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甜菜酒(ビート酒)をつくる

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2003年2月]

甜菜酒(ビート酒)をつくる


 さとうきびと同様に甘味資源作物であるてん菜(ビート)は、北海道で砂糖原料のための栽培しか行われていません。しかしヨーロッパでは、テーブルビートと呼ばれる食用てん菜(食用ビート)が栽培されており、食用ビートを使った料理では「ボルシチ」が特に有名です。
 てん菜を砂糖原料のためだけでなく、様々な利用方法の1つとして北海道立食品加工研究センターが取り組んだ日本酒の製造を紹介します。

  北海道立食品加工研究センター 副所長
清水 條資


1.きっかけ
2.予備試験と種々の検討
3.本試験


1.きっかけ

 北海道で、他府県ではマネができないような、しかも地域を代表する作物から、貯蔵性があって、おけばおくほど美味しいお酒が製造できないだろうか。こんなことがずーっと研究開発の気持ちの中にありました。
 海外を見ますと、ウイスキー、ブランデー、新参のアメリカまでもが地域特産品のコーンを生かしたバーボンウイスキーを製造しているではないですか、しかもなかなかうまいではないですか。日本にはアルコール度数が強くて、貯蔵すればする程価値の出るお酒は南の方にしかありません。何故でしょうか。
 開拓100年を超える北海道で、北海道人の魂に強く訴えられる飲み物を開発したいと感じたのはヨーロッパと沖縄出張でした。大地で育まれた農産物をお酒にして、北海道のおいしい食材で一杯飲むことは、その北海道の食文化に大いに貢献してゆくような気がします。他府県にはないものが郷土の誇りにつながるし、歴史の浅い土地だからこそそう言ったものが欲しいものです。訪問者や旅行者の方々にも飲んでもらいたいものです。こんな気持ちを開発の推進力にしました。
北海道ならではのお酒を
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2.予備試験と種々の検討

 まず、ビートがどんな微生物により腐敗させられるかに興味がありましたから、温度が比較的高く、湿気の多いところに放置し、どんな微生物により腐敗するか試験を始めましたが、なかなか腐敗しませんでした。この試験ではビートは腐りにくいものであることがわかりました。もう一つ期待した点は何かビート特有の有用菌はないかということでしたがこれもこのような簡単な試験では興味あるところまで到達できませんでした。
 さて、ビートは、砂糖原料として毎年380万トン程度の量が収穫されており、北海道の代表的な基幹作物の一つである。このビートから、昨年は約67万トンの砂糖(ビート糖)がつくられました。近年、砂糖の代替品として異性化糖及び低カロリーの新甘味料の開発・利用が増加しているし、また真偽がハッキリしないまま、成人病の予防等という理由から糖分を控える傾向にあり、ショ糖がヤリ玉にあがり、ますます砂糖の消費量は減少している。このような現状から、ビートの新たな用途拡大があってもよいのではと考えるのは当然である。これまで製糖メーカーが中心に開発した、廃棄物であったラフィノースや繊維分の利用などが順調のようである。
 今回のビート酒製造研究は、直接ビートを原料として道産資源の有効利用と付加価値の高い新製品の開発を目的として取り組んだもので、この観点からの研究はほとんど行われていないのが現状であった。
 この研究として期待される効果には、
(1) 新製品(ビート酒)の製造
(2) 有用物質の回収、利用によるビートの用途拡大
(3) 地場企業への新しい技術導入によるレベルアップ
などであるが、既に研究計画段階において次のような問題点の検討を行っていた。
(1) 有用物質の検索と分離精製条件の検討
(2) 原料の前処理条件の検討
(3) 発酵及び貯蔵(熟成)条件の検討
(4) 酵素利用技術の検討
(5) 大量生産技術の検討
(6) 新食品素材としての可能性の検討

 この取り組みは、1988年(昭和63年)の収穫期、9月からワインタイプ醸造の試作試験を行った。このワインタイプのものは原料に生のビートを使い、洗浄、破砕、搾汁の3工程を経たロージュースに、前処理を行い、発酵させるものとした。この段階で、最初のアルコール発酵の問題点を乗り越えることができた。そこで、ビートワインタイプの製造法として、発酵阻害物質の除去を目的とした前処理法を重点に、その工程を含めて、既に1988年(昭和63年)に製造特許を出願し、公告されている。
 図1にワインタイプの試験醸造フローを示す。
図1 ワインタイプビート酒の製造フロー
図1
 図1に示したように搾汁工程が労力や経費の点で負担であることが明らかになった。

