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食生活の基礎づくり

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2003年5月]

 終戦直後の食糧事情は極めて悪かったが、経済が成長するのと並行するかのように、冷凍食品、レトルト食品等が普及し、食生活の欧米化が進みました。それとともに栄養の取りすぎによる様々な健康上の問題が生じました。
 そこで厚生労働省は、「日本人の栄養所要量−食事摂取量」 から、一日にどれぐらいの栄養を摂取すればよいかの指標を示しました。これをもとに栄養の過剰摂取の危険と、それを予防するには幼児からの食の環境の大切さを、名古屋文理短期大学大野元教授に執筆していただきました。
名古屋文理短期大学 元教授 大野 知子


はじめに
1. どれだけ食べるのか適正量を知っていますか
  1)日本人の栄養所要量   2)食べ方の新しい指標「食事摂取基準」
  3)栄養所要量の見方・使い方   4)健康の一次予防
2. 幼少期からの生活習慣予防 「食育」
  1)子どもたちの食習慣・好きな料理と嫌いな食品
  2)好き・嫌いの要素はどこから   3)食育は親子の努力がはじまり


はじめに

図1 日本の冷凍食品品目別累年生産数量
図1
 最近は 「食環境」 に対する関心が非常に高まっています。もちろん、生命を維持するために 「食べること」 への関心は、基本的な問題として時代を問わず続いていました。
 戦後の食料困窮の頃は 「量」 を中心としたエネルギーとたんぱく質だけが考えられた時代でした。生活は貧しくても自然の食品が入手でき、台所は土や川、海の香りが漂う暖かな雰囲気が満ちていました。たんぱく質の確保に田んぼでバケツ一杯の田螺を採り込んだり、さつまいもやかぼちゃの食べ方を工夫したりすることで、テレビはおろかラジオも余り普及していない頃の生活では、食料調達に一日を費やすこともしばしばありました。
 経済の成長にともなって加工食品が普及増加すると、台所では次第に変化が起こります。家庭では作れない新しい食材が導入され、調味料、冷凍食品、インスタント食品、レトルト食品、コピー食品など今では当たり前となった軽便な加工食品が珍重がられ、率先して使われるようになります。図1は1970年代に入って急増したフライおよびその他の調理済み冷凍食品の生産量の推移です。
 この様な台所や食卓の環境変化は食生活を多様化し、「食べること」 にゆとりの兆しを現わしましたが、食品産業の急激な発達はやがて市場に食品の均一化をもたらすことになります。街角に立てばどこの家庭の台所からもラーメン、カレーライスで同じような香りと味の漂う食卓が想像できたものです。 この頃から米の摂取が減少するのに変わって、肉類(畜産物)や油脂類などが増え、食生活の欧米化がはじまります。(図2)
 しかし、食環境からみた日本人の健康状態はアンバランスな栄養素の摂取により、貧血や肥満の問題が生じてきました。
図2 供給熱量の構成の変化
図2
(参考) 米・畜産物・油脂類の合計(色塗りの部分)の水準にはほとんど変化はない。
主食のごはん(米)が減少(昭和35年度から約4割減)する一方で、畜産物(同約5倍)、油脂類(同約4倍)が増加してきたことが分かる。
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1. どれだけ食べるのか適正量を知っていますか

1) 日本人の栄養所要量
 日本人の栄養所要量は一般の人達には見なれないものですが、昭和44年に基礎がつくられ産業給食や福祉施設などで、健康な人々に一日どれくらいの食事量 (栄養素量) を摂取するかを決定する大切な指標となるものです。
 食料が不足した時代には栄養素欠乏症を解消し、健康の維持と保護を目的に使用されてきました。
 ところが食料事情が好転し豊かになると、「飽食」 と呼ばれる時代を迎えます。さらに食品市場は超加工食品時代に入り、人々は便利で好きなものを欲しいだけ自由に摂取することが出来るようになりました。美食に憧れ、グルメブームを招きます。人々がライフスタイルの変化を謳歌した結果は、成人病を増加させ慢性非感染症と呼ばれる肥満、高血圧、動脈硬化、糖尿病の発症率が高くなりました。その原因として運動不足や食生活の不適切な生活習慣であることが指摘されました。さらに発症の年齢が学童や青年期までに及ぶと、もはや成人特有の問題ではなく、健康を維持するためには幼児のときからの予防が重要視され、平成8年に成人病は生活習慣病の概念に置き換えられ、栄養所要量は大幅な見直しが行われました。

2) 食べ方の新しい指標 「食事摂取基準」
 この状況の中で平成11年に厚生労働省は日本人の栄養所要量の第六次改定を行ない、健康な人を対象に慢性疾患を予防するための新たな 「食事摂取基準」 を策定しました。これは健康の維持・増進と慢性非感染症の危険要因を軽減・除去するための指標となるものです。
 それまでの間違った生活習慣からつくられる、慢性疾患の糖尿病や高脂血症、動脈硬化、高血圧、がん、アルコール性肝炎、心臓病、歯周病などの生活習慣病を予防するもので、従来の栄養素欠乏の対策に加えて、過剰摂取による弊害を徐去し、個人や集団の人々の健康を維持しようというものです。

