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琉球弧の少収地域、低糖度地域におけるさとうきび栽培改善

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2002年8月]
 平成13年度において行われた 「さとうきび栽培実態診断調査」 の概要を2回にわたって紹介します。今回は鹿児島県で行われた調査概要です。昨年12月、鹿児島県奄美大島、沖永良部島、与論島においてさとうきび栽培ほ場の実測、地元さとうきび生産者、試験研究関係者、普及・行政関係者、糖業関係者等による現地検討会を行いました。現地の問題点の解消を図るとともに、低単収、低品質ほ場を改善するための改善策等を地域ごとに紹介します。

九州沖縄農業研究センター 作物機能開発部
さとうきび育種研究室長  杉本 明


I はじめに
  1.高糖・多収実現の要点と現地診断の方法
  2.高糖多収さとうきび生産の条件
  3.調査内容
II 鹿児島県下のさとうきび栽培の現状、地域及び栽培型の特徴
  1.総括
  2.栽培型の特徴
  3.地域の総体的課題
  4.各地域の栽培状況と高糖多収実現のための対策
    1) 奄美大島  2) 沖永良部島  3) 与論島



1.高糖・多収実現の要点と現地診断の方法
 さとうきびは琉球弧の農業及び経済を支える重要作物である。さとうきびの生産額に加え、畜産利用を通した梢頭部・枯葉・搾汁残さ(バガス、汁中沈殿物)の地域への還元、製糖活動を通した付加価値創造(産業連関)性の高さ等により地域の基幹作物の地位を与えられている。しかし、社会的な環境の激変の中、最近ではさとうきび生産、工場操業の縮小が続いている。さとうきび・製糖産業の持続的な発展には、さとうきびの、安定的な高糖多収生産、作業の軽労化、営農の高収益化・低コスト化を環境保全型農業技術で達成することが重要である。筆者等は、その第一の要素である安定的な高糖多収生産の実現に向け、平成13年12月〜14年1月にかけ、奄美大島、沖永良部島、与論島、伊平屋島、北大東島、南大東島、久米島、与那国島を対象に、生育状況の現地診断を実施した。

2.高糖多収さとうきび生産の条件
 さとうきびの多収の要素は多い茎数と重い1茎重である。多い茎数の要素は多い株数(出芽・萌芽は健全な種苗と適切な温度・水分・空気の存在によって促進され、高い生存率は病害虫・雑草の制御と栄養の潤沢な補給によって保証される)と多い株当たり原料茎数(多い分げつは良好な栄養・光環境と生長点へのストレス刺激の存在によって促進され、高い生存率は病害虫・雑草の制御と十分な栄養の供給によって保証される)である。重い1茎重は、光・ガス(二酸化炭素・酸素等)・養水分の十分な継続的供給によって保証される。養水分の供給は根系の大きさと活性、良好な土壌環境に基盤を置き、光及びガスの供給は多い生葉と受光態勢の良否に左右される。同一品種の場合、茎収量が類似の水準なら、生葉が多く総合計としての光を多く受けることができたときに高糖度になる。そのために必要な外部の環境が多い日照、適度な降雨と肥沃な土壌、立毛自身が具えるべき特性が生葉の維持(病害虫・強風被害の回避と十分な体内養分)と受光態勢の維持(高い草高)である。この報告はこれら高糖多収の要点を念頭に置いて調査結果を取りまとめたものである。

