗収入
(千円/10a)
Max 152 461 269 1,638 107
Min 112 221 109 1,115 59
Max/Min 1.36 2.09 2.47 1.47 1.81
資料:“奄美群島の概要”(鹿児島県大島支庁) 各年度の農業粗生産額表より算出

ページのトップへ



 国産甘蔗糖の生産コストは下式のとおりである。(  ) 内はコスト構成比率
 生産コストに最も影響を与えているのは、さとうきびの処理量すなわち (収穫面積×単位当たり収量) と歩留すなわち (甘蔗糖度と純糖率) である。収穫面積については、ルネッサンス計画が浸透して鹿児島県ではちょっと増えたが、農業の構造的変化があるので前述の“さとうきびの重要性の再認識”と後述の“儲かるさとうきびづくり体系の構築”が不可欠である。
 一方、単位当たり収量と歩留は、表3のとおりとなっているがこれは気象条件によって大きく左右される。南北約450kmの薩南諸島全体の平均化された統計であってもこれだけ変動するので島別にはもっと大きく変動する。もちろん、単位当たり収量では畑の手入れの如何や、品種、地力によって、また工場歩留も設備と技術のレベルやトラッシュ (ハーベスター刈りのさとうきびとともに入ってくる葉柄・梢頭部等の夾雑物) 率によっても変化するが圧倒的に気象条件によって左右される。従って、製糖企業経営上は気象条件によって左右されない努力や進歩の結果が出る経営指標 (例えば、作付面積、糖分回収率、固定費総額、製造変動費単価等) を目標管理の fundamental factors としてコストダウンに努力してきた。

表3 鹿児島県のさとうきび生産状況
年 度 収穫面積
(ha)
10a当たり収量
(kg)
きび処理量
(千トン)
買入甘蔗糖度
(度)
工場歩留
(%)
2/3 12,265 6,200 760   11.18
3/4 11,076 6,557 727   11.85
4/5 10,448 6,381 667   12.70
5/6 9,936 5,598 556 12.08
6/7 9,626 6,485 624 14.35 12.58
7/8 9,369 6,487 608 14.19 12.11
8/9 9,182 5,744 527 13.94 11.99
9/10 8,718 6,335 552 13.85 11.81
10/11 8,932 7,599 678 13.81 11.93
11/12 9,327 6,555 611 14.74 12.80
注:6/7年度よりさとうきび品質取引開始
資料■日本甘蔗糖工業会

表4 平成11年産 鹿児島県甘しゃ糖生産コスト内訳
単位:%
変 動 費 固 定 費
原 料 代66 固定人件費13
原料輸送費5 原価償却費4
変動人件費4 製造固定費3
JA手 数 料1 管理固定費2
製造変動費1 原料固定費1
77  23
(原料代除くと)11  
資料:農水省“てん菜・さとうきびをめぐる事情”より11年度 (見込み) 数字を日甘工資料にて補足した (きびトン当たり)。

表5 甘しゃ糖企業 (分みつ糖企業) の近年状況
  昭和50年 昭和60年 平成2年 平成11年
企業数 18 22 19 16
工場数 23 23 23 20
従業員数 (人) 1,812 1,579 1,454 846
収穫面積 (ha) 30,280 35,725 32,662 22,813
きび生産量 (千t) 1,969 2,637 1,979 1,570
操業率 (%) 62.6 83.1 61.5 68.4
操業日数 (日) 96.0 106.7 91.9 91.4
資料■公聴会資料「砂糖・甘味資源作物をめぐる最近の情勢」より、きび生産量は生産合理化推進会議資料より

表6 鹿児島甘蔗糖生産コストの推移比 (平成3/4年度基準)
単位:きびトン当たり
年度平成 支払きび代
単価
製造変動費
単価
固定費
総額
固定人件費
総額
総生産
コスト
支払きび代を
除くコスト
支払きび代
3/4 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
5/6 100.0 105.6 91.0 93.2 106.4 115.6 76.4
7/8 103.3 100.7 85.2 85.8 102.4 101.0 83.6
9/10 99.9 104.9 71.9 74.0 99.3 98.4 75.2
11/12 103.1 99.0 64.4 61.5 95.1 83.3 84.0
資料:日本甘蔗糖工業会調べ

