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さとうきび側枝ポット苗の生産と栽培のメリット

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[1999年7月]
 さとうきびは、栄養体繁殖性の植物であることから、種苗増殖は、さとうきびの茎をいくつかに切って土に埋め込み、発芽させて行っている。この方式は、手間や設備がかからない反面、増殖倍率が低く、苗の生育も不揃いになりやすい制約があった。
 最近開発された側枝苗方式(生育しているさとうきびの梢頭部を切り取り、各節から出てくる芽を育てていくもの)は、手間と設備を必要とするものの、増殖倍率が高いこと、苗の生育が揃うため機械化しやすいこと、さとうきびの単収も向上することから、脚光を浴びている。


(財)石垣市農業開発組合 参事  入嵩西 正治

1.はじめに  2.側枝苗の増殖  3.育 苗  4.移 植  5.得苗率
6.初期生育における栽培管理  7.側枝苗と茎節苗の収量比較
8.苗生産費及び植え付け料金  9.間作栽培と液状マルチ材の開発
10.さとうきび苗から見たさとうきび総合利用の展望


1.はじめに

 石垣島は、鹿児島から台湾にかけて点々と島々が連らなった琉球弧の1番南の地方に位置し、周年暖かい所である。
 ここに、さとうきびが栽培されてから130余年になる。基幹作物として本格的に栽培されたのは戦後の昭和25年頃からであった。それ以来、石垣島においては、米、パインアップルとともに、さとうきびは主要な農作物であったが、昭和60年頃から肉用素牛生産が盛んになり、単位面積当たりの生産額は平成7年にはさとうきびを上回ることとなった。
 また、葉たばこの生産が急速に伸びた影響もあって、さとうきび作付面積が減少し始めた。
 農家の高齢化が進む中で、対応策としてのさとうきび作の機械化が遅れたために、現在では重労働に耐えられなくなった農家や、将来に展望が持てない若者達がさとうきびから離れつつある。
 さとうきび生産者の高齢化やさとうきび離れの対応策として、さとうきび栽培の機械化と効率化の開発研究がなされ、平成6年に側枝ポット苗が開発され、研究が進められてきた。平成8年度までの側枝苗の開発状況については、平成8年「砂糖類月報5・6月号」の中で報告させてもらいました。同年12月に、この事業が石垣市農業開発組合に移されたので同僚とともに小生も当組合に移籍し、側枝苗の実証事業に携わることとなった。本稿はそれ以後の側枝苗生産及び栽培について報告するものである。

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2.側枝苗の増殖

 現行の茎節切苗による増殖は、切苗を植え付けて出芽した1本の茎の地下節芽からさらに茎を2〜3本分げつさせ、茎数を増やし、1本の茎から4〜6本の切苗(2節苗)にする。このようにして、節芽数を増やすことによって苗を増やし、10aの苗ほから1haを植え付けるのに必要な苗を生産(増殖率10倍)する。
 一方、側枝苗の増殖は、さとうきびの母木の梢頭部を切除することによって腋芽を発生させ、これを側枝に育て、側枝が所定の大きさになったところで摘芯し、さらに側枝の腋芽を発生させる。このように、さとうきびの成長点の切除を繰り返しながら側枝を増殖するものである。母木から発生する側枝を1次側枝と呼び、1次側枝から発生する側枝を2次側枝と呼ぶ。そして、2次側枝から発生する側枝を3次側枝と呼んでいる。こうして1芽から10〜25本の側枝を発生させることで、母木1本から30〜100本の側枝苗を生産することができる。このようなことから、10aの母木ほ場から6haを植え付けるのに必要な苗を生産する(増殖率60倍)ことができる。現在、母木栽培は、主に露地で行っているが、安定生産の面から将来は施設中心で行う予定である。