3) 栄養所要量の見方・使い方
 栄養所要量を実際に使用しているのは、各給食施設や健康センター等に勤務する栄養士さんが多いのですが、一般の方にも理解して頂きたいことが沢山あります。
 繰り返しになりますが、人間は自分のからだの中では造れない栄養素を食べ物として摂取しています。そのときの食べ物の量が不足すれば栄養素欠乏症に、偏ると栄養素がアンバランスに、さらに摂りすぎると過剰となって逆の弊害を招きます。
 第六次改定で強調されたのは、特に過剰の問題でした。生活習慣病が多発し、しかも低年齢化した原因の大半が動物性脂肪の摂りすぎです。現在、日本人の動物・植物性を合わせた脂質の摂取量は平均で適量(1日の総エネルギーの25%)をオーバーして26.5%です。(図3)これを年齢別階層(図4)でみますと、20〜50代の摂取比率の高いことがわかります。また1歳から17歳でも上限である30%をオーバーするかぎりぎりの比率で摂取していますから、低年齢層の生活習慣病予防が急務であることが理解されます。
図3
図3 エネルギーの栄養素別摂取構成比
(年次推移)
図4
図4 エネルギーの栄養素別摂取構成比
(年齢階級別)

 表1は各年齢に必要な一日分の所要量です。エネルギーは生活活動強度に合わせて決定します。「IIやや低い」 「III適度」 がサラリーマンや主婦に該当することが多いようです。食品中の栄養素でエネルギー源となるものは、たんぱく質、脂質、糖質(炭水化物)で、体内へ摂取されるとそれぞれ1gが4、9、4kcalのエネルギーを発生します。
表1 第6次改定日本人の栄養所要量
表1
無機質(ミネラル)摂取標準
表1
ビタミン摂取標準
表1

図5
図5 食品のエネルギーの目安
 脂質を過剰に摂取すると、1g当たりの脂質から9kcalのエネルギーが余分に体内に蓄積されますから、当然肥満の原因となります。食品をエネルギーだけを目安として見ますと、ご飯=茶碗1杯、食パン=1枚、饅頭=1個、油脂=大さじ1杯半強がほぼ同じカロリーとなります。これで脂質のエネルギーの大きいことがお分かりでしょう。
 栄養所要量では、脂質は総エネルギーの比率内(1〜17歳は25〜30%、18歳以上は20〜25%)で摂取し、糖質は同じく総エネルギー比率の50%以上を摂取することが提唱されています。
さらに微量栄養成分のビタミン13種、ミネラル13種と食物繊維が設定され、過剰摂取による健康障害を予防するために 「許容上限摂取量」 が示されました。
 健康志向から健康補助食品や特定保健用食品の利用者が増えていますが、効率よく安全に利用するために設けられたものです。目的は特定な栄養素を毎日継続的に摂取した場合に、有害な副作用をもたらす危険度のないとみなされる一日当たりの最大量を示したもので、取りすぎに注意するためです。
 このように第六次改定栄養所要量は栄養素欠乏の解消と、過剰摂取の健康障害予防との両面の立場から科学的根拠にしたがって進められています。

4) 健康の一次予防
 予防には次の考え方があります。
 一次予防
   健康増進 危険要因の軽減除去
 二次予防
   早期発見 早期治療
 三次予防
   機能回復 社会復帰
 生活習慣を改善し生活の質(QOL)を向上させるためには一次予防が大切です。早期発見・早期治療が重視されたこともありますが、日本人の寿命延長とともに寝たきりの生活を防止し健康で長生きするためには、幼いときから健康を意識した正しい生活習慣に心がけて病気を予防するという考え方が導入されました。この考え方は欧米先進国でも進められています。
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2. 幼少期からの生活習慣予防 「食育」

 80歳の高齢者に幼い頃の食生活について尋ねてみました。健康疫学調査の思い出し法によるアンケートの一部です。戦前の食事はうどん、混ぜご飯、以外は○○の煮物、○○の焼き物というように食品と調理法が直結したもので野菜、芋、豆、魚を中心とした料理でした。食品名がはっきりと記憶されていたのは、さつまいも、みかん、りんご、柿、ぐみ、いすらん、などの果実です。調査地帯が郡部ということもありますが、いかにものびのびとした自然の中の生活が映ります。

1) 子どもたちの食習慣・好きな料理と嫌いな食品
 現在の若者たちの食生活を見ていますと、魚よりも肉類や脂っこい料理を好み、やたらにマヨネーズなどをかけて食べる習慣があります。
 平成12年に日本体育・学校健康センターが全国の小・中学生11,478人を対象に実施した 「児童の生徒食生活等実態調査」 の結果から、子供たちの好きな料理をみてみましょう。(図6)
 好きな料理は男女子とも第1位がカレーライス、第2位は男子ラーメン、女子パスタ、第3位は男子焼肉、女子ハンバーグでした。これらで共通するのが肉と油脂です。外来料理が多く、伝統料理は寿司、うどん・きしめん、刺身、焼き魚、すきやきで上位回答20種中5種のみでした。一方、嫌いな料理は野菜と魚を使った料理です。特に野菜が多くピーマン、なす、ねぎ、にんじんが上位を占めていました。(図7)
図6
図6 好きな料理(複数回答)
図7
図7 嫌いな食べ物 上位10位(複数回答)