 甘蔗糖の生産コスト構成は表4のとおりで、コストの2/3を占めるのはさとうきび代で7〜8年前は60%以下の時もあったが、企業の努力で企業側のコストダウンが進むに従って比率が高くなってきた。このさとうきび代は、最低生産者価格と糖分取引価格体系で他動的に決まる。一方製糖企業の収入は、甘蔗糖の売上げと交付金であり、前者は事実上輸入粗糖と為替相場により決まり、双方ともほとんど他動的に決まる。コストダウンの企業努力はコストの残り1/3の範囲内で苦闘することになる。特にさとうきびの生産量の減るなかで、固定費負担が重くなってきたので、固定人件費 (表6) の削減、設備投資の抑制による減価償却費の削減に努めてきた。その傾向は、表6の生産コスト推移をみれば明らかで平成3・4年度を基準にとると11・12年度は固定人件費で61.5%まで減らしてきたが、さとうきびの処理量が減ってきたので全体のコストダウンは相殺され、さとうきび代を含めると全体では95.1%にしかなっていない。減価償却費を減らしてきたが、これは企業体力が劣え設備更新する余力がなくなったことによるものでこれ以上は工場経営上危険を伴う。
 表4で示されているコスト項目のなかで、固定人件費の削減と一部変動費化 (常雇から臨時への切り替え) 等企業独自で行える合理化、省力化を今後も図っていくつもりであるが、島の関係者との接点すなわちさとうきび輸送業者 (コスト比率5%)、JA 手数料、生産助成費等農務関係費 (合計約4%) は、企業対企業の競争市場原理の働く経費 (例えば、販売費) と異って合理化が難しく、取り残された部分である。今回の制度改正に際し、「甘蔗糖企業と生産者、生産者団体との役割分担の見直しの基本方向」が当局から示されたことは誠に的をついたものである。しかし、関係者の一致した協力で最も効率的な方向を見つけたいのだが、話し合いは進んでいないのが実情である。




 それでは今後、甘蔗糖コストを下げるためには、まず前述の “さとうきびの重要性を再認識”したうえで、さとうきびを増産するための“儲かるさとうきびづくり体系”を構築することにある。前述の基本計画では“担い手生産規模の拡大”“農作業受託組織の活用”“機械化一貫体系の導入”等々生産維持・拡大のための方法が述べられているが、ここでは詳細な資料が入る鹿児島県“奄美群島の概況”の資料をベースに、鹿児島県甘蔗糖企業サイドからみたコストダウンの重点方策を提言したい。

(1)株出適性品種の早期普及
 近年、さとうきび面積が減少してきたのは後述するように飼料作物のような競合作物によるところもあるがそれだけではない。表7にみられるように、この10年間でさとうきび作付面積が2,225ha減っているが、ほとんど同じ面積の2,169haは株出面積の減であり、夏植、春植の合計の作付面積は余り減っていない。確かに他の園芸作物との農作業競合から春植から夏植に移りつつありハーベスターによる踏圧で萌芽が悪く株出が少なくなったことはあろうが、往年の NCo 310 のような5〜6回前後の株出ができる株出適性品種がなくなったことが大きい。

表7 奄美群島のさとうきび作付面積
単位:ha
  夏 植 春 植 株 出 新植夏植
(1)昭和63年度
(2)平成7年度
(3)平成10年度
2,107
1,567
2,155
1,702
1,690
1,107
5,646
4,375
3,477
1,932
1,782
2,423
(3)−(1) + 48 ▲ 595 ▲ 2,169 + 491
資料:奄美群島の概況 (鹿児島県大島支庁)

 農家側からみるならば、作型別の生産費コストは株出が最も低くさとうきび代は同じなので最も儲かる作型といえよう。作型別さとうきび生産費の公表されたものがないので、徳之島の例を南西糖業で試算した結果を表8に示したが、従来から株出回数でさとうきびの収益性を高めていたが、現状の株出回数は2回前後であり、収益性が落ちていることでさとうきびの人気がない。

表8 さとうきび作型別収益
作 型 夏 植 春 植 株 出 備 考
単  収(t/10a) 8.0 5.5 6.5  
(A) 販 売 額(円) 163,600 112,475 132,925 20,450 (円/t)
生産量のうち
 植付管理費 (円/10a)
 収穫費 (円/10a)
(B) 小 計 (円/10a)

