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対談〜フランス料理と砂糖の甘い関係

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2003年7月]
対談〜 tete-a-tete 〜
フレンチシェフ
石鍋 裕 氏
当事業団理事長
山本 徹
対談
いしなべ・ゆたか
 1948年横浜生まれ。70年渡仏。有名店やブルジョアの邸宅の仕事を手がけ76年帰国。82年「クィーン・アリス」を独立開店。 以後フランス料理のほか中国料理「トゥーランドット」、イタリア料理「アガペ」、ベトナム料理、パティスリーショップ、食材会社「マック・フーズ」をグループとし共同化。 2002年11月には待望の日本料理「アリスin歌舞伎」を開店。
 現在、パンパシフィックホテル横浜の名誉総料理長、2005年開港の中部国際空港の食アドバイザー、同年開催の日本国際博覧会のテーマ型営業出店検討会メンバーを務めるなど、食空間のプロデュースや、全国各地の地域開発など様々な分野でも活躍中。
 2003年食における長年の功績が認められ、フランス共和国より「フランス農事功労章シュヴァエ勲章」を受章。 主な著書に「石鍋シェフの『新』家庭のお料理ノート」、「クィーン・アリスの素敵スイーツ」などがある。

甘酸っぱくほろ苦いデザート
ゆっくりとしたリズムで時を過ごす
ベトナムで出会ったサトウキビジュース
運動会と飴玉
いろいろなデザート
いいものは必ず戻ってくる
こんな砂糖を使ってみたい
ちょっと工夫すれば



山本 今日は日本を代表するフレンチシェフとして活躍されている、石鍋さんをお迎えしました。
 石鍋さんは、フレンチシェフとしてだけではなく、中国、ベトナム料理等のレストランの展開や、愛知県で開催される万国博覧会のテーマ型営業出展検討会メンバーとして参画されるなど、事業家あるいは文化人として様々な分野で活躍されています。
 大変お忙しい中、お時間をさいていただきましてまことにありがとうございます。今日は特に、フランス料理を中心にお料理と砂糖とのかかわりについてお話をいただければと思っております。よろしくお願いいたします。


甘酸っぱくほろ苦いデザート
山本 まず第一には、日本人の食生活で特徴的なのは、お塩は欧米に比べて3割から倍くらい消費量が多い。逆にお砂糖は消費量は2分の1か3分の1程度と少ない。食材としてお砂糖の使われ方が少ないというのが日本の特徴だと思いますけれども、フランス料理などでは、塩分は少なくて、お砂糖を調味料としてたくさん使われるし、お菓子もたくさん出されという感じがいたしますけれども、どうでしょうか。
石鍋 お料理には隠し味的とか、色づけとか、風味づけ、さまざまなジャンルがあります。フランス料理というとソースということになりますが、お砂糖を使ったソースということになりますと、お砂糖を焦がしてお酢と合わせた、ソースガストリックといったものが有名で、鴨の料理ですとか、あとジビエの料理だとか、そういうものによく使われます。
 そのほか、野菜の、ギリシャ風マリネといいますか、甘酢のようなもの、そういったところによく使われています。日本でおしんことか漬物で塩を使うように、向こうでは酢と砂糖を使うということになります。
 また、甘さの加減というのも、日本の場合はほんのりとした甘さで、非常に体にいいのですが、やはり、気候のせいか、西欧では甘いとなるとしっかりと甘く、その辺の使用量というのは大分違います。
 あと、飴がけと言って、日本で昔、屋台か何かで、駄菓子屋さんの飴がけというのがありますね。フランスではちょうどいまの時期ですと、サクランボの飴がけですとか、ブドウの飴がけというのがあります。ちょっと甘酸っぱい果物を、リキュールをちょっと入れた飴の中に通し、それを氷の上に置き冷やしておく。食べるときのカリカリッという音の食感と、甘さと酸味のハーモニーを楽しむようにしたものです。
 フランスで砂糖をたくさん使うのはゼリーです。日本ではいま何という名前になっているでしょうか。要するに、フルーツのペクチンというか、ゼラチン質を煮詰めたもの、特に砂糖を加えるとよけいにペクチンが効いてくるものですから、それをちょっと流し固めて、干してあげて、切ると、純粋なゼリーができるわけです。そういうものがチョコレートのかわりに、ギフトになったりしています。お料理の場合はデザート類が主になりますかね。甘酢っぱく、もしくはほろ苦くというときに、お砂糖をよく使います。料理ですと代表的なものをとりあげるとすれば、やはりビガラートが一番最初に出てきますかね。


