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さとうきび産業の発展方向と地域経済 (その2)

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2002年4月]

【― 沖縄本島 ・ 宮古島 ・ 伊良部島 ―】
 今回は前月号の鹿児島県に引き続き、沖縄県におけるさとうきび産業の地域経済における影響について、拓殖大学叶芳和教授に執筆していただきました。さとうきび生産を増大させるため、機械化や品種改良など今後も様々な可能性が考えられます。

拓殖大学 国際開発学部 教授 叶 芳和


1. 沖縄県の農業・さとうきび産業
 (1) 概況  (2) さとうきび生産の推移
 (3) 技術革新の地域間格差 ― 品種及びハーベスタ普及状況 ―
2. 沖縄本島南部のさとうきび産業
 (1) さとうきび産業の構造変化  (2) 規模拡大農家
 (3) 10a当たり単収23トンの農家
3. 宮古のさとうきび産業
 (1) 概況  (2) さとうきび産業の構造変化 (宮古本島)
 (3) 栽培管理の技術革新
惰農論を超えて
付論1. 外国のさとうきび産業の実情



 今年1月下旬、日本の甘しゃ糖産地である鹿児島県南西諸島と沖縄を調査した。沖縄県のさとうきび産業も、鹿児島県南西諸島と同じく、新しい農業革命が起きており、再活性化の方向にある (以下、本序文は前回に同じ)。
 さとうきび産業は大きなイノベーションの時代に入っている。品種改良、ハーベスタ導入、生産法人誕生など、技術革新が一斉に開花し、活性化の方向にある。機械化で仕事が楽になった。一昔前とはまったく違う。高齢化の進行にもかかわらず、各地域とも生産量の減少には歯止めがかかったのではないか。現場を見て、さとうきび産業のルネッサンスを実感した。
 技術革新に伴い、1,000万円位の高所得農家が各地域に誕生しており、今後は新規参入も期待できる。また、品種改良やハーベスタ導入が、農業の作付体系を大きく変え、新規園芸作物の導入 (野菜作との輪作体系) を可能にしている点も注目される。
 台風被害の大きい沖縄諸島の場合、さとうきびは地域安定化要因になっている。現行のような価格調整制度を前提にすれば、さとうきびは付加価値の高い作物である。筆者は、地域経済振興策として、さとうきび産業は 「セカンド・ベスト」 だと考える。
 しかし、さとうきび産業は問題点も多い。前回 (その1) は 「変化」 を強調した。今回は問題点にも触れたい。栽培管理が粗放化してきたのは事実である (とくに本島)。また、行政依存度の大きさなど、遅れた産業としての性格もある。若者の就農や技術革新に伴う再活性化の中で、こうした点が改善されるかどうか、今後の注目点である。
 さとうきび産業の課題は、生産の減少傾向に歯止めをかけることである。本稿の目的も、その可能性を検討し、発展要因を摘出することである。ここではハーベスタ導入をはじめとした技術革新に着目したい。

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(1) 概 況
 沖縄県はサービス経済化が進んでいる。第3次産業の比重は83.3%で、全国平均の69.5%を大きく上回っている (1998年度)。とくに公的支出依存度が大きい。また、基地経済の影響や観光業も大きい。一方、農業の比重は1.7%と低く、全国平均並みで、鹿児島県の3.8%より低い。また、製造業も弱い (製造業の比重5.9%、全国平均23.5%)。食品加工業がわずかにあるだけで、近代的製造業はないに等しい。離島が多いという地勢上の要因もあるが、米国の占領下に長く置かれ、その後も米軍基地依存がつづいていることが、今日の産業構造をもたらしたという側面は無視できない。
 農業依存度は著しく低い。首都圏を遠く離れた地方経済としては珍しい形である。農業生産のピークは1985年 (昭和60) で、その後減少傾向にある。さとうきび生産も1985年頃までは上昇傾向にあったが (170万トン水準)、その後下降に転じ、最近は100万トン割れがつづいている。さとうきび生産額は1985年度は374億円であったが、98年度 (平成10) は195億円に減った。
 作目別にみると、まださとうきびがトップである (農業粗生産比21%)。しかし、野菜、花き、肉用牛が成長しており、一時はさとうきびにとって代わるかも知れないといわれる位有望視された。しかし、さとうきびは欠かせないようだ。第1に、園芸作物は連作障害を防ぐためさとうきびとの輪作が必要。第2に、園芸は外国からの輸入品との競合という不安定要因がある。カボチャはニュージーランドからの輸入品、サヤインゲンは中東オマーンからの輸入品との競合で、産地が弱体化している。
 ただし、園芸はまだまだ伸びる余地がある。マーケティング次第だ。また、さとうきびの品種改良やハーベスタ収穫という技術革新が、間作や輪作作物としての園芸の導入の可能性を拡大している。
 現状は、さとうきびへの依存度は大きいといえよう。ただし、県経済全体にとってさとうきび依存度は0.36%と小さい (県経済に占める農業の比重1.7%×農業粗生産額に占めるさとうきびの比重21%)。さとうきびの県経済の波及効果は大きく4倍といわれるが、比重が小さいので、さとうきび生産が大変動しても県経済への影響は1〜2%にとどまる試算になる。影響は地域によって異なり、他に産業のない離島地区で地域社会への影響が大きいというべきであろう。
 農業粗生産額に占めるさとうきびの比重は、沖縄本島では8.5%、離島では36.9%を占める。南大東島ではほぼ100%である。ただ、興味深いことは、さとうきびをまったく作らない離島もあることだ。慶良間列島の座間味島、渡嘉敷島、渡名喜島である。座間味村は観光 (ダイビング) だけであり、さとうきびは作っていない。渡嘉敷村は観光と水稲で地域経済を支えている。「沖縄諸島は台風や干ばつ被害の常襲地帯なので、さとうきびなくして地域経済はない」 とは一概には言えない。観光に適さない離島はさとうきびか公共事業に依存している。例えば、大東島はこれまで観光に適さないため (断崖絶壁の島で珊瑚礁がなくマリンスポーツができない、飛行場を整備できるほど大きくない等)、サトウキビ依存100%である。