3.調査内容
 調査の目的は問題のあるさとうきび圃場の具体的な現象を把握し、主要な要因を上述の高糖多収の要素から解明して生産性向上のための多様な解を求め、その中から生産者が実行しうる行為を抽出して対策として提案することである。緊急の改善を目的とした既存技術の選定を第一とし、中・長期的観点からの技術導入の方向を次に示した。
 まず、既存の統計資料を用い、品種や作型の構成、甘蔗糖度、作型毎の茎収量、長期間にわたる茎収量や糖度の傾向を解析して、地域のさとうきび生産の特徴を把握した。次に地域毎に少収、低品質等の問題圃場を選定し、農畜産業振興事業団をはじめとする諸関係機関による合同調査班を構成して、生育の概況(茎伸長、茎径、茎数、倒伏程度、病害虫の発生状況、生葉の状況等)、栽培環境の概要(土壌の種類,耕土深,台風・干ばつの襲来状況、灌水施設・防風林の有無等)、栽培技術の概要(品種、肥培管理実施状況)、生産農家の概要(経営規模、労働力構成等)を調査した。平成13年度は、奄美大島、沖永良部島、与論島、伊平屋島、北大東島、南大東島、久米島、及び与那国島を対象に、低品質圃場,少収圃場等を問題毎、作型毎に調査して高糖多収の圃場と比較した。


1.総括
 1967/68〜1995/96年期の琉球弧の主要なさとうきび生産地域の10アール当たり茎収量、ブリックスの平均値と年次間の変動係数を第1表に、2001/2002年期の10アール当たり茎収量、甘蔗糖度を第2表、数値間の相関係数を第3表に示した。

第1表 琉球弧の島々におけるさとうきび栽培の状況
    10a当たりの
茎収量 (t)
ブリックス
(%)
種子島

喜界島

奄美大島

徳之島

沖永良部島

与論島

平均
変動係数
平均
変動係数
平均
変動係数
平均
変動係数
平均
変動係数
平均
変動係数
6.46
12.90
7.20
10.30
5.69
13.60
6.20
12.80
6.07
13.40
6.15
15.30
17.1
6.3
18.9
4.2
18.4
3.9
18.7
3.7
18.4
4.9
18.7
4.8
沖縄本島北部

伊平屋島

沖縄本島南部

北大東島

南大東島

久米島

宮古島

石垣島

与那国島

平均
変動係数
平均
変動係数
平均
変動係数
平均
変動係数
平均
変動係数
平均
変動係数
平均
変動係数
平均
変動係数
平均
変動係数
6.80
7.20
6.44
14.70
7.55
14.50
4.76
23.40
5.69
23.40
6.76
17.40
6.05
24.80
6.39
20.40
5.58
17.10
18.0
4.7
18.5
3.9
18.2
3.6
17.5
5.2
17.1
6.0
17.7
4.6
17.7
5.4
17.9
5.3
17.7
3.9
注) さとうきび及び甘しゃ糖生産実績 (鹿児島県農政部、沖縄県農林水産部) を基に日本分蜜糖工業会資料を補充して集計した。
注) 平均:1967/68年期〜1995/96年期まで28年間の平均値。±は標準偏差である。
伊平屋島、北大東島、久米島、与那国島の10a当たり茎収量は1984/85〜1995/96
伊平屋島、北大東島、久米島、与那国島のブリックスは1984/85〜1993/94

第2表 琉球弧の島々における2001/02年期におけるさとうきびの生産実績)の拡大画像
第3表 2001/2002年期の鹿児島県の成績における項目間の相関関係
夏植/春植 夏植/株出 春植/株出 平均/夏植 平均/春植 平均/株出 平均/甘蔗糖度
.8593 .8102 .9513★★ .8744 .8553 .7586 -.0156
注) 種子島、喜界島、奄美大島、徳之島、沖永良部島及び与論島の成績 (県資料) に基づいて算出。
夏植:夏植え茎収量、春植:春植え茎収量、株出:株出し茎収量、平均:平均茎収量

〈参考〉 第4表 2001/2002年期の沖縄県の成績における項目間の相関関係
夏植/春植 夏植/株出 春植/株出 平均/夏植 平均/春植 平均/株出 平均/甘蔗糖度
.9246★★ .9568★★ .9362★★ .8826★★ .8876★★ .9103★★ .4342
注) 沖縄本島北部、伊平屋島、沖縄本島南部、北大東島、南大東島、久米島、宮古島、石垣島及び与那国島の成績 (県資料) に基づいて算出。
夏植:夏植え茎収量、春植:春植え茎収量、株出:株出し茎収量、平均:平均茎収量