ゆっくりとしたリズムで時を過ごす
山本 日本では、最近糖尿病の患者さんが増えていて、日本人も健康に関心を持っていますから、お砂糖控えめのほうがいいのだと思っている人がいます。お砂糖は糖尿病の原因になるのだと、あるいは太りすぎや、虫歯の原因だと言う人がいますが、医学的には、糖尿病の原因というのはトータルのカロリーの摂りすぎで、お砂糖は単なる炭水化物で、特別カロリーが多いわけではない。お米、麦、お蕎麦と同じで、重量当りのカロリー発生量が4kcalです。このことを多くの国民は知らないで、お砂糖というのは有害ではないかと思っている。糖尿病の糖という漢字が砂糖の糖につながるものですから、そういう誤解があります。
石鍋 聞きますね。
山本 それで、いま医学界では、これは誤解で、糖尿病は要するにカロリーの摂りすぎとか、それから、摂ったカロリーを燃焼させる運動の不足、或いは、ストレスとか遺伝が関係していると言われています。統計を見ましても、日本でのお砂糖の消費量というのはむしろ減っているのですけれども、逆に糖尿病は増えているという結果がでています。
 それから、太りすぎもカロリーと運動との量がアンバランスだから起こるので、何も炭水化物の一種であるお砂糖だけではない、日本人はむしろ脂肪は摂りすぎと言われていますが、トータルなカロリーの摂取が多いと太りすぎになる。虫歯も、砂糖の摂取うんぬんではなく、歯をちゃんと磨くことが必要であって、こうしたことはだんだんわかってきています。にもかかわらず砂糖を控えめとか、お菓子は太るからやめましょうとか。もちろん食べ過ぎればいけないですけれども。こうしたことを今でも日本では言う人が多いのですけれども、ヨーロッパではそういうことはないですか。

石鍋 フランスでももちろん、そういうことはよく言われています。ただ、違うのは、お酒を飲む人でも、甘いものが好きな人がほとんどですし、大体食後には甘いものを食べます。そういうことを見ますと、多分、生活のゆとりの長さというのが関係してくるのだと思います。ワッと食べておしまいというのではなく、毎日毎日長い食事をするわけではないですが、大体週に1〜2回は、ゆっくり2、3時間取って、食後酒まで飲むというスタイルが出来あがっているようです。こうしたスタイルがストレスとかを解消しているように思います。コーヒーにしましても、日本では結構ブラックで飲む人が多いのですが、私がフランスにいたころは、お砂糖をコーヒーの半分くらいまで入れて、それで、軽く1回だけかき混ぜて、最初にあまり甘くないコーヒーを飲む。だんだん甘くなっていって、最後はスプーンでキャンディみたいに少しづつなめながら時間をつぶすというか、楽しみを長く伸ばすというか、そんなような感じの人が多かったように思います。だからといって太っている人が多いかというとそうではない。
 バターも同じでバターは体に悪いというのですが、バターの取り方にしても、クリームの取り方にしても、量としては向こうは非常に多いです。
 そのかわり、ヨーロッパは水分をあまり取らないですね。私も、半年の間に体重が5キロぐらい減りました。これは、フィットネスをするとか何かではなくて、5キロくらいやせるのです。それは、最初は気候の変化だとかそういうことだと思っていたのですけれども、どうやらそうではなくて、要するにヨーロッパ体質にだんだん変わっていくのですね。水分が抜けて、それで体が締まって、それからなかなか太らないと思います。いまの3倍から4倍くらい、若いから食べていましたけれども、一向に太らなかったです。
 要は、どういうふうに体質を調整するかということのほうが、多分大事なことであって、ストレスをためないとかそういったライフスタイルを作ることが大切だと思います。だから、甘いものを食べても、ババッと食べてしまわずにゆっくり食べる。それと、ゆっくりとした時を過ごすということも、毎日とは言わないけれども、週に1回くらいは必要かなと思います。