表1 沖縄県のさとうきび依存度 (地域別)
表1 沖縄県のさとうきび依存度 (地域別)
(注) 県計には国頭離島含む。
(出所) さとうきび生産は沖縄県農林水産部 『平成12/13年期さとうきび及び甘しゃ糖生産実績』、農業全体は沖縄県総合事務局農林水産部 「平成12年農産物作付 (栽培) 延べ面積及び耕地利用率」、「平成12年農業粗生産額及び生産農業所得 (概算)」

 いま沖縄県庁が戦略的に取り組んでいる施策は、第1は新規作物の開発、第2は伝統的作目については生産法人の育成、農地の流動化、第3は観光業 (入域客500万人) と農業のリンク、第4は製造業と農業の連携である (ウコン、アグリクス等薬草の利用)。
 さとうきびについて筆者のコメントをつけ加えるならば、いまのさとうきび栽培はかなり粗放的であり、栽培管理技術の高位平準化が望まれる。同じ品種を栽培しても隣り同士の農家でかなりの収量格差があること、また、競作会で表彰された優良農家の収量と一般農家の収量格差が4倍もあることなどが、それを物語っている。
 さとうきび産業の活性化の指標は何か。その手段は何か。さとうきび・製糖産業は原料茎不足による工場を潰す歴史であったから、生産の減少傾向が止まるかどうか、つまり活性化の指標は収穫面積の減少が止まることの確認であろう。その手段はハーベスタ普及である。

(2) さとうきび生産の推移
 さとうきびは沖縄県のほぼ全域で栽培されており、県農業に占める比重は栽培面積で48% (約2万ha)、農家戸数で67% (1万9,000戸)、粗生産額で21% (195億円) を占めている。沖縄県においては基幹作物といえよう。しかし、さとうきび生産は衰退の歴史であった。離島ではさとうきび収穫面積の変化は小さいが、沖縄本島では平成元年には5工場あった製糖工場が現在は2社2工場にまで減少している。収穫面積が減少して、原料不足だからである。
 沖縄県のさとうきび生産は、本土復帰後においては1985年 (昭和60) 前後をピークに、その後減少傾向をたどってきた。表2に示すように、ピーク時は収穫面積2万3,000ha、生産量170万トンもあったが、近年は1万3,000ha、90万トン台で推移している。ピーク時の概ね半分である。この減少は沖縄本島における減少が大きく響いている。表3に示すように、南北大東島や宮古・八重山地方での減少は小さい。農家の高齢化による担い手不足は共通要因であるが、他の産業の発展に伴い、さとうきび依存度を低下させることが出来た地域と、離島のためキビ作から離れられない地域との差である。
 しかし、さとうきび生産は下げ止まる可能性がある。ハーベスタ導入や生産組合の結成に伴い、農家高齢化による担い手不足を相殺し、あるいは技術進歩でさとうきびの競争性が上方修正され、今後さとうきびは生産量を維持する可能性がある。後述するように、沖縄本島でもその動きがある。

表2 さとうきび生産の推移 (沖縄県)
年度 さとうきび
作農家数
(戸)
収穫面積
(ha)
10a当たり
収量
(kg)
生産量
(t)
1965 (昭40)
66 (昭41)
67 (昭42)
68 (昭43)
69 (昭44)
64,595
62,700
58,145
55,214
53,442
31,975
29,674
27,861
28,130
28,758
5,823
5,870
7,036
6,963
6,391
1,861,962
1,741,847
1,960,364
1,958,598
1,837,841
70 (昭45)
71 (昭46)
72 (昭47)
73 (昭48)
74 (昭49)
52,001
46,352
44,614
39,863
36,227
27,758
23,365
23,362
19,802
19,275
7,141
5,415
6,051
5,969
5,997
1,982,189
1,265,242
1,413,585
1,379,936
1,156,018
75 (昭50)
76 (昭51)
77 (昭52)
78 (昭53)
79 (昭54)
35,288
35,447
36,272
37,342
37,644
19,449
21,422
21,484
23,375
23,112
6,542
5,535
7,189
7,153
6,430
1,272,355
1,399,907
1,544,536
1,672,077
1,486,018
80 (昭55)
81 (昭56)
82 (昭57)
83 (昭58)
84 (昭59)
37,290
37,169
37,262
37,620
37,994
21,276
22,447
21,552
22,865
22,671
6,113
7,028
6,988
7,494
7,535
1,300,590
1,577,613
1,506,084
1,713,425
1,708,316
85 (昭60)
86 (昭61)
87 (昭62)
88 (昭63)
89 (平元)
37,772
37,808
37,172
36,415
35,058
23,130
22,558
22,351
21,309
20,994
7,524
6,500
7,196
6,741
8,475
1,740,187
1,466,279
1,608,142
1,436,383
1,779,322
90 (平2)
91 (平3)
92 (平4)
93 (平5)
94 (平6)
33,084
31,458
29,154
26,356
24,725
20,397
18,941
17,192
15,924
15,134
5,975
6,151
6,464
6,801
6,455
1,218,729
1,165,066
1,111,236
1,082,925
977,004
95 (平7)
96 (平8)
97 (平9)
98 (平10)
99 (平11)
23,305
22,519
21,414
20,347
19,619
14,694
14,598
13,827
13,536
13,486
6,896
5,173
6,447
7,284
7,105
1,013,245
755,219
891,475
985,943
958,206
2000 (平12)
2001 (平13)
18,833
18,916
13,542
13,427
5,942
6,379
804,725
856,410
(出所) 沖縄県農林水産部 『平成12/13年期さとうきび及び甘しゃ糖生産実績』 (平成13年8月)。2001年度は見込み。
(注) 2000年度は台風8号、15号、19号の被害が大きかった。

表3 地域別にみたさとうきび農業の変化
地 域 別 年  度 さとうきび
栽培農家数
(戸)
収穫面積
(ha)
生産量
(t)
農家1戸
当たり
収穫面積
(a)
沖縄本島 1985年 (昭60)
2000年 (平12)
25,057
10,330
4,065 860,415
234,487
43
39
南北大東 1985年 (昭60)
2000年 (平12)
350
340
1,716 99,804
70,700
478
505
宮  古 1985年 (昭60)
2000年 (平12)
7,099
4,670
4,251 424,390
283,866
81
91
八 重 山 1985年 (昭60)
2000年 (平12)
2,350
1,635
1,766 155,706
123,806
99
108
県 計 1985年 (昭60)
2000年 (平12)
37,772
18,833
13,542 1,740,187
804,725
61
72
(注) 県計には沖縄周辺の離島を含む。
(出所) 沖縄県農林水産部 『さとうきび甘しゃ糖生産実績』 昭和60/61年期及び平成12/13年期による。

