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てん菜機械化栽培の歴史

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2002年10月]
 北海道におけるてん菜栽培は、輪作作物の中でも面積当たりの労働時間が長く、栽培労力の軽減、作業の効率化のためには機械化が不可欠です。
 作業機械はそれまでの畜力用作業機からトラクタ用作業機を改良・開発されたものへ、また、栽培方法が紙筒移植栽培法の確立・普及によって北海道のてん菜栽培面積を急速に拡大させました。

北海道立十勝農業試験場 生産研究部
主任研究員  桃野 寛


はじめに
1.直播用施肥播種機
2.移植機
  不良苗の自動選別  傾斜畑に対応する移植機の開発
3.栽培管理用作業機
4.収穫用機械
  1) ビートリフター  2) ビートタッパの国産化
  3) 国産ビートハーベスタの利用


はじめに

 てん菜が畑作の主要な作目として定着するには収量の安定化が大前提であり、これまで、てん菜栽培農家に対する積極的な奨励助成をはじめとして、寒冷地の不良条件を克服するための地道な栽培試験研究が行われてきた。
 北海道の畑作農業にてん菜が試作栽培されたのは明治4年のことであり、明治20年代までは人力用農具が主体であり、その後、畜力用に改良された。
 第二次大戦後にトラクタの導入とともに欧米からの輸入機が使われはじめ、畜力用作業機はトラクタ用に改良・開発され、てん菜の作付面積は急激に増大した。だが、てん菜栽培を、今日のように道内一円に普及・発展させたのは、紙筒移植栽培法の確立・普及と言っても過言ではない。昭和36年の手植に始まり、翌37年には苗皿方式の移植機が開発されて以来、様々な改良が加えられ、平成13年には栽培面積の96.4%を紙筒移植が占めるに至っている。
 ここでは、直播栽培と移植栽培に係る農機具と管理作業や収穫機械の今日までの発達経過を振り返る。


1.直播用施肥播種機

図1
図1 人力から畜力時代の播種機の変遷
 施肥播種作業は図1に示すようにラッパと称される手播き農具、人力播種機(傾斜板播種機)、畜力用3畦施肥機へと省力化が進んできた。施肥播種機の条件として、肥料と種子が接触すると、濃度障害のため発芽が阻害されることから肥料の上を1cm程度覆土する構造に改良された。
 当時の種子は多胚の全粒種子であったが、昭和30年前期には間引労力の節減のため砕粒種子の使用が奨励された。種子の基準は発芽歩合75%以上、水分12〜13%以下、粒径3mm以下、夾雑物5%以内と基準化され、播種精度は向上した。また、昭和33年にはベルトタイプの精密播種機(スタンへイ:図2)が輸入されてん菜直播栽培の他、豆類にも利用された。
 直播栽培では、本葉が2〜4葉期にホーによってブロック間引を行ない、最終的に1本立とする人力主体の作業であった。近年、粉衣処理した単胚種子を用いることで無間引き直播栽培が普及してきたが(図3)、直播栽培面積のさらなる拡大に向け、直播の懸案事項であるクラストによる出芽障害や風害及び初霜害等を軽減する技術開発が現在進められている。
スタンヘイ播種機
図2 裸種子の直播(スタンヘイ播種機)
高能率6条播種機
図3 高能率6条播種機による
無間引き直播作業(狭畦幅栽培)

2.移植機

1) 紙筒播種装置
土詰め播種プラント
図4 土詰め播種プラントの作業風景
 昭和31年に日本甜菜製糖(株) が、紙筒 (ペーパーポット) を開発し、昭和38年には増収と安定確収をねらいとした直径1.9cm、長さ13cmの紙筒を用いる移植栽培法が指導奨励技術となった。育苗の省力・安定化を図るため、紙筒への土詰めから播種法についても検討された。具体的には、まず短辺10列×長辺140列の紙筒を展開して突起板を重ねて反転し、次に床土を入れた後に十分付き固めて、再度反転して突起板を外す。突起板で形成された凹みに一粒播種し、覆土を行って苗床に接地する。この一連の工程を行う装置を土詰め播種プラントと呼んでいる。個人向けの小規模のものから共同育苗用の大規模のものがあり、集約管理により育苗の省力化と経費の低減につながった。図4は200ha用育苗センターの概要で9名の組み作業で稼働する。このプラントの処理能力は毎時75冊で、1日あたりの処理量は600冊 (10ha分) である。

