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ライムケーキの再利用化への試み

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2003年3月]
 てん菜から砂糖(てん菜糖)を製造する際、主にビートパルプとライムケーキが副産物として出てきます。ビートパルプはてん菜の根部から糖分を抽出した残りであり、圧搾し水分を除去、乾燥させ、主に家畜用の飼料となっています。
 そしてライムケーキはほとんどを埋立処分としてきましたが、近年、これを別の分野に使う取組みが行われていますので紹介します。

日本ビート糖業協会 常務理事
森川 洋典


1.はじめに
2.現状 −これまでの取り組み−
3.展望 −これからの取り組み−
4.おわりに

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ライムケーキ
てん菜から抽出された糖液の中には、砂糖成分以外に有機物や色素等が含まれている。糖液から砂糖の結晶を効率よく取り出すために、あらかじめ糖液内のこれらを除去しておく必要がある。除去する方法としては石灰石を焼成した粉末と炭酸ガスを製造ラインの工程に投入し、吸着させて取り出している。これを脱水したものをライムケーキ(炭酸カルシウムが主成分)という。
 

1. はじめに

ライムケーキ
ライムケーキ
 環境問題の高まりを受けて、てん菜糖の製造過程で産出されるライムケーキの減量化、再利用について、ビート糖業はもとより、生産農家、異業種、行政等により様々な取り組みが行われている。
 原料てん菜(いわゆる砂糖大根)は北海道で毎年380万トン生産される。これを原料として生産されるてん菜糖は65万トン前後である。その製造過程において毎年20万トンのライムケーキが発生する。
 従来、ライムケーキは、原料が天然由来の石灰であることに着目し草地や畑地の土層改良材(土壌のPH調整材)として使用拡大を図るほか、過半を道知事認可のもとに産業廃棄物として埋立処分をしていた。これは、もともとが石灰石であり北海道が主産地であること等と、埋立終了後の跡地のほとんどは客土をして新たな農地として活用されてきたために、社会的にも一定の評価があったものと考えられる。
 しかし、地球規模での環境問題の高まりがみられるなかで、北海道知事が昨年の夏に環境目的税の創設を試み、道議会に産業廃棄物循環的利用促進税を提案するなど産業廃棄物の減量化、再資源化の社会的要請は急速に高まってきている。幸いなことに、ビート糖業は、課税議論の有無に関わらず、早くから再利用促進のマインドを持って様々な他用途利用を試みていた。
 本稿を起こすに当たっては、毎年多量に発生するライムケーキの減量化、再資源化の現状と展望を明らかにし、多くの方々のよりいっそうの理解と協力が得られるよう期待するものである。
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2. 現状 −これまでの取り組み−

1) ライムケーキの現状
 1990年頃のライムケーキの発生量は年間約30万トンである。
ビート糖業は早くから環境問題等の趨勢などから、将来的には処分場確保が困難になり、ビート糖業の存続はもとより原料てん菜の安定的な引き取りを危うくし、ひいては、畑作農業経営にも悪影響が及ぶことを懸念した。
 このため、食品業界等から強く求められていた品質向上と、製造過程における石灰石投入量の削減という二律背反的テーマに真剣に取り組み、石灰石の使用量削減を図る一方、発生したライムケーキの減容化のために高脱水設備を導入するなど多くの設備投資を行った。その投資額はここ10年間で約25億円にものぼる巨費であるが、その結果、平成13年度の発生量は約20万トンと10年前の約2/3にまで削減されてきている。

