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砂糖と糖尿病

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2002年6月]
〜砂糖を食べるのは糖尿病を起こす悪い生活習慣か?〜
 去る2月27日(水)に東京の朝日生命ホールにおいて開催された当事業団主催の 「砂糖と食文化セミナー」 での宮崎滋氏の講演概要を紹介します。糖尿病とは何か、その歴史や発症のしかた、糖尿病発症と砂糖の摂取は直接関係がないことなどを話され、参加された方々にも分かりやすく、砂糖を正しく理解するうえでも大変意義のある講演でした。

東京逓信病院 内科部長 宮崎 滋


はじめに
糖尿病の由来   糖尿病は生活習慣病
糖尿病の合併症 尿糖とは
インスリンの働き 糖尿病の食事療法
肥 満 太るメカニズムと倹約遺伝子
内臓脂肪と皮下脂肪 低インスリンダイエット
まとめ



 糖尿病の患者数は第二次大戦後急に増加した。1955年から1985年までの間、人口1,000人当たりの糖尿病患者数の変化を見てみると、全体的には徐々に増加してきているが、1964年の東京オリンピック、1970年の大阪の万国博、1972年の札幌オリンピックなど日本が急激に経済成長を遂げた時期に糖尿病患者数が急増している。(図1)




 「糖尿病」 という名前は、紀元前100年頃、トルコのカッパドキアで「アレタエウス」という人がある患者を診て次のように書き残したことに由来する。その患者は 「肉や手足が溶けて尿となる。患者はがぶがぶと水を飲み、尿は樋から溢れるようにとどまることなく流れ出てくる。その後、急速に消耗して、間もなく死に至る。ちょうどサイフォンのように水を通してしまう病気であった」 という。
 要するに飲んだ水がどんどん尿となって出てくるため、絶え間なく水が流れるサイフォンと同じだということで、ギリシャ語で 「通り過ぎてしまう」 という意味の 「サイフォン」 という名称がつき、これがラテン語となって「ダイヤベテス(Diabetes)」、糖尿病ということになった。
 17世紀頃、この尿が蜜のように甘いということが分かり、日本に初めてこの病気の名称が紹介されたとき、緒方洪庵が 「蜜尿病」 と訳した。※
 この甘さのもとがブドウ糖という糖であることが分かり、明治10年頃日本は 「糖尿病」 といわれるようになった。

※ 講演者より杉田玄白ではなく、「1832年、高野長栄訳「居家備用治術篇」には尿が甘いとの記載があり、その後1857年緒方洪庵が訳した「扶氏経験遺訓」に日本で初めて「蜜尿」が記載された」との報告を頂きましたので、修正いたします。(H17.6.3修正)


 糖尿病は代表的な生活習慣病の1つである。生活習慣病とは、もともと病気になりやすい素質を持った人が、毎日の生活が不規則であったり、暴飲暴食、運動不足であったりすることが原因で罹ったり、症状が悪化する病気をいう。代表的な生活習慣病としては糖尿病、肥満症、高血圧、高脂血症などがある。肺気腫、慢性気管支炎はたばこが関係した生活習慣病である。
 文献上で認められる日本で最初の糖尿病患者は、平安時代に摂政関白として栄華を極めた藤原道長である。その頃の記録によると 「51歳の頃、しきりに将水を飲む。昼夜多く飲む。口渇き力なし。ただし、食は例より減じず」 と書いてあり、道長は51歳の頃糖尿病が発病したと思われる。
 それから2年後、「53歳のときに胸病に悩み、甚だ重し」 と書いてある。狭心症、あるいは心筋梗塞を起こした可能性がある。
 さらに 「近づくも汝の顔、ことに見えず。今時と白昼とにかかわらず見えざるなり」 と視力障害が起こり、糖尿病の症状である網膜症、あるいは白内障を起こしていた可能性がある。
 ちょうどこの頃に詠んだ歌に、「この世をば我が世とぞ思う望月の、欠けたることのなしと思えば」 とあるが、自分の娘が3人とも皇后になり、天下を極めたものの、このときのこの 「満月」 というのは、大変ぼやけて見えていたと思われる。
 54歳になると症状はさらにひどくなって 「2、3尺相去る人の顔見えず。ただ手にとるもののみこれを見る」 までに悪化し、62歳に激しい下痢を起こして、背中に 「癰(ヨウ)」 というできものが腫れてきて、そのまま昏睡状態となって死亡したと言われている。