2) 紙筒移植機
 昭和37年までは園芸作物のように人手で移植していたが、適期作業を可能とするため高能率移植機の開発が要望されていた。昭和38年には、図5に示すような回転する6〜8本のホルダーに手で1本ずつ紙筒を挿入することで定間隔に植え付けるトラクタ直装式2畦用移植機の性能試験が3機種 (BPL-1, TP-2, YT-2) 実施された。その後、手で挿入する方式から苗が順次コンベヤに供給する方式へと改良が加えられた。紙筒苗を予めバラにして苗箱に入れ (200〜600本) 供給する方式は、苗床の苗取り段階で健苗のみを供給することができ、弱苗や不良苗の高能率選別機構の開発にも寄与した。この構造の移植機の場合、コンベヤから苗を落下させ、植付けホルダーが挟時するタイミング合わせが苗供給速度の制限要因で、作業速度は0.4m/sが限界であった。
 苗供給の高速化は、移植機の苗台に1/3冊の苗を置き、分離器と呼ばれる櫛状の針を苗に差し込み一列20本の苗を一挙に分離し、コンベヤに並べる方法が考案された (図6)。移植機には1畦当たり苗供給に1人、苗選別に1人の計2名を要したが、苗取り作業が大幅に省力化した。
紙筒移植機の変遷
図5 紙筒移植機の変遷
紙筒苗補給法の変遷
図6 紙筒苗補給法の変遷

不良苗の自動選別
不良苗自動選別装置
図7 不良苗自動選別装置と
株間均一化機構の作業状況
 昭和50年以降は高速移植に適応する技術開発が加えられ、不良苗選別に人を付けなければ1畦当たり1人の人員で、作業速度0.6m/sまで植え付け間隔は保証されるまでになった。しかし、得苗率(健苗の割合)が低いと連続欠株となり、補植が必要となったことから、不良苗の自動選別が検討された。
 昭和58年には、不良苗の自動選別装置と株間隔均一化機構を装備した移植機 (BST-2, 4) が開発された。不良苗自動選別機構は2種類の送りベルトで構成され(図7)、1つは紙筒苗の葉部を把持ベルトが挟み、もう1つのベルトには紙筒部を載せて苗選別ベルトに送り、葉部が無い空ポットや弱苗等は把持されていないためバランスを失って自然落下することで健苗のみを選別する。この状態のまま縦ベルトに受け渡すと、空ポットや弱苗が除去されているため不連続となり欠株となるので、株間隔均一化機構 (図7) が考案された。不良苗の自動選別装置を通過した健苗ポットの送り間隔を光電センサーが感知し、苗の整列状態が常に一定となるよう電磁クラッチでベルト送り速度を可変調節し、連続整列させる優れた技術である。これらの両機構を装備することで得苗率が低い条件でも欠株は激減し、株間の変動率(平均値に対する誤差の割合)は20%以下となり、1畦当たり1人の作業が可能となった。作業速度は0.8m/sが限界であったが、作業能率は4畦用で毎時48.6aまで高まった。
苗振分け装置
図8 苗振分け装置の外観
 その後、移植機は縦送りベルトから苗上部を回転する1対のゴム円盤が挟んで植え付ける強制植え付け方式に改造され、移植機の作業人員を減らすため、平成元年には苗振り分け装置付き移植機 (STP-2 :図8) が開発された。株間隔均一化処理し連続整列した紙筒苗を2方向の縦送りベルトに振り分け供給する機構で、供給速度に限界はあるものの作業人員を1/2にすることが可能となった。移植作業速度は苗補給動作に制約されるので、作業速度は0.74m/sが限界で、作業能率は2畦用が毎時25a、4畦用が46aであった。これらの機構は、現在の機種にも利用されている。
チェーンポット(連続紙筒)
図9 チェーンポット(連続紙筒)と移植機の概要
 昭和57年には、連続紙筒 (チェーンポット:図9) により苗取りから植え付けまでを無人化した移植機 (NCP-2) が開発された。株間はチェーンポットの送り速度で3段階に変えることができ、分離した紙筒は落下シュート方式で植え付ける。従来の1号紙筒と寸法は変わらないが、紙筒が一定間隔で連なっているため苗分離や植え付け精度は良好であった。ただし移植作業時点で苗選別ができないため、得苗率の高い育苗管理が必要であった。
 一方、従来の1号紙筒を用いる自動移植機の開発研究もすすめられ、平成6年には苗取り道具の手作業動作をロボット化した 「自動面分離方式」 と呼ばれる自動苗供給装置を組み込んだ2畦用全自動移植機 (CAP-2 :図10) が開発され、同じ年に1/2冊苗の側面をスポンジローラからなる苗取り装置が順次紙筒を引き剥がす 「転動はく離方式」 と呼ばれる自動苗供給装置を組み込んだ2畦用全自動移植機 (ART-2000 :図11) が開発され、両機種とも作業速度1.0m/s前後の作業精度は良好であることから普及が進んだ。さらに、平成10年には、3基の苗振り分け装置を搭載した全自動6畦用移植機 (BA-4 :図12) が開発され、網走管内で利用されたが、作業機及び搭載苗重が大きいことからトラクタの油圧揚力は4トン以上を要し、枕地旋回時に油圧ホイストで補助する必要があった。
全自動移植機(CAP-2)
図10 全自動移植機(CAP-2)による移植作業
全自動6畦用移植機(BA-6)
図12 全自動6畦用移植機(BA-6)
全自動移植機(ART-2000)
図11 全自動移植機(ART-2000)による移植作業