 次の段階で当初目的とした、アルコール度数が高くしかも貯蔵により香りがでて、価値の出る酒造りを目指した。
 原料となるロージュースを自前で破砕搾汁を行ったのでは不経済なので、実際には製糖工場の工程からのロージュースを用いることが試作販売用試験には合致していると判断して、採取可能な図2に示す3カ所 (1)〜(3) の工程のロージュースについて発酵試験を実施した。
図2 製糖工場の工程
図2

1) ロージュースからの発酵試験
ロージュースからの発酵処理結果
  前処理後
の汁液
発酵度合 発酵中
の香り
アルコール
度 合
総合
評価
(1)
(2) 不可
(3)
 製糖工程における利用可能なロージュースは、(1) 連続浸出装置 (2) 炭酸飽充後 (3) 樹脂塔処理後が考えられ、これらのロージュースを用いて前処理試験、発酵試験を行った。
(1)、(2) 及び (3) のロージュースからの発酵試験結果について、表に示す。
 ロージュース((1))の成績がよかったので、この試験をさらに詰めた。

2) ロージュース((1))の運搬時に関わる変質を少なくする試験
 供給、運搬時においての変質、腐敗等を考慮した輸送試験を実施した。ワインの製造工程で使用される亜硫酸イオンを用いて雑菌の繁殖を抑えることにした。輸送中の亜硫酸イオンの消費量と、最適残留亜硫酸量の分析を実施して、さらに発酵試験を行い、適正な亜硫酸イオン濃度を約150ppmと決定できた。
 原料にロージュース((1))を使用することで、次のような利点を掌握した。
 ビートの洗浄・破砕・搾汁工程、設備投資が不要・洗浄による廃水、破砕搾汁によるビートパルプ廃棄物の設備などが不要となる。また、ロージュース((1))は製糖工場の工程上でも装置の改良もなく採取しやすい。迅速な亜硫酸添加によって品質の安定・輸送が簡易である。
 1日に採取できる量の対応が自由である。ロージュース((1))中のたんぱくの沈澱が少ないので良好な発酵ができる。ゼオライトと活性炭の処理が簡便になる。ロージュース((1))の品質が一定しているので前処理による発酵阻害物質と雑菌の除去が安定的である。発酵状態にも、ばらつきが少なく、発酵管理時間が短い。製造時期を限定すれば、一段と臭味、異臭が少なくなることも明らかにした。
 甜菜酒の製造にあたっては、ロージュース((1))から製造することが生ビートからのものよりも低コストで、最小、最低限の設備投資等で済むことが高い利点としてあげられる。しかも、原料の供給地と醸造場所が遠距離である場合の、輸送時間、採取から処理までの時間などへ、適切に対応することを可能にした。
問題点としてはロージュース((1))処理後の凝集タンパク質、ゼオライト、活性炭の除去に時間がかかる。ゼオライト、活性炭反応時の起泡性が高いことである。
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3.本試験

 以上のようなことから最終的に図3の工程で小規模500リットル(45%アルコール)試験を実施した。発酵、搾り、蒸留後、タンク貯蔵して、3年目には風味のある泡盛やヨーロッパの酒にも負けない美酒がタンクの中で静かに成長していました。
 ラベルのデザインは北海道立工業試験場の万城目研究員が熱心に作り上げてくれた。
図3 甜菜酒の製造工程
図3
甜菜酒

4.協力者

 北海道糖業(株)、札幌酒精工業(株)、ニセコ町、北海道立工業試験場の皆様のご協力によりビート酒ができ、(有)アンザイ仙丸の温かい支援により試験発売ができました。関係していただいた皆様に感謝いたします。
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「今月の視点」 
2003年2月 
砂糖についての大学生・母親アンケートから
 滋賀大学名誉教授 金城学院大学非常勤講師 岡部 昭二

八重山地域におけるさとうきび生産の現状と課題 (2) ―波照間島―
 国際農業研究センター 沖縄支所 国際共同研究科長 勝田 義満

甜菜酒(ビート酒)をつくる
 北海道立食品加工研究センター 副所長 清水 條資

お砂糖雑感 全国和菓子協会 専務理事 藪 光生


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