山本 そのゆっくり食べるということで、イタリアから提唱されたスローフードとか、地産地消とかが提唱されていますね。いま日本人は食生活が乱れていると言われています。例えば、朝、何も食べない小中学生が3割ぐらいいるとか、それから若い親御さんは、ジュースとスナックでお昼を済ませてしまうといったように、時間とかお金をかけない偏った食事が増えているということが心配されていて、できたら、手作りの料理で、バランスのとれたお食事をゆっくりと時間をかけてとるということ、それから規則正しく3度食べることが健康のためにも健全な家庭生活のためにも大事であると言われていますが、そういうことについてどう思われますか。
石鍋 ちょうどバブル時に入ったころと思いますが、お母さん方というのはものを作るということを忘れてしまったのではないのでしょうか。作らなければいけないということはわかっていても、体のリズムがそうさせてくれないというようなことが日本の社会の中にあると思うのです。
 今はコンビニでも何でも、便利なものがいっぱい出てきていますから、作らなければいけないとは思いつつも、たぶん、面倒くさいから、コンビニで済ませてしまえみたいなこと。あと、デパートの地下に行けば食料品がいっぱいあるし、ちょっと買い集めれば何でもそろう。そういう便利な状況が、日本の体質をみごとにあらわしているかなと思います。日本は、こうではいけないと思っていても、ぬるま湯に入ったような感じで、出ると寒いし、入っていると別に違和感がないというところで結局そのままにしてしまう。それは絶対に悪いのですが、ただ、悪い悪いと言うだけでは日本人は変われないのだろうと思います。ですから、それを変えていくためには、こっちにももっとおもしろいものがあるよという誘導が必要だと思います。例えば、実体験。いわゆる農作業の体験とかそういうものですが、1日ちょっと行ってくるというものではなくて、少なくとも1週間宿泊、もしくは1ヵ月ぐらい宿泊するとか、高校生ぐらいになったら、3ヵ月間くらい農作業に従事する。そのくらいの長いスパンで働いて、農業なり漁業なりというものをやると、いろいろな食べる知恵とか、体を使うことを覚えますから、そうすると変わると思うのですけれどね。