 2001/2002年期の平均茎収量が最も高かったのは種子島である。喜界島も高かった。喜界島は年次間の変動が小さく茎収量が安定している。徳之島が上記2島に次ぎ、奄美大島、沖永良部島は徳之島より低い。最低は与論島で沖永良部島との間に0.5トンもの差が認められた。与論島は年次間の変動が他の島々より明らかに大きかった。
 夏植えの茎収量は種子島、喜界島、徳之島が大きく、奄美大島と与論島はほぼ同等であった。沖永良部島は低かった。夏植えの茎収量は台風・干ばつ等、気象被害の影響が小さいことが知られている。奄美大島・沖永良部島・与論島3島の夏植えの茎収量が他の島より低いことは、これらの3島が他の島と比べ、土壌条件や肥培管理等、気象要因以外の生育環境において劣ることを示唆している。春植えは種子島が飛び抜けて高い。次は徳之島で喜界島とほぼ同等である。奄美大島は低く、沖永良部島、与論島は特に低かった。株出しも種子島が飛び抜けて高かった。徳之島と喜界島が種子島より1.7トンほど低く同程度であった。与論島と奄美大島がそれより0.5トンほど低く、沖永良部島はさらに0.5トン程低かった。
 甘蔗糖度は徳之島だけが14%以上であった。徳之島は年次間の変動も小さく、安定高糖度地域であった。奄美大島、喜界島は比較的高く、与論島は中庸、種子島は低く、沖永良部島は種子島よりさらに低かった。沖永良部島は長期間の統計では奄美大島地域の他の島と同程度の糖度であるが年次間の変動が種子島以外の他の地域より大きいのが特徴である。


2.栽培型の特徴
 地域間の茎収量の変動係数は、夏植えでは10.9%と比較的小さかったが春植えでは22.2%と倍以上であった。株出しは15.9%と夏植えと春植えの中間程度であった。このことは、春植えが、自然条件・管理状況等、生育環境の影響を受けやすい不安定な栽培型であり、春植えの推進に際しては、灌漑施設や防風林の有無等、普及対象地域の基盤整備の状況を考慮する事が重要であることを示している。春植えの茎収量と株出しの茎収量の間には高い正の相関関係が認められ、春植えと株出しの茎収量が同じ要因の影響を受けやすいことを示していた。夏植えの茎収量と春植えの茎収量との間にも正の相関関係が認められ、夏植えの茎収量が低い地域では春植えの茎収量も低くなることが示されていた。夏植えの茎収量と株出しの茎収量との間には相関関係は認められなかった。平均茎収量は春植え及び夏植えの茎収量と正の相関関係を持っていた。種子島以外の島々では春植えの茎収量が低いのが特徴であることから、平均茎収量の向上に春植えの茎収量を改善することの効果が大きいことを示している。甘蔗糖度の地域間の変動は極めて小さかったが、茎収量との間には相関関係が認められなかった。このことは、甘蔗糖度を平均的に向上させることが容易なことではないこと、一方、甘蔗糖度を下げることなく茎収量を改善することについてはその余地が大きいことを意味している。