側枝ポット苗の生産手順(露地栽培)
側枝ポット苗の生産手順


 露地での母木栽培は、灌水設備を有するほ場で、原料茎の栽培と同じ方法で行っている。この場合、除草作業や病害虫の防除作業が多く、また自然災害(台風・潮害)の影響を受けやすい。一方、施設栽培は除草作業や防除作業が少なくてすむことや、自然災害の影響も少ないことから平成9年度から始まった農畜産業振興事業団助成事業の中では、施設栽培による種苗生産も行っている。ここでは、露地、施設別の側枝生産について記述することとする。
(1) 露地栽培による増殖
 石垣島地方は、台風・干ばつの常襲地域であり、農作物の栽培は台風の来ない時期、干ばつのない時期に行われる。また、時期をはずしているにもかかわらず、不幸にも台風や干ばつに遭遇した時でも、被害を少なくするために古来より農家では、同じ作物を一ヵ所で作るのではなく分散して栽培してきた。少ない農家で2ヵ所、多い農家でほ場を10ヵ所にも分散して危険の分散を図っていた。明治の中期以後、さとうきびが栽培されるようになってから作付体系の変化が表われてきた。他作物よりも台風に強いことから夏作物としてさとうきびが栽培されるようになった。側枝苗についても、台風・干ばつ等の災害から危険を分散するため平成10年度は8ヵ所に分散して栽培を行った。
 表1のNo.1、2のほ場は、母木生存率が低く、生産本数が少なかった。砂壌土で灌水施設が無いために干ばつの影響が大きかったためである。No.3、4ほ場は、10月の台風による潮害の影響があった所である。このように露地栽培は、自然災害を受けやすいために災害を少なくする工夫が大切であることを示している。

表1:露地栽培における苗生産量(H10年夏植)
ほ場
No.
品 種 母木生存率
(%)
母木1本当たり
生産本数(本/茎)
10a当たり
生産本数(本/10a)
備考
1
2
3
4
5
6
7
8
NiF 8
NiF 8
NiF 8
NiF 8
Ni 9
Ni 9
Ni 9
Ni 9
60.0
60.2
79.6
70.0
79.1
80.0
98.0
95.0
9.3   
18.3   
23.3   
32.8   
37.7   
38.8   
36.6   
21.5   
42,041   
82,331   
104,729   
147,738   
169,628   
174,687   
164,883   
96,773   
4次苗

3次苗




2次苗
計または平均   73.1 27.1    121,973     
(資料:(財)石垣市農業開発組合から)

 No.1、2ほ場のみで全体栽培をしていたら、植え付けに大きな支障をきたしたと思われる。茎節苗の栽培の場合は、台風によって倒伏すると側枝が発生し利用率が低下する。干ばつに遭遇すると芽が硬化し発芽率が低下する。また、時期が遅れると芽の発芽可能な節数が少なくなり、利用率が著しく低下する。このような茎節苗の短所は、側枝ポット苗によって克服できたが、側枝ポット苗では側枝発生時の潮害が大きいので、その点に注意を要する。台風・干ばつ等の自然災害を避ける手段なら施設栽培をした方が良い。しかしながら、母木としての茎節苗は形態が大きく、また広い面積を必要とするので、ハウスなどの施設で栽培増殖ができなかった。側枝苗から母木養成することで施設栽培が可能となり、側枝苗の安定生産の点から大きな進歩となった。
 表2は、茎節母木からの側枝の増殖を表し、表3は、側枝苗からの母木栽培による側枝増殖を表している。

表2:茎節母木から生産
品 種 ベッド面積
(m2
栽培株数
(株)
母木生産率
(%)
母木数
(茎)
茎当側枝発生数
(本/茎)
採苗率
(%)
生産本数
(本)
NiF 8
Ni 9
48
30
840
525
92.62
93.33
778
490
62.2
55.3
73.17
71.65
35,408
19,415
計及び平均 78 1,365 92.89 1,268 59.7 72.41 54,823
(資料:(財)石垣市農業開発組合から)


表3:苗からの母木栽培による生産
品 種 ベッド面積
(m2
栽培株数
(株)
有効分げつ数
(本/株)
母木生産率
(%)
母木数
(茎)
茎当側枝発生数
(本/茎)
採苗率
(%)
生産本数
(本)
NiF 8
Ni 9
72
84
1,260
1,470
2.0
2.8
87.62
89.33
2,208
3,677
60.2
58.3
78.72
80.52
104,637
172,610
計または平均 156 2,730 2.43 88.71 5,885 59.0 79.84 277,247
(資料:(財)石垣市農業開発組合から)