 糖尿病は、遺伝や加齢という内部因子と、肥満、過食、運動不足などの環境因子が互いに作用し合い、インスリンの作用が不足することによって、糖の代謝異常が起きて血糖値が高くなることにより起こるものである。
 また、糖尿病は、身体全体に様々な合併症を引き起こす。細小血管障害として糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症及び糖尿病性神経障害があり、よく糖尿病性3大合併症といわれる。
 一方、大血管障害として狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、脳出血などの症例が非常に多くなってきたており、最近増加してきたものに糖尿病性壊疽がある。
 糖尿病性合併症のある患者数は非常に増えており、糖尿病患者の約3〜5割は何らかの合併症を併発している考えられている。糖尿病は、放っておくと失明や人工透析の必要な腎不全などにつながるため、怖い病気であるといわれる由縁である。



 糖尿病の患者の尿は非常に甘い。この理由として尿に糖が混じっていることが分かったのが17世紀頃とされている。これがブドウ糖であることが分かったのはさらにもう少し後になる。
 「尿糖」というのは尿中のブドウ糖だが、血糖は血液中のブドウ糖のことである。血糖と尿糖との関係を理解するため、図2のように酒樽の途中に蛇口のついた酒樽のようなものを想像していただきたい。
 正常な人の場合、血液中のブドウ糖は腎臓でろ過された後、尿細管に入って再吸収され、尿中には出てこない。生まれつき尿細管のブドウ糖再吸収能力が低い人の場合、血糖値が正常でも、尿の中に糖が漏れ出やすい。これを腎性尿糖といい、糖尿病ではない。
 これに対し、体の糖質の利用能力が低下すると、再吸収能力を超えたブドウ糖が尿細管に流れ込んで尿糖となる。この場合が糖尿病である。
 このことで分かるように、尿糖が出たからといって糖尿病と診断することはできない。問題は血糖値が高いかとどうかいうことである。



 私たちの食べたものは、胃液、胆汁、膵液、腸液に含まれる消化酵素により糖質、脂肪、たんぱく質の3大栄養素が分解され、腸で消化、吸収される。
 膵液を分泌する膵臓にはもう1つ 「インスリン」 という、非常に重要なホルモンを分泌する働きがある。
 私たちが食べた炭水化物の1つであるショ糖、すなわち砂糖は、腸の中で消化酵素により分解され、ブドウ糖と果糖になって門脈という肝臓に通じる太い血管を通り肝臓に送られていく。
 肝臓というのは、フドウ糖をいったん貯えたり、あるいは体が必要とするとき送り出したりする働きを持っている。この貯えたり送り出したりする働きに対し重要な役割を果たすのが、膵臓で作られるインスリンというホルモンである。
 インスリンは、ブドウ糖が余っているような場合は肝臓でブドウ糖からグリコーゲンを作る。逆にブドウ糖が足りない場合には、グルカゴン等他のホルモンが肝臓に貯えられていたグリコーゲンを糖に分解し身体に送り出す働きをするが、血糖コントロールの主役はインスリンである。
図3
 肝臓でグリコーゲンから分解されたブドウ糖は、体中に送られて筋肉や脂肪細胞に取り込まれるが、ここでもインスリンが非常に重要な働きを果たす。
 血液中にインスリンが一定量あると、食べ物が消化、吸収されて血液中にブドウ糖が増えても、それをどんどん細胞に送る働きをするので、血糖値は一定のレベルに保たれる。これが正常な人である。
 ところがインスリンが少ないと、細胞の中にブドウ糖を送り込んでやることができないので、血液中にブドウ糖が余ってくる。これが血糖値の高い状況、つまり糖尿病である。従って糖尿病の人は、血液中にインスリンが不足して、ぶどう糖が十分処理できていないということになる。(図3)