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(3) 技術革新の地域間格差
― 品種及びハーベスタ普及状況 ―


(a) 機械化
 前号の種子島編で明らかにしたように、種子島では新品種の普及やハーベスタの普及で、さとうきび生産の減少傾向は終止符をうった。沖縄でもメカニズムは同じであるが、技術革新は地域間でかなりの格差がみられる。
 沖縄県におけるハーベスタの導入は早かった。南大東島では1971年からハーベスタの普及が始まり、現在はほぼ100%ハーベスタ刈である。しかし、県全体としては普及スピードは遅い。95年度以降ほとんど横這いである。表4に示すように、ハーベスタ収穫率は県全体では3割と低く (2001年度は36%)、いぜん手刈が7割を占める。ハーベスタが大型中心に導入された影響であろうか。これに対し、鹿児島県はハーベスタ導入は遅れたが、普及は短期間に進んだ。種子島では小型ハーベスタが1993年に導入され、その後一気に普及し、2001年度の普及率は60%に達する。
 南北大東島はほぼ100%ハーベスタ刈である。大規模経営であったため機械収穫に適し、大型ハーベスタが導入されている。これに対し、沖縄本島の中南部はハーベスタ刈は約12%と低い。ここは兼業農家が多く、経営規模が小さいため、個別経営ではハーベスタを購入できない。一方、ハーベスタ営農集団に委託すると現金支出が発生するので、労働費を家計内にとどめるため、手刈がつづいている。宮古は専業農家が多く労働力があり、また古くからの慣習 「ゆい」 が残っているため、手刈が多い。石垣島など八重山は経営面積が比較的大きく、また畜産や水稲との複合経営であるため、さとうきび収穫は機械化が進んでいる。
 以上のように、いまのところ地域差は大きいが、今後は一層の高齢化、生産組合の結成、小型ハーベスタの普及等で、収穫の機械化が進展していく。

表4 さとうきび収穫機械稼働状況
〈平成12/13年期〉 (単位:収穫面積 ha)
  収穫面積 ハーベスタ 刈 取 機 脱葉機
(ドラム等)
ハーベスタ
収穫率
(%)
農家1戸
当たり
収穫面積
(a)
沖縄北部
  中部
  南部
島尻離島
南北大東
宮  古
八 重 山
県 計
1,909
1,117
1,662
1,122
1,716
4,251
1,766
13,542
615
146
199
187
1,676
742
634
4,198
0
0
1
3
0
10
48
63
3
2
5
41
0
20
2
73
32.2
13.1
11.9
16.7
98.0
17.4
35.9
31.0
59
32
38
100
505
91
108
72
(参考)
鹿児島県
9,468 3,863 0 1,677 40.8 86
(出所) 沖縄県農林水産部 『平成12/13年期さとうきび及び甘しゃ糖生産実績』 (平成13年8月)

(b) 品種改良
 栽培品種も地域差が大きい。沖縄県もかつては NCo310が支配的だった。しかし、その後、育種の成果で農家の選択肢が拡大したこと、さらに1994年 (平成6) に従来の重量取引から品質取引に変わったことに伴い、品種転換が起きた。現在、奨励品種は14あるが、普及第1位は農林8号 (30%)、第2位は農林9号 (22%)、第3位は F177 (19%) である。
 農家は一般に収量志向が強い (注:品質取引後も、現行は糖度に伴う価格カーブが緩やかなので、農家は糖度より安定多収を選好している)。NCo310から農林系統への品種転換は収量向上をもたらしたはずである。しかし、表2では単収向上は明瞭には読みとれない。これは、以下に述べるように2つの動きが合成されたため、単収向上の傾向が攪乱されているからである。沖縄本島と離島を分けて分析すると、本島の単収は低下傾向、離島地域は明確な上昇がみられる。離島地域の単収は1970年代の5,500〜6,000kgから90年前後には6,500〜7,000kgへと、1トン向上した。これは夏植中心の作型への移行の効果もあるが、優良品種への転換の効果であろう。なお、本島地域における単収低下は、高齢化や兼業化に伴う肥培管理の粗放化が要因であろう。
 さて、表5に示すように、地域によって品種は多様である。気象、土壌、病害虫、機械化適性など、地域に合った品種が選定された結果であろう。
 ただ、隣り同士でも栽培品種が異なっていることがある。農林9号は黒穂病に弱いといわれるが、後述するように (本島南部の三崎農産) 簡単な管理で病害を駆除できるので、よく手入れの出来る篤農家にとっては収量、糖度、萌芽性に優れた良い品種といえよう。しかし、粗放的農家は黒穂病に弱い農林9号を敬遠する。つまり、何が優良品種であるかは人によって異なるのである。栽培品種が地域によって異なるのは、栽培技術の高位平準化が十分には進んでいないことの現れでもある。
 地域における品種の普及は固定的ではない。新品種の出現はもちろんとして、農家の栽培管理技術の変化によっても品種の普及は流動化する。


表5 さとうきび品種別収穫面積 (沖縄県)
〈平成12/13年期〉 (単位:ha)
  NCo310 IRK67-1 F161 NiF 4 F172 F177 Ni 9 Ni 8 NiTn10 Ni11 その他
沖縄北部
  中部
  南部
島尻離島
南北大東
宮  古
八 重 山
2
276
576
0
19
1
30

0

1
19
25
2
12
1
0
1,232
17
98
0
5
40
2
0
3
5
23
126
0
0
464
36
1,217
241
86
810
0
90
83
330
201
581
233
282
414
905
321
177
93
11
12
2,961
436
2
40
71
42
3
3
11
3
4
10
1
93
4
39
27
135
79
22
58
70
129
1,909
1,117
1,662
1,122
1,716
4,251
1,766
県  計 904 46 1,362 50 654 2,526 2,945 4,010 173 153 717 13,542
(出所) 沖縄県農林水産部 『平成12/13年期さとうきび及び甘しゃ糖生産実績』 (平成13年8月)