(2) 施設栽培による増殖
施設栽培4次側枝発生状態  さとうきびのような大型の作物を施設内栽培するには施設内で栽培できる大きさにする必要がある。側枝生産をハウスで栽培することは新しい試みであり、施設での母木栽培及び増殖を行うには、 a)10〜20節を有する茎節母木を挿し植えし、これから側枝を発生させる方法と、 b)側枝苗から母木を育てこれから分げつさせ10〜22節位で梢頭部を切除し側枝を発生させる方法がある。茎節母木を用いる場合は、側枝増殖だけなので短期間での生産ができる。
茎節母木栽培による増殖施設栽培  側枝苗から母木を養成する場合は、母木の分げつ増殖と側枝の増殖が行われるので、茎節母木に比べ3〜5倍増殖率が高い。しかし、生産期間は母木の養成期間がかかるため、茎節母木利用より6〜7ヵ月程長くかかる。施設栽培の利点は露地栽培に比べ、母木の枯死が少ない。また、1次側枝、2次側枝、3次側枝と生産が進むにつれ露地に比べ側枝増殖率が高くなる。さらに1番の長所は、前述の露地での台風・干ばつの影響が極めて小さいことである。
 それから短所というよりまださとうきびの施設栽培(養液・床土)の技術が確立していない点がある。例えば、母木の養成期間が長いため、養分の濃度変化推移や露地に比べ側枝が徒長しているので、切除位置が個体間での差が大きく、側枝の切除技術確立等の課題がある。

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3.育 苗

 現行のさとうきび茎節苗育苗作業は、側枝ポット苗でいう母木養成の作業に当たる。側枝ポット苗は、この母木からさらに側枝を多数発生させるものであるが、側枝ポット苗での育苗作業は、母木からの側枝集合体の採取、集合体側枝の切り取り、側枝の大きさの選別・消毒・培地の篩(ふるい)分け・土詰め・挿芽、そして、ミスト散布、順化である。これは園芸作物の育苗と同じ作業である。側枝ポット苗の育苗作業は、従来の茎節切苗でいうと調苗作業と対比した方が分かりやすいと思われる。
 茎節切苗でいうと、調苗は基部を切り取り梢頭部を切除し枯葉を剥葉(はくよう)し、2〜3節(長さ25〜35cm)に切断し消毒を行い、袋詰め(箱詰め)する。あるいは、全茎のプランター植え付けでは、梢頭部を切除し剥葉し消毒せずに束ねる。茎節切苗での調苗作業は、重労働である。また、苗の基本である芽の損傷率が大きく、これが発芽率の低下の要因になっている。
 側枝ポット苗の利点は、発芽した健全な苗がほ場で植え付け可能なため、欠株への対処が早くできる。揃った苗を作ることができるのでほ場での作業効率が良い。
 また、茎節切苗の植え付け時期は、雨が多く、調苗したものの雨天のため植え付けができなくて、時期が遅れ苗の老化や枯死があったり、あるいは芽が出たり、根が伸び出して植え付けできなくなり、苗が無駄になるケースが多い点が悩みの種である。
育苗風景(ミスト育苗)  側枝ポット苗では、こうした苗の無駄がないのが大きな利点である。それから、軽作業で生産できるのも利点である。力仕事でないから子供から年輩者の方まで作業が可能であること、そして涼しい作業場で集約的に作業ができる。しかしその反面、側枝ポット苗生産で1番多くの人力を必要とするのが育苗作業であり、短所もここにある。それ故に、現在これらの手作業を機械化しようと試みているところである。平成9年度の事業から側枝ポット苗生産の育苗自動化機械の開発を進め、側枝ポット苗生産の機械化が現実化されることがみえてきた。これは大きな前進である。
 表4は、平成10年夏植えでの発根率を表したものである。1葉以外は、90%以上の発根率を示しており、全体では97%以上に達している。表5は、平成7年度から10年度までの推移を示しているもので、台風による潮害を受けた平成9年度を除いては90%以上に安定してきた。発根率は、日照量と育苗温度が大きく影響し、また、ミストの仕方でも影響する。この発根率を高くすることで経済性が生まれるのは言うまでもない。

表4:挿穂発根率(平成10年夏植え)
月 別 品 種 1 葉
(%)
2 葉
(%)
3 葉
(%)
4 葉
(%)
5 葉
(%)

(%)
9 月 NiF 8
Ni 9
F 161
91.14
84.11
96.99
98.83
91.14
97.35
99.16
98.66
98.66
99.33
100.00
98.11
100.00
98.66
98.11
97.69
91.37
97.73
注:8月挿穂 (資料:(財)石垣市農業開発組合から)