3.地域の総体的課題
1) 種子島
 種子島はどの作型でも茎収量が高いが、甘蔗糖度は低かった。長期間の統計数値でも同様であり、安定した自然的条件の影響であると思われる。ここ数年は生産性が向上しているが、糖度の向上と株出し回数の増加が急務である。
2) 喜界島
 喜界島は作型毎には徳之島と同程度の茎収量水準であるが、夏植えの割合が高いため平均茎収量では徳之島より高かった。昨季の甘蔗糖度は徳之島より低く、夏植え型栽培の特徴を示すものと考えられる。長期間の統計数値はこの地域が高糖安定多収栽培を実施していることを示している。作期分散の基礎となる、春植え及び株出しの茎収量改善が課題である。
3) 奄美大島
 奄美大島は夏植えが多いにも関わらず平均茎収量が春植え・株出し体系の徳之島より低かった。甘蔗糖度も低かった。夏植え、春植え、株出しともに茎収量が低く、且つ甘蔗糖度が低いことは、気象条件以外にも生育環境に大きな問題のあることが示唆されている。長期間の統計数値でも他の島々より茎収量、ブリックスが低い。基本的な生育環境・栽培法の改善が求められる地域である。
4) 徳之島
 徳之島の平均茎収量は喜界島より大幅に低く、奄美大島に近かったが、同じ栽培型の場合には茎収量は奄美大島より大幅に高く、喜界島と同程度であった。甘蔗糖度は鹿児島県の島々では最高であった。長期間の統計数値ではブリックスは高位安定、茎収量は周辺の島よりやや高い程度である。春植え、株出しの茎収量改善が課題である。
5) 沖永良部島
 沖永良部島はいずれの作型も少収であった。夏植えの茎収量も低く、他の島より1トン程度少なく、種子島の春植えよりも少ない6.5トン以下であった。株出しも最低で全島中唯一、5トン未満であった。そのため、夏植えの割合が高いにも関わらず平均茎収量が低かった。甘蔗糖度も鹿児島県南西諸島中で最低であり、気象要因以外にも生育環境に大きな欠点があることが示唆されている。長期間の統計数値では茎収量は与論島や徳之島よりやや低い程度である。基本的な栽培改善が必要な地域である。
6) 与論島
 与論島の平均茎収量が最低であるのは、春植えの面積割合が多く、かつ春植え茎収量が4.4トンと低いためである。76%を占める株出しの茎収量は沖永良部島、奄美大島より高く、徳之島、喜界島とほぼ同程度であった。茎収量の年次間の変動が大きく、台風や干ばつの影響を受けやすいのが特徴である。最大の課題は春植えの栽培改善である。


