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飴と砂糖の話

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[1999年12月]
 飴と砂糖は古来から密接な関係があり、現在も製造用に約14万トンの砂糖が使用されているといわれています。飴は緊急時に必要なエネルギーを補給する上で最適な食品です。砂糖類をたくさん含んだは、大震災などの非常時には保存性がある点からも重要です。また、甘い玉は、疲れた体と心を癒してくれる緊急食料として十分に効果を発揮してくれることでしょう。
 こうしたの歴史、種類、製造方法及び業界の現状などについて、砂糖との関係を中心に執筆していただきました。

全国飴菓子工業協同組合
理事長  中西 信雄


はじめに
●飴の歴史   ●飴の種類   ●飴の製造
●製造業と砂糖の現状   ●飴と砂糖の将来
参考資料


はじめに

 幼少のころ、小さくて固い「あめ玉」を口に含ませてもらった記憶は、誰にもあると思います。甘味類が不足気味であった時代に育ったわれわれにとって、いくつになっても、小さな「あめ玉」の思い出は、忘れがたいものがあります。他の甘味類と違い、甘さを長い間味わえるということが、飴の最大の特徴であり、それゆえ、多くの人に愛されてきたのだと思います。飴の歴史は、1,000年以上さかのぼりますが、今日では、主原料は、砂糖と水飴です。砂糖は飴にとって、最大のパートナーであり、これからも、そうあり続けるでしょう。

飴の歴史

 日本における飴の歴史は、古代にまでさかのぼるといわれています。飴は、「あまずら」とともに、古くから日本に伝わる甘味料といわれ、主にお供え用に使用されていました。「飴」または「糖」と書いて「あめ」と読みました。甘味料としては、砂糖や蜂蜜よりも歴史は古く、『日本書記』にもそのような飴に関する記述があるようです。
注:あまずら(甘蔦)=蔦(つた)の一種。切り刻んで滴下した液を煮詰めて、甘味料として使われていた。
 平安時代には、既に、飴が市販されていたことを示す記録があります。室町時代に入ると、飴の行商が始まり、糖粽(とうそう)(飴色をした、もち米のちまき)や地黄煎(ぢおうせん)(地黄の根や茎を加えた飴)が売られていたようです。
 江戸時代に入ると、今でいうところの「ブランド」飴が出現するようになりました。京都、東福寺門前の「菊一文字屋」、大阪の「平野あめ」が有名どころで、これが江戸に伝わり、「下りあめ」と称されるようになったといわれています。江戸に伝わった飴は、庶民の甘味料として定着するとともに、独自の発展を遂げました。元禄、宝永の頃(1688-1711年)、浅草では「千歳飴」が、売られていたという記録があるようです。飴の種類も増え、縁日などでも細工飴が売られるようになりました。
 当時、庶民のための甘味類は限られており、その中で飴は、特に、庶民の子供たちに人気がありました。奇抜な格好をして、歌いながらを売り歩く、「あめ売り」が評判になったといわれ、「土平あめ」のあめ売り、「唐人あめ売り」などが、良く知られていました。こうしたあめ売りは、近代に入ってからも、明治期から昭和初期まで続き、記憶にある方もいらっしゃると思います。
 飴の歴史は、古くからの水飴から固形飴へと発達する過程といえますが、江戸時代に入り、砂糖が一部で使われるようになってくると、水飴にこれらを加えた加工飴が製造されるようになりました。求肥(ぎゅうひ)飴、翁(おきな)飴、有平糖(あるへいとう)(現在の、ベッコウ飴などの、いわゆるあめ玉の直接の原型は、この有平糖にあたります)などが有名です。また、黒砂糖を使用した加工飴としては、黒糖飴を挙げることができます。これは、水飴に黒砂糖を加え、炊き上げ、練り固めたものです。それに、さらに気泡を入れるなどの加工をしたものとして、「どんぐり飴」、「茶玉」などと呼ばれるものがあります。これら、黒砂糖系の飴は、製造に長年の熟練と勘を必要とするため、一般的に、大量生産には、不向きといわれています。

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飴の種類

 飴は、通常、菓子類の中では、水分10%未満の干菓子に分類されます。飴の種類は、大きく分けて、ハード系キャンディー、ソフトキャンディーの、2つに大別できます。ハード系は、伝統的な製法により製造され、水飴、砂糖を主原料に、味付け成分を加えて製造されます。黒糖飴、ベッコウ飴、ハッカ・ニッキ飴、一般的なあめ玉が、これに分類されます。ソフト系は、水飴、砂糖に、さらし粉、きな粉、粉あんなどを練り込んだもので、練乳、バターを練り込んだキャラメルもソフト系キャンディーに分類されます。

飴の製造

 現在の飴の製造方法を、端的にいうと、主要原材料の砂糖と水飴を煮詰めて、必要な味付け・香味付け成分を添加、冷却したものを成形するということに尽きます(図1)。しかし、砂糖と水飴の配合比率、味付け・香味付け成分の種類、比率と量などが、製品によって、全く異なり、ここが、各社独自の多種多様な飴製品が市場に供給されている理由です。