傾斜畑に対応する移植機の開発
傾斜畑に適応する移植機は昭和50〜57年に数機種開発された。昭和50年頃開発された走行部がクローラの自走式移植機 (NPL-2) は、登・降坂傾斜角20度、等高線作業では横傾斜角15度程度を作業速度0.4m/sで作業が可能であった。移植機構は野菜移植機と同様に回転するカラス口状の苗ホルダに順次紙筒苗を補給し強制植え付けを行うもので、昭和53年には苗ホルダへの自動供給機構を装備し省力化が図られた。
 昭和54年以降に開発された自走歩行移植機 (KCB, TP-2) は、傾斜地でも垂直に苗を植え付けできるよう機体を水平に調節し、あらかじめ施肥と同時に高畦を成畦しておき、その高畦に自動追随させ、作業速度0.3〜0.5m/sで作業能率は毎時6〜13aであった。

表1 てん菜移植機の作業特性
てん菜移植機の種類 畦数 作業速度
(m/s)
作業人員*
(人)
作業能率
(a/h)
適応トラク
(Ps)
備考
 手押しホルダー式
(BPL) (TP) (YT)
(CT-4)
 苗自動選別式    (BST-2MS)
(CT-2MST)
(CT-4S)

2
4
2
2
4

0.2〜0.5
0.5
0.8
1.2
0.9

5
5
3
3
5

7〜15
39.8
26.5
36.6
61.4

40
70
60
60
70
 
全自動移植機
 チェーンポット式     (NCP-2)
 自動面分離方式     (CAP-2)
〃  (振り分け装置付き:BA-4)
(BA-6)
 転動はく離方式   (ART-2000)

2
2
4
6
2

0.7
1
0.8
0.8
1.2

2
2
2
3
2

22.4
30.0
48.6
52.0
33.0

50
60
100
100
70
 
傾斜地適応移植機
 自走クローラ式      (NPL-2)
 自走歩行型     (KCB, TP-2)
(ART-2000)

2
2
2

0.5
0.3
1.1

3
3
2

13.2
6.1
32.8

30
3.5
80

10度
5〜10度
9〜10度
注) *トラクタオペレーターを含む


3.栽培管理用作業機

1) 間引き機
トラクタ装着型間引き機
図13 トラクタ装着型間引き機
 直播栽培では、間引の方法や間引き時期及び株数が収量や糖分に影響するものである。本葉が2〜4葉期にホーによってブロック間引を行ない、最終的に1本立とする人力主体の作業であった。
 間引労力を軽減するため昭和30年代初めには、機械間引(シンナー:図13)の方法が検討されたが、当時としては1本立55%、2本立30%、3本立8%、4本立7%という性能であり、間引機の使用後に除草を兼ねた間引の手直しが必要であった。その後、移植栽培の定着によって間引機の必要性は大きく後退している。