4.各地域の栽培状況と高糖多収実現のための対策
 13年度に調査した奄美大島、沖永良部島、与論島の調査結果を第5、6、7表に示した。

1) 奄美大島
〈1〉 栽培の概況
 奄美大島の主要品種は49%を占めるF177と38%を占めるNiF8である。その他に奨励品種以外のものが12%程度栽培されている。作型毎の面積比は夏植えが43%、春植えが19%、株出しが38%の割合である。調査年(2001/2002)の10アール当たり茎収量は、夏植え7.6トン、春植え4.7トン、株出し5.5トンであり、3作型ともに低い。春植えの茎収量が生育期間が短いことを考慮しても低いため、春植え・株出し体系の生産性が低く、夏植え割合が高いことでかろうじて平均茎収量が保たれているのが特徴である。調査年(2001/2002)の平均甘蔗糖度は13.88%と比較的高かったが、倒伏及び台風や季節風による生葉の損傷で糖度が低くなる場合が多く認められる。高齢化が進んでいるが、地元自治体の強力な支援があり、増産への意欲は数年前よりも高く、放棄圃場は減少し、株出し管理が実施されない場合も多いが、圃場の管理は全体的に改善されている。
〈2〉 生育の概況
 調査した圃場は概して湿地であり、冠水による発芽不良で欠株が多く、発芽後も湿害で分げつが少なく、初期生育の不良なところが多かった(写真1)。何れの圃場も乱倒伏が激しかった(写真2)。乱倒伏は湿害・発芽不良を回避するための浅溝の影響が大きいと思われる。台風及び季節風の影響で生葉は少なかった。ブリックスは圃場間の差異が大きかったが、品種による際立った差異はなく、NiF8にもF177にも低糖度圃場が認められた。肥培管理はそれなりに実行されており、湿地であることの負の影響が大きいが、沖永良部島と比べると欠株が少なく、雑草も少なく、茎伸長も良好であった。
写真1
奄美大島北部、夏植、
湿害で発芽・育成不良のF177
写真2
奄美大島笠利町9月植野NiF8
欠株が多く倒伏が激しい
第5表 奄美大島の調査圃場におけるさとうきびの生育状況
〈3〉 当面の改善
 少収圃場の第一の特徴は欠株の多発である。それに分げつ不足と伸長不良が加わると極少収になる。低糖度の原因は台風や季節風による生葉の損傷と倒伏による受光態勢の悪化である。
 欠株の発生の要因は主として過湿圃場での湿害、さらに、多雨時の畦山の崩壊による過覆土である。過湿圃場では梢頭部苗の斜め挿しによって発芽を確保している。この方法は発芽の確保には有効であるが、労力的に負担が大きく多量生産には不向きである。また、浅植になる場合が多いために根域が小さくなり、干ばつに弱く、多収の場合は倒伏し、受光態勢悪化・枯死茎発生・低糖度につながる可能性が大きい。
これらのことは、奄美大島における栽培改善の最大の課題が、過湿圃場での発芽確保とその後の根系発達の促進・倒伏抑制を両立的に実現する方法の導入であることを示している。
(1) 土壌環境の改善と健全種苗の利用
 第一の対策には、土壌の透水性、通気性を高めるための有機物の投入や深耕による土壌環境の改良があげられる。
 実行のしやすさという意味では畦立て機の改良が第一である。大きく深いU字型畦の畦底の両端にさらに排水のための溝を切れるように作畦用リッジャーを改良し、深い畦底の両端の溝を用いて排水し、種苗の水漬・畦山崩壊による不発芽を防ぐことである。深溝であるため、茎伸長促進と倒伏防止の双方に良い影響を与えるはずである。
 また健全種苗の多量投入によって欠株発生を最小化する方法も有効である。奄美大島では夏植えが多いので、植え付け時期の分散が可能である。厳しい過湿地以外の場所では、降雨の多少に合わせた柔軟な植え付け・肥培管理体系の構築や移植苗を利用した栽培も有効であろう。それには植え付け時期の分散や多様な栽培法に対応しうる種苗生産・供給態勢の構築が必要である。
 優良種苗の効率的生産のための植え付け時期、栽植密度等については沖縄県農業試験場の成果情報(九州農業研究成果情報,9:599-600、九州農業研究成果情報,12(上):81-82)が活用可能である。
(2) 初期栽培管理の改善
 第二の対策は初期生育=分げつ・茎伸長の促進である。分げつ・初期伸長の促進には発芽後の養水分の円滑な供給が重要であり、その基礎は根系の充実と栄養の補給である。そのための要点は基肥、追肥、中耕・培土の早期実施である。
(3) 受光態勢の改善による糖度の向上
 糖度の改善には受光態勢の改良、すなわち倒伏の抑制が必要である。上に述べた培土の早期化は株中の茎間への土壌の投入を通して根系の充実を促し、茎の生育を促進するとともに茎の支持力の向上をももたらすはずである。また、RK91-1004のような茎の発生位置が深く耐倒伏性を具える品種の利用は、糖度、茎収量、双方の改善効果が高いはずである。
株出しの栽培改善の要点は良好な萌芽、株数の確保であり、RK91-1004のような萌芽性の優れた品種を用いた場合には新植の欠株抑制・分げつ促進それ自体が株出し茎収量の改善に寄与するはずである。
〈4〉 中・長期的対策
 奄美大島におけるさとうきび生産の全体的向上には、株出し面積の増加と茎収量の改善が必要である。冬季が比較的低温である同地域で本格的な株出し安定多収栽培を実現するには、より高温である秋季に収穫する秋収穫栽培体系の導入が有効である。
 具体的には極早期高糖性系統を用いた夏植え型1年栽培の導入と、早期高糖性と低温萌芽性を兼ね具える品種による初冬季収穫栽培の導入、KR91-138等による冬収穫の株出し改善、さらにRK91-1004等による春収穫・株出し多収栽培の確立によって、柔軟な作付けによる株出し安定多収栽培が実現するであろう。