2) 好き・嫌いの要素はどこから
 食べ物への好き・嫌いの有無を単純に表わすことを偏食といいますが、よく調べてみると大半が食べず嫌いです。この場合、虚弱な子どもの少食と間違えやすいので注意が必要です。子どもの偏食は一過性の生理現象とみることもあります。歯の生え揃う時期や虫歯のあるとき、気付かない疾患のあるときなど保護者の不注意が原因となることがあるからです。幼弱な子どもの防衛現象という人もいます。
 問題はその時点での保護者の子どもに対する接触態度です。過保護のため神経質、あるいは自立心のない子に育ちます。親に生活知識の無いことも、子どもの環境に対する適応能力が遅れる一因です。
 前述の調査では子ども達が 「食事を楽しいと感じるとき」 の状況を調べています。高学年になるほど好きなものを食べるときと答え、中学女子では76.3%で、最も低い小学女子でも60.9%もあります。次がバーベキューなどのような屋外で食べるとき、外食をするときと答えています。家族そろって食べるときと答えたのは、小学生で36.7%、中学生は22.3%でした。好きなもの、外食、バーベキューの共通キーワードは、開放感ではないかと考えます。(図8)
「嫌いな食べ物への対応」 は、がまんして食べるのが小学生39.1%、中学生23.6%で、食べないと答えたのは小学生11.8%、中学生27.1%です。小学生のうちは何とか我慢して食べる子供も、中学生になると食べないという子供が増加します。(図9)
図8
図8 食事が楽しいと感じるとき
(複数回答)
図9
図9 嫌いな食べ物への対応

図10
図10 誰の嗜好に合わせて食事を作るか
 一方で保護者が献立を決めるときの、「家族の誰に嗜好を合わせるか」 では、第1位が家族全員で64.8%、第2位が子どもで18.3%をも占めており、83.1%の保護者が子どもへの配慮があるにも拘らず、食べる側の子どもは嫌いなものを食べなくなり、我慢ができなくなります。原因は食べ物の情報過多であり、選択数が多く入手が簡単なことです。(図10)
 そして見逃せないのが家庭での食事中の態度です。同調査で 「家庭での食事のマナー」 の問いに対し、テレビを見ながら食べる子が90.5%もあり、席を離れる子は54.3%、口に食べ物を入れたまま話すが41.9%、テーブルにひじをついて食べるが38.9%もいることです。(図11)
 ここで注目したいことは、保護者の学校(給食)に対する要望事項で、第1位が安全な食品を使って欲しい(71.3%)、第2位が栄養や食品の知識を教えて欲しい(56.5%)、第3位が郷土料理・伝統食品を教えて欲しい(36%)、そして第4位に基本的な食事のマナーを身につけさせて欲しい(32.2%)と望んでいることです。第4位の基本的な食事のマナーに対しては、就学以前の問題だという批判もあります。女性の社会進出が家庭内の子どもの教育に影響を及ぼすことが全く無いとはいえませんが、教育は母親だけではなく家族全体の問題として努力することです。(図12)
図11
図11 家庭での食事のマナー(複数回答)
図12
図12 家庭での食事のマナー(複数回答)

3) 食育は親子の努力がはじまり
 現在、文部科学省により小中学生を対象にした 「楽しい食育推進事業」 が奨められています。名古屋市をはじめとして愛知県各地の小中学校で、保護者や子ども達にお話をする機会が何回もありました。先生方の尽力は大変なもので、子どもや保護者が参加するフォーラムとシンポジュウムでは、半年以上の準備期間が費やされています。
 その中で子ども達が行った 「農園の野菜作りと、料理を作って低学年の子ども達に食べさせた」 ことの学習発表は、聞き入る子ども達に感動を与え、それ以上にきらきらと輝く子どもの瞳が同席する保護者達に数倍もの感動を与えたことを確信しました。

 先述の実態調査 「食事を楽しいと感じるとき」 の質問の中に 「自分が作ったり手伝ったりしたものを食べるとき」 という回答が僅かですが26.5%ありました。学習活動の感動が親子の繋がりを深め、会話を多くし、マナーや健康(生活習慣病予防)への関心が強められることが食育です。やがてこの子達が成長し、郷土の産物や伝統料理への食文化伝承の担い手となることを願うものです。
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「今月の視点」 
2003年5月 
食生活の基礎づくり〜「栄養所要量」と子どもの食育〜
 名古屋文理短期大学 元教授 大野 知子

沖縄のサトウキビと緑肥 (3)
 沖縄県農業試験場 研究員 宮丸 直子


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