2) 中耕・除草機
 昭和39年に甘味資源特別措置法が、昭和40年に甜菜振興策が施行されてから、道立試験場において12機種の甜菜用カルチベータの性能試験が実施された。昭和54年以降、十勝農試では 「甜菜の管理作業合理化に関する試験」 の中で、カルチベータの機構と作用について再検討された。株間除草用として従来の爪カルチに回転型除草輪を組み合わせた機種、土壌を砕土しながら株間へ均一に飛散させ雑草を覆土埋没させる機種、ロータリカルチや追肥作業と中耕を同時に行う施肥カルチベータ等の除草率が比較検討された (図14)。それ以降、平成10年頃の豆用の除草剤が使用され始めるまで、土質に応じた多様な株間除草用アタッチメントが考案され、てん菜の株間除草にも活用されてきた。これらの株間除草技術は、北海道が推進している減農薬栽培の支援技術として、今日大いに寄与している。
中耕除草作業
図14 カルチベータによる中耕除草作業
3) 畦間サブソイラー
 生育初期の湿害対策として畦間サブソイラが開発された。チゼル方式 (RS-40) とロータリ方式(RP-U)があり (図15)、沖積畑における降雨後の土壌水分減少効果が検証された。作業速度は1.0m/sで、作業能率は毎時0.4haであった。
サブソイラー
図15 湿害対策に考案されたサブソイラー
4) バンドスプレーカルチ
バンドスプレーカルチ
図16 バンドスプレーカルチによる除草剤の局所散布
 昭和55年にカルチベータとスプレーヤが組合わさった複合作業機が開発された (図16)。4畦用カルチベータの上部に500リットルのタンクを搭載し、畦間は爪カルチで中耕し、株近傍のみに除草剤を部分散布することで農薬の使用量を半減することが可能となった。適応トラクタは40Ps以上で、作業速度1.2〜1.5m/sで、作業能率は毎時1.2〜3.0haであった。

5) 薬剤散布機
 防除機の歴史は輸入機である畜力用の車載型動力噴霧機(チャンピオン)からはじまり、昭和10年頃から国産化され、やがて畜力用からトラクタスプレーヤへと発展してきた。これらは高い病害虫防除効果を発揮し、収量の安定多収に寄与した (図17)。
 北海道における10a当たりの平均散布水量は100リットルであり、ブームスプレーヤの散布幅に対応し搭載するタンク容量が決まってくる。十勝・網走地方では、1筆の畑の長辺が200〜300間 (360〜540m) あり、散布幅16mのスプレーヤが1往復するには1,200〜1,800リットルが、散布幅18mでは1,300〜2,000リットルの薬剤タンクを搭載する必要がある。平成11年より十勝農試では10a当たり散布水量25リットルの少量散布について、散布法別の付着特性や防除効果、残留毒性や安全性について検討してきた。今後、農薬登録が下り次第、現地に普及することになろう。
薬剤散布装置
図17 薬剤散布装置


4.収穫用機械

 収穫用農機具は、畜力用リフターが登場するまでは、どこでも人力用農具が使われていた。主としてビートフォーク、カニ爪、突きホー、タッピングナイフ等であった (図18)。ビートフォークは掘起す方式であり、カニ爪はツメの先をビートの根部にひっかけて抜取る作業方式である。当時、人力作業による10a当りの収穫労働時間は掘取りに18.6時間(20.9%)、タッピングに10.9時間(12.2%)を要し全作業時間88.6時間の33.3%を占めていた。昭和38年頃のタッパ、デイガ、ハーベスタの開発当初に機械化による10a当り労働投下時間を調査した結果23.3時間、内機械利用時間は5.6時間となっており、人力作業時代に比べて約1/3の投下労働に減少した。なかでも収穫部門は6.8時間で約1/4になり省力化に大きく貢献するものである。参考に機械化が進んだ近年の労働時間を図19に示した。
収穫用農具
図18 収穫用農具
図19グラフ
図19 近年のてん菜栽培における労働時間
 畜力用収穫機の利用からトラクタ用収穫機の利用に至るまで、次に示す種々の作業構成がとられてきた。
a.リフター(プーラ)をかけた後、タッピングナイフにより人手タッピング
b.リーフカッタにより茎葉を収穫し、リフターで掘取った後に人手タッピング
c.タッパとデイガの組合せ利用により収穫
d.ビートハーベスタにより収穫