84,020
44,000
128,020

84,020
30,250
114,270

26,850
35,750
62,600
ハーベスター
5,500 (円/t)
(A)−(B) (円/10a) +35,580 ▲ 1,795 +70,325  
注) 全生産費のうち家族労働費、基本利子、地代等実際には支払いのない費用を除いてある。(南西糖業試算) 上表で収穫はハーベスターに委託しているが手刈りをすれば家族労働費が主体となり出費は少ない。

 品質取引においては高糖性が製糖企業としても望ましいが “儲かるさとうきびづくり” からいえば是非、株出適性のある奨励品種が地域特性に合わせて数多く開発されることが望ましい。RK91-1004 という株出適性品種が研究発表されているが、奨励品種にならないのは誠に残念で、また対策が遅れてしまった。しかしながら、現在は2芽苗でなく組織培養苗の技術が確立されているので一気に増やすことのできる体制ができている。できるだけ早くこの技術を使つて21世紀初頭に株出適性品種を広めたい。
 現在複合経営農家の農閑期は7月と11月中旬から12月の製糖開始前であり、農繁期は収穫期の重なる2〜4月の製糖末期である。従って、11月に植付あるいは登熟するさとうきび品種があり、かつ、遊休地があればさとうきび面積の拡大にもなり、また、製糖期も早くすることができるので、製糖期の延長 (操業率の向上、表5)、ハーベスターの稼働率向上、製糖末期の農繁期の分散にもなり、新しい輪作体系の確立にもなる。これは前述の基本計画の達成目標項目になっており、九州農業試験場で開発中の超早熟性品種はこれにあたり、その報告によると11月刈り取りはまだ気温が高く株出萌芽性も良いとのこと、是非早期に実用化されることを望みたい。

(2)畜産との共存共栄
 表9の奄美群島の主な作物の作付面積をみると、'88年から'98年までの10年間に全作付け面積が1,974ha減っている。さとうきびもこの間2,254ha減り、他の作物も減っているが唯一増えているのが飼料作物で491ha増えている。前述の基本計画でも飼料作物面積を96万haから10年後には110万haに拡大する目標であり、昨年の “食料自給率レポート” にも “自給飼料の生産を拡大していく必要があり、平成12年4月に公表された飼料増産推進計画に基づき全国的な飼料増産運動を展開している” と述べている。他地域での転作田での飼料作物への作付け拡大は問題ないが (奄美群島の水田はほとんどさとうきびに転作されている) 前述のようにさとうきびの重要性を認識したうえでのバランスのとれた島別の農業マスタープラン・指針が欲しい所以でもある。

表9 奄美群島の農業生産実績
  作付面積 1998年
1988年 (ha) 1993年 (ha) 1998年 (ha) 面積割合 (%) 生産額 (百万円) 生産額割合 (%)
さとうきび 11,387 9,414 9,133 61.1 9,990 33.5
野 菜 2,654 2,781 2,396 16.0 6,780 22.7
飼料作物 1,293 1,432 1,784 11.9 3,769 12.6
果 樹 713 731 680 4.5 1,144 3.8
花き花木 474 537 456 3.0 6,945 23.3
甘しょ 411 328 228 1.5 107 0.4
その他 314 281 1.9 1,125 3.7
16,932 15,537 14,958 100.0 29,860 100.0
注(1) 飼料作物の欄の生産額は肉用牛の生産額
注(2) その他の生産額で多いのは、たばこ482百万円、豚238百万円がある
注(3) 第7表きび作付面積の平成10年度の合計と上記1998年のさとうきび面積と合致しないが原文のままとした。
資料:“奄美群島の概況” (鹿児島県大島支庁)

 本誌、昨年12月号で "種子島西之表市におけるさとうきび農家と畜産農家の連携" と題し、きびの梢頭部や糖蜜を飼料として、またバガスは敷料として畜産農家に供給し、推肥を受けるという望ましい連携が報告されている。しかし、毒蛇ハブがおり平成10年で120名の咬傷者と2名の死亡者を持つ奄美大島・徳之島でのハーベスター刈り前の人力による梢頭部カットは難しい。人手が少なくなってくる将来を考えると重労働の梢頭部カットがいつまで続くか疑問である。収穫前に梢頭部カットし回収しなければ、ハーベスター刈りで畑に捨てられるか工場にさとうきびとともに入り、その夾雑物の多さで工場歩留を悪化させ、コストアップの要因の1つとなっている。そこで収穫前に梢頭部をカットして回収する機械か、ハーベスター収穫原料を水浮揚式等で梢頭部を回収する装置の実用化、さらにはバガス、トラッシュの飼料化の研究開発等を推進することで畜産と共存共栄する重点方策を望みたい。