2) 沖永良部島
〈1〉 栽培の概況
 主要な品種はNiF8で86%を占める。その他にF177が8%、奨励品種以外が6%程度栽培されている。夏植えが54%と多く、春植え17%、株出しは29%である。調査年(2001/2002)の成績は、10アール当たり茎収量で夏植え6.9トン、春植え4.5トン、株出し4.9トンと、何れの作型も少収で、夏植えと株出しは鹿児島県南西諸島の中でも最低であった。平均甘蔗糖度は13.09%と低かった。園芸作を重視する経営の方針により、さとうきびの肥培管理は極粗放であり、初期管理は省かれる事例が多い。園芸の振興が農家所得を支えていることからやむを得ない場合も多く、園芸作との両立が技術普及の要点である。
〈2〉 生育の概況
 どの圃場も欠株が多く、茎数が少ない(写真3)。雑草の発生は多い。伸長はやや不良である。圃場間での変動は大きく、圃場によって節間長が極短い場合が見られた。そのような場合には極少収になることが予想される。茎の太さは奄美大島や与論島のさとうきびよりやや太めである。
〈3〉 当面の改善
 欠株の多発と分げつの不足による少ない茎数が沖永良部島における少収の第一の特徴である。それに伸長不良が加味されると極少収になる。低糖度の原因は奄美大島と同様、台風や季節風による生葉の損傷と倒伏による受光態勢の悪化であると思われる。
欠株多発、分げつ及び茎伸長の不良は、不良苗の植え付けと初期管理の不在、その結果としての雑草繁茂の影響が大きいと思われる。
 ゆえに、最大の課題は欠株の抑制と初期生育の促進である。園芸輪作との関係で濃密な管理は不可能と思われることから、省力的な出芽・初期生育促進技術の導入が重要である。
(1) 良質な種苗による初期育成の促進
 まず第一に、良質種苗の密植であり、そのための種苗生産供給体制の整備が必要である。
 基肥の実行から第1回中耕の早期実施が有効であるため、基肥・植え付けを一貫して実行することの出来るプランタによる採・調苗・植え付け・基肥一貫作業機の開発と利用システムの整備が急がれよう。また、倒伏し易いという欠点を持つが、KR91-138、KF92-93等初期生育の優れた株出し多収性さとうきびを利用することも有効である。移植苗栽培の適用も有効であろう。茎伸長については、出芽・初期生育の促進それ自体が改善をもたらすはずである。
(2) 新奨励品種RK91-1004の有効利用
 株出しの栽培改善には、夏植え、春植えにおける欠株の抑制それ自体が有効な対策となろう。RK91-1004の利用は株出し栽培の改善とともに倒伏の防止にも有効である。本系統の利用に際しては、黒穂病防除の徹底と初期の肥培管理が重要であるので、これらの要点を実行しうる生産者による栽培が必要である。
〈4〉 中・長期的対策
 花卉・園芸作との連携の強化が必須の事項である同地域でさとうきびの初期管理の改善を図るためには、さとうきび関連作業の分散・平準化が必要である。その鍵は収穫期の早期化・長期化と株出し栽培の改善である。極早期型高糖性品種を用いた秋収穫型1年栽培、Ni12等による初冬季収穫型1年栽培、KF92T-519やKF92-93、KR91-138等の低温萌芽性品種を用いた冬収穫型の多回株出し栽培、RK91-1004による春収穫型1年栽培等を確立し、生産者の経営方針に合わせて普及する柔軟な生産態勢の構築が必要であろう。


