[2002年7月]
前号では日本におけるてん菜の栽培品種の移り変わりを、栽培の初期から糖分取引前までの間で紹介しました。今月は糖分取引導入から現在までの品種の移り変わりを紹介します。同取引が導入されて以来糖分は飛躍的に上昇しました。しかし病害に対する問題が残っており、環境への影響を配慮するためにも、防除薬剤使用を極力抑えることができる、耐病性品種の育成が急務と思われます。
(1) 高糖分、高品質品種の育成
甘味資源作物の取引の合理化を図るため、昭和61年に糖分取引制度が導入され、これに対応するため栽培技術面でも様々な取り組みがなされた。品種対応面では前号で述べたように、「モノエース」に代表されるような従来の品種に比べ高糖分の品種が認定されている。
糖分取引制度の導入から、はや15年を経過したが、この期間の品種育成における進展は目覚ましかった。ちなみに制度導入以前の15年間に認定された品種は12種あるが、それ以降に認定されたのは30種にも及んでいる。新品種が多く育成されたことに伴い、栽培品種の更新も早くなっている。図1に示したように、栽培される品種は3〜4年で交代しており、この傾向は現在も続いている。
このような多くの品種の導入が原料ビートの栽培面での収量・糖分にどのように反映されたかを見るために、品種の根重・根中糖分指数と各品種の栽培面積割合をもとに北海道全体の収量・糖分・糖量を求めた結果を紹介する。(図2)
図2によれば、糖分取引制度導入を契機に糖分は急速に向上され、一方根重については制度導入初期は低下傾向であったが、近年はやや向上しつつある状況が明らかである。
近年砂糖生産コストの低減が強く要請されており、栽培技術面では原料生産コストの低下とともに、良質原料の生産を図らなければならない状況にあり、品種に対する期待は大きい。糖分取引開始以来、品種の対応としては高糖分品種を開発することによりこのような期待に応えてきたが、今後製糖コストの低減をもにらみ、砂糖の結晶を妨げるカリウム、ナトリウム、アミノ態窒素等のいわゆる有害性非糖分の低下も育種対象形質となっている。
(2) 耐病性品種の育成
北海道のてん菜産業が生き延びるためには、前述のように砂糖製造コストを下げることが課題となっている。糖分取引制度導入は糖分の引き上げに大きく寄与したと考えられるが、また良質原料の生産、栽培経費の節減、さらに近年産業界のみならず社会全体から環境に対する負荷を軽減することが要請されており、これらに応えるため防除薬剤の使用量を少なくすることができる耐病性品種の育成が重要課題となっている。
北海道へのてん菜導入については、その初期より常に大きな障害となっていた褐斑病は、前号で述べたように有効な薬剤が開発されたことにより、防除法が確立された昭和30年代末頃、アメリカからの導入系統以降に認定されたヨーロッパ品種は、耐性に多少の差はあるもののすべて褐斑病に対し罹病性であったが、ようやく平成13年に 「スタウト(オランダ)」 が褐斑病抵抗性品種として初めて認定された。
昭和40年代前期より大きな問題となったそう根病については、耕種的に被害を回避する方法は種々実施されてきたが、根本的に防除する手段はなく、抵抗性品種に対する要望が大きかった(本誌2001年10月号 「お砂糖豆知識」 参照)。
このような背景のもと、そう根病抵抗性品種として平成2年に 「リゾール(ベルギー)」、「エマ(スウエーデン)」、平成3年に 「リゾホート(オランダ)」 が認定された。また平成10年には北海道農業試験場育成の「シュベルト」が認定されている。これは片親がドイツからのもので遺伝資源を外国に求めた共同研究による成果であった。
そう根病抵抗性品種の開発については、ヨーロッパにおいても被害面積が年々拡大していることもあり、精力的に進められている。病害抵抗性を付与すると、他の有用形質、例えば収量性が低下してしまうことがあるが、この現象を克服する努力がなされ、近年は抵抗性を有し、かつ収量も一般品種と同等のものが育成されるようになった。
平成13年にそう根病抵抗性品種として認定された「きたさやか(ドイツ)」は収量性も良好である。最近では複数のそう根病抵抗性の遺伝因子源が育種に取り入れられていることから、病害発生の変異に対しても、遺伝的に広く対応できるようになることが期待される。
糖分取引開始を契機に、それ以前に比べて高い糖分を維持してきた北海道のてん菜は、平成10年より3年間にわたり糖分の低い状態が続いた。この要因を解析するため、事業団の助成事業で 「てん菜低糖分解析検討会」 が設けられ、さまざまな検討が行われた。その結果によれば、気象条件が大きく影響を及ぼしていることはもちろんであるが、褐斑病や黒根病の多発が低糖分を助長したことが指摘されている。褐斑病についてはすでに述べたが、黒根病は生育期の土壌が多湿であると発生しやすく、その発生程度は品種間差がある。平成8年の収穫期における根腐・粗皮症状がアファノミセス菌により生ずる症状の1つであることが明らかとなり、品種間差を明らかにするため関係者の間で努力が続けられている。ヨーロッパにおけるビートの主要栽培地帯でも黒根病による被害は認められており、品種に抵抗性を付与する育種が行われいる。近年、優良品種導入のための試験に供されている品種は、従来のものに比べ黒根病に耐性を示すものが多く、今後に期待するところは大きい。昭和63年に認定された「モノホマレ」は北海道農業試験場とオランダ・ヴァンデルハーベ社との共同育成であるが、黒根病罹病率が顕著に低く、当面の抵抗性の程度としては本品種が目標である。
(3) 今後に期待される品種
今後に期待される品種についてはこれまでも述べてきたが、現在程度の収量性を維持し、高糖分、高品質であることが第一義に期待される特性である。また、病害の発生については実際の栽培面では単一ではなく、複数の病害が発生してくることから、将来的にはそう根病、褐斑病、黒根病等に対して複合した抵抗性を有する品種の育成が期待されている。
参考文献
- てん菜低糖分検討会:てん菜の低糖分とその対策について(2001)
- (社) 北海道てん菜協会:てん菜糖業年鑑(2001)
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品種試験実施圃場(帯広市) |