 19世紀頃の糖尿病に対する治療は、「尿の中に糖分が出るわけだから、糖が体からなくなっていくのでやせていく。糖分を補えば糖尿病はよくなるはずだ」 と言う考え方から、糖分に富む食事を患者に与えるものだったが、効果はあがらなかった。
 ところが1870年、普仏戦争でプロシャ軍がパリを包囲し、パリの人たちが飢餓状態に陥ったときに、糖尿病の患者を診ていたある医師が、糖尿病の人の症状がどんどんよくなってきたことに気づいた。「食事制限は糖尿病に効果がある」 ということが初めて分かったのである。
 日本でも第2次大戦中や大戦直後、食べ物が非常に少なかった時期には、糖尿病の患者は非常に少なかった。要するに食べ物が重要であり、食事を制限すると糖尿病は改善するのである。



 食べてばかりいて運動をせず、摂取エネルギーよりも消費エネルギーが少なければ太るし、食べても運動をたくさんして、摂取エネルギーより消費エネルギーが大きければ太らない。これは当然のことである。
 砂糖の消費量は1970年からどんどん減っている。ところが糖尿病の有病率はどんどん増えている。また「太った人の割合」が、1977年、1987年、1997年と徐々に増えてきている。1997年の統計では約25%、日本人は4人に1人は太っていると判定されている。(図4)
 肥満の増加が、糖尿病の増加を生んでいるのであり、砂糖の摂取が直接糖尿病につながるわけではない。要はエネルギーの大量摂取、少量消費が糖尿病を生んでいるのである。

図4

ペットボトル症候群
 ここ10年くらい前から注目されている、1リットル入りの糖分入り清涼飲料水をがぶ飲みしりことがもとで血糖が高くなる病状。若く、肥満の人に起こりやすい。インスリンが効きにくい 「インスリン抵抗性」 が生じやすく、極端な場合には意識障害や昏睡を引き起こす。
 ある21歳大学生の場合 (身長165センチ、体重85キロ、父親は糖尿病)
 高校生までは柔道部に所属したものの、大学入学以来運動をしなくなり体重が増えた。喉が渇くため水代わりにペットボトル入りの清涼飲料水を、毎日4〜5本程飲んでいた。その後、体調が悪くなり病院で受診したところ、尿糖が多量に検出された。血糖値は健常者では100mg/dl程度のところ896mg/dlを示していた。原因は肥満と糖分入りの清涼飲料水の飲みすぎであった。

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 200万年という長い時間をかけて人類は進化してきたが、原始時代は今と違って冷蔵庫を開ければ食べるものがあるということは望めなかった。
 そのような時代には、場合によっては3日も4日も、または1週間も食べるものがなかったという状況が続いたことは、容易に想像できる。そのような状況下ではエネルギーをよく貯めることができて、あまりむだ使いしない人が、長生きができて子供を残すことができたと考えられる。エネルギーを上手に貯めるために必要なのが、先に述べたインスリンである。
 インスリンが働いて、できるだけ多くのエネルギーを体に貯め込み、食べるものがないときは、それをゆっくり使うというメカニズムを最大限進歩させてきたのが、私たち人類なのである。
 このメカニズムをエネルギーを節約できる 「倹約遺伝子」 と呼んでいる。食べ物のない昔であれば、倹約遺伝子がある人は少しの食べ物で元気に生活でき、倹約遺伝子を持っていない人は、やせ細ってしまって不健康になるという状況になる。
 ところが現代では食べるものが豊富なため、この倹約遺伝子を持っている人は、どんどんエネルギーを貯め込んで太ってしまい病気になりやすい。倹約遺伝子のない人は、エネルギーを 「むだ使い」 して、肥満することなく健康な生活を送れる確率が高い。
 結局この遺伝子というのは、我々の体の中ではその環境に応じて働いているだけで、良い遺伝子であるとか悪い遺伝子であるということは言えない。遺伝子はその環境に見合った働きをしているにすぎないのである。
 現代人が太りやすいのは、これまで氷河期を何回も乗り越えてきた生物が作り上げたメカニズムが、現在の食べ過ぎる、あるいは運動しないという時代にマッチしないためである。生体のメカニズムと環境とのミスマッチが原因でいろいろな病気を起こすようになり、それを今 「生活習慣病」 と呼んでいる。逆に言えば、大昔の状態に生活を戻してやれば、糖尿病などの生活習慣病は治るということになる。