表5:発根率推移
  H 7
(%)
H 8
(%)
H 9
(%)
H 10
(%)
夏植え
春植え
90.80
97.80
92.54
78.30
79.94
97.73
83.26
平 均 90.80 95.83 78.75 90.65
(資料:(財)石垣市農業開発組合から)


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4.移 植

 現行の茎節切苗の植え付けは、植え付け前に深い溝を作り茎切苗を溝底に芽を上向きか、横向きにして置き2〜3cm程覆土をする方法である。
 手作業で植え付けしていた頃は発芽しやすいように上向きか、横向きに丁寧に置いたことから発芽率が高かった(80〜90%)。しかし、機械(オーストラリア型)植え付けになった今は、投入される茎節切苗の芽の向きが下向きになったり覆土が厚かったりして発芽率が60〜65%となってしまった。これを、補うために茎節切苗を従来の手作業(2,400本/10a)より多量(3,000〜3,500本/10a)に投入するようになったが、まだ発芽率の改善には至っていない。
3条移植機による植付風景  側枝ポット苗開発の始まりは、欠株を少なくすることを目的としていたが、側枝ポット苗は発根した苗を移植するのであるから整地が均一に砕土され、適度な土壌水分があるほ場であれば活着率は高くなる。「移植苗は干ばつに弱い」とか、「灌水施設のない所ではだめだ」とよく言われるが、茎節切苗でも干ばつ時期に植え付ける農家はいないのである。側枝ポット苗は、干ばつ時でも4〜5日では枯死することはない。その間に灌水すればよいのである。平成10年の夏植えを8月の干ばつの最中に灌水施設のあるほ場で移植を行ったら、農家から「側枝ポット苗は、干ばつでも植え付けができるシステム」と言われたことは注目すべき農家の反応であった。灌水施設のある地域によっては、農家の要望が急速に増加している。
 表6は、年度別夏植え活着率の推移を示している。移植面積が毎年3倍ずつ増加しているのは、ほ場での活着率が安定しているため、農家からの信頼度が高くなっていることを反映したものと思われる。

表6:年度別夏植活着率の推移
項 目 平成7年夏植 平成8年夏植 平成9年夏植 平成10年夏植
植付時期 10/30〜11/3 9/10〜11/8 8/21〜10/5 8/15〜12/30
品種比
(%)
NiF 8
Ni 9
50
50
60
40
70
30
30
70
移植面積(a) 176 706 2,480 7,965
調査本数(本) 3,217 12,318 12,852 61,558
欠株本数(本) 378 737 1,028 4,732
活着率(%) 88.25 94.02 92.00 92.31
(資料:(財)石垣市農業開発組合から)


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5.得苗率

 母木から側枝を採取し、苗として仕立て、ほ場に移植し株に成長した苗の割合を得苗率と呼んでいる。側枝ポット苗の生産過程にはそれぞれ作業ごとの効果を率で表しており、母木から増殖作業による採穂率、採取した挿穂に発根させた育苗率、また苗をほ場に移植した活着率として表している。それぞれの生産過程で効率を良くすることが苗の価格を安価にすることにつながるため、次のように記述する。
(1) 採穂率
 母木で増殖した1葉は発根率が悪く、また、5葉は分けつが悪いので有効穂木とはみなさず、また機械移植できる側枝ポット苗を有効苗とし、2、3及び4葉を有する側枝を有効側枝と定めている。それで、採取した側枝数に対する有効側枝(2、3、4葉)の割合を採穂率として表している。
 表7は、露地栽培で生産された側枝葉数別割合、表9は、露地栽培と施設栽培での実績である。
 なお、採穂率は採取時期によって大きく影響されるので、2、3及び4葉の数量が多い時期を見計らって採穂する。

表7:生産側枝葉数別割合(露地栽培)
(平成10年度夏植苗)
月 別 1 葉
(本)
2 葉
(本)
3 葉
(本)
4 葉
(本)
5 葉
(本)

(本)
7
8
9
10
11
12
47,242
124,552
110,298
65,472
60,720
19,272
74,750
253,238
302,630
308,616
245,256
72,072
101,660
313,130
315,878
293,568
250,536
59,928
33,189
144,868
105,330
64,416
39,600
10,824
5,681
26,520
28,531
16,324
8,624
4,928
262,522
862,308
862,667
748,396
604,736
167,024
427,556 1,256,562 1,334,700 398,227 90,608 3,507,653
割合(%) 12.19 35.82 38.05 11.35 2.59 100
注:NiF 8号、Ni 9号の合計である。 (資料:(財)石垣市農業開発組合から)


