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千年の歴史を超えて生き続ける和菓子

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2002年8月]
 私たちの生活の中で古くから愛されてきた和菓子。和菓子は人生の節目、季節の節目にはなくてはならないものとなっています。根強い人気には、季節感があること、手づくりの魅力があること、健康志向に合致するといったことがあるためだそうです。
 このような和菓子の魅力はどのようなものか、現在の市場規模、健康との関わり、砂糖との関係について紹介します。

全国和菓子協会 専務理事 藪 光生


1.不景気に強い和菓子業界
2.不況の影響は和菓子にも及ぶ
3.健康的な和菓子という効果
4.“餡” は砂糖の保水性がささえる味
5.和菓子の需要拡大を求めて



 和菓子業界には古くから 「不景気に強い和菓子業界」 という言い伝えがあった。
 この言い伝えは、決して不景気な折りに売り上げが伸びるということを示すものではないが、好不況の影響をさほど大きく受けずに、安定的な業績を維持することができることを示しているといえよう。
 言い換えれば、たとえ好況時であっても、さほど大きく売り上げを伸ばすことができないということになるわけで、和菓子業界の事情を端的に表す言葉といえよう。
 安定した業績を維持することができる理由は様々であるが、消費者の多岐にわたる要望に応え得る数多くの商品特性を持っていることによる。

[1] 和菓子の商品特性
(1) 日本人の深層心理に大きな影響を持つと考えられる季節感を有した商品であること。
 季節をあらわす商品には、ふたつの要素がある。
 ひとつめの要素は、その季節にならなければ製造しない商品であるということで、草餅、うぐいす餅、桜餅、柏餅、水ようかん、錦玉、等がこれに当たる。
 このことは、1年間のうちで販売される期間が限定されることからくる商品の寿命の長さにも関係しているが、何より、季節の訪れを告げる菓子として多くの消費者の心をとらえているという面が大きい。
 ふたつめは、季節を意匠する商品(主に生菓子類)があることである。
和菓子を代表する生菓子のひとつに「きんとん製」の菓子があるが、用いられる材料や形状がほぼ同じでありながら、色彩や飾りのあしらいで、一月から、若葉、此の花、都の春、卯の花……などと季節を追うごとに名を変え、季節を表現する
このように季節によって姿をかえる和菓子は、練り切りから万頭に至るまで数多く存在している。
(2) 手づくりの魅力があること
 このことは厳密に言えば、さほど大きな特性とはなり得ないかも知れない。
 しかし、レトルト食品や大量生産大量販売食品が全盛という時代にあっては、グルメ志向と相まって本物志向という消費者の意識とも合致し強い商品力を生み出す一因になっているといえよう。
 加えていえば、手づくり商品とは作り手の技術や感性が生かされることになるという意味で、たとえ同様の商品であってもそれぞれの店の個性を発揮することにつながる面があり、小零細の営業が成り立つ要素ともなっている。
(3) 健康志向に合致する商品であること
 世は挙げての健康ブームであり、和菓子の原材料が持つ健康的な食品としての要素 (和菓子は食物繊維や良質たんぱく質、ビタミン類、ミネラル類、ポリフェノール等の宝庫いわれる小豆、いんげん類などの豆類が主原料であり、他に、米や米粉などの穀類、芋、ゴマ、寒天などの植物性原材料が中心で、動物性のものをほとんど含まない) は多くの消費者に知られているところである。
 これらの他にも、伝統的食品という面における安心感や信頼性、現在にも通じるファッション性 (意匠などの面で)、ひとつひとつの和菓子がそれぞれに菓銘を持つなどの優雅な面や文化性などの特長がある。
 これら多様な商品特性は、個性や自分の生き方を重視しようとする世相の中にあって、多岐にわたる消費者の要望に対し、様々な角度から応えることが可能となっており、安定的な業績の維持に役立っている。
 一方、購買動機の面から考えてみると、ここにも需要の底固さを示す要素がある。
 すなわち、

[2] 購入動機
(1) 年中行事との結びつきが強いこと
 長い歴史の中をその時代その時代の生活文化と共に存在し、育まれてきた業界であり、正月、節分、雛節供、端午節供、中元、帰省、月見、祭礼、七五三、歳暮など年中行事との結びつきが強く、これらの行事日には和菓子を食べる習慣がある。
(2) 人生儀礼との結びつきが強いこと
 人間が生を受けてから様々に迎える節目の行事 (通過儀礼)、出生、誕生祝、初節供、七五三、入学・卒業、成人祝、結婚祝、年祝、葬礼、年忘等々人の営みに関わる諸行事との結びつきが強く、営業機会となっている。
このように人間の生活文化に密着したところにおける需要の発生は、その商品特性の多様性と相俟って 「和菓子は不景気に強い」 といわれることを持続させてきた。