(3)かんがいの推進
 毎年来る台風は避けようもないが、干ばつは人間の力で避けることができる。夏期にかん水することがさとうきびの収量にどれだけ効果あるかは表10に示されるように明らかで、4割の増収があることが分かっている。しかし鹿児島県離島のかんがい整備状況は悪く、県の平均の半分程度であり (表11) 早く整備されることがさとうきびの増産につながる。現在、各島でダム建設等の計画があるが、完成まで時間がかかるという。できるなら少しでも早く効果があるように、末端からのパイプラインやファームポンドから着工し、全体完成までの間はその部分を使用し、地元の努力 (川から取水や消防ポンプ車の使用等) によってかん水の供給ができるので、原則は源からであろうが、是非末端からの早期着工をお願いしている。

表10 さとうきびに対するかん水効果
区 分 収量比 %
無かん水 100
2.5mm/日・7〜10月かん水 121
5.0mm/日・7〜8月かん水 144
5.0mm/日・7〜10月かん水 140
資料:平成5年普及に移す研究成果 (鹿児島県)

表11 畑地かんがい整備状況 (平成12年度末)
  種 子 島 奄美群島 鹿児島県
要整備量 (ha) 3,800 12,160 55,800
整備済 (ha) 759 2,066 17,687
整備率 (%) 20.0 17.0 31.7
資料:市町村別整備水準調査報告概要

(4)新さとうきび兼業農家の育成と大規模農家の支援組織の形成
 さとうきび専業大規模農家の育成は、効果をあげてきて鹿児島県でも3〜4戸の農家がさとうきび1,000トン以上の生産をするようになった。大規模にしたい農家に土地が集約されず、一方離農し荒廃地となる畑も出ている矛盾した現象が生じている。
 表12にみられるように、北海道のてん菜農家に比べると鹿児島県さとうきび農家は農家戸数が減る割には1戸当たりの収穫面積は増えていない。土地に対する執着心は、北海道の開拓専業農家とは違って強く、さとうきび農家には兼業農家が多いことも影響しているが、さとうきびは株出の関係もあり長期 (5年以上) 借地が必要であり、かつ機械化のためまとまった土地 (0.5ha以上) を望むので土地集約が難しいこともある。表12の奄美群島の農家1戸当りの平均面積と比べてもさとうきび農家のさとうきび収穫面積は小さい。さとうきびは毎日の農作業を必要とするのは短い時期だけで他の農作物と比べれば植えるだけで収穫できる (もちろん、収量は少ないが) ので、兼業農家で十分経営できる。さとうきび生産の一部分はこれら兼業農家に支えられている量があることを今後のさとうきび農政のなかで考えねばならない。これは奄美群島の特徴かもしれないが全般的には専業農家が増え、兼業農家は減っている (表13)。前述のように離島は公共工事に支えられた土木建築業者が多い。地方公共工事が減るなかで土木機械の取扱いに慣れた従業員を抱えるこれら業者が機械化さとうきび兼業ができるよう環境を整えると大きな新兼業農家が生まれさとうきびの増産につながると訴え続けている。

表12 農家1戸当たり面積の比較
  奄美群島 鹿児島県 北 海 道
農家戸数
(人)
耕地面積
(ha)
1戸当たり
平均面積
(ha)
さとうきび てん菜
きび農家
戸数 (千戸)
1戸当たり
収穫面積 (ha)
てん菜農家
戸数 (千戸)
1戸当たり
面積 (ha)
昭和60年 13,444 16,400 1.22 16.0 0.79
平成2年 12,058 17,300 1.43 15.3 0.80 18.5 3.89
7年 10,514 16,900 1.61 12.1 0.78 13.4 5.22
11年 11.2 0.84 11.9 5.87
資料:奄美群島の農家戸数は「農業センサス」、耕地面積は「市町村別統計書」
鹿児島県は「さとうきび及び甘蔗糖生産実績」
北海道は「北海道業務統計」