表8:側枝葉数別割合(施設栽培)
品 種 別 1 葉
(本)
2 葉
(本)
3 葉
(本)
4 葉
(本)
5 葉
(本)

(本)
NiF 8
Ni 9
2,904
2,640
8,448
7,656
10,296
9,504
7,656
8,976
6,776
7,700
36,080
36,476

割合(%)
5,544
7.64
16,104
22.20
19,800
27.29
16,632
22.92
14,476
19.95
72,556
100
(資料:(財)石垣市農業開発組合から)


表9:採穂率の露地栽培と施設栽培での実績
  2 葉 3 葉 4 葉 採穂率
露 地
施 設
35.82
22.20
38.05
27.09
11.35
22.92
85.22
72.41
(資料:(財)石垣市農業開発組合から)


(2) 育苗率
 育苗率は、挿芽した数に対する挿穂を発根させ、ほ場に移植できる苗の割合を表している。
(3) 活着率
 活着率は、ほ場に移植した本数に対する生育本数の割合で表している。整地を十分行うこと、移植ポットを土に十分に密着させること、移植前に充分に水を含ませることが大切であるが、表10ではこれらのことが農家に知られてきた結果と思われる。
 夏植えには少々不安定さがあるが、春植えでは安定した活着率になっている。

表10:圃場活着率の推移
  H7 H8 H9 H10
(a)(%) (a)(%) (a)(%) (a)(%)
夏植え 25688.25 70694.02 2.48287.06 7.96592.33
春植え 26697.64 1.49195.21 2.50 93.07
(資料:(財)石垣市農業開発組合から)


(4) 得苗率
 採穂率に育苗率、活着率を乗じた数値を得苗率と呼んでいる。表11は、平成7年度から10年度までの推移を示したものである。
 得苗率が平成7年の56.39%から平成10年に75.82%に上昇したのは、大きな改善である。採穂率、育苗率、活着率とも上昇したために、全体として得苗率が高くなった。しかし、得苗率に現れない課題として、母木1本当たりの増殖本数を増やすことが必要である。

表11:得苗率推移
  H7
(%)
H8
(%)
H9
(%)
H10
(%)
採穂率 70.37 75.16 78.42 85.22
育苗率 90.80 95.83 78.75 95.60
活着率 88.25 95.01 90.10 93.07
得苗率 56.39 68.43 55.64 75.82
(資料:(財)石垣市農業開発組合から)
注:育苗率には、作業中の枯死等が含まれる。


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6.初期生育における栽培管理

 さとうきび栽培は、茎節切苗を植え付けているが、これが側枝ポット苗に変わるとどうしてよいものか分からないものである。茎節切苗では覆土し、除草剤を散布し、発芽を待って施肥中耕した。側枝ポット苗では移植すると、青々した苗が生えている。こんな光景は初めてみるのであるから農家は手入れの仕方に戸惑ってしまう。
 栽培マニュアルがあっても作業に自信を持つことができないのが当然であるかもしれない。そこで、茎節切苗での栽培との違いについて記述する。
(1) 移植及び中耕
株の分げつ状態  さとうきびは、分げつ期に雑草の繁茂を抑えることが分げつを多くし株を揃えることになる。施肥を十分に行うと同時に、雑草を生やさないことが大切である。そのためには植え付け時にペーパーポットの上端を1〜2cm程出し植え込むようにする。そして、雑草の葉が2〜4葉以内の頃に施肥し中耕する。畦を崩しながら雑草を土で覆いペーパーポットの上端が少し覆る程度に土寄せする。
 このようにして、分げつの発生を容易にしながら雑草の繁茂を防止する。雨天が続きほ場に入れない時には、雑草の葉数が2〜4葉までに適量の除草剤を散布すれば除草は十分である。
(2) 灌 水
 さとうきび側枝ポット苗の移植に使用しているペーパーポットは、日本甜菜製糖(株)製No.2-264(3×10)を使用しており、干ばつ時でも十分に水を含ませて移植すれば4〜5日は枯死することはない。その間に灌水すれば十分活着する。春植えにおいて、石垣島では灌水施設のない所でも植え付けが進んでいる。灌水はポット苗植え付けだけの問題ではなく、茎節切苗でも同じことであり、灌水によって発芽も良くなり成長も早くなる。
(3) 病害虫防除
 側枝ポット苗は、メイ虫やハリガネ虫に弱いということを聞かされる。側枝ポット苗は、成長が早いので害虫が集まりやすいと考えるが、対策としては植え付け時に農薬(エカチン、オンコル)を散布することで防止できる。