図1 飴の製造工程
飴の製造工程チャート
出典:『篠崎製菓83年のあゆみ』篠崎製菓株式会社、1998年6月

 飴の製造に使用される砂糖には、白砂糖、グラニュー糖、黒砂糖、双目(ザラメ)糖などがあり、製品によって使い分けられます。水については、米、もち米、コーン、ジャガイモなどから抽出されたでん粉に、麦芽の糖化酵素を添加して精製されたものが多く使用されています。味付け・香味付け成分としては、主に、果汁類、香料、フルーツ酸と呼ばれる酸類、乳製品などが使用されています。
 飴の製造工程を簡単に紹介しますと、まず、砂糖と水飴を釜の中で温度を上げて煮詰めます。その後、味付け・香味付け成分を添加しながら冷却し、一定の温度まで下がったところで、成形を行います。工程自体は、簡潔なものですが、砂糖と水飴の比率、煮詰める段階での温度管理、味付け・香味付け成分の比率と添加するタイミング、冷却方法などに飴作りの難しさがあります。また、季節や原料によっては、微妙な調整が必要になる場合があり、ここが、長い間、職人の経験と勘に頼ってきたところです。
 現在では、製造工程のかなりの部分で機械化が進んでいますが、人手による加工が不可欠な工程もあります。一例を挙げると、ある程度、冷却した飴を、何度も引き延ばすことを繰り返し、飴の内部に空気の気泡を作り込むことによって、真っ白な飴ができあがります。この工程は、現在でも、ほとんどが、手作業で行われており、そのため、生産量も限られてきます。しかし、季節の風物詩として良く知られた、「さらし飴」や七五三の「千歳飴」は、このようにして製造されています。

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製造業と砂糖の現状

 製造業だけでなく、菓子業界全般についていえることなのですが、他の業種に比べ、小規模事業所の数が圧倒的に多くなっています。平成8年度(1996年度)の統計によると、飴に、チョコレート、ガムなどを製造する事業所を加えた全事業所1,182のうち、実に85%の1,004事業所が、50人以下の規模となっています(『菓子統計年報』、全日本菓子協会、平成10年11月、P.42)。これは、ひとつには、飴製造の歴史に由来するものと考えられます。大規模な設備を必要とせず、むしろ、職人の長年の経験と勘を頼りに、家内手工業的に生産が行われてきたことと密接な関係があります。また、飴の嗜好品としての性格に着目すると理解しやすいのですが、市場自体も、近代的な工場で大量生産された製品に加えて、伝統的な手法で製造された飴、多様な味の飴、地域や生産者の個性を生かした飴を受け入れる傾向があることとも関係していると思われます。
 飴の年間生産量(キャンディー類、キャラメル、ドロップ、グミ、ゼリーを含む)は、平成10年度(1998年度)の統計によると、15万4,200トン、生産額ベースで1,685億円となっています(表−1)。飴の生産も、バブル後の不況の影響を受けて、平成2年、3年の16万5,000トンをピークに、漸減傾向にあります。このように飴の総需要が減少する中で、明るい材料として、のど飴、黒糖飴が、市場規模を拡大しているのではないかとみられています。消費者の健康志向に応えられるような、新たな商品開発も、各社で積極的に進められています。

表1:あめ菓子の推定生産数量及び金額(平成8年〜10年)
数量:トン・金額:億円  前年対比:%
生産数量 生産金額 小売金額
  前年対比   前年対比   前年対比
平成8年
平成9年
平成10年
155,500
155,000
154,200
99.7
99.7
99.5
1,692
1,690
1,685
99.9
99.9
99.7
2,470
2,450
2,400
100.0
99.2
98.0
資料:全日本菓子協会調べ
出典:「含みつ糖流通実態調査委託事業報告書」、平成11年3月

 飴の製造に、砂糖は、年間どれ位の量が使用されているのでしょうか。精糖工業会調べの統計によると、平成9年度(1997年度)砂糖の総需要235万9,000トンのうち、菓子類の製造には、58万7,000トン(24.9%)が使用されています(表2)。私たち全国飴菓子工業協同組合調べのデータによりますと、毎年、約12万トンの砂糖が、組合加入企業によって、飴の製造に使われているものと思われます。しかし、先ほども述べましたように、飴製造業者には、小規模な事業所が多く、組合未加入業者もあります。このため、日本の飴製造業全体としての厳密な砂糖使用量を確定することは、かなり難しいといわざるを得ません。そこで、長年、飴製造に携わってきた私個人の、私的な推測を申しあげさせていただくと、当組合関係企業が、年間、飴製造に使用する砂糖の量は、約12万トン。組合未加入の企業が、年間、使用する砂糖の量が約2万トン程度あるのではないかと考えています。日本の飴製造に、年間、使用される砂糖の量は、合わせて、約14万トン程度ではないかと推測します。