ベトナムで出会ったサトウキビジュース
山本 食生活から、日本のライフスタイルに対する批判のお話もいただきましたけれども、石鍋さんはフランス料理だけではなくて、東洋のさまざまな料理に取り組んでいらっしゃいますので砂糖のおもしろい使い方のお料理などをご紹介いただければと思います。
石鍋 ベトナムの田舎で、お昼を作ってもらったことがありました。せっかく来たのだからといって、田舎のことですから海がないからナマズとかそういうお魚をチョンチョンと切って、ちょっとサトウキビを圧縮して搾ったジュースを鍋に入れて煮詰めて、その中にお醤油をちょっとたらして、あと唐辛子とかレモンの皮などをちょっと入れて、それで魚を入れて、ゴトゴトと炊いてくれました。その間にご飯が炊けるのですが、その炊いた汁が、非常に複雑な味で、ダシ汁も何も入ってないのになんでこんなにおいしくできるかなと思いました。
 煮付けといいますと、私の感覚では、日本の特許みたいなものだと思っていました。日本でも、魚の煮付けにショウガは入っている、砂糖は入っている、醤油も入っている。そうやって味をつけていきます。ベトナムでも同じようにショウガは入るし、ただちょっと違うのは、柑橘系の皮とか、あと木の根っこみたいなのをちょっと入れて香りをつける。そういうものは日本にありませんが。日本でも、ちょっと高級になるとユズの皮をすって、チョンと最後の仕上げにします。そういうテクニックは日本のほうがはるかにあると思います。ですから、材料で若干の違いがありますが、料理自体は共通するところが多い様に思いました。ただ、砂糖の使い方にはびっくりしました。煮付けでは甘みと塩分のバランス、それと、ちょうど煮えていくときの、砂糖を水で溶かして煮詰めていくときの泡の状態が料理には大事なのです。それを見ながら、どのくらい煮えている、どのくらいの味になっているというのがわかります。
 ベトナムでは砂糖のかわりにサトウキビジュースを使っていましたが、煮付けにサトウキビジュースを使いますと、そういうものが一目瞭然でわかる。
 ここらあたりに砂糖の利用の幅を広げるヒントがあるように思えます。日本でも、搾りたてのジュースは無理としても、カラメル風になるまでの各段階のものが商品として売られていたりしたら、非常に便利なのではないかと思いました。そうすると、多分、日本のお砂糖を使う料理の幅というのは、いまの倍くらいに増えるのではないかと思っているのです。
 粗糖といいますと、多分、糖分だけでなく色々なものが入っていると思うのですけれども、それが比較的いやみにならないおいしさになって残ります。沖縄での経験ですが、製糖の最後の、ちょっと酸味のある、甘くない砂糖。これは糖みつだから甘くないのだというのですが、そんなのも、お菓子にかけたり、葛餅にかけたりすると結構おいしいのです。でもそれは商品化されないで、全く違うものに化けて出てくるという感じになっていますから、もうちょっと、白い砂糖になる前の段階の製品があったほうがおもしろいのではないかなと思うのです。

山本 そうですね。
石鍋 製糖会社さんは今ある形にしかできないのかもわからないですが、そういう段階別に製品にできれば、多分、すごく伸びが出てくるのではないかと思うのです。
山本 いまの話を聞いていて思うのですが、多分、日本はこの日本列島で、お砂糖は取れなかったわけではないですけれども、古来、お砂糖という食品に恵まれていなかった。こうしたことが影響しているのかもしれませんね。
 ところで、ヨーロッパはてん菜が中心なのでしょう。

石鍋 てん菜が中心ですけれども、料理の種類・用途によってはインドネシアとかあの辺の砂糖も使いますね。

運動会と飴玉
山本 お砂糖というのは疲れたときにいいし、肉体とか精神を活性化させると言われていまして、そういう意味では、朝、甘いものを食べるというのはその日1日元気いっぱい働いたり勉強するのにいいし、お昼もいいわけです。日本人は何となく、朝・昼はあまり甘いものを食べなくて、せいぜい3時とか、夜ですね。それより、本当は朝とか昼、活動する前に食べたほうが理にかなっているのですよ。
石鍋 よく「アメとムチ」と言いますけれども、学校だとか運動会だとか、先生は本当に飴玉を持っているのです。それにおじいさんたちは自分の好きな飴を持っていて、それを子供たちの口の中にちょっと入れてあげるというようなことをやるのです。余裕というのでしょうかね。いまどき、日本では他人の子供に飴をあげたら、「そんなもの、もらうんじゃない」みたいな感じで言われてしまうので、非常に具合悪いですけれども、やはり、ワーッと遊んでいる子に1つづつあげたり、そういう習慣がもともとありますからね。
 話の筋から少しそれるかもしれませんが、日本でいうと「なまはげ」ですか。ああいう感じで、「アッ、来た来た」といって、自分のところに来てくれた子にお持たせをしてあげるといったものが文化の中で育っています。日本にもあったはずなのになくなってしまいましたね。