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7.側枝苗と茎節苗の収量比較

 苗の増殖倍率や活着率の高いことは、農家にとって大切なことであるが、最終的に関心が高いのは単位収量である。4戸のさとうきび生産農家で同じほ場で側枝ポット苗と茎節切苗の栽培を行い収量比較したのが表12である。収穫作業はいずれのほ場もハーベスタで行った。収量は側枝ポット苗で植えたほ場区が多く茎節切苗に比べ10a当たり1.6〜2tの増収であった。単位収量の差は欠株数が少ないことと、茎の大きさ、長さが揃っていることが大きな要因と考えられる。

表12:側枝苗・茎節苗との収量比較
側 枝 苗
項 目
(農家)
植付月日 品 種 面 積
(a)
単 収
(kg/10a)
甘しゃ糖度
(%)
A
B
C
D
H. 8. 9.17
H. 8. 9.18
H. 8.10.24
H. 9. 9.19
NiF 8
NiF 8
NiF 8
NiF 8
40
40
60
80
9,664
9,485
9,558
9,565
16.0
13.4
14.8
12.8

茎 節 苗
項 目
(農家)
植付月日 品 種 面 積
(a)
単 収
(kg/10a)
甘しゃ糖度
(%)
A
B
C
D
H. 8. 9. 9
H. 8. 9.15
H. 8.10. 7
H. 9. 9.19
NiF 8
NiF 8
NiF 8
NiF 8
40
167
20
86
7,961
7,885
7,417
7,327
16.0
13.9
14.0
12.1
(資料:(財)石垣市農業開発組合から)
注:ABCについては、沖縄県農業試験場八重山支場の数字。
  Dについては、八重山地区糖業技術連絡協議会の数字。

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8.苗生産費及び植え付け料金

 さとうきびは、他の作物が購入種子が主であるのに対して、自家採種であるため、直接比較することはできないが、他作物の生産額に対する種苗代の割合は、石垣島ではさとうきびが6〜8%であるのに対して、水稲・ジャガイモを除いてほとんどの作物が1〜5%程である。また、生産費に占める苗代の割合も、石垣島ではさとうきびが10〜12%であるのに対し、水稲・ジャガイモを除いてほとんどの作物が4〜8%である。さとうきび栽培における農作業が将来受委託方式に進むとしたら、これら作物との比較、検討をすることも大切になってくる。表13は、さとうきび側枝ポット苗と茎節切苗の価格及び植え付け料金の比較を示している。側枝ポット苗利用は、従来の茎節切苗利用より安くできる見通しが立ってきた。しかし、さとうきびの魅力は、他作物との結合を考えながら安い生産費にすることが必要であろうと思われる。

表13:側枝苗と茎節苗(チョッピングタイプ)の価格及び植え付け料金(石垣市の例)
料 金
項 目
側枝苗 茎節苗
10a当たり
(円/10a)
1本当たり
(円/本)
備 考 10a当たり
(円/10a)
1本当たり
(円/本)
母 木
苗 代
調 苗
詰 込(袋詰)
増 殖
育 苗
材 料
順 化
2,208



6,768
12,720
2,560
360
0.92



2.82
5.30
1.10
0.15
母木利用率 80%



30〜50本/茎70%
14〜20日  90%

3〜10日

11,664
12,000
2,448




4.86
5.00
1.02



(1)苗 代 24,616 10.29   26,112 10.88
 運 搬
 移 植
504
7,496
0.21
3.19
 
95%
670
7,983
0.28
3.33
(2)植付料金 8,000 3.40   8,653 3.61
(1)+(2)合計 32,616 13.69   34,765 14.49
(資料:(財)石垣市農業開発組合から)