表13 奄美群島の農家人口と農家戸数
  農家人口
(人)
農家戸数
(戸)
専業農家
(戸)
第1種兼業
(戸)
第2種兼業
(戸)
専業比率
(%)
昭和60年 44,898 13,444 3,967 3,713 5,764 29.5
平成2年 38,209 12,058 4,213 3,236 4,609 34.9
7年 31,457 10,514 4,497 2,383 3,634 42.8
平7/昭60比 70.1 78.2 113.4 64.2 63.0 145.1
資料:農業センサス

 一方、さとうきび専業、大型化を目指す意欲のある農家も多い。しかし専業大型化するには機械化への投資、土地集約への投資が必要であり、そのための資金が要るが、気象条件で左右される収穫量での資金回収には不安がつきまとう。
 従って、段階的拡大となるのだが、資金の回転量からいってさとうきび生産量が500トンを乗り越えるまでが最も苦しいようである。大規模農家を目指す人たちのこの段階での資金面、共済や福利厚生、税金等経営コンサルタント的支援が望まれているが、農地集約も含め既存の組織、制度では機能しておらず、大規模志向農家や経験者からそのような役割を果たす支援組織・団体が出来ないか相談をもちかけられることが多い。




 さとうきびの量とともにコストに影響を与える大きな要因は歩留である。工場歩留は気象条件によって変動する買入甘蔗糖度とその純糖率によって決まる。糖度取引になって甘蔗糖度はてん菜のように増えていない。これはさとうきびが2芽苗による栄養生殖で種子によらないため、品種開発が商業的なベースになりにくいことによるであろう。
 糖分取引上の甘蔗糖度は純粋の蔗糖分を計測しているのではなく、近赤外線にて経験的な近似値を出しているので大きな気象条件の変化になると近似しなくなる欠点を持っているが、短時間で測定できる長所もある。
 現在の糖分取引価格体系では、基準糖度帯を超えると0.1度の差は130円の差となっている。買入糖度が0.1度上昇すると経験的に歩留は約0.085%アップする。現在程度の国産甘蔗糖価格では、さとうきび農家と製糖企業の歩留向上利益配分は65〜70:30〜35で、これはタイ等東南アジアの分糖法下での利益配分の6〜7:3〜4と近似している。この糖度価格差を大きくすることは、農家の高糖度さとうきびの奨励になるが、甘蔗糖価格が下がる傾向のなかでは、企業への配分が少なくなることを意味している。高糖度さとうきびを推進するなかでの糖度価格差と基準糖度帯をどう決めるかは、粗放的でもなんとか収穫できるさとうきびの特性と努力する者が報われるという政策のなかで難しい課題である。
 工場歩留は、買入甘蔗糖度とその純糖率によると前述したが、正確には「そうであった」といった方が良い。最近ではハーベスターの普及とともに工程へ入るさとうきびはトラッシュが増え、買入甘蔗糖度はトラッシュを除いて測定され、工程に入るきびはトラッシュが一緒で実質甘蔗糖度、純糖率とも大幅に悪化する。気象条件が悪く不作の時は、買入甘蔗糖度及び純糖率が下がるだけでなく、茎長が短く相対的に純糖率が低く歩留を悪くする梢頭部の比率が高くなり、さとうきびの節間が短く葉柄比率が高くなってさらに歩留を下げている。その意味でトラッシュである梢頭部をいかに除いてクリーン・ケーンにするか、歩留向上の重要な課題であるが、現状はハーベスターの普及を急ぐあまりトラッシュ除去は二次的に等閑に付された感があり遅れをとっている。クリーンケーン搬入が原則だが現実はそうでない。
 工場に入ってくる梢頭部を歩留悪化を防ぐため、走るきびコンベヤーから人手で梢頭部をとって畜産農家に供給しているのが現状で前述の畜産との共存共栄の項で述べたように梢頭部回収のシステムを組み入れることが歩留向上・コスト削減の意味からも急務である。またトラッシュを畑に残さず工場へ運びこまれることは畑の地力の低下にもなり、将来さとうきびの単収を落とす原因にもなろう。