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(1) さとうきび産業の構造変化
 沖縄本島のさとうきび産業は、製糖工場を潰す歴史であった。収穫面積が減少して、原料不足だからである。製糖工場は1985年度には5社、5工場あったが93年 (平成5) の合併統合により3社4工場となり、さらに統廃合がつづき、2001年度現在は2社2工場である。現在、本島中部に球陽製糖 (株) 具志川工場 (公称能力2,100t)、南部に翔南製糖 (株) 豊見城工場 (同2,100t) がある。総工場能力 (1日当たり圧搾能力) は85年度の11,100トンから、現在の4,200トンに低下した。今日までの歴史は衰退の歴史であった。とくに中・南部の変化が激しい。
 沖縄本島南部は県都・那覇を擁し、兼業農家が多い (タクシー運転手や公務員との兼業など)。経営規模も県内で一番小さく、農家1戸当たり30〜40aである。基盤整備も進まず、その結果ハーベスタが入れず、依然手刈が多い。ハーベスタ収穫委託費がトン当たり6,000円と高いのも、ハーベスタ刈が普及しない要因であろう。翔南製糖滑ヌ轄下ではハーベスタ収穫比率はわずか8%である。このままの構造では、担い手の高齢化とともに、収穫面積は減ることになる。
 なお、手刈はさとうきびに含まれるショ糖分のロスを招いている。ハーベスタ収穫の場合、刈り取ったさとうきびを当日中に工場に搬入できるが、手刈の場合、一定量を貯めてからトラックに積むため、工場搬入までに10日前後かかっている (昔は2〜3日)。その間に、さとうきびは劣化する。収穫後1週間で砂糖の収量が1割減少するといわれる。
 競合作物の存在も収穫面積減少のもうひとつの要因である。この地域は、肥沃なジャーガル土壌が8割を占め、野菜の供給基地でもある。南部地区の野菜生産は県全体の5割以上を占めている。レタス、ピーマン、トマト、にんじん、さやいんげん、ゴーヤー、かぼちゃ、さといも等色々な品目が生産されている。実際農業粗生産に占めるさとうきびの比重は12%にすぎない。つまり、この地域はさとうきびから野菜、花卉など園芸への転換が可能である。さとうきびの収穫時期は1〜3月であるため、園芸と競合する。そのため、収益性の高い競合作物に敗れて、きび作が後退している側面もある。
 以上のように、本島南部は園芸との競合、都市化など、さとうきび産業に不利な条件がある。しかし、ここでも、この2〜3年、収穫面積は減り止まった。生産法人の設立とハーベスタ導入が高齢化に伴うリタイア分を吸収しているからだ。いまが底であるとの認識は、農業改良普及センターでも、翔南製糖鰍ナも共通であった。実際、本島南部の収穫面積は1985年4,014ha、90年3,457ha、95年1,926ha、2000年1,663haと大きく減少したが、最近数年の動きでみると、98年1,683ha、99年1,671ha、2000年1,663ha、01年1,664haで推移している。
 本島南部地区の一番の期待は、秋に収穫できるさとうきび品種の開発と思われる。現在の栽培品種は NCo310 (35%) と農林9号 (35%) が主力で、製糖期間は本年の場合1月10日から3月末までである。仮に10月収穫品種が実用化されると、12〜2月に野菜を間作できる。さとうきびと野菜の複合経営で、農業収益は10a当たり3〜4倍増えるであろう。また、収穫期間が長くなれば、ハーベスタの稼働率が上昇しコストダウンできる。製糖工場も能力的にはいまの2工場から1工場で間に合うようになり、その意味でもコストダウンできる。さとうきび早熟品種の育成、ハーベスタ普及の技術革新が南部地区のさとうきび及び園芸の両方の発展要因となろう。

表6 沖縄本島南部のさとうきび産業
  農家戸数
(戸)
収穫面積
(ha)
10a当たり
収量 (kg)
生 産 量
(トン)
さとうきび
生産額
(百万円)
農業粗
生産額
(百万円)
さとうきび
比率 (%)
1970 (昭45)
1975 (昭50)
1980 (昭55)
1985 (昭60)
1990 (平2)
1995 (平7)
2000 (平12)
2001 (平13)
12,742
9,101
9,316
9,301
8,122
5,679
4,340
4,362
5,440
4,076
4,056
4,014
3,457
1,926
1,663
1,664
9,181
7,316
6,873
8,554
6,259
7,907
6,294
6,821
499,446
298,180
278,762
343,359
216,370
152,298
104,615
113,500
($9,043,613)
4,801
5,804
7,372
4,444
3,156
2,149