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9.間作栽培と液状マルチ材の開発

 側枝ポット苗の開発は、さとうきびの収量の向上を図るために行ったのであるが、苗の保存、植え付け作業等の軽減化をもたらす。さらには側枝ポット苗の開発によって間作が導入されるとともに、雑草対策として液状マルチも開発されるようになった。
(1) 間作の実地
 さとうきび側枝ポット苗による栽培において、さとうきびの形質を利用し間作を行うことによってほ場の有効利用をし、単位面積当たりの生産額を上げることを考え、作業の機械化を含めさとうきびを中心とした間作が進められつつある。
 さとうきびを中心とする間作は、さとうきびの収量は減らさずに間作で野菜や大豆・落花生・里芋等の作物を栽培しようというものである。間作が側枝ポット苗で行うことが可能になったのは、さとうきびの成長が揃っていること、また二条寄せ植えしても株もとに土寄せができるから、間作において機械化ができる条件が整ったのである。そして、さとうきびの収穫作業が省力化される見通しが見えてきた。
(2) 液状マルチの開発
 側枝苗の初期生育段階において、除草剤が使用できず除草が問題であることから、マルチングを考えているうちにさとうきびの枯葉やバカス(サトウキビの搾りカス)、古紙の繊維を液状にして、畦間に流し込めば、乾くとフィルムができ雑草防除になるのではないかと考えた。これを実際に試してみたところかなり有効であった。現在、マルチの実用化に向けてメーカーとほ場テストを重ねているところである。液状マルチは、除草効果だけではなく、土壌水分蒸散防止、土壌流失防止、さらには土壌中で分解して堆肥の役目をする。また、畑の土壌の流失防止だけでなく、土木工事での赤土流失防止に有効であるため関係者の注目を集めている。このように側枝ポット苗を開発し、これを実用化する中で、側枝ポット苗の欠点を補い、長所を活かし展開していると農作業で困っていることが、浮き彫りにされ、これらを課題として開発が行われてきた。幸いにして、これらの課題を解決する方法は常に身近にあることを学んだのである。

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10.さとうきび苗から見たさとうきび総合利用の展望

 さとうきびは砂糖の原料作物であるから砂糖を製造することは当然であるが、さとうきびは砂糖以外の有用成分も有している。製糖期における製糖副産物から砂糖以外の利用可能な産物は、バカスからはパルプ、フルフラール、αセルロース、キシラン、プラスチック等ができ、糖蜜からはアルコール類等の発酵製品、またグルタミン酸ソーダ等の調味料ができる。さとうきびは、生育段階の成分を利用する方法もある。さとうきびは、基部から上に向かって蔗令に従って糖を蓄積していく。上部5〜7節位は常に成長のために低濃度の糖を維持している。同時にワックスも成長する過程で生産している。砂糖とそれ以外の有用な成分をさとうきびの成育過程で製造することもできると思われる。さとうきびを生育過程において総合利用を行い、製造すれば、さとうきびは周年原料化され周年製造ができる。さとうきびが持つ全素材を製品化し、畜産、園芸等、他の産業に利用すれば関連波及が広がると思う。さとうきびの登熟の要因は、蔗令と低温、乾燥である。それ故、これらの条件を1つでも可能にすれば登熟の進みを調整し、そのことでまた他の成分も生成される。このことから側枝ポット苗は、周年植え付けが可能であるからさとうきびの生育に合わせ植え付ければ、さとうきびの生育につれ有効成分が生成され、その製造ができる可能性があるように思われる。島の資源は太陽光と水と有機物である。さとうきびはC4植物だから太陽光を有機物に生成する力が一番大きな作物である。小さな島々では、島外から資材を持ち込んで生産物を製品化できるものではない。島の資源を結合させ、サイクル化することで価値が生まれるものと思われる。さとうきびの輪間作を行うことによって、さとうきびの素材を含め製糖副産物を総合利用し、他の作物と組み合わせることが作物結合の要になると思われる。そのための基本的なところに側枝ポット苗があるように思われる。

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●1999年7月 大正土壌診断プロジェクトチームの活動
(酸性土壌改善策の一環として)

  大正土壌診断プロジェクトチーム事務局
  帯広大正農業協同組合営農振興部営農振興課 鳥居祐児
さとうきび側枝ポット苗の生産と栽培のメリット
  (財)石垣市農業開発組合 参事 入嵩西正治
種苗管理センター鹿児島農場における
さとうきび原原種の生産・配布について

  種苗管理センター鹿児島農場 業務部長 前園光男
●1999年6月 砂糖―愛されるが故に嫌われ、
甘いが故に苦い評判の不思議

  群馬大学教育学部家政教育講座教授 高橋久仁子
ソースについて
  (社)日本ソース工業会 参与 岡部勝雄


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