 根強い需要を誇る和菓子業界とはいえ、長期間にわたる不況は少なからぬ売り上げの減少をもたらした。
 菓子産業は、和菓子をはじめチョコレート、ビスケット、キャンディー(飴)、米菓など12品種に及ぶ多品種が競い合っている。
 菓子産業の中に占める和菓子の割合は概ね17〜18%(ちなみに洋菓子は15〜16%)と生産量、生産金額共に第1位を占めている。
 菓子産業全体の生産額は、2000年で2兆4033億円となっておりピーク時の1992年2兆5977億円と比較して▲7.48%となっている。
 一方、和菓子は、ピーク時の1993年には4787億円あった生産額が、2000年では4185億円と▲12.57%の減少を余儀なくされた。
 洋菓子業界に目を向けるとピーク時は1996年でやはり▲12.1%と生産額が減少している。
 ここで注目すべき点は菓子業界においてその占める割合が1位と2位である和・洋菓子業界が、共に菓子業界全体の減少率を大きく上回って生産金額を減少させていたことである。
 もっとも減少とはいえ、和菓子の場合で7年間で▲12.57%、洋菓子の場合で5年間で▲12.1%と年度毎にみれば微減というレベルでとどまっているが、菓子産業全体のマイナスを上回っていることは事実である。

表1
年度 菓子業界全体の
生産金額 (億円)
和 菓 子 洋 菓 子
生産金額
(億円)
菓子業界に
占める割合
(%)
生産金額
(億円)
菓子業界に
占める割合
(%)
1989年
1990年
1991年
1992年
1993年
1994年
1995年
1996年
1997年
1998年
1999年
2000年
23,241
24,327
25,699
25,977
25,736
25,005
25,067
25,223
24,934
24,570
24,340
24,033
4,212
4,400
4,610
4,693
4,787
4,700
4,705
4,697
4,610
4,490
4,330
4,185
18.12
18.08
17.63
18.06
18.60
18.79
18.76
18.61
18.48
18.27
17.78
17.41
3,808
3,967
4,149
4,186
4,248
4,184
4,268
4,312
4,250
4,160
3,955
3,790
16.38
16.30
16.14
16.11
16.50
16.69
17.02
17.09
17.04
16.93
16.24
15.76
出典:全日本菓子協会:菓子推進生産金額

 減少率が上回ったことの原因は、贈答用需要と法人需要の減少によるものとみられる。
和菓子の生産に占める贈答品需要の割合は他の菓子品目と比較して、かなり大きな割合となっている。
 その贈答品需要の減少と価格の低減が影響しているとみて良い。
 和菓子全体に占める贈答品需要の割合は、推定で約25%とみられる。
 その贈答品需要は、バブル崩壊後推定で約35〜40%の減少になっているものとみられ、これにより、和菓子全体では約9%〜10%減少になる。
 そうした点を考慮すると、一般需要はほとんど減少していないと考えて良く、長引く不況下であることからみれば、むしろ堅調に推移しているとも考えられる。
きわめておおざっぱな見方であるが、1993年頃までの和菓子業界は、伸びている企業、横ばい企業、減少企業の割合が約33%でほぼ均等であった。
 しかし、2000年に至って、伸びている企業の割合は15〜17%、横ばい企業の割合が30〜35%、減少企業の割合が50〜55%となっているものとみられ、生産量の減少が裏付けている。
 中でも特に生産量に占める贈答品の割合が大きい企業ほど減少幅が大きいという傾向がみられる。
 こうした面からみると不況の影響は贈答品需要の減少が和菓子業界にも色濃く出ていることが明らかである。
 一方売り上げ傾向では、一件当たりの購入単価の減少は明らかだが、購入機会(延べ客数)は増加していること、若い消費者層(特に10代〜20代)においての購入頻度が高まっている様子がみられることなど、むしろ明るい要素もある。
 全国和菓子協会が平成11年度に実施した全国の消費者を対象にした調査(サンプル数14,521)によると、
・「和菓子を食べる理由」(重複回答)
 美味しいから81.2%、季節感があるから60.0%、餡が好きだから32.8%、健康的、太りにくい、植物性の原料だから(3点合計)47.8%、手づくりだから31.6%、餅が好きだから26.8%
・「どんな和菓子が好きか」(重複回答)
 素材を生かした和菓子70.8%、技巧的な美しい和菓子37.8%、洋風素材を用いた和菓子7.6%、果物類を用いた和菓子14.6%、小豆餡を用いた和菓子77.8%、白餡を用いた和菓子33.4%
 となっており、和菓子の商品特性を良く理解して購入していることが伺える。
こうした状況から考えて、和菓子の需要は不況の影響は受けているものの、堅実な実績を残しており、将来的にも根強い需要に支えられて安定的に推移するものと判断される。