 軍事目的で開発された宇宙衛星は、冷戦緩和後、気象観測や災害対策以外に欧米では資源探索、農業でも活用されてきたが、日本では農業での利用は林業・水産業 (注9) よりも遅れている。これは従来の衛星の分解能が数10mであり、欧米のような大規模農業には対応できるが、日本のような小さな圃場では衛星画像がモザイク状となり利用は難しかった。しかし最近では数mの高分解能をもつ商業衛星が打ち上げられ、日本のような小圃場でも十分解析できるようになり、農業機械と結びつけて「土壌条件や作物状況によって面的バラツキを把握し GPS (Global Positioning System:衛星を用いた位置決め技術) を用いて管理する」精密農業の研究報告 (注4・5) がされるようになり、水田への応用の報告が数多く出ている。

Tanegashima-June 15, 2000
資料:三菱商事(株)、
日本スペースイメージング(株)提供
IKONOS衛星で撮影した種子島空港周辺
拡大写真≫
 一昨年9月、分解能1mをもつ IKONOS の打ち上げに成功し、昨年からは日本スペースイメージング社が IKONOS の一般サービスを始め、日本農業にも適した衛星時代の幕開けとなった。さらに最近では、コンピューター技術の進歩で高精度の画像処理解析が早くできるようになり、リモートセンシング技術 (衛星に搭載したセンサーによって電磁波を観測し対象物体を調べる) の発達とデータの積み重ねにより農業でも多方面での活用が期待されている。農業分野で我々が今迄写真として目にしているのは、LANDSAT での「八郎潟の作付状況」「十勝平野の作付図」(てん菜畑が色別されている)「帯広の土壌水分率分布」 (注8) であるが、さとうきびについて言及しているのは (注3) の文献で利用可能項目の1つに「サトウキビの面積推定」というのがある。今回、三菱商事梶A日本スペースイメージング鰍ゥら種子島の衛星写真をいただき、新光糖業鰍ナ現地調査をしていただいているものがある (写真参照)。なお沖縄では、1997年の台風後のさとうきびの塩害状況把握を LANDSAT で試みたと聴いている。
 1つの衛星ですべてのデーターがとれるわけではなく、可視光線と近赤外線だけのものでは雲が出たら観測できない。しかし電波を照射し戻ってくる散乱波を捉えるレーダーの合成開口レーダー (SAR) では雲を透過し、夜間でも観測できる。このようにセンサーの特性をつかみ、最適波長帯、空間分解能、回帰周期観測幅、データ伝達時間等々を十分検討して応用する必要がある。
 農業分野で、どのように利用できるかについて示したのが表14 (注5・6) と図1 (注10) である。作付面積の推定など地表面の識別分類へのリモートセンシングは既に実用段階にあり (注5)、北海道では昨年から収穫前の状態で稲の食味を調べ、収穫時期の適正化や作付けに活用する試みが報道 (注7) されている。これらをみると21世紀にはこの衛星リモートセンシング技術をさとうきびに応用し、コストダウンに役立つようにしたい。

図1 「精密農業情報センター」プロジェクト
 
資料:三菱商事(株)、日本スペースイメージング(株);「農業分野でのIKONOS画像利用の紹介」

表14 リモートセンシングの応用例
農業分野・植生における利用例 精密農業管理における応用場面
農作物の作付状況・育成状況・収穫量予測
耕地土壌分析・土壌水分・作物水分状態把握
冷災害状況・病虫害被害状況
農作物栽培適地選定
農業用水汚濁状況
植物の発育段階のモニタリング
成長のモニタリング
植物の水分欠乏・活性のモニタリング
植物の栄養欠乏モニタリング
植物の病気モニタリング
植物災害のモニタリング
収量のマッピング
生長と収量の予測
土壌特製のマッピング
管理区画のマッピング
雑草発生のモニタリング
昆虫発生のモニタリング
 以下略
砂漠化・バイオマス
植生指標・光合成有効放射吸収率
樹高等植生高さ・樹種判別
葉内色素含有量
作付面積・作物同定収量予測
注6:九州地球観測情報センター (佐賀大 新井教授) ホームページ 注5:井上吉雄;農業生産管理の情報化精密化へのリモートセンシングの応用II

(1)さとうきび作付面積の測定
 現在、さとうきび作付面積調査には野帳を片手に多くの人手と時間をかけて実地調査したり、農家の申告に頼っている。農家の申告は積算だけでより簡単ではあるが作付面積拡大推進下では不正確で希望的観測が入り、統計上の単収を悪くしているように思える。これを分解能1mの衛星でしかも山の少ない島では十分正確な面積が作型別にとらえることができ、多くの人手と時間をかける農務業務が簡素化できコストダウンになると思う。作付面積をLON-GPS-93を用いて測定し、作付奨励金の公平性を保った例がアメリカで報告されている (注2)。