19,115
27,127
33,050
27,770
25,406
24,900

25.1
21.4
22.3
16.0
12.4
8.6
(出所) さとうきび生産は沖縄県農林水産部 「さとうきび及び甘しゃ糖生産実績」

(2) 規模拡大農家
 本島南部の農業は小規模経営が特徴であるが、ここも規模拡大の動きが出ている。生産法人も11法人結成されている。
 新里の農業生産法人(有) 「三崎農産」 (仲村安政代表) は、経営面積8.3ha (2002年春9.8ha)、収穫作業受託21haの規模である。生産法人の構成員は農協の元オペレーターである。全員農協を辞め、ハーベスタを農協からリースして始めた (リース料は売上高の5%プラス減価償却費)。刈取受託組織が農協から生産法人に変わったのである。
 農協時代は農家とのトラブルもあったようだ。農協の場合、農家からの注文とあらば、1t、2t の小さな圃場の収穫でも引き受けなければならなかった。しかし、いまは採算がとれないから出来ないと説明して、納得してもらう。ちなみに、刈取料はトン当たり6,000円である。収穫作業日当はオペレーター12,000円/日、補助員10,000円/日である。なお、刈取料6,000円/トンは1筆面積が10aに満たない圃場が多いためであり、団地化すればもっと安くできるという。
 仲村氏の話によると、作業受託は行き詰まっている。これ以上の拡大は当面困難という。株出型の場合、ハーベスタを入れると芽が出ない。機械収穫に合った植付け (畝幅1m30cm以上) になっていないからである。現状の1m20cm以下を1m30〜40cmに拡大すると、単収が減少すると考える農民が多い (実際は畝幅を広くすると分けつ性がよくなって収量は減少せず)。世代交替のとき後継者がいない場合、自ずと畝幅が変わり機械化が進むであろうという。
 実際、オーストラリア製ハーベスタ (135PS) による収穫現場を見たが、畝幅1m35cmの圃場では、10a当たり単収は毎年7トン以上がつづいている。品種は農林9号。
 仲村氏の栽培品種は、農林9号7割、10号1%、8号3割である。9号は黒穂病が少し入っているが、管理 (株元への培土) で被害を最小限に押えている。黒穂病は4〜5月と11〜12月の2回、つまり肥料の切れ目 (栄養失調) のとき黒い穂が出るが、圃場をよく見回って、出たら除去すれば駆除できる。仲村氏は10日に1回見回っている。篤農家なら9号の単収、糖度、発芽もいいというメリットを生かせる。つまり、培土や見回りの出来ない粗放的農家にとっては9号は適さない品種であるが、手入れの出来る農家にとっては9号は一番いい品種である。キビは土地を選ぶといわれる。隣り同士で違う。しかし、それは畑の違いによるのではない。優良品種であるか否かは、人によって異なるのである。なお、8号は早熟性であるから、作業体系上の必要から導入している。
 の金城昇氏は、4ha (自作20a) のキビ専作である。10年前に借地を始め、5年前に4ha規模になった。借地料は坪当たり56円 (10a当たり16,940円)。管理をまめにしているため、単収は8トン強と高い。栽培品種は農林10号7割、11号3割で、「春植+株出3回」 と 「夏植+株出」 である。収穫は手刈で、夫婦2人と収穫時雇用1人の3人で収穫する (4ha、330トン)。

(3) 10a当たり単収23トンの農家
 玉城村當山 (タマグスソントウヤマ) の久保田光男氏は篤農家である。土づくりを第一に考えており、1998年度さとうきび競作会で10a当たり23トン (農林8号、夏植) を達成した。競作史上2番目である (史上第1位は28トン)。この驚異的は高収量は逆に日本のさとうきび栽培の粗放性を示唆している (後述、注参照)。また、年2回、間作している。夏植 (9月) のあと、第1作は青首大根 (9月植、12月収穫)、第2作はウズラ豆 (1月植、5〜6月収穫) である。
 以上のように、高収量、刈取受託による経営拡大、借地による規模拡大、園芸との複合経営、等々によって、さとうきび農家も収益を何倍も増やしうる時代である。担い手も多様化している。

注) 稲作の場合競作会での単収が10a当たり800〜1,000kg、全国平均は500kgであり、その格差は2倍程度である。これに対し、競作会におけるさとうきびの単収は10a当たり23〜28トンもある。日本の平均単収は5〜8トンであるから、両者の間には約4倍の格差がある。平均と先端的農家の格差が4倍もあるということは、日本のさとうきび栽培はその植物としての潜在能力が十分に引き出されていないといえよう。一般の農家の栽培管理はかなり粗放的なのではないか。ちなみに、気候風土の違いから単純な比較はできないが世界の主要なさとうきび生産国の単収は (1995〜2001年平均)、1ha当たり、コロンビア108トン、オーストラリア92トン、グアテマラ85トン、米国79トンである。日本は65トン。東アジア諸国は概して低いが、日本もアジア並みである。

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(1) 概 況 ― 園芸・畜産との競合 ―
 宮古群島は沖縄本島から南西へ300km以上の遠距離にある。島全体が概ね平坦で低い台地をなし、最高地点は113mである。平坦な地形は農耕に適し、総面積の54%が耕地である (耕地12,200ha)。しかし、毎年来襲する台風 (最大瞬間風速50m以上) のほか、河川がないため水利条件に恵まれないことや、土壌は島尻マージで保水力が乏しいため干ばつを受けやすい。遠隔地のため輸送コストの負担も大きい。農業の条件は厳しい。人口57,775人。
 農業はさとうきびへの依存度が大きい。表8、9に示すように、農業粗生産額に占めるさとうきびの比重は46%と高い。離島の伊良部島は91%に達する。宮古は沖縄諸島の中でも依存度が傑出している。しかし、和牛繁殖や園芸が伸びていることが注目される。1990年から2000年にかけて、葉たばこの比重は9.7%から22.2%に、和牛繁殖は13.2%から17.4%に上昇した。とくに多良間島は和牛繁殖が盛んである。野菜はキビの後作のカボチャが伸びている。マンゴーなど果実も伸びている。本土の端境期をねらった冬春期出荷用としての野菜や熱帯果樹が強い。多くの農家はさとうきびと和牛繁殖、園芸との複合経営である。
 園芸や和牛繁殖は土地生産性が高い。10a当たり粗収入 (1999年度) は、さとうきびの8万円に対し、花卉255万円、果実89万円、葉たばこ36万円、野菜39万円、和牛繁殖26万円である。宮古は遊休地がなく農地は希少資源であるから、土地生産性の高い作目にシフトするのは当然である。宮古は沖縄諸島の中でもさとうきび依存度が著しく高い現状からすると、園芸振興の余地はまだ大きいといえよう。
 前月号 (その1) で述べたように、さとうきび専業で所得1,000万円農家が輩出している (宮古でも将来その動きは出よう)。しかし、それはゼロサム・ゲームである。高齢農家の引退等に伴い、ハーベスタ生産組合の若手メンバーが経営を拡大しているのである。地域全体の農業所得の拡大ではなく、個別経営の発展である。さとうきびは収穫面積の拡大には限界があり、そして価格は行政価格が定められている以上、地域がさとうきび生産だけで農業所得を増やすのは限界がある。さとうきび一辺倒からの脱却、園芸や和牛繁殖など地域農業の経営多角化は、地域の戦略としては合理的である。
 さとうきびは、1〜2月期の収穫労働で園芸と競合 (葉たばこの植付け最盛期は1月)、土地利用で和牛繁殖 (永年牧草地) と競合する。しかも、上述のように比較生産性が低いのは事実である。しかし、このことは直ちにさとうきび生産の減少を意味しない。後述するように技術革新の成果で、複合作目の発展とさとうきびの生産増加は両立しうるであろう。