 和菓子は健康的であるという消費者の理解は、用いられている原材料から生じる健康性に由来する。
 その場合、まず挙げられるのは、和菓子の命ともいうべき"餡"の主原料である小豆や手亡(いんげん豆の一種)などの豆類の持つ成分である。
もともと豆類に薬効があることは知られているが、小豆を例に挙げると漢方では利水除湿、和血排線、消腫解毒の効果があるとされ、湿疹が内攻した時の治療、脚気、黄疸、下痢、便秘、腫れ物治療に使われている。
 その他にも (1) 植物性のものとしてはめずらしくアミノ酸スコアの高い良質たんぱく質であること、(2) ビタミン類がB1、B2、B6、E、葉酸、ナイアシンと豊富で多量に含まれていること、(3) 不足すると生活習慣病を誘発すると言われるミネラル類、カルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅、鉄、サポニンなどを含んでいること、(4) 植物繊維が不溶性のセルロース、ヘミセルロース、可溶性のペクチン、グルコマンナン等を双方とも多量に含んでいること、(5) ポリフェノールが豊富で小豆の場合は、アントシアン、フラボノイド、タンニンが多量に含まれており、かつ、加熱すると増加するメラノイジンが含まれていること、(6) ビフィズス菌の栄養素ともいわれるラフィノース、スタキオースなどが豊富に含まれていること。
 などなど、栄養と機能成分の宝庫と言って良いバランスの取れた機能性食品であり “餡” にしてもその成分をあまり失わないところが優れている。
 次いで良く言われるのは、植物性の原材料が中心でつくられているということであろう。
前述した小豆やいんげんなどの豆類はもちろん、他に米、もち米、米粉、小麦粉などの穀類、芋類、ゴマ、砂糖、寒天、葛、柿、栗など数えあげればキリがないほどで、動物性のもので用いられるのは玉子が目立つ位で、その他動物性の材料は特殊といって良い程使われていない。



