[1999年12月]
最近、若い女性のダイエット志向によって低甘味嗜好が広まり、砂糖消費に少なからず影響を与えているものと思われます。しかし、彼女たちは低糖や無糖商品をどのような理由で購入しているのでしょうか、砂糖等の甘味料に対してどれだけの知識を持っているのでしょうか。こうした女子学生の低糖及び無糖商品の購入状況や意識についてのアンケートが行われましたので、その集計結果について報告していただきました。砂糖の原料を完全に理解している学生は25%程度しかいないという驚くべき結果が出たようです。
滋賀大学名誉教授
金城学院大学講師 岡部 昭二
はじめに
前回は、「砂糖類情報」'98年12月号で、一般消費者(女性)、女子学生及び男子学生について、「飲料」と「砂糖」に関するアンケート結果を報告しました。それにより、大変興味のあることが分かりました。例えば、「市販の飲料で良く飲まれるものベスト5」を見ますと、一般消費者で第1位の「牛乳」は、女子学生では第4位ですが、男子学生では第5位までに入っていないのです。また、男子学生の第1位である「糖入りの紅茶飲料」は、女子学生では第3位、一般消費者は第5位までに入っていないのです。その他の点でも、一般消費者と男子学生とでは嗜好に大きな差があり、女子学生はその間になっていることが分かりました。また、一般消費者や男子学生より女子学生の方が、TVコマーシャルの肥満(カロリー)についての情報に敏感であると思われます。最近、キシリトールを使用した商品で下痢をしたことが新聞に載っていましたが、何かと低糖・無糖商品が話題になるこの頃です。
そこで、今回は女子学生が低糖・無糖商品について、どの程度の知識を持ち、また、どの程度日常購入しているかを明らかにすること。次に、紅茶やコーヒーに砂糖を入れる人と入れない人とどちらが多いか。さらに、砂糖を入れない人はどのような理由で入れないのか。最後に砂糖の原料を正しく理解している学生はどの程度いるか。砂糖を入れる女子学生の方が砂糖の原料を良く知っているのではないか、を検証する目的で調査しました。
対象・調査期間
調査対象は、金城学院大学1〜3年の家政学部、文学部及び現代文化学部の学生349名です。実施期間は1999年4月下旬でした。したがって、調査対象者の年齢は、ほとんどが18歳〜20歳です。
アンケート結果とその考察
◎低糖・無糖商品について
1.低糖及び無糖のそれぞれの定義について知っていましたか。
低糖については「知っていた」が4.0%、無糖については「知っていた」が6.9%で、いずれも高いとは言えませんが、別に定義を知らなくても、日常、購入する際に困ることが無いからでしょう。
2.通常の商品と低糖・無糖商品のどちらを購入していますか。〔図1〕
「通常の商品」が11.2%、「低糖・無糖商品」が39.2%、「きめていない」が49.6%でほぼ半数でした。世間では、低糖・無糖が好まれ、「売れる飲料は限りなく水に近い」とまで言われているこの頃ですが、女子学生の実態は、低糖・無糖商品をそれほど意識して購入しているわけではないと考えられます。
次に、低糖・無糖商品を購入すると回答した131名(全体の39.2%)に聞いてみました。(以下、2-5まで)
2-1 購入した低糖・無糖商品の例について
キシリトールを使用したガムを挙げる人が一番多く、マンニトールやフェニルアラニン化合物(アスパルテーム)使用のガム、エリスリトール使用のスポーツ飲料、キシリトール使用の紅茶飲料、フェニルアラニン化合物使用のコーラ類、エリスリトールやステビア使用のその他の清涼飲料水、パラチノース使用のやアイスクリーム類など購入者のほぼ全員が記入していました。
2-2 低糖・無糖商品を買う理由について(複数回答)〔図2〕
「肥満(カロリー)を気にしているから」が86.9%(全体の34.1%)で圧倒的に多く、次は「低糖・無糖商品の方がおいしいから」が13.9%(全体の5.4%)、次は「砂糖入り商品は、糖尿病になると思うから」が10.9%(全体の4.3%)でした。なお、最低は「砂糖は漂白されていると思うから」で0.7%(全体の0.3%)、次に少なかったのは「骨を弱くすると思うから」で5.8%(全体の2.3%)でした。「砂糖は漂白されている」とか「骨を弱くする」という砂糖について誤解している回答が極めて少なかったことは、女子学生の多くは、砂糖について極端に間違った知識は持っていないということになると思います。