ビートリフター
図20 ビートリフター
1) ビートリフター
 (1) 蓄養リフターの特徴
 畜力用リフターは昭和27年頃から普及した。リフターは抜き取りの力を軽減するのが目的で、手でてん菜の葉を持って引き上げたとき軽く抜けてくるのが良く、抜けずらいものとか、根部が浮き上がり過ぎて地上に露出したり、倒れるとタッピング作業時に支障を生じるので良くないとされた。作業の安定化をはかるため、車輪の上下によって深度が調節できる双輪式ビートリフターも使用されるようになった (図20)。
 畜力用リフターは畜力用プラウを改良して製作され、主として1頭曳きであったが2頭曳きも散見された。ビームはプラウのビームそのままが用いられているが、けん引抵抗が比較的大きく100〜180kgf程度を要するため耕馬の疲労が大きく長時間の使役には耐えられなかった。したがって畜力時代はリフターを数時間行なった後に、てん菜のタッピングを行なう組合せで作業が行われていた。リフターの作業能率は1日1.5ha〜2haをこなすことから、収穫部門の10a当り投下労働時間は29.5時間から13.5時間まで軽減された。この頃、畜力用タッパも開発された (図21)。
 昭和28年に英国ルートハーベスタ製トラクタ用ビートタツパ、リフター、ルートハーベスタが輸入されて以来、トラクタ用収穫作業機が試作され始めた。また昭和30年には日本甜菜製糖(株) が英国よりキャチボール社製ビートハーベスタ (図22) を輸入し、一貫機械収穫を試みたが、タッピングが手作業に比較し不完全で、収穫損失も多いことから広く利用されるには至らなかった。昭和36年頃に専用タッパが開発されると、このハーベスタはタッピング後の茎葉処理と根部の掘取のみ行う2ステージ収穫法を取ることで利用された。なお、ランツオールドックの前方に装着するアタッチメント機構のビートハーベスタが昭和34年頃に導入されている。これら輸入ハーベスタは、北海道におけるトラクタ用収穫機の試作研究に大きく貢献した。
畜力用タッパ
図21 畜力用タッパ
ビートハーベスタの輸入1号機
図22 ビートハーベスタの輸入1号機
 (2) 畜力からトラクタ用に
 畜力用リフターからトラクタ用リフタに移行する昭和31〜32年には、ティラ用ビートリフターが普及した。農家の動力源として広く使われていたティラのアタッチメントとして普及したが、原動機の地上間隙が低いために大きなてん菜が押し倒されたり、ティラの馬力が不足で土壌水分や土地条件などにかなり制約された。
 昭和34年頃からトラクタ直装の1畦用から3畦用リフタが開発されはじめた。まず1畦用が普及し、2畦用は狭畦栽培であったことから、トラクタが3畦跨ぎで作業することが多く、トラクタ中央部位にある畦列をそのまま残し、次の行程でその畦列を処理した。このためトラクタ車輪はぬかるんだ畦間を走行することになり作業性は劣った。2畦用が一般に普及するのは畦幅が60〜66cmと広くなった後のことである。
 リフターは慣行作業の抜き取り労力の軽減が目的であり、タッピングその他の作業は依然として人力に依存していた。