 こうした和菓子の健康的要素は、全国和菓子協会が昭和56年(1981年)から継続的に実施してきた 「健康と和菓子」 に関する啓発事業や栞類などの配布(延べ200万部を超える)などで、消費者の間に徐々に浸透してきたといえる。
 残る要素は “砂糖” ということになる。
 昭和50年代前半は「甘いものは太る」という声が蔓延していた時代で、和菓子業界も随分と影響を受けた。
 その後、関係機関や関係業界等で実施された 「砂糖について誤解を是正するための啓発事業」 や全国和菓子協会が昭和56年から行っている 「健康的な和菓子」 のキャンペーンなどの効果が徐々に現れてきたのか、「甘いものを食べると太る」 という声は、その当時と比較すれば、幾分小さな声となってはいる。
 しかし、依然としてそのように思い込んでいる消費者も多く、需要拡大へのハードルのひとつであることは間違いない。
 そもそも、和菓子にとって砂糖は、単に旨味、甘味というだけではない重要な働きがある。
 それは砂糖の持つ大きな特長のひとつである保水性である。
 和菓子の命ともいわれる “餡” は、この保水性を最大限に生かした加工品であり、砂糖の保水性が存在しなければ “餡” そのものが存在しないといって過言ではないほどである。
“餡” (特にこし餡)は小豆や手亡の中の、でんぷん粒4〜5粒を内包した “餡粒子” を砂糖でしっかりと包み込んで、その保水性により水々しい口どけと “餡粒子” 独特の食味感をかもしだすことができることによって成り立っている。
 この保水性は餡の保存性を高める上でも大きな力を発揮する。
 砂糖がしっかりとつかんだ水分は、砂糖の保水性ゆえに自由水とはならず、水分活性を押さえることによって、菌の繁殖などを防ぎ、品質維持にも大きな働きをする。
この点で、和菓子は、単に旨味や甘味として砂糖を用いるのとは異なる次元で砂糖の効用の大きなお世話になっていると言わねばならない。
 もちろん、旨味や甘味も無くてはならぬものである。
 昔から和菓子業界にはこういう意見があった。
 「砂糖は和菓子にとって無くてはならぬ旨味である。したがって旨味をより多く入れることが旨い和菓子づくりに大切である。しかし、入れすぎて、ただ甘いというだけでは誰も和菓子を旨いとは言ってくれない。そこで大切なのは、より多くの砂糖を使いながら、その甘味を極力感じさせない様にする。この二律背反を可能にするのが和菓子づくりの技術である。」
 という言葉であるが、これは、砂糖の特性を和菓子に生かすということを、見事にまで言い表している。
 結局、和菓子には砂糖が必要なのであって、代替甘味料では良い和菓子はできないということである。
 それゆえに、和菓子業界では 「甘いものは太る」 「砂糖は太る」 といった風潮がはびこるのは正に死活問題といって良い。
ゆえに、和菓子業界は永年にわたって、和菓子の栞などの中で、「砂糖で太るのは誤り、砂糖は頭の栄養素、健康のために必要な食品」 と訴え続けてきたし、2000年10月には大阪で、2002年3月には東京で、砂糖と小豆の健康性を訴えるシンポジウムを開催したりするなど、糖害論を払拭するための努力を重ねている。
 自慢めいて恐縮だが、和菓子という小さな領域にあるものが、和菓子ではなく砂糖の健康性を訴えるシンポジウムを開催するということは、稀有なことといって良いと思う。
 それほどに砂糖というものを大切に考えているわけである。
 しかし、いくら頑張っても、所詮は小さな業界がすることであり、その効果はあまりにも小さく、拡がりも遅々としている。
 その意味からも、砂糖に直接関わる関係機関、団体の皆さんには、もっともっと砂糖を啓発するための努力を重ねて欲しいと思うし、我々和菓子業界の砂糖啓発のための事業への支援もお願いしたいと思う。

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 言うまでも無いことながら、和菓子は食品には違いないが、単に食欲を満たすための食品ではない。
 あくまでも嗜好品であって、その面からいえば 「食を超えたところに存在する食」 といって良いのかもしれない。
 そうしたことを考慮した上で和菓子の需要拡大対策は、一朝一夕の効果が期待できないだけにむずかしい要素があると言わなければならない。
しかし、長期的にみて最も必要な需要拡大対策は 「嗜好品」 である以上 「味」 というところに主眼を置いた 「良品」 を製造販売することであることは言をまたない。
また、マス対象の商品が氾濫する中にあっては、商品の個性化ということも重要な要素になる。
 この点においては、手づくり商品が主流を占める現状から言えば、自らが個性を生み出さざるを得ない面があり、その個性が生菓子ゆえにマス対象に流通しにくい商品であるという特徴とも重なって、地域の消費者の固定化に大きく貢献するということにもつながるので、業界の特長として生かし続けることが求められる。
次いで大切なことは、和菓子の持つ文化性、すなわち、冒頭でふれた和菓子の商品特性のアピールであり、これについては業界として牛歩の歩みながら、一貫性を持って訴え続けている。
 加えて大切なことは 「健康性のアピール」 である。この点については我々も努力を重ねるが、大いに支援をお願いしたいところで、前述のとおりである。

 和菓子は、千年を超える歴史の中で国民の生活文化と共にあって、その時代、時代を生きて受け継がれてきた日本を代表する食文化のひとつである。
 和菓子の変遷は、過去の歴史の中においても無数にあったと言わなければならない。
 その面から言えば現代の食の多様化などについても恐れるには当たらない。
 いや恐れてはいけないと思う。
 この変化をも乗り越えていける力を持つからこそ、日本を代表する食文化のひとつなのである。
 そのためには伝統をふまえた上での革新も必要となるであろう。
 しかし、変えてはならぬものがある。
 それは「味」ということであり、「旨さ」の追求である。
 その意味で “砂糖” は永遠にパートナーであるに違いないと思う。

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「今月の視点」 
2002年7月 
千年の歴史を超えて生き続ける和菓子
 全国和菓子協会 専務理事 藪 光生

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