2-3 低糖・無糖商品はどこで買いましたか。(複数回答)
1位コンビニ90.5%(全体の35.5%)、2位スーパー65.0%(全体の25.5%)、3位自販機32.8%(全体の12.9%)。コンビニをよく利用していることはよく分かりますが、複数回答であるにもかかわらず自販機が少ないのは意外でした。
図2 低糖・無糖商品を購入した理由は何ですか。
(アンケート2-2)
2-4 低糖・無糖の商品は通常の商品と比較してどちらがおいしく感じましたか。〔図3〕
図3 どちらがおいしく感じましたか。 (アンケート2-4) |
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「どちらともいえない」が64.2%(全体の25.2%)、「低糖・無糖商品」が20.4%(全体の8.0%)、「通常の商品」が14.6%(全体の5.7%)で、「どちらともいえない」が多かった。しかし、低糖・無糖商品を買う理由として、2-2の「低糖・無糖の商品のほうがおいしいから」の13.9%より、同様の「低糖・無糖商品のほうがおいしく感じる」という回答が20.4%で、6.5%も上回っているのは、先の設問の選択肢が多く、低糖・無糖商品を購入する主な原因は他にあったためだと思われます。
2-5 低糖・無糖商品を摂取した後、体調への影響はありましたか。
「なかった」62.0%、「分からない」21.2%、「あった」10.9%の順でした。「なかった」が半数を超えていますが、「あった」の回答も1割はありました。症状の内容は、「気持ちが悪くなった」はごく少数で、「下痢をした」、「便が緩くなった」、「便が快調になった」などいずれも腸の働きに関するものでした。
次に、通常の商品を購入していると回答した39名(全体の11.2%)に聞いてみました。
2-6 低糖・無糖ではなく通常の商品を購入する理由について
この回答は様々でした。代表的なものを少し挙げますと、「1、2回買ったことはあるが、おいしくないので、わざわざ金を払ってまで購入する必要はない。それに私は甘党だから」、「低糖・無糖商品の味がおいしくないから」、「低糖・無糖も買うことがあるが、味が気に入らないことが多いから」、「気に入った商品がないから」、「糖類が少なくなっている分、別の物質で甘さを出していると思われるが、その正体が分からないから」、「人体に有害な甘味料が入っている可能性があるので、自然食品しか食べないから」、「気にしないから」、「あまり関心が無いから」、「別に理由はない」等でした。なお、回答数の多いのは低糖・無糖の味が不満足というのと、甘い物・砂糖が好きだからでほぼ同数でした。
◎コーヒー、紅茶と砂糖について
3.コーヒーや紅茶を飲みますか。
94.8%(331名)が「飲む」と答え、4.9%(17名)が「飲まない」と答えました。1名は無回答でした。
3-1 カップ1杯のコーヒーや紅茶に砂糖を入れて飲みますか。〔表1〕
砂糖を入れる人は46.5%(154名)、何も入れない人は48.0%(159名)でほぼ同数でした。その他としては、「入れる時と入れない時がある」、「たまに気分的にスプーン1杯程度」、「紅茶には入れないが、コーヒーは苦いので甘くなるまで入れる」というケースバイケースというべきものの他、「牛乳」、「クリープ」という砂糖以外のものを入れる、の2つに分かれました。前者は量的な程度の差こそあれ、砂糖を入れると入れないの中間に位置しますが、後者は砂糖を入れないというものです。
次に、「砂糖ではない甘味料を入れる」と回答した0.9%(3名)に、その甘味料の名を聞いたところ、「アルパルテーム」だけでした。
表1:カップ1杯のコーヒーや紅茶に砂糖を入れて飲みますか? (アンケート3-1) |
| 2杯以上 | 約1杯半 | 1杯 | 1杯未満 | 量は分か らない | 砂糖でない 甘味料を 入れる | 何も 入れない | その他 | 計 |
人数(名) | 24 | 32 | 60 | 24 | 14 | 3 | 159 | 15 | 331 |
比率(%) | 7.3 | 9.7 | 18.1 | 7.3 | 4.2 | 0.9 | 48.0 | 4.5 | 100 |