2) ビートタッパの国産化
フィラホイール付きタッパ
図23 フィラホイール付きタッパの構造と動作
 昭和28年頃に輸入されたビートハーベスタのタッピング機構が実用に適するまでに至らなかった理由として、株間隔が不揃いで、かつてん菜の露出高さが不均一であるために追随が悪く、切断の過不足が多かったことによる。
 トラクタ用の専用タッパは昭和36年に2畦用が開発された。タッパナイフの切断位置 (厚さ) の調節は茎葉上部で回転するフィーラホィールとナイフの間隙調整で行なった。フィーラホィールとナイフの間隙が固定で冠部の形状、畦形状等によって間隙を調節し、フィーラホィールの加圧力調節スプリングを調整する構造であった。このため株間とてん菜の大きさが不揃いであると切断精度は低く、切断精度向上に関する各種の改良研究が行なわれた。
 昭和37年になると、自動調節装置付ビートタッパが開発された。この装置はフィーラホィールとタッピングナイフとの間隙がてん菜の地上露出高の高低に応じて自動的に間隙が調整される4接リンク機構を応用したものである (図23)。てん菜の植生からみて根部の大きいものは地上露出高が高く、深切りを必要とし、小さいてん菜は逆に露出高が低いために浅切りすることが要求される。しかし、切り不足も切り過ぎも0%にすることは極めて困難であることから、切り不足を5%以内、切り過ぎを4%以内を作業精度の評価基準とした。
ビートティガ
図24 ビートティガによる収穫作業
 以上2種のタッピング機構について昭和38年に性能が確認された。自動調節式でもタッピング精度を向上させるには、てん菜の地上高と切断厚さの関係に応じた予備調節を加えることで精度は向上した。昭和38年には4畦用ビートタッパも実用化され、作業速度は2畦用、4畦用とも0.9m/s程度で、作業能率は2畦用が毎時0.4ha、4畦用が毎時0.8haであった。なお、適応トラクタは2畦用が40Ps級、4畦用が60Ps級である。昭和45年頃から傾斜地用移植機の開発とともに、傾斜地対応の収穫作業法も検討された (図24)。

3) 国産ビートハーベスタの利用
自走ビートハーベスタ
図25 トラクタを搭載した自走ビートハーベスタ
 昭和39年にはビートディガ (図25) およびビートハーベスタが使われるようになった。ビートハーベスタはタッピングから茎葉の処理、根部の掘取り、集積、搬出までの収穫作業を同時に実施できる機械で、総合収穫機ともいわれていた。ビートハーベスタは各作用部の配列によって、直列型と並列型に分類され、直列型はタッピングナイフ、茎葉除去装置、掘取刃が直線的にならんでおり、1行程で1畦収穫を終了する方法である。この機構では隣接畦幅が乱れている圃場に効果的であったが、作業機の全長が長くなる欠点があった。
 並列型は右側にタッパと茎葉除去装置があり、中央にはクリーナ、左側に掘取刃が装備されたものである。並列型は畦幅が一定でないとタッピング部と掘取部が合わない場合があるので、畦幅については十分配慮が必要である。
 このハーベスタでは茎葉に土砂の附着が少なく、酪農家のトップ利用に適したものであった。根釧などの酪農地帯では、ビートトップを飼料にするためのトップハーベスタとビートハーベスタが開発され、並列型も茎葉ピックアップ装置がなくなり、右側にダブルのクリーナ、左側に掘取刃という形式に簡略化された。
 昭和40年代に導入利用された収穫機の性能は、作業速度は0.6〜0.9m/sとあまり速くないが、掘取損失は少なく、タッピング精度では切り過ぎが4.2%以下であった。機体構造では、搬送にリフトコンベヤやロータリバケットコンベヤが採用され、現在のハーベスタの基本的な形態ができあがったとみることができる。
ビートハーベスタ
図26 国産1畦用タッピング装置付きビートハーベスタ
ビートハーベスタ
図27 輸入2畦用ビートハーベスタ(タンク式:南網走)
 てん菜の作付面積は、昭和38年頃から紙筒移植法が確立し、安定確収が約束される作物として評価されると急激に増加し、収穫機の需要は高まるとともに、1台当たりの利用面積も拡大し、茎葉クリーナの損耗やスプロケットの摩耗およびベヤリングの焼き付き等のトラブルも多くなってきた。このため十勝農試を中心に耐久試験が行われ、適正な材質や具備すべき強度が示され、各社とも改良が加えられた。また、作付規模の拡大とてん菜収量の増加に対応するため、タンク容量を平均で3.4m2 (1.2〜6.5m2) に大型化した。
 昭和44年頃には、傾斜地用ビートハーベスタが開発され、軽量・コンパクト化とともに等高線作業時の転倒を防止する対策が考案され、特にハーベスタ保持輪の操舵角を調整する操舵装置の効果が確認され、10度程度の傾斜地での作業が可能となった。
 昭和45年以降には、トラクタにハーベスタを搭載して自走式とした1畦用機種 (図26) や、けん引型2畦用等が輸入された。昭和59年〜60年には2畦用自走式のアンローディング型やタンカー型 (図27) も輸入され、網走管内の直播てん菜や十勝管内の大規模集団に導入された。
 以上のように、てん菜に対する機械化栽培体系は拡充したが、経営規模は極めて緩慢な伸びでしかなかった。このため、昭和40年からはポテトハーベスタとの兼用機の開発改良に着手し、その後兼用機として実際に販売された実績がある。しかし、これらの大部分はバレイショの収穫に供された様である。なお、収穫様式の主な形態は以下の通りである。
 ・1畦用直装式アンローデングタイプ
 ・1畦用直装式タンクタイプ(排出エレベータ型、油圧ダンプ型)
 ・1畦用けん引式 タンクタイプ(排出エレベータ型、油圧ダンプ型)
 ・2畦用タッパ(トップハーベスタ、チョッピングタッパ)・ディガー(アンローディングタイプ、タンクタイプ)の2行程方式
 ・1畦用 自走式ハーベスタ
 ・2畦用 自走式ハーベスタ