 肥満する人には皮下脂肪の増える人と、内臓脂肪の増える人と2つの型があることが分かってきた。前者は 「洋ナシ型肥満」 と呼ばれ、後者は 「リンゴ型肥満」 と呼ばれる。
図5
 CTで撮影すると、皮下脂肪の増えている人と内臓脂肪の増えている人の違いが分かる。内臓脂肪が増えている人には糖尿病、高血圧、高脂血症が起こりやすいことが分かってきた。 最近よく言われる 「死の四重奏」 とは、肥満(特に内臓脂肪型肥満)糖尿病、高脂血症、(特に中性脂肪が高いもの)、高血圧の4つの病気を言い、これがそろっている人は、四重奏を奏でながら墓場に一歩一歩近づいていくと言われている。
 この中で第1バイオリン、最も危険なのが肥満、内臓脂肪型肥満だといわれている。ちなみに男性で、ウエストが85センチ以上の人、女性の場合には95センチ以上ある人は、内臓脂肪が蓄積し過ぎて危険と考えられている。(図5)



 最後に、現在 「低インスリンダイエット」 というのがはやっており、そのことについて一言述べたい。
 「低インスリンダイエット」 というのは、グリセミックインデックス(GI、血糖上昇係数)の低い食物を摂ることによるダイエット法をいう。このグリセミックインデックスとは、簡単にいえばある食物を食べた後の血糖値の上昇度と、ブドウ糖を食べたときの血糖値の上昇度との比率である。
 食物のグリセミックインデックスはブドウ糖を100として、蜂蜜、ニンジンは80、ご飯、ジャガイモ、パンは70〜80、砂糖は50〜60である。ミルクは30〜40、ピーナツは20ぐらいしかない。
 「低インスリンダイエット」 を提唱する人たちは、グリセミックインデックスが高ければ血糖値の上昇度が大きく、血液中へのインスリンの分泌量が多くなり、インスリンがエネルギーを貯える働きをして肥満に結びつくという考え方をとっている。
図6
 では 「低インスリンダイエット」 でやせることができるのだろうか。GI値の低い食べ物を食べた場合、血糖値が上がりにくく、膵臓からのインスリン分泌は少なくてすむということは正しい。その結果、ブドウ糖が脂肪などに変えられて貯蔵される確率が低いということも正しいといえる。
 しかし低インスリンダイエットでの問題点は、「GIの低いものさえ食べていれば肥満しない」 と言っているところにある。炭水化物を多く含むものはGI値が高くて、脂質の多い脂物はGI値が低い。当然のことながらGI値の低い食物であっても脂肪の多いものを食べ過ぎれば全体の摂取エネルギーが増加し、肥満する。結論は過不足なく、すべての食品を網羅して食べる食生活が非常に重要だということである。(図6)



 砂糖の摂取自体が直接糖尿病の発症を招くわけではない。遺伝的要因や過食、運動不足などによって発症する可能性が高くなるのである。
 1つの食品に限らず、炭水化物、脂肪、たんぱく質、すべて食べ過ぎというのはよくないし、偏食もよくない。要するにそれぞれの栄養素をバランスよく摂取しないと、私たちの体はうまくコントロールできない、代謝がうまくいかないようにできているのである。


「今月の視点」 
2002年6月 
砂糖と糖尿病
 〜砂糖を食べるのは糖尿病を起こす悪い生活習慣か?〜

 東京逓信病院 内科部長 宮崎 滋

てん菜品種の変遷 1
 (社) 北海道てん菜協会 技術部長 黒沢 厚基


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