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3-2 コーヒーや紅茶に「何も入れない」理由について(複数回答)〔図4〕
コーヒーや紅茶に砂糖を入れない人を100%としたときは、「入れない方が風味が良い」が極めて多く83.6%に達しました。次が「肥満(カロリー)を気にしているから」が37.1%、次いで「その他」が10.7%、他はすべて4.4%以下でした。「その他」の具体的内容は、「何か入れると甘ったるくなるから」、「入れないほうがおいしいから」、「甘いのが嫌いだから」など「入れないほうが風味が良い」と重複して回答している人が多く見受けられましたが、単独回答もありました。
砂糖には、コーヒーや紅茶の苦味や渋味を和らげてまろやかにする作用があると考えられますが、この回答結果からは、砂糖を入れない人のうちかなりの人はコーヒーや紅茶の苦味や渋味をそのまま味わいたいと考えていることが分かります。
図4 コーヒーや紅茶に砂糖を入れない理由は何ですか。
(アンケート3-2)
◎砂糖の原料について
4.砂糖の原料は何でしょうか。(複数回答)〔図5〕
「さとうきび」と答えた人が94.8%で圧倒的に多く、「てん菜(ビート)」37.5%、「化学調味料」15.2%、「甘草」10.6%の順で、以下は1.5%未満でした。なお、「石油」と回答した者も0.3%あり、砂糖に関する正しい情報が少ないためと思われました。
次に、「さとうきび」と「てん菜(ビート)」の2つだけを選んだ者を完全正解とし、「さとうきび」だけまたは「てん菜(ビート)」だけを選んだ人を正解、それ以外はすべて誤答とし、コーヒーや紅茶に砂糖を入れる人のほうが、入れない人に比べて原料についての正解者が多いのではと期待して集計しましたが、結果は、完全正解、正解、誤答のいずれもほとんど差はありませんでした。〔表2〕
図5 砂糖の原料は何でしょうか。
(アンケート4)
表2:砂糖の原料についての回答と「砂糖を入れる、入れない」との関係 |
砂糖の原料についての回答 | コーヒー等に砂糖を入れる | コーヒー等に砂糖を入れない |
さとうきびとてん菜の 2つだけを回答 |
33名(21.4%) |
48名(30.2%) |
さとうきびだけを回答 |
72名(46.8%) |
67名(42.1%) |
てん菜だけを回答 |
3名(1.9%) |
1名(0.6%) |
誤答 |
46名(29.9%) |
33名(27.1%) |
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おわりに
本調査の最後の設問は「砂糖の原料」を選択肢の中から選ぶものでしたが、回答として「化学調味料」がほぼ7人に1人もあったことは全く予想もできないことでした。そこで、「化学調味料」を選んだ理由についての再調査を実施した結果、学生の誤答の原因について知ることができましたので、以下にその代表的な例を示します。
「今のお菓子やジュースには合成甘味料が多く使用されている。甘い=合成甘味料と思った」、「調味料といわれたら、今の時代、ほとんど化学調味料だから」、「砂糖は食塩のようにいろいろの作り方ができると思い、化学的な作り方もあると思った」、「まさか植物からあんなに甘いまっ白な物がとれると思わなかった」、「今は科学が発達しているからどんなものでも人工的に作られると思った」、「昔はさとうきびなど自然からとっていたけれど手間がかかるし、味は作れると思った」、「砂糖としてできるまでの工程が複雑だから」、「砂糖を作る過程がよく分からないし、調味料はすべて化学調味料だと思っていた」、「白い結晶状の粉末で人工的に見えたから」、「砂糖不使用という表示から添加物のようなイメージを持った」、「砂糖は人工甘味料の1つと考えた」、「白い砂糖は人工的、例えば、石油から作られたという話を聞いたことがある」、「スーパーで買ってくるような砂糖はからだに悪影響があると聞いたことがあるから、自然の植物を原料とせず、化学調味料と考えた」。誤答の理由としてこれだけ多様なものがあったとは驚くばかりでした。
それにしても、誤答の理由を知って、今の学生に対し、自己の好む学科だけでなく、自然科学をはじめとする豊かな幅広い教養を身につけてもらいたいと切に感じました。