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沖縄のサトウキビと緑肥(3)

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2003年5月]

 土づくりのためには、堆肥や緑肥を施用することが重要ですが、沖縄県では堆肥の原料となる家畜ふん等が十分でなく、さらに偏在しているため、堆肥を利用することが難しい場合があります。また、サトウキビ夏植え栽培では収穫後の春から、次の植え付けの夏まで畑が空くため、土壌流出の危険性がありますが、緑肥を栽培することによってこれを防ぐことができます。このように、沖縄県では緑肥の重要性は高いのですが、土づくりの認識不足や農家の高齢化等の理由から、緑肥の栽培面積は多いとは言えない状況です。そこで、今回は緑肥利用の推進に向けた県や市町村等の取り組みを紹介していきたいと思います。
沖縄県農業試験場 土壌保全研究室 研究員
宮丸 直子


1.県の取り組み
2.土壌保全の日
3.市町村の取り組み   南大東村   宮古地域   石垣市
おわりに


1.県の取り組み

表1 緑肥の栽培・作業工程と補助
時期 作業工程  
1〜3月 サトウキビ収穫
4月 緑肥播種 補 助
ロータリー(覆土)
8月 プラウ(緑肥鋤込み) 補 助
ロータリー(砕土)
9月 サトウキビ植付け
 農林水産部営農推進課は、平成8年度から緑肥関連補助事業を実施しています。この事業では、緑肥の播種から鋤込みまでのすべての作業工程について補助がなされ、農家負担は2割程度です(表1)。また、実際の作業はJA等に委託されますので、農家の労働負担なしで、緑肥が鋤込まれて土づくりがなされた畑がサトウキビ植え付けに合わせて準備されます。農業機械を持っていないため鋤込み等の作業委託に費用がかかり、緑肥を栽培したくてもできない農家の方も多いので、この事業は非常に画期的です。これまでは宮古地域を中心に事業が採択されてきましたが、メリットの大きい事業なので、他の市町村にもぜひ採択してほしいと担当者は考えています。
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2.土壌保全の日

 沖縄県では、毎年6月の第1水曜日を「土壌保全の日」としています(図1)。土壌保全の必要性について農家個々の意識の高揚と啓発を図ることを目的として、平成2年に設定されました。具体的な取り組みとしては、各地域の農業推進会議や市町村、農業改良普及センターを中心に、県内5地域(本島北部・中部・南部・宮古・八重山)で土壌保全に関する行事がおこなわれます。毎年、各地域ごとに工夫を凝らした取り組みがなされていますが、平成14年度には緑肥の播種がほとんどの地域でおこなわれました(表2)。緑肥の種類が地域によって異なっているのは、その地域の土壌や栽培目的(地力増強、景観向上、土壌流出防止等)に合わせて緑肥を選んでいるからです。参加者全員が実際に汗を流して緑肥を播種することによって、緑肥に対する意識が高まることが期待されます。
図1
図1 「土壌保全の日」ポスター
表2 平成14年度「土壌保全の日」の実施状況
地域 内容
北 部 講演 「土壌保全の必要性とヒマワリの効果について」
緑肥の播種(ヒマワリ)
中 部 講演 「土壌保全について」
緑肥の播種(クロタラリア、ピジョンピー、ヒマワリ)
南 部 沈砂池の清掃、側溝周辺の除草(土壌流出防止のため)
緑肥の播種(クロタラリア)
宮 古 広報車によるパレード
八重山 小学生による月桃の植え付け(土壌流出防止のため)
緑肥の播種(ピジョンピー)
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3.市町村の取り組み

 緑肥種子の購入費用に対して、県内の14市町村が市町村単独事業で補助をおこなっていますが、サトウキビを主な対象作物として事業をおこなっているのは10市町村です(表3)。補助率は50%程度であることが多いですが、なかには伊平屋村や南大東村、粟国村のように、補助率100%の市町村もあります。図からわかるようにこのような事業をおこなっている市町村は主に離島地域に集中しています(図2)。その主な理由として、地力の低い土壌が分布していること、作付体系の中で緑肥を取り入れやすいサトウキビ夏植え栽培が多いことが考えられますが、それ以外にも市町村によっていろいろな理由があります。以下で、いくつかの市町村の事業内容や今後の取り組みについて詳しく紹介していきます。
表3 サトウキビを対象とした緑肥種子購入臍に関する市町村単独事業実績
(H14年度)
市町村名 緑肥の種類 補助率
(%)
面 積
(ha)
伊平屋村 クロタラリア 100 60.0
粟国村 クロタラリア 100 0.5
南大東村 クロタラリア、富貴豆、ヒマワリ 100 57.8
平良市 クロタラリア 54 66.4
城辺町 ピジョンピー 65 80.0
下地町 クロタラリア、ピジョンピー、緑豆、富貴豆、ヒマワリ、ソルゴー 50 75.1
上野村 クロタラリア、ピジョンピー、緑豆、ヒマワリ、ソルゴー 50 38.0
多良間村 クロタラリア 70 19.5
石垣市 クロタラリア、ピジョンピー 50 85.0
竹富町 クロタラリア 50 86.3
図2
図2 緑肥種子購入補助を実施している
市町村(青色部分)の位置

