[2002年12月]
前月号ではてん菜の概要、北海道におけるてん菜の位置付け、そして栽培管理などについて掲載しました。今月号では引き続き、ビート糖の生産、そしてビート糖業の現状について掲載します。
日本ビート糖業協会 常務理事 森川 洋典
8.ビート糖の生産状況
ビート糖は、てん菜を原料とし、真っ白な砂糖として生産地工場で造られる。これを耕地白糖と呼んでいる。
それに対して、同じ国産糖である南のサトウキビから造られる甘しゃ糖は、多くの場合、生産地で原料糖(粗糖)の形で製造され、これが消費地に運ばれて精製され、真っ白な精製糖になる。
耕地白糖も精製糖も製品としては全く同じであり、無色透明に精製した糖液を煮詰め、遠心分離機にかけて蜜分を振り分け、結晶を取り出すというのが、基本的方法である。この方法で製造された砂糖を分蜜糖と呼んでいる。
(1) 生産状況
道内3社8工場の公称能力については前回報告したが、工場によって差があり、1日当たりの原料処理能力は2,600t〜8,600tと道内全体で約31,600tである。
製糖(原料受入)開始日は [1] 原料てん菜の生育状況、とりわけ糖度(てん菜根部に蓄えられた砂糖分)の状況 [2] 3月春先の気温上昇による貯蔵原料の劣化、糖度の低下等を考慮して決定される。
製糖工場の操業は時期により、「ビートキャンペーン」 と 「ジュースキャンペーン」 に2分される。
原料処理工程と製糖工程を同時並行して行う 「ビートキャンペーン」 は、工場が最もダイナミックに活動する時期であり、10月中旬から翌年3月頃まで続く。
特に年内は農家から運ばれた原料てん菜を積載したトラックが工場構内のビートビン(製糖ラインの一部)や貯蔵場に集中し、大変混雑する。また、工場の煙突からはビートパルプ乾燥の湯気が冷気に触れて白煙となって吹き上げられる。
これらは冬の訪れを告げる一大風物詩であり、その姿は地元のTV、新聞に毎年幾度となく取り上げられる。
前述の通り、貯蔵原料は3月に入ると原料劣化、糖度低下が進むので、この時期までには工場処理(ビートキャンペーン)を終了する必要があるが、一部の工場では、その後引き続き、ビートキャンペーン中にタンク貯留しておいた濃縮糖液を取り出して製糖する 「ジュースキャンペーン」 を5月下旬〜6月上旬頃まで行う。
製糖日数は最大230日前後に及び、この間は昼夜交代で休むことなく操業を続ける。
ビート糖の生産実績は、昭和50年代前半は面積が低迷した時期で、低収量と重なり、産糖量は概ね、30〜40万トン台であった。
昭和61年度に重量取引から糖分取引に変り、以降、品種の改良が進み、高糖分原料が確保されるようになり、製糖技術進歩による糖分の回収率向上と相俟って60万トン前後の砂糖が生産されるようになった。
平成元年度から原料糖制度が導入され、一部精製糖向けとして原料糖(粗糖)を生産するようなった。
平成13年産は、高収量、高糖分原料が確保され、平成3年、平成10年に次ぐ産糖量となった。
また、ビート糖の製造工程中で、家畜飼料用のビートパルプや糖蜜が副産物製品として製造される。
ビート糖の生産実績 (1) |
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ビート糖の生産実績 (2) |
(2) 製造工程
ビートビン |
裁断 |
製造工程は大きく分けて、裁断〜濃縮までのビートエンド工程と、結晶〜製品までのシュガーエンド工程がある。
ビート糖はこの2つの工程を経て、純度99.9%以上の真っ白い砂糖になる。
原料が裁断されてから砂糖になるまでに約16時間かかる。
[1] 裁断・滲出
工場に運ばれた原料は一旦ビートビンに貯えられる。そこから流水によって工場の中に運ばれ、土砂、石などを洗い流してから裁断機にかけ、コセット(ビート細片;千切り大根のようなもの)を作り、糖を滲出しやすくするために適温に加熱してから滲出装置に送る。一方、温水中に糖を滲出したコセットは脱水後、乾燥、成型(ペレット・ベール)してビートパルプと呼ばれる家畜用の飼料となる。
[2] 清浄・濃縮
滲出装置から出てきた滲出汁は糖分の他に色素や不純物が含まれているのでこれに石灰乳を加え、炭酸ガスを吹き込んで不純物を吸着させ、フィルターでろ過する。