山本 そうですね。
石鍋 我々の小さいときも、何か荷物を届けると、「あ、ちょっと待ちなさい」と言って、「ハイ」と、何か紙でちょっとひねって、お菓子なり、お駄賃なり、何かくれていたのですけれども、いまはそういうのないですね。
山本 ヨーロッパにはそういうことがあるのですか。
石鍋 ええ、まだまだずっと残っていますね。お砂糖は疲れたときにいいというお話でしたが、フランスの運動会を見ていますと、疲れるから先になめておけという感じで飴をやったりしているんだと思います。

いろいろなデザート
山本 フランス料理などにはお菓子はつきものですね。どんな食べ方をしているのですか、朝、昼、晩。あるいはフランス料理でも、フルコースのデザートなんかどんなものが出ますか。
石鍋 フルコースで食べるというのはフランスでも1週間にせいぜい1回か2回ですね。普段の日というのは、大体、日本と同じように、何か野菜を茹でて、お肉を焼いて、パンを買ってきて食べて、最後のデザートで、その時期の果物とか、果物が古くなると煮ておくとか。それと、ちょっと暇のある人は、タルトとか。例えばマヨネーズを作って、卵の白身が残ったら、その白身を泡立てて、お菓子にして、飴をかけて食べる。そういう感じのものから、最もポピュラーなのは何かな。どこのうちでも作るのは、日本のプリンみたいに上等ではないですけれども、フロンという、ちょっと粉の入ったプリンみたいなものを作って、その中にフルーツを入れたりします。いまですと、フキのようなものを入れるとか、栗とか、そういうものを入れて焼き上げる。そういうものは、1回混ぜ合わせてオーブンに入れれば全部でき上がってしまうものですから、そういうのを家庭ではよく使ったりしますね。
 あとは、いまどきだと、フレッシュなクリームチーズを買ってきて、お砂糖をかけて、イチゴの時期だったらイチゴとつぶして食べるとか。日本ですと牛乳ですが、あちらでは生のチーズで食べるというのが一般的です。だから、その辺でもこくが大分違いますね。
 レストランなんかへ行きますと、最初に季節のフルーツのデザートが出て、それは焼いたものから生のものまでいろいろありますけれども、チョイスしながら。そして最後に、チョコレートだとか、プチ・フールだとか、そういうものを食べたりします。いまどきの流行りのお店というと、デザートが次から次へと10種類ぐらい出てくるのです。生のものから焼いたもの、あわせ味、ムースになったものとずっと出てきて、アイスクリームからチョコレートになっていくという感じで。そうなるとみごとなものですが、日本人の胃袋には、なかなかそこまでついていけないです。(笑い)

山本 そうですね。日本料理、和食というのも随分深みがあると思っていましたが、どちらかというと、いまのお話をお聞きしても、日本料理、和食というのは、素材を活かし、あまり複雑な味ではなく、お醤油とか、お塩、お砂糖などのデリケートだけれどもシンプルな味。フランス料理とかアジアの料理のほうが、味に深みがあるということになるのでしょうか。
石鍋 日本というのは、多分、非常にデリケートで、独特の取り入れ方をしていたのでしょう。同じ東洋を回ってきたものでも、流れてくる間に少しづつ変わってくるのでしょうけれども、最後のどん詰りで、非常に考えられた、最高の品質のものをつくっていくのが、工業製品にしても、食べ物にしてもあるのではないかと思っているのです。盆栽なんていうのも、確かに中国にもありますけれども、でっかい盆栽で、日本みたいにこんなに小さいのはできないとか。気候のせいだとかいろいろなことがあるのでしょうけれども、やはり、非常にすぐれているというものがあると思いますね。
 ただ、大きい流れでの中、結局、これはこうだという強い意思が、昔からちょっと弱いのかなと思います。
 フランスに行くとたいしておいしくないのに、フランス料理というだけでそっちに飛びついていったり、いろいろなものでもそうですね。だから、もう1回ここのところで、今度はこういう打ち出し方をしようと、ちょっと踏みとどまって、グッと引いて、世界を見て、これを出すという形で世界に出していったら、日本で作られているものの中でも、ものすごいものが出てくると思います。
 綿飴ってありますね。綿飴は世界中にありますが、日本に霜柱というお菓子があります。練って練って練って、白くなったものを、本当に細い細胞を少しづつまとめた、非常に上品なお茶菓子があるのですけれども、これを向こうに持っていったら、絶対に驚くと思うのです。というのは、そのデリケートさに驚くわけです。普通の人は、「なんだ、砂糖じゃないか」と単純に思うかもわからないけれども、触ろうとしたら崩れてしまうわけです。
 ポルトガルにも、「なんだ、クッキーではないか」といって、触ろうとしたらポロッと崩れてしまうお菓子があります。非常に繊細にできているのですけれども、大変いいものです。そんなにたくさん出廻るというものではないですけれども、でも、必ず登場してくるものです。そういう技術の最高峰のようなものを並べられると、我々仕事をしている人間から見ると驚異に感じるのです。料理というのはインターナショナルの用語と同じですから、世界中の料理している人は、「エッ、こんなのどうやってつくるんだろう」と、そういう驚きがあるのです。ですから、あんなのはもっともっと都心でも出していったらいいのに思うのですけれども、「うちの家宝」というか、「伝来のものだから、よそに出しません」みたいな感じになってしまっているのがまだまだ多いと思います。ちょっとさびしいなと思うのですが。