南大東村
 南大東村は、沖縄本島のはるか東400kmの太平洋上にある南大東島からなる一島一村で、サトウキビ作農業が基幹産業です。その北に位置する北大東島(北大東村)以外には周囲に有人島がない絶海の孤島で、島内に畜産業も少ないため堆肥の原料に乏しく、土づくりには緑肥が欠かせない地域です。そのため、南大東村では補助率100%で緑肥種子の購入補助をおこない、土づくりの推進に努めています。補助の対象となる緑肥としては、他の地域ではクロタラリアに要望が多いのですが、こちらでは富貴豆にもクロタラリアと同じくらい要望があります。サトウキビの植付け時期が他地域よりも遅く裸地期間が長いため、長期間栽培しても落葉や木化の心配がない富貴豆が好まれているのかもしれません。ただ、富貴豆はクロタラリアよりも種子代が高いことが南大東村の悩みです。

宮古地域
写真1
写真1 クロタラリアの生育ムラ
 宮古地域は土づくりに対する意識が高く、土壌中の腐植含量も県内では高い傾向にあります。緑肥についても、ほとんどの市町村が単独事業として種子購入補助をおこなっています。また、前述した営農推進課の緑肥関連補助事業も積極的に採択しています。対象緑肥としてはクロタラリアが多いですが、下地町や上野村は5、6種類の緑肥を対象としており、これも他の地域ではみられない特徴です。これだけの種類があると選ぶのを迷ってしまいそうですが、農家の方は各自で土壌条件や栽培目的にあった緑肥を選択されているそうです。このことからも、この地域の土づくりに対する意識の高さが窺えます。
 春から夏にかけて宮古地域ではいろいろな緑肥がみられますが、所々に生育ムラがある畑もみられます(写真1)。このような畑では全面に均一に播種しているのですが、緑肥が部分的に生育不良になり、ひどい場合には枯死してしまうこともあります。宮古地域のほとんどの土壌は弱アルカリ性から弱酸性で緑肥の生育に適しているのですが、強酸性の土壌もわずかにあるため、クロタラリアのような土壌の酸性に弱い緑肥は生育不良になってしまうことが原因です。逆に考えるとクロタラリアが生育不良な場合は、その土壌は強酸性である可能性が高いと言えます。そこで、今後クロタラリアの生育を酸性土壌の指標として酸度矯正の事業をおこないたいと考えている市町村もあり、県農業試験場との連携が望まれています。

石垣市
写真2
写真2 赤土流出によって赤く染まった滝
 石垣市は平成2年から土づくり奨励事業の中で緑肥種子の購入補助をおこなっています。対象緑肥はクロタラリアとピジョンピーであり、国頭マージのような酸性土壌にはピジョンピーを、酸性でない土壌にはクロタラリアを指導しています。また、農地からの赤土流出が大きな問題になっているため(写真2)、石垣市は緑肥を地力増強ばかりでなく、赤土流出を防止するカバークロップとして推進していこうと考えています。
 石垣市に広く分布する赤土の国頭マージは養分供給量が少ない酸性土壌ですが、パインやマンゴー等、酸性土壌を好む作物には最適な土壌です。また、酸性が苦手な作物も酸度矯正すれば栽培できます。「手を加えれば何でも作れる国頭マージが一番上等な土だと思う。子供達のためにもこの土を必ず守っていきたい。」という石垣市の担当者の言葉が印象的でした。

おわりに

 私は、一昨年から沖縄県農業試験場で緑肥に関する研究を担当していますが、この機会にいろいろな方から緑肥に関するご意見を伺うことができました。貴重な時間を割いていただいた市町村や県等の担当者のみなさんに心から感謝いたします。今後も関係者のみなさんと連携を取りながら、緑肥利用の推進に向けて努力していきたいと思います。
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「今月の視点」 
2003年5月 
食生活の基礎づくり〜「栄養所要量」と子どもの食育〜
 名古屋文理短期大学 元教授 大野 知子

沖縄のサトウキビと緑肥 (3)
 沖縄県農業試験場 研究員 宮丸 直子


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