(2)収穫時期の適正化
 現在糖分取引上の糖度測定は近赤外分析計で行われている。衛星には近赤外のセンサーを取付けているものが多い。その他の電磁波の測定と複合解析によりさとうきび畑ごとの収穫適期が推定できたら、農家も収入増ともなり、工場の甘蔗糖歩留も改善され、生産性が向上する。既にてん菜では帯広で衛星画像から根重、根中糖分含量、収量、生産者価格まで推定する区分図が可能であり根中のアミノ態窒素含量の区分までできるという (注10)。

(3)ハーベスターとさとうきび輸送車の効率的運用
 ハーベスター収穫はトン当たり5,000円前後であり、2万円/トン強のさとうきび代では、農家負担も大きい。また、さとうきびの輸送コストは、前掲の表4でも分かるように全コストの5%を占めており、さとうきび代を除くと製造コストの15%を占めていて大きな負担となっている。さとうきび生産量の多かった時代からの旧態依然としたシステムで現在合理化コストダウンの隘路あい ろ となっており、是非システム変更して抜本的な解決を図りたい。'93年7月からはタクシー業界 (スカイワン)、業務用トラック輸送業界 (オムニトラックス) では GPS を用いて効率的な運用を図っており (注2)、最近では、トヨタが ITS (Intelligent Transport Systems) を用いて自家用車に緊急対応システムをとりいれている。このようなシステムを用い、効率的な運用をすることによって、糖度の高い新鮮なさとうきび (ハーベスターでは切口が多く早期処理が歩留向上に結びつく) の処理ができ、総合的なコストダウンが可能となる。

(4)最適なさとうきび育成情報による生産性向上
 表14にみられるように、リモートセンシングで多くの土壌分析、土壌水分の把握等の土壌診断、施肥管理、窒素の過不足状況、作物作付、生育・生長状況、糖分登熟状況、収穫量予測、台風干ばつ被害状況、病虫害状況、環境ストレス反応等々の情報が圃場別に収集することができ長期気象情報と照らし合わせ的確なさとうきび営農指導ができ、最適管理 (精密農業) によるさとうきびの生産性向上となる。大規模経営農家にとっては対応可能な貴重な情報となるであろう。

(5)基盤整備事業への応用
 土地改良やかんがい等の基盤整備事業にも衛星リモートセンシングデーターの活用が一部では実用化されている (注10)。GIS (地理情報システム) を用いて衛星電子写真地図をベースに各種画像解析ソフトを活用して作物に適合した効率的な環境保全型で高生産性を目指す基盤整備図をかくこともでき、さとうきびにとって重要なかんがい設備も最も効率的な整備計画図がかけるであろう。

(6)さとうきび農業情報センターの設立
 上記に述べてきたことは、今後、南西諸島の土壌、さとうきび特有の分光特性や季節による変化等多くの衛星リモートセンシングデータとそれを照合する地上での測定・分析等多くのデータの統合により、解析ソフトをより精度の高いものにしていかなければならない。1年に1回 (夏植は1年半) の作物なので早く着手する必要がある。もちろん、他の作物に応用することも可能であるが、まずさとうきびについてその可能性について検討する専門家、学者、地方自治体、JA、共済組合、製糖企業等の実務者、学識経験者を集めた研究会 (検討委員会) の設置を提案したい。検討の結果、実用性があるならば、県、市町村、JA、共済組合、製糖企業等が持っているさとうきびに関するデータ情報を集め、一元化し、このプロジェクトに活用するとともに、営農や管理に必要な解析された情報をインターネットで公開し、市町村、JA、共済、企業だけでなく、さとうきび農家からもアクセスできる "さとうきび農業情報センター" (図1) を設立し、今迄の経験と勘を生かした21世紀の科学的なさとうきび産業の基盤をつくりたいと大きな夢と希望をもっている。