いいものは必ず戻ってくる
山本 そうですね。すばらしい日本の文化の一つである食的文化も消えていってはいけないので、紹介し、日本人自身も忘れてしまいますから世界にも発信しないといけないですね。
石鍋 食べ物にしても何にしてもたくさんあるから、次から次へと新しいものが出てくるでしょう。そうすると、やっぱり流されやすいところがありますからね。ただ、いいものがでんとして底辺に残っていると、ものの比較ができますから、嗜好の変化があったとしても必ずまた戻ってきますからね。そういう面ではヨーロッパのほうが骨格はしっかりしているなと思います。法律、制度ではないのですが、ヨーロッパの食品業界ではある一線を越したらそうとは呼ばないとか、原産地証明だとか、ここのものはこう呼んではいけないとか、そういうすごく厳しい規範あるいは共通認識があると思うのです。こうしたことも骨格がしっかりしているから成り立っていると思います。
山本 日本にも、和三盆という独特の砂糖がありますが、これを国際的に打ち出していくには、どうしたらいいのでしょうか。
石鍋 あれは極致ですから、上品な味の極致になっていますから。ただ、あそこから、もうこれが最高だからといってストップしているから、インターナショナルにならないわけで、あれをもうひとつ、世界に通用できるおもしろい形にするのか、見せ方にするのか、もうひと加工するのか。加工は要らないとしても、見え方とかいろいろなものを考える必要があると思います。
 砂糖に種類があるなんていうことはわからない人たちがパッと見たときに、「なんだ、茶色い砂糖じゃないか」みたいな感じで終わってしまうと思います。でも、よく見ている人が見たら、「この細かさは一体何なんだ」とか、「これは口の中に入れたら、静かにいい甘みが、上質な甘みが広がる」なんていうことを言える人は1,000人に1人くらいしかいないわけですから、もっとわかりやすくしてあげないといけないでしょう。
 いま料理でおもしろいのがあります。飴で、飴のこういうペーパーをつくっておいて、それで、バーナーがありますよね。ああいうのでスッとあぶってやると、何でも包めるのです。昔はウィスキーボンボンというと非常に大変だったのです。ところがいまですと、ゼリーのようなものを飴にくるっとやって、ちょっちょっと合わせて、そのつなぎ目をまた少しあぶってあげると、それでもう固まってしまうのです。