3) 与論島
〈1〉 栽培の概況
 畜産との複合農家が多いため、主導品種は生葉の多いF177で80%を占めている。その他NiF8が10%、奨励品種以外が10%程度栽培されている。夏植えは約5%と少なく、春植え20%、株出し75%の多回株出しが特徴である。調査年(2001/2002)の成績は、10アール当たり茎収量で夏植え7.6トン、春植え4.4トン、株出し5.6トンである。特に春植えの茎収量が低い。株出しの茎収量は奄美大島と同程度である。平均甘蔗糖度は13.53%とやや低かった
〈2〉 生育の概況
 植え付けの遅れ、株出し処理の省略等のため、春植え・株出しともに伸長不良である。植え付けが遅れるために春植えでは特に伸長不良である。多回株出しが前提のために培土が極低いので、茎が短いにも関わらず乱倒伏が激しい。ブリックスは低い。欠株は沖永良部島より少なく分げつも比較的多いため、茎数は沖永良部島、奄美大島より多い、茎の太さは中〜細程度である。この島の低い培土と初期管理の遅れ・不在は、通常年の生産性を規定するとともに、台風や干ばつの被害を受けやすくしている重要な要因の一つであると思われる。
〈3〉 当面の改善の要点
 与論島の少収、低糖度の主な特徴は茎の伸長不良と乱倒伏である。茎数が減少すると極少収になる。春植え少収の最大の要因は植え付けの遅れ、株出しの少収は株出し処理の不履行・初期肥培管理の遅れであると思われる。株出しの茎収量が春植えより高いのは、萌芽時期が春植えの発芽時期より早いために茎伸長が春植えに比べて良好なためである。
 茎伸長・1茎重の改善には、出芽・萌芽の早期化と高培土による根域の確保が有効である。この島では多回株出しを前提にしているため、株上がりを招く高培土は新植や当初の株出しでは実施されない。
 また、生育期間確保に必要な出芽促進のための植え付け・初期管理の早期化も労力の競合により困難である。
 このことから、同地域においては、1茎重の増加による茎収量の改善を求めることは肥培管理上は現実的な選択ではないと考えられる。このような場合における茎収量・糖度の改善には、茎の伸長ではなく茎数の増加によるのが有効である。
(1) 分げつの促進
 茎数の増加は株数の増加と分げつの促進によって達成されるが、分げつの促進には保温・保湿・栄養補給を要点とした初期管理が必要であるため、新植時の良質種苗の多投入による株数の確保に努めるのが現実的である。分げつ・伸長改善には、移植苗栽培による実質的な植え付け早期化の実現、収穫直後の株出し一貫管理機の普及も有効であろう。また、収穫後の深い位置での株揃え・根切り・排土が実施し得れば高培土の実行が可能になるため、低価格の株出し処理一貫管理機の開発が待たれる。
(2) 倒伏防止の有効な品種の利用
 低糖度の最大の要因はF177、NCo310の倒伏、すなわち非高糖型品種が倒伏して登熟期の受光態勢が劣悪なためである。激しい倒伏の理由は培土が低いことと株中への土壌の投入が不十分なため、根系の発達が不十分なためである。
 前述したとおり、多回株出しのために高培土は出来ず、労働競合のために初期管理の適切な実効は困難な状況である。低い培土にも関わらず受光態勢を維持するには、まず耐倒伏性品種の導入が有効であるが、茎発生深度が深く根系が優れる耐倒伏性の株出し多収性系統RK91-1004は受光態勢・糖度の改善と同時に、生産安定への効果も大きいと思われるため、急速な普及が望まれるところである。
 ただし、長期株出し体系は同系統の弱点である黒穂病の蔓延に繋がる危険性があるため、種苗消毒の徹底、農閑期を利用した、既存普及品種の立毛からの抜き取りの徹底等、黒穂病の発生を未然に防ぐ為の努力を最大限にする必要がある
〈4〉 中・長期的対策
 連年株出し栽培を前提にしているところから、培土量は少ないのが前提である。黒穂病蔓延の可能性も高い。濃密な初期管理が困難な状況も続くと思われる。もちろん、台風・干ばつ等の不良気象の来襲は今後も続くであろう。すなわち、与論島におけるさとうきびの全体的な生産性向上には、比較的粗放な肥培管理、不良な自然環境でも株出し安定多収が期待される夏植え型1年栽培法の導入、冬収穫低培土でも安定株出し多収が期待できる初期生育の優れた株出し多収性品種の利用、さらに収穫・植え付け時期の分散による労力競合の回避が必要である。
 これらの現実的な実現には総体的な生産態勢の変革が伴うため、今後の検討が必要である。


「今月の視点」 
2002年7月 
千年の歴史を超えて生き続ける和菓子
 全国和菓子協会 専務理事 藪 光生

琉球弧の少収地域、低糖度地域におけるさとうきび栽培改善
〜鹿児島県下の島々〜

 九州沖縄農業研究センター 作物機能開発部 さとうきび育種研究室長 杉本 明


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