2) 農地還元の現状
高脱水設備
高脱水設備
 てん菜糖業の先進国ともいえるヨーロッパではライムケーキのほとんどを農地に還元しているが、我が国では牧草地への還元は行ってきたものの、畑作地帯への還元は十分には浸透していなかった。これは、てん菜とともに輪作体系上重要な作物である馬鈴しょが石灰質を投入した場合、PH上昇によりそうか病等の罹病率が高まり、商品価値を著しく減退させることから畑作農家はその利用を控えるという事情によるものである。一般的に畑作農家は顆粒状の炭カル肥料=炭酸カルシウムを利用して、てん菜が吸収できる範囲のみ条撒きするが、ライムケーキを顆粒状にする低コスト技術が未開発のために結果的に炭カル肥料が使用される傾向にある。
 しかし、ビート糖業は再利用化促進のため高脱水設備を導入し、ライムケーキの水分含有率が50%から30%へ大幅に減少させたことは減容化のほか、ハンドリングを容易にし、圃場散布機械(ライムスプレッダーなど)の効率向上をもたらした。こうしたことにより、農家への利用促進が図られ、牧草地などへの農地還元の量は10年間で5万トンから9万トンへ増加している。
 牧草地、農地還元については、今後とも、再利用の大きな柱であると考えており、さらなる拡大と安定的な引き取りが行われるよう期待されているところである。
 なお、未利用分については環境行政の強化に対応した新基準の新設処分場の確保を図っている。
工場からの積み出し
工場からの積み出し
ライムスプレッダー
ライムスプレッダー
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3. 展望 −これからの取り組み−

 環境に対する社会的要請の高まりを受けて、埋立処分量の削減を図るため、農地のみならずリサイクルといった広い視野に立って、ビート糖業は公的研究機関や異業種との連携を図るなど様々な取り組みを展開している。

1) 低強度舗装材としての利用開発
置戸町施行例
置戸町施行例
 ライムケーキを利用したコンクリート舗装はこれまで成功していなかった。
 これはライムケーキの中に残留する有機質、糖分がセメント固化を阻害するほか、固化剤の効率や副資材との最適混合比率が不明であったことも要因でした。
 平成11〜13年度の3年間、地元の建設業者のアイデアと道立工業試験場、セメント企業、当協会で実証試験を行った。基本設計と材料は地元の資材に着目し、工事現場近隣の製糖工場が提供するライムケーキと、骨材は地元で採取した火山礫を使用するというものでした。実験の結果、強度はコンクリートに対し1/4〜1/5程度、熱伝導率は約6割程度で、柔らかく暖かみがあることがわかりました。
 この特性を実用面に活かした場合、まず牛舎のパドックが考えられました。コンクリートでは硬度が高く、牛の爪がスベリ、転倒・股裂き事故につながるが、軟らかいため牛が安心して給飼をうけられる。
 パドックや牛舎回りで実際にこの工事を施した置戸町の蝦名牧場主は、「居住性が改善され安心して食べることができるため牛の給飼量が多くなった。また、糞尿処理が機械で行えるようになり、労務の軽減が図られた」など、手放しの喜びようでした。

2) 道路舗装資材としての利用開発
 アスファルトによる道路建設が一般的ですが、これに用いる石粉(いしこ)に替えて、ライムケーキを活用しようとするものです。異業種交流で道路建設業者がアイデアを出したもので、現在、駐車場等で施工し、試行的な取り組みをしておりますが、実現性はかなり高いレベルに達し、実用化のめどがついてきました。
 現在、需要の掘り起こしや、経済性を調査し、より安価な供給が可能かどうかの検討を進めております。更に、公共事業への採用が図られるよう、詳細なデータ収集につとめております。

 以上のように産官学あるいは異業種交流の中で、ライムケーキ利活用の道が開かれようとしておりますがこの実現化に当たっては (1) 技術的なさらなる解決 (2) 経済性のさらなる追求 (3) 公共事業採用に向けたさらなる検討等、解決すべき課題があります。これら課題に対し、多くの理解者と支援者を得て1つ1つ解決を図る必要があると考えております。
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4. おわりに

 現在のてん菜糖製造技術では、ライムケーキの発生は世界的にも必然的なものであります。その有効利用の道を探ることは地球環境だけでなく、地域の環境が求める要請でもあります。
 私たちのこうした取り組みは、糖価調整制度が求める砂糖の内外価格差縮小に向けた取り組みの1つでもあり、てん菜栽培の安定性を確保し、生産者との協同した取り組みの発展、ひいては北海道畑作農業の維持発展に寄与することでもあるという多面的な効果が期待できると認識し、ライムケーキの安定した利用方策を確立して参りたいと考えております。
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「今月の視点」 
2003年3月 
ライムケーキの再利用化への試み
 日本ビート糖業協会 常務理事 森川 洋典

沖縄のサトウキビと緑肥 (1)
 沖縄県農業試験場 土壌保全研究室 研究員 宮丸 直子


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