山本 それは日本にはないですね、そういう技術というのか。
石鍋 日本にはないです。これは新しいことを考えるのが好きなスペイン人がいまして、その人が考えたものです。向こうは飴がけというのはあるけれども、飴がけはどうしても厚くなる。誰がやっても簡単にできるのはこれしかないと言って、薄い、オブラートみたいな飴をつくりまして、その中に入れて、ちょっとあったまったところでチョイチョイとくるんでいく。餃子ではないですが、いろいろな形にして、最後にバーナーでちょっと閉じてしまう。例えばおいしい魚を煮た煮こごりになったようなものをその中に入れて、料理に出てくるわけです。なんだ、これ料理じゃないじゃないって、口の中に飴だと思って入れたら、「あ、肉だった」とか。そういう変なやつがいるのです。でも、この飴の理論を知っていると、天才だなと思いますね。
 そういうおもしろいのがどんとどん製品化してくると……

山本 そうですね。我々の知らないお料理とか食品がいっぱいあるのですね。

こんな砂糖を使ってみたい
山本 例えばお菓子なんかでも、日本では作られていないお菓子を日本で作るために、お砂糖の種類、いまのようなものもその1つでしょうけれども、結構ヨーロッパにはあるみたいですね。関税が高いのですけれども、輸入しておられる方がいて。日本では手に入らないからと。
石鍋 輸入させたのは僕なんですけれども。ちょうど、'80年ぐらいから輸入しているのです。そのお砂糖には、キャンネルの茶色いのと、クリスタルの白いほうと両方あります。それが非常に高級感あふれて見えますので、ヨーロッパの高級料理店では出されています。日本でできないのかと言ったら、日本は角砂糖しかできないと。向こうで作っているのだからできるだろうと言ったら、日本は工場のラインが決まっていますからやれないと。ではどうするのと言ったら、輸入するしかないのではないかということになりました。税金が高いのですけども輸入しました。いまでもまだ輸入しているのではないですか。
 最初はある商社の若い子が飛び込みで行ったのです。「おまえ、新婚旅行に行くのだったら行ってこい」と言って、ここにあるからと住所を書いて。そしたら簡単に。

山本 そうですか。
石鍋 さきほど言いましたが、日本でもシロップから最後に至るまでのいろいろな種類の見せ方を考える必要があると思います。いま乾物屋さんというのがないから、スーパーでもいいですし、そういうところで、卸業者さんが、これの何番手の棒目幾つの砂糖を持ってこいと言ったら持ってこれるような感じにしたらおもしろいと思うのです。
山本 そうでしょうね。
石鍋 油でも同じことが言えて、韓国だと、ゴマを升で量って、挽いてもらえますね。油が古いと皮膚によくない、と言われていますが、それだったらピーナッツとか大豆とかいろいろなものを置いておいて、そこのところで直に挽いてもらったのをびんに入れて買えばいい。そういう設備を作ったらどうだというようなことを言ったのですが、なかなかそこまで手がまわらないみたいで、まだ実行されてないようです。でも、そうするとすごくいい感じの、テイストの高いものになる。そういうものをパックにして、アメリカに売る、フランスに売る、イギリスに売る、そういうパッケージになっていると、みんな喜んで買ってくれます。
山本 そうですね。そういう意味では、砂糖のメーカーさんとかお菓子のメーカーさんも、まだつくるべきものがありますね。
石鍋 ものすごくたくさんあります。ただ、もうあたりまえのものだけを積んで、値段を安く業務用に出すというのは、時代がこういう時代ですから、だぶつきぎみになってしまうのかなと思いますね。
山本 確かに規格大量生産の必要なものもあるけれども、多品種少量で、手づくりとか、付加価値の高いものをつくっていくのも大事なことですよね。
石鍋 ものすごく重要なことですね。

ちょっと工夫すれば
山本 それから、フランスなどで、パリはもちろん、世界トップの店があるにしても、地方に行っても、特色のあるなかなか美味しい店がありますね。
 いま、日本経済の活性化は、例えば外国人にどんどん日本に来てもらうようにしようと、日本人はどんどん外国に行きますけれどね。やっぱり地方も魅力のあるものとするためには、地方独自の食べ物が大切だと思いますが。