更に他のろ過機やイオン交換樹脂を通すことにより、取れにくい不純物や色素も取り除き、純度の高い清澄な糖汁になる。
次に、効用缶で糖汁中の水分を蒸発させ、4〜5倍に濃縮した濃厚糖汁にする。
[3] 結晶・分離
濃厚糖汁を真空結晶缶へ送り込み、更に濃縮し、あらかじめ投入した粉糖を核に結晶が成長する。これを遠心分離機にかけ、砂糖と蜜に分離する。
分離された蜜は再び結晶缶に戻して砂糖の回収を繰り返す。
(濃厚糖汁貯蔵)
欧米では1960年代から採用されていたが、日本では1977年に導入された。
裁断から濃縮(ビートエンド工程)までの設備を増強し、従来の一貫連続砂糖生産の他に約70%濃度の濃縮汁をタンクに貯留し、一貫連続砂糖生産が終了してからジュースキャンペーンとして、タンクから濃厚汁を取り出し、改めて製糖(シュガーエンド工程)を行い砂糖にする。
この工程採用により、シュガーエンド工程部分の設備投資軽減、原料の早期処理が可能となった。
貯留タンクは日本甜菜製糖(株) 芽室製糖所、ホクレン農業協同組合連合会中斜里製糖工場、北海道糖業(株) 道南製糖所の3工場に設置されている。
[4] 乾燥・包装
遠心分離機から出た砂糖は熱風で乾燥し、冷却後にシュガービンに貯えられ、フルイにかけてから30kgの紙袋などに包装される。
また、日本甜菜製糖渇闔コ製糖所、ホクレン農業協同組合連合会中斜里製糖工場の2工場では一部の砂糖を製品サイロに貯蔵し、出荷に応じて包装する方式を採用している。
結晶缶 |
包装 |
9.ビート糖業の現状と課題
砂糖の需要量は昭和40年代後半から50年前半までは、290万トン前後で推移してきたが、50年の半ばから清涼飲料用を中心に異性化糖による代替が進んだ。
近年、消費者の肥満の理由等の誤解による甘味離れ、各種加糖調製品の輸入等を背景として砂糖の総需要量は国産糖、輸入糖を併せて230万トン前後まで減少した。こうした状況の下、食品産業・消費者からの内外価格差の縮小要請、国産糖の価格支持財源を負担している輸入粗糖の減少により従来の糖価安定制度の維持が難しい局面に直面した。
こうした状況を打開すべく、平成11年に示された 「新たな砂糖・甘味資源作物政策大綱」 に基づき、平成12年度に糖価安定制度が糖価調整制度に改正された。これにより我が国の甘味資源作物生産、砂糖関連産業の健全で持続的な発展を期するため、精製糖企業、国産糖企業の再編・合理化対策、甘味資源作物生産のコスト削減対策を講ずることにより国内糖価の引下げ、砂糖需要の維持・拡大を推進することになった。
砂糖価格では、当面20円/kg、中長期的には30円/kgの国内糖価の引き下げが目標とされている。
ビート糖業としては、従前から5年毎に設定される合理化目標達成に向け、鋭意合理化、コスト削減に努めてきている。現在も北海道農業にとって不可欠なてん菜、並びにビート糖産業の維持、存続をかけて生産者、及び関係者のご協力、ご理解を頂きながら懸命な原価軽減の努力をしているところである。
生産者並びにビート糖業の合理化、コスト削減に向けた取り組み状況を以下に示す。
(1) ビート糖業独自のコストに向けた取り組み
1) てん菜糖製造合理化計画に基づき砂糖生産振興資金を活用した次の事業を通じ、各社毎に生産性の向上、コスト削減を図っている。
[1] 「てん菜糖集荷製造流通合理化対策事業」
原料受入体制の合理化、効率的てん菜糖製造設備、流通合理化設備の整備などにより各資材使用量の削減、及び糖分回収率の向上を図っている。
[2] 「てん菜糖省エネ・環境対策推進事業」
燃料、電気等の使用量の削減、ライムケーキ等の減量化、再資源化等による産廃処理費用の削減を図っている。
2) ビート糖の生産コストは、原料代が約6割、集荷製造経費が約4割である。その集荷製造経費の内3割強が人件費である。コスト削減を図る上から人員の合理化を進めており、平成13年の工場従業員数は平成2年と比べ、約600名減の56%までになっている。
3) 原料事務所の集約、管理部門の合理化など組織の見直しを行い、経費削減を図っている。
4) 各地域にある現地中間受入場の合理化を図り、輸送並びに貯蔵経費の削減に努めている。