表7 宮古地方のさとうきび産業
年度 栽培農家数
(戸)
収穫面積
(ha)
10a当たり
収量 (kg)
生 産 量
(トン)
1970 (昭45)
1975 (昭50)
1980 (昭55)
1985 (昭60)
1990 (平2)
1991 (平3)
1992 (平4)
1993 (平5)
1994 (平6)
1995 (平7)
1996 (平8)
1997 (平9)
1998 (平10)
1999 (平11)
2000 (平12)
2001 (平13)
8,240
6,641
6,812
7,099
6,195
5,838
5,516
5,394
5,382
5,252
5,238
5,222
5,062
5,033
4,670
7,663
5,410
5,096
5,750
5,073
4,914
4,423
4,399
4,269
4,318
4,273
4,277
4,212
4,278
4,251
5,911
5,156
4,781
7,381
6,204
7,407
6,207
7,327
6,721
7,912
6,068
7,867
7,613
7,519
6,678
452,928
278,935
243,617
424,390
314,706
362,022
274,530
322,336
286,915
341,631
259,294
336,478
320,669
321,647
283,866
314,192
(出所) 宮古支庁農林水産振興課 『宮古の農林水産業』 (平成12年12月)。
2001年度は見込み。

表8 宮古の農業構造 (生産額構成)
(単位:100万円、%)
年度 農業粗
生産額
さとうきび 野菜 葉たばこ いも類 花卉 果実 養蚕 肉用牛
1990 (平2)
1999 (平11)
12,759
14,560
50.5
45.8
18.3
7.6
9.7
22.2
1.3
0.8
1.8
0.3
0.3
2.8
0.5
0.1
13.2
17.4
2.4
0.3
宮古本島
伊良部島
多良間島
11,820
1,580
1,160
40.0
91.1
43.1
8.2
4.4
6.0
26.6

7.8
0.8
0.6
0.9
0.4

3.4
0.6
0.0

17.3
1.3
40.5
0.4

(出所) 宮古支庁農林水産振興課 『宮古の農林水産業』。
    農林水産省統計情報部 「生産農業所得統計」

表9 宮古の耕地利用
(単位:ha、%)
年度 耕地面積 さとうきび 野菜 葉たばこ 甘しょ 花卉 果実 養蚕 牧草地
1990 (平2)
1999 (平11)
12,100
12,200
(100.0)
9,491
8,170
(67.0)
448
288
(2.4)
378
599
(4.9)
102
46
(0.4)
14
2
(0.0)
25
52
(0.4)
53
9
(0.1)
334
969
(7.9)
宮古本島
伊良部島
多良間島
9,360
1,840
956
5,969
1,695
506
244
24
19
581

18
37
3
6
3

50
1
1
11

664
1
263
(出所) 表7に同じ。
    さとうきびは栽培面積、養蚕は桑畑栽培面積である。


(2) さとうきび産業の構造変化 (宮古本島)
 宮古地方のさとうきび生産は、1990年代前半に減少傾向をみせたが、現在は下げ止まっている (表7参照)。この数年、収穫面積は4,200ha台で横這いで推移している。

(a) 収穫の機械化
 ハーベスタは基盤整備の進んだ地区から普及しているが、まだ手刈が多い。ハーベスタ収穫率は下地町30%、上野は26%であるが、逆に経営規模が小さく、基盤整備が進んでいない平良市、城辺町は12〜14%と低い。宮古本島平均は15%である。多良間島は40%と高い。
 宮古本島のハーベスタ収穫組織は農協リース型が多い。JA 宮古郡管内では27台のハーベスタが稼働しているが、そのうち22台は独立のオペレータが農協からリースしたもの、4台は農協直営、あと1台は生産法人 (キビ専門) 所有である。農協リース型オペレータがあるためか、生産法人は少ない。オペレータは農家の後継者で、親がさとうきび栽培、自分も親の手伝いをしながら、1〜4月は収穫受注、その他期間 (夏) は植付けも受託する形態である。刈取料はトン当たり4,500円である。リース料は年間100万円で売上の3割弱である (夏場のトラクター耕耘込み)。(注)

(注) リース料3割説は収穫量700トンの前提である (700t×4,500円/t=収穫収入315万円)。実際には、中型ハーベスタの能力は1,500〜2,000トンあるから、仮に期間中1,000トン収穫すれば収穫収入450万円であり、リース料は売上高の2割程度である。

 城辺町福北グスクベチョウフクキタの農業組合法人 「グリーンファームふくきた」 (平良聡代表) は1999年 (平成11) 設立、構成員5人であるが、他の4人は高齢のため、平良氏が中心となって運営してる。平良氏の経営は、以前はさとうきび (収穫1.5ha)、マンゴー、スイカ、メロン、肉用牛 (母牛6頭) の複合経営であったが、現在はさとうきび収穫面積4ha (借地2ha)、繁殖母牛10頭の経営のほか、収穫受託作業が24haある (うち10haは組合員分)。収穫委託の申込みはあるが、製糖工場の操業期間の制約からこれ以上の受託ができないようだ。宮古の製糖期間は60日であり、ハーベスタの稼働日は雨天を除き35〜40日である。これでは24haの収穫が限界であり、同氏は操業期間の延長を切望している。
 ここで注目したいのは、ハーベスタ収穫の担い手は “若者” だということである。ハーベスタの出現、収穫の機械化は地域農業の若い後継者をつくり出したのである。ここで機械化の効果は若い後継者をつくることであって (一昔前の苛酷な3K労働の収穫作業の場合、若者の就農はない)、必ずしもコストダウンではない。ハーベスタの普及拡大期に労働コストの上昇は観察されない。ハーベスタ導入 (機械化) を省力化、低コスト化の観点から議論することが多いが、経済学の生兵法的な応用は怪我のもとであろう。コスト問題ではなく、若者の参入を助けるのがいま機械化の目的である。若者の就農と収穫作業の受委託の進展によって、地域の農家の高齢化が進んでも、さとうきび生産量が維持される効果が重要なのである。
 近年、ハーベスタの収穫率の上昇は足踏みしているが、一方、収穫面積が下げ止まっているのでこれは高齢労働力の存在を示唆しているのであって、やがて一層の高齢化が進めば、労働コストの動きに関係なく、ハーベスタ収穫率は上昇しよう。