表2:砂糖の用途別消費動向
(単位:千トン)
会計年度
業種別     
平成5年 平成6年 平成7年 平成8年 平成9年
消費量 比率(%) 消費量 比率(%) 消費量 比率(%) 消費量 比率(%) 消費量 比率(%)
菓子類 638 26.2 609 24.3 609 24.9 604 25.0 587 24.9
家庭用 390 15.9 374 14.9 364 14.9 363 15.0 354 15.0
清涼飲料 351 14.3 370 14.8 358 14.6 368 15.2 381 16.2
小口業務用 196 8.0 200 8.0 202 8.3 202 8.4 203 8.6
パン類 155 6.3 159 6.3 159 6.5 159 6.6 159 6.7
漬物、佃煮、
ねり製品
147 6.0 148 5.9 147 6.0 151 6.2 143 6.1
乳製品 147 6.0 162 6.5 165 6.8 173 7.2 185 7.8
調味料 110 4.5 113 4.5 116 4.7 120 5.0  
瓶・缶詰ジャム 54 2.2 52 2.1 51 2.1 278 11.4 119 14.7
冷菓 46 1.9 56 2.2 50 2.0
酒類 20 0.8 25 1.0 28 1.2
その他 201 8.1 238 9.5 196 8.0
合計 2,455 100.0 2,506 100.0 2,445 100.0 2,418 100.0 2,359 100.0
(注)1.精糖工業界資料による。
   2.「その他」には、医薬、農薬等の工業用、たばこ、そうざい等半調理食品が含まれる。
   3.9年度については暫定値を記入。
出典:「菓子統計年報」、全日本菓子協会、平成10年11月

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飴と砂糖の将来

 飴製品にとって砂糖は、欠くことのできないパートナーであることは、ご理解いただいたことと思います。飴の将来は、砂糖の将来と切っても切れない仲であることは、疑いを入れません。終戦後の砂糖の配給統制時代、貿易の自由化と安い海外砂糖類との競争、1973年のオイルショックと相前後しての砂糖相場の暴騰、砂糖消費量の伸び悩み、一時期の砂糖への不当な批判など、関係者の方々には、多くのご苦労があったことと思います。私たち菓子業界も、そうした環境の中で、同じような経験をしてまいりました。全国菓子工業協同組合としましては、安定した価格と品質の砂糖が、将来にわたっても安定的に供給されることを切に希望いたします。同時に、飴と砂糖の将来のために、今まで以上に密接な協力関係を築いていきたいと考えています。
 1980年代に、砂糖は、虫歯、糖尿病、肥満の原因であるとか、果ては、「漂白されているから白い」、「体内のカルシウムを破壊する」といった誤った認識が、消費者の間に広まりました。1990年代に入り、関係者のご努力もあり、やっと、砂糖の本来の効用が見直され始めました。
 砂糖の医学的・栄養学的な効用については、「医学的・栄養学的見地からの砂糖に関する調査研究事業」(平成9年度農畜産業振興事業団助成事業。)報告書に詳しく述べられています。私たちは、今、栄養の急速補給食品としての飴と砂糖の用途に注目しています。諸外国の軍隊では、戦場における兵士の栄養の急速補給に、キャンディーがチョコレート類とともに重要視されてきました。自衛隊においても、野戦食料として、乾パンとともに、コンペイ糖が使用されてきました。
 また、記憶に新しい阪神・淡路大震災、今年に入って連続して起こった、トルコ、台湾の大地震。こうした大規模災害の際、被災者や救助に携わる人たちの栄養の急速補給に、飴は最適な「食品」であると考えています。飴は、空腹感を満たすことは、あまりできないでしょう。しかし、疲れた体に必要な糖分を、手軽に、急速補給できるうえに、他の食品には真似のできない重要な効用があります。飴をなめることにより、緊張した体と心をリラックスさせる。飴のこうした効用は、多くの人が経験したことがあると思います。阪神・淡路大震災の重要な教訓の1つとして、被災者への精神的ケアの必要性が指摘されています。飴は、被災者の苦痛を根本的に取り去ることはできませんが、被災直後の疲れた体に必要な糖分を補給し、少しでも心を癒すことはできると信じています。
 災害時の栄養の急速補給食品として、また、疲れた体と心をリラックスさせるためにも、飴の中で、特に、保存性が高く、カロリーを十分に補給できる高糖分のものを中心に、緊急食料として備蓄されることを提案していきたいと考えています。


参考資料

『菓子関係指標』、農林水産省食品流通局、平成10年6月
『砂糖のあれこれ、〜お砂糖Q&A〜』農畜産業振興事業団、1997年12月
『菓子統計年報』、全日本菓子協会、平成10年11月
『季刊、糖業資報、精糖工業会創立50周年記念「転換点からの証言と回想」』、No.140、1998年度・第4号別冊
『「医学的・栄養学的見地からの砂糖に関する調査研究事業」報告会講演要旨(平成9年度農畜産業振興事業団助成事業)』、平成10年6月9日
『含みつ糖流通実態調査委託事業報告書』、平成11年3月

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「今月の視点」 
1999年12月 
女子学生における低糖・無糖商品の購入に関するアンケートについて
  滋賀大学名誉教授 金城学院大学講師 岡部昭二
飴と砂糖の話
  全国菓子工業協同組合 理事長 中西信雄
てん菜生産の優良事例 その1
  北海道てん菜協会 技術部長 菅原寿一


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