(本項を書くのに三菱商事(株)、日本スペースイメージング(株)、(財)リモートセンシング技術センターからの資料を参考にしたほか、下記文献も参考とした)
注1. 新井康平 (2000) 地球観測データーの利用方法 森北出版
2. 水町守志 (1995) GPS 導入ガイド 日刊工業新聞
3. 土屋 清 (1998) リモートセンシング概論 朝倉書店
4. 井上吉雄 (2000) 農業 No.1401, 農業生産管理のためのリモートセンシングの応用と課題
5. 井上吉雄 (2000) 農林水産技術ジャーナルVo1.23 No.6, No.7
農業生産管理の情報化・精密化のリモートセンシングの応用
6. (仮称) 九州地球観測情報センター (ホームページ) (2001. 1. 21)
7. 日本農業新聞 (2001. 1. 4) 農業リモートセンシング・地表水分色で分析
8. 宇宙開発事業団 (1998) 行政分野での地球観測衛星データーの利用
9. (財)リモートセンシング技術センター (2000) RESTEC No.44, 45, 46
10. 三菱商事(株), 日本スペースイメージング(株) (2000. 2. 13)
「農業分野での IKONOS 画像利用のご紹介」



 さとうきびは沖縄・鹿児島の離島で年間160万トン生産され、16社18工場に集められる。このように、地域限定で集中的に集められる農産物は他にてん菜以外にない。このさとうきびから砂糖以外の価値の高い物質が各島の製糖工場で分離・商品化されることを21世紀の夢としてその実現を願っている。
 さとうきびの全体を活用する試みとして、本誌2000年11月号に「沖縄県におけるさとうきびの総合利用」として沖縄県農林水産部糖業農産課の真武真一氏がケーンセパレーターを用いたワックス、非木材ボード、紙パルプ原料、食物繊維、キシリトール原料等への利用の可能性を言及し、バガスパルプは既に名刺やサミットのポスターハガキに実用化されたと報告している。
図2 Sugars and nonsugars in sugarcane for direct and indirect products and byproducts.

拡大≫
 きびの副産物 (糖蜜、バガス、フィルターケーキ、炉灰等) の利用については「By products of the cane sugar industry J. M. Paturan」に詳しいが、ここに Cane Sugar Handbook の表を掲げる (図2)。しかし既存の物質では独占的な技術でない限り、島内消費は別として離島なので輸送費がかかり、競争力がない。さとうきびだけからしか経済的に製造できない生理活性物質が数多くある。さとうきびの島は長命であり、黒糖には古来から不思議な薬効があることが報じられている。最近では三井製糖鰍ェ商品化している「さとうきび抽出物」は食品に対する消臭効果や呈味改善効果 (注11) ばかりでなく、老化や発がんに関連する活性酸素抑制の抗酸化効果 (注12)、肝障害抑制効果 (注13)、飼料として有効な細菌やウィルス感染防御効果、抗エンドトキシン (内毒素) ショック効果、抗寒冷ストレス効果等各種の生理活性効果 (注14) が報告され、健康食品素材や飼料原料 (ここでも畜産との共存共栄の方策がある) として注目すべきことである。
 21世紀前半には、さとうきびの全成分ついて、その生理活性が解明され、南西離島の製糖工場において砂糖の製造と並行的に、これら生理活性物質が生産されるだけでなく、現在副産物として処理されている糖蜜やバガスやフィルターケーキを原料として製造できるようになれば、非製糖期の設備・従業員の活用ができ、製造固定費のコスト負担が軽くなり、国産甘蔗糖のコストダウンに結びつく。これら生理活性物質を脇に黒糖焼酎を飲みながら、さとうきび畑を眺め21世紀の長寿を祝うことができよう。

参考文献
注11. 永井幸枝ほか (2000)「さとうきび抽出物」の風味改善効果
月刊フードケミカル7月号
12. 古家健ニ (2000) 新食品素材:さとうきび抽出物の特性と抗酸化能
月刊フードケミカル5月号
13. 永井幸枝ほか (2000) さとうきび抽出物の抗酸化効果と肝障害抑制効果
月刊フードケミカル9月号
14. 古家健二ほか (2000) さとうきび抽出物の各種生理効果:食品と開発Vo1.35 No.10



「今月の視点」 
2001年4月 
砂糖に関するアンケート調査結果から
  群馬大学教育学部 教授 高橋久仁子

21世紀甘蔗糖生産のコストダウン
  日本甘蔗糖工業会 会長 太田正孝

BACK ISSUES