(b) 受委託型か土地集積型か
 生産法人は受委託型と土地集積型がある。どちらが地域と共存的か。平良氏は地域共存型の経営を志向している。農家は、小作料収入は10a当たり15,000円である。これに対し、耕起、整地、植付け、中耕培土施肥、高培土施肥、収穫作業、この一連の作業を完全委託した場合46,500円の支出となるが、農家には10万円残る (さとうきび販売代金は7t×2万円=約14万円)。農家の収入は小作に出した場合15,000円、作業委託の場合10万円 (肥料、農薬費を引いて約7万円の所得) である。受委託型の方が当面は地域共存的といえよう。過渡期を過ぎれば、やがては土地集積型が地域を支えることになろう。

(c) 新品種の普及
 宮古地方は沖縄県の中でもさとうきびの主産地であり、地域のさとうきび依存度も傑出して高い。それだけに、県平均よりさとうきびは単収も高く、糖度も高い。他地域より取組みが真剣であり、新品種導入や新しい作型に敏感である。
 宮古島のさとうきび栽培品種は、1986〜87年までは NCo310の時代であった。その後、91年までは IRK67-1、97〜98年まで F172、99年以降は農林8号が主流になり、現在8号の普及率は宮古本島では75%である。しかし、8号は病虫害に弱く、分けつが少なく収量が低いとみられており、2001年から15号への転換が始まった。15号は早熟品種で、分けつも多い。多良間島は農林9号主体であるが、去年、黒穂病が発生したのに伴い、今年から15号及び8号への多様化をめざしている。品種転換のスピードがじつに速い。品種の潜在的能力を100%引き出し得ているのかどうか、若干懸念が残る。

(d) 夏植型から 「春植+株出」 型への転換可能性
 作型は90%以上が夏植型である (沖縄本島は12%)。1970年頃までは株出が70%を占めていたが、本土復帰後、株出しは不萌芽が顕在化した。以前は残留性の強い農薬を使用できたが、本土復帰後は塩素系殺虫剤が使用禁止となったため、土壌害虫 (アオドウガネ、ハリガネムシ) の被害による株出不萌芽が顕在化したためと考えられる。
 しかし、後述するように、近年、防除対策が進み始めた。また、地下ダムの完成に伴い、かん水可能面積が拡大すると、単収は3割アップするとの試算もある。かん水によって、春植えでも夏植えの単収水準7.5トンを確保できるようになると、今後は 「春植+株出」 型がふえるのではないか。そうなれば、夏植型の2年1作から、年1作に変わる訳で、さとうきびの収穫面積、生産量は増大することになろう。

(3) 栽培管理の技術革新
(a) 害虫防除と株出不萌芽の克服
 単収の向上には害虫防除が不可欠である。害虫対策がない場合、3〜4割の減収になることもある。収穫できない圃場が出ることもある。さとうきびはハリガネムシやアオドウガネの被害が多いが、地域によって防除技術を違えねばならない。ハリガネムシの成虫はフェロモンで誘殺するが、沖縄本島 (南大東島)、宮古・八重山それぞれフェロモンの成分が異なるため、宮古・八重山に合った防除法を確立しなければならない。
 いま宮古では、ミヤコケブカアカチャコガネという新しい害虫が問題になっている。(1998年幼虫確認)。この害虫は八重山に亜種がいたが、山中にいて、さとうきびには被害を与えなかった。しかし、宮古は山がないためか、さとうきびに被害を与え始めた。それぞれの地域での研究開発の重要性を示唆している。宮古には県農業試験場宮古支場があり、その役割が期待される。
 防除技術の進歩は、害虫被害がなくなるだけではなく、作型の改善を通して収穫面積の拡大につながることになろう。離島、とくに宮古、八重山の問題点は夏植に偏っており2年1作のため生産性が低いことである (比重は宮古92%、八重山80%)。これは土壌害虫による株出不萌芽が原因である。土壌害虫を防除できれば、作型を春植・株出型に転換することが出来 (1年1作になる)、収穫面積が拡大し、土地生産性が上がる。この害虫防除に加え、かん水や施肥等の栽培技術が進めば、春植−株出体系が確立し、収穫面積の拡大、さとうきび生産量の増大は確実であろう。

(b) 側枝苗
 側枝苗の技術も農家に利益をもたらす。種苗圃面積が10分の1で済む。現在の種苗は、さとうきび1本から4〜5本の苗しか採れないため、収穫面積の10の1を収穫せず残さなければならない。これに対し、側枝苗はさとうきび1本から40〜50本の種苗が採れる。したがって、種苗圃面積が従来の10分の1で済む (つまり収穫面積の1%で済む)。これは農家にとって大変な恩恵である。
 側枝苗とは、立ったままのさとうきびのトップをカットして節のところから枝出しさせ、それを摘んでセル・トレーに差して苗に育てたもので、1ヵ月位で移植できる (稲の育苗と移植を想えばよい)。簡単な育苗ハウスが必要だが、農家の家庭で簡単にできる。
 県農試宮古支場が増殖技術や植え付けを農家に指導している。側枝苗の技術取得のため、試験場を訪れる農家が多いようだ (リピーターが多い)。この技術はもともと石垣島の製糖工場で偶然発見されたもので、沖縄本島や石垣島では6年前から普及しているが、宮古島では今年からモデル的普及が始まった。

(c) 麦踏み原理による分げつ茎数の増加
 宮古地区は品種が NiF 8 に偏っているが、NiF 8 は害虫に弱いため薬剤使用量が増え、分げつ茎数が少なくなり問題となっている。いま県農試宮古支場では、ストレスを与えることで分げつ茎数を増やす研究をしている。麦踏みの原理と同じで、発芽してチョッと大きくなった段階 (発芽1ヵ月位) で、トラクターで踏むと分げつ茎数は2倍になる。茎数の増加で単収は向上する。これは台風対策にもなるようだ。太い茎より、細く、数の多い茎の方が被害が少ない。県農試宮古支場は今年からこの技術の研究を始めたが、八重山の農家は以前からこれを実行しているらしい。