 昭和53年より、ビートハーベスタとポテトハーベスタは、農業機械化促進法に基づく型式検査対象機種となり、生研機構 (生物系特定産業技術推進機構:旧農業機械化研究所) が性能を確認し、性能が一定水準以上であると認められた機種については、その型式名が公表されてきた。性能面での検査基準は、(1) 収穫損失 (掘り残し、埋もれ、こぼれ) 割合が5%以下であること。 (2) 損傷割合が5%以下であること。 (3) タッピング装置のある機種についてはタッピング精度が著しく低くないこと。 (4) 掘り取り作業が円滑に行うことができることとされている。その他、耐久性、取り扱い性、構造調査も評価対象となり、道内農機メーカーの技術水準は底上げした。
ビートハーベスタ
図28 国産2畦用ビートハーベスタ(タッパ無し)
 これまでの受験機種のタッピング精度を見ると、切り過ぎ2%、切不足5〜8%、タンク内夾雑物混入率は土砂2〜3%、茎葉1%、収穫損失(埋もれ、掘り残し、こぼれ)は2%以内が代表される数値である。作業能率は、1畦用のアンローデングタイプで収穫し、トレーラまたはトラックが伴走する方式が毎時21a、タンクタイプの油圧ダンプ型が毎時16〜18a、2畦用アンローディングタイプが毎時37aであった。稼働面積、利用形態を考慮した選択利用が大切である。
 平成7年以降も自走式・けん引式ハーベスタ (図28) が数機種輸入され2畦用の作業能率は毎時50aに、国産3畦用ハーベスタ (図29) も性能が向上し作業能率は40a前後となり、現在では集団利用、共同利用形態の中で活用されている。従来からの1畦収穫機も作業速度は2m/sと高速収穫が可能となった他、タイヤ偏角装置 (図29) を装備し回行作業性が簡易となり作業能率は毎時25a以上まで向上し現在に至っている。
ビートハーベスタ
図29 ビートハーベスタのタイヤ偏角装置の概要(日農機(株))
参考文献
1) てん菜糖業年鑑 北海道てん菜協会2002 p.93
2) 渡辺 隆:てん菜栽培の機械化1964
3) 道立農試十勝支場:てん菜頚葉切断機に関する試験成績1962
4) 道立農試十勝支場:2畦用ビートタッパに関する試験成績1962
5) 道立農試十勝支場:先進的機械利用技衝に関する調査成績 1962
6) てん菜機械化栽培研究集:十勝農業機械化懇話会報(波辺隆他).1963
7) 男沢良吉他:ビートの安定多収栽培1977
8) ニューカントリー(斉藤亘他):農業機械の使い方1975
9) 岡村俊民:農業機械化の基礎 北海道大学図書刊行会 1991
10) 小野哲也編著:北海道十勝における農業機械化の展開 1974
11) 道立十勝農試:農業機械試験成績書 1979〜2001

「今月の視点」 
2002年10月 
てん菜機械化栽培の歴史
 北海道立十勝農業試験場 生産研究部 主任研究員 桃野 寛

さとうきび生産地から
「多機能ロータリー装着型さとうきび植付機」について

 社団法人 沖縄県糖業振興協会


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