(2) 生産者との協同した取り組み
1) 平成13年度は生産者の協力を得て以下の取り組みが行われた。
[1] 生産者への原料代精算方法の合理化
[2] 原料受渡しの合理化
[3] てん菜糖需要拡大推進協議会を通じ、前年に引き続き国産調製品供給事業の実施
[4] 新ビート産業将来ビジョン実現推進事業を活用したJAにおけるてん菜営農指導、計画出荷の業務について40JAでモデル事業の取り組み
2) 平成14年度は以下の課題について今後の推進方法を検討することになっている。
[1] てん菜農務関係業務の合理化
[2] 種子供給問題
[3] 原料受入、並びに糖分測定に係る立会業務合理化
[4] 原料受渡期間の延長
[5] 工場副産物の処理対策
[6] 各糖区における具体的な問題解決に向けた検討
(3) 農務関係業務の合理化
現在、ビート糖業における農務関係業務について、JAとその役割分担の見直しを通じて農務関係経費の削減に向けた関係者との協同した取り組みを推進するため、助成事業が行なわれている。
平成14年度事業では74JAで計画し、てん菜生産地区の9割以上をカバーする規模で実施される見通しで進められている。事業メニューは以下の通り。
[1] 営農指導員育成確保事業
糖業者の農務部門業務についてJAへの移管を図るため、JAがノウハウの蓄積に向け、営農指導員等の人材育成確保を図る事業
[2] 作付指標面積確保指導事業
営農計画策定時における適正輪作の確保調整、並びに移植苗の調整等、JA作付指標面積の維持に向けた指導研究事業
[3] 適正出荷推進指導事業
早期出荷、農家貯蔵等、受渡し期間の延長を含めた出荷計画策定、並びに計画出荷の推進に向けた指導研究事業
[4] 栽培技術普及推進営農指導事業
褐斑病、黒根病等による近年の低糖分に対処した高品質、安定生産に向けた栽培技術の普及と技術改善の推進に向けた指導研究事業
10.おわりに
ビート糖業はてん菜の生産者とそれを加工して砂糖を生産する糖業とから成り立っており、その意味においては、糖業は単なる砂糖製造産業ではなく、北海道畑作農業に組み込まれた地域産業としての側面を有している。輪作体系上、欠かすことのできない基幹作物として、農家生産者がてん菜を栽培し、糖業がそれを加工製造する。その密接不可分の関係が製糖工場の存続を必要とし、また工場の存在が北海道畑作農業の存続を必要としているともいえよう。
更に生産者と糖業者との関係は車の両輪ともいわれているが、その関係は長い年月をかけて築かれたものである。糖業者がてん菜に係る栽培技術指導、出荷計画等、多岐にわたって個別に生産農家と接触し、密着した相互協力関係が形成されたのである。
本文にも記述したとおり近年、砂糖を巡る環境は益々厳しくなっている。このため国産糖分野に対しては、原料生産から砂糖製造までを通じてコスト引下げが強く求められていることから、原料生産に係る多くの部分を生産者、生産者団体が自ら担う等、役割の見直しを図っている。これは、ビート産業の永年の慣習を変革することであり、様々な困難を伴うものであるが、やり遂げなければならない課題である。
今回、この紙面をお借りし、糖業サイドから見た北海道のてん菜生産及びビート糖生産の現状と課題について、総括的に記述する機会を頂きましたが、ビート糖業は、北海道畑作農業が日本の食糧基地としての役割を果たすうえで、その一翼を担いつつ、更なる合理化の達成に向けて努力して行きたいと考えております。
皆様のご理解とご支援を切にお願い申し上げます。
工場従業員数、原料事務所数及び受入場数の推移 |
項目 |
平成2年 |
平成7年 |
平成12年 |
平成13年 |
工場従業員 |
人 員 数 |
1,360 |
1,134 |
822 |
761 |
平成2年対比 |
― |
−226 |
−538 |
−599 |
原料事務所 |
事 業 所 数 |
43 |
37 |
33 |
29 |
平成2年対比 |
― |
−6 |
−10 |
−14 |
受 入 場 |
受 入 数 |
36 |
30 |
26 |
23 |
平成2年対比 |
― |
−6 |
−10 |
−13 |
|