(d) 環境保全型さとうきび栽培技術の確立
宮古島は地下水汚染問題がある。飲料水も地下水に頼っているため、肥料が地下水に及ぼす影響には問題意識が高い。硝酸性窒素の濃度が10ppm以上になると飲料水として使えなくなるが、現状は8ppmの水準である。汚染源は畑由来が40%である。つまり肥料等が汚染源と考えられている。そこで、農業改良普及所は肥培管理のあり方として、(1) 肥料を過剰に投入しないこと (2) さとうきびが肥料性分を吸収できる適期に有効な施肥を行うことを指導している。一方、県農試宮古支場は、ライシメーターを使って島尻マージ土壌の水分や肥料性分の動態を分析して、環境保全型さとうきび栽培技術の確立に向けた研究を行っている。
 以上のように、研究・普及の現場も活性化しつつあることを実感した。
 最後に、普及活動に一言ふれたい。肥培管理の指導では、肥料の適量は夏植で10a当たり約7袋としている。しかし、農家は10袋以上 (基準の1.5倍) を施用している。なぜであろうか。コストの問題だけではなく環境 (とくに地下水) 汚染という観点からも弊害がある。通常、農家の行動は合理的である。なぜであろうか。土壌の性質分析、病害虫の生態系の解明、等々、技術的な研究開発は進展している。しかし、農家の行動様式の分析はもっと大切と考える。
 また、普及の内容の変化である。早熟の10月収穫品種の出現、ハーベスタの普及、こうした技術革新に伴う園芸作物の間作、輪作の可能性拡大。この時期に一番必要なのは農家のマネジメント能力である (技術情報は下位の目標)。普及の内容もまたシフトが必要である。

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 鹿児島県南西諸島と沖縄地方を廻って感じたこと。指導機関の中にさとうきび農家惰農論がある (東京でも然り)。しかし、いま、さとうきび産業は変化が起きている。惰農論だけではとらえられないのではないか。通念の打破が必要だ。技術革新と若者の就農によって、さとうきび産業は新しい発展期を迎えようとしている。この認識に立った行政施策、普及が大切であろう。

 伊良部島のさとうきび産業については、紙幅制約のため、別の機会に譲りたい。また製糖工場の段階でも議論すべきことは多いが、これも割愛する。

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 日本は 「砂糖小国」 である。世界の粗糖生産量は1億3,000万トンあるが、日本の生産量はわずか80万トンである (世界の0.6%)。そして、ブラジルやキューバ、グアテマラ、オーストラリア、タイなど主要供給国の1ヵ国だけで、日本の輸入量を十分まかなえる。
 日本のさとうきび栽培は、単収が低い。1ha当たり66トンである。これに対し、気候風土の違いから単純に比較できないがコロンビア105トン、グアテマラ86トン、米国79トンといった高い単収の国々が存在する。アジア諸国は概して低いが、日本は東南アジア並みである。また、農家の経営規模も小さい。その結果、日本の甘しゃ糖の価格は国際価格の約7〜11倍も高い。2001年の甘しゃ分みつ糖価格の輸入価格 (CIF) は約28,000円/トンである。これに対し、平成13年度の国内産甘しゃ分蜜糖価格は鹿児島県産が約260,000円/トン、沖縄県産本島が約258,000円/トンである。

注) 鹿児島県産価格は輸入糖価格約28,000円/トン+輸入糖調整金約27,000円/トン+国内産糖交付金単価約205,000円/トン
  沖縄県産価格は輸入糖価格約28,000円/トン+輸入糖調整金約27,000円/トン+国内産糖交付金単価約203,000円//トン

 筆者は、日本のさとうきび産業は新しい発展を迎えているとみた。もちろん、内外価格差の大きさを考えると、こうしたルネッサンスは現行の価格調整制度によってはじめて成立する。この保護制度の継続には消費者国民の納得を得なければならない。技術革新によるコストダウンの利益を産業側の利益増大だけに振り向けるのではなく (所得1,000万円農家の輩出の事実)、やがては消費者国民にも配当することも考えるべきであろう。ただし、農家の規模拡大や新規参入の誘因を崩さない程度にである。
 なお、保護措置の永続性の見込みについて。いまのところ、砂糖については米国等も保護措置をとっているため、早急な保護撤廃は想定しにくい。ただ、中国がさとうきび振興、輸出産業化すれば、厄介である。しかし、さとうきびは機械化しない限り、収穫作業は苛酷な3K労働であり、中国人といえども魅力的な作物ではない。中国は賃金が低いので、資本・労働比率は上昇しないのではないか。そういう見通しに立てば (この前提が成立するならば)、安心してよいのではないか。しかし、いずれにせよ、消費者国民の納得を得る努力は必要である。

表10 主要国のさとうきび産業の統計概要 (2000/01年度)
  収穫面積
(1,000ha)
単  収
(トン/ha)
生 産 量
(1,000トン)
(参考) 砂糖統計 (てん菜糖を含む) (千トン)
生産量 輸出量 輸入量
キューバ
グアテマラ
メキシコ
アメリカ
ブラジル
コロンビア
日本
タイ
フィリピン
インド
中国
オーストラリア
南アフリカ
1,150
171
620
393
2,583
182
23
908
375
2,685
950
411
322
28.5
85.9
71.7
79.2
57.6
104.9
65.7
53.6
62.1
71.5
56.4
76.0
74.7
32,810
14,688
44,479
31,111
146,236
19,098
1,512
48,652
23,285
192,000
53,540
31,228
24,038
3,690
1,818
4,899
7,867
17,430
2,391
795
5,280
1,866
19,783
6,540
4,400
2,938
3,000
1,285
425
113
7,002
1,045
3
3,200
93
1,100
184
3,250
1,500
0
0
32
1,461
0
11
1,617
0
321
0
831
1
0
世 界 計 129,569 36,566 36,451
(資料) 農畜産業振興事業団 『砂糖類情報』 2002年1月号。
注1) 数値は事業団委託調査 LMC 社推定値 (2000/01年度値)。
  2) (参考) 砂糖統計は粗糖ベース (単位:1,000トン)。

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「今月の視点」 
2002年4月 
さとうきび産業の発展方向と地域経済 (その2)
 ― 沖縄本島 ・ 宮古島 ・ 伊良部島 ―

 拓殖大学 国際開発学部 教授 叶 芳和

沖縄県におけるサトウキビハーベスタの歴史とこれからの方向
 沖縄県農業試験場農業機械研究室 室長 赤地 徹


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