石鍋 素朴なものがあればあるほど、初めて見る人は喜びが大きいと思うのです。それと対照的に、同じ和菓子でも、こんなやり方をしてつくっているのかと驚くぐらい手のこんだものもあります。ですから、その地域、地域で、自分のところはそういう手間はかけられないけど、実直でおいしいものがあるとか、そのストーリーがスッと通ってないと、やはり、外国人にしても日本人にしても、すぐ、これは偽物だ、これは本物だというのを見分けてしまうでしょう。それが怖いところで。ですから、そういうストーリー性がきちっとあって、それが郷土色にうまく溶け込んでいると大きな魅力になるのでしょうね。
山本 ところで、ビート糖とサトウキビとでは、使い方に違いがありますか。
石鍋 そうですね。ビート糖でしたら、先ほど言った飴の薄いペーパーみたいなのをつくってやれば、それは味覚的よりも、中に入った要素のほうを強く引きだしたりしますし。逆に言ったら、サトウキビみたいなものは、もっとストレートにおもしろさが出てくるような形にしたほうがいいと思います。
 私の経験ではビート糖は、シロップとか、そういうものにしたほうが味か混じりやすいかなと思います。
 ビート糖を使ってもっとおもしろいリキュールを日本でもつくってもいいと思うのです。変な話、いまどき大根の葉っぱは全部捨ててしまうとか、よく宣伝にある「青い麦の何とか」とかやっていますね。ああいうものを、ちょっと醗酵させて搾り出したもので、糖分を加えながらアルコールにしたような、そういったリキュール系のもので栄養価の高い、そういうものをつくり出せるのではないかなとは思っているのですけれども。糖度をかえることによって味にものすごくバラエティを持たせることができると思います。焦げ始めたときに香りがよく出るものと、そうでないものとありますよね。その点からすると、ビート糖のほうはあまり温度を上げないものでできる形のものがいいかなとも思いますけれども。

山本 それから、日本人はお砂糖が減っているというのですが、一方では、ペットボトル症候群というのが問題になっていて。多分ヨーロッパにはそんなことはないと思いますが、アメリカは問題になっているのですね。アメリカの食生活のスタイルというのは、日本に戦後どんどん入ってきていますが、ヨーロッパは違うだろうと思うのですけれども。
石鍋 ヨーロッパはああいうのはあんまり売れないですね。
山本 やっぱり、伝統的な食文化を守っているのでしょうか。
石鍋 小さいときに飲ませないというのがあったのだろうと思います。でも、ここのところ、オレンジジュースにしろ何にしろ、天然果汁100%ならいいじゃないか、みたいな感じで随分飲ませているのかもわからないですけれども、とりあえずは、普通、我々の知っているときには、飲み物というものは、そういう甘いもの系は少なかったですね。
山本 飲み物は何を摂るのですか。飲む量が少ないとおっしゃいましたね。
石鍋 飲む量は少ないですね。そのかわり、大人になると大体、水のかわりに、安いからビール飲んでいたり、あとワインですよね。ワインをそのまま飲む人もいるし、我々の職場では、最初から水で割ってしまって、アルコール度はほとんどなくして。酸味がありますから、喉の潤いがいいのです。それで口の中がスッキリしますので、ワインを割ったものだとか、あと、レモンジュースですね。レモンを搾って、時間のあるときはレモンだとか柑橘系のものとかカリンだとか、こうしたものが出回る時期になると、煮ておいて、それを水で割って、ジョグに入れて飲む。それで、冬だと温かいお湯割りにして飲むとか、という形が多いです。
山本 手をかけ、工夫して。
石鍋 ちょっとかけておけばいい。うちの子なんかにも言うのですけれども、日本のリズムというのは、何でもいっぱいいっぱいまで仕事してしまって余裕がないから、そうしたものに手をかける暇がないという感じですね。
山本 もっとお話をお聞きしたいのですが、時間となってしまいました。フランス料理のことから日本とヨーロッパの食生活、ライフスタイルの違いまで幅広いお話を楽しく聞くことができました。また、砂糖業界に対する御提言も頂け、またとない機会でした。どうもありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いします。
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