最近よく問いかけられることのひとつに、「餡の種類はどの位あるのか」ということがある。
確かに餡の種類は数多い。
主な原料である豆類によって、小豆餡、白餡、えんどう餡、金時餡、うずら豆餡、とら豆餡などがあるし、豆類を用いない、かぼちゃ餡や芋餡もある。
加合餡というのもある。栗入餡、黄味餡、抹茶餡、くるみ餡、胡麻餡、柚子餡、味噌餡、レモン餡、コーヒー餡、ミルク餡、チョコ餡、各種ジャム餡、梅肉餡、月餅餡、柿餡、その他、数多い。これらはただ副材料を刻んで入れれば良いというものではなく、主に白餡をベースにするが砂糖の種類や量、水分量や加熱方法などで様々な変化がある。
材料が同じ小豆であっても用途によって違う餡もある。すなわち、中割餡、上割餡、最中餡、小倉餡、潰し餡、皮むき餡、煮くずし餡、どら焼き餡、千鳥餡、煉切餡、きんとん餡、大島餡などである。これらは全て砂糖など甘味料の量の変化、製法の違いによって異なる餡になる。
細かくいえば、同じこし餡でも「さくら餅」に用いる餡と「草餅」に用いる餡は微妙に異なる。煉切餡といっても、薯蕷つなぎ、牛皮つなぎ、みじん粉つなぎなどの種類があってそれぞれに味も風味も異なる。
まさに千変万化しておびただしい種類になるのである。
概ねそれらの元になるのが小豆こし生餡(あるいは白こし生餡)である。
こし生餡は単純でありながら微妙な作業を繰り返して取り出す「細胞膜に包まれた粒子・餡粒子」に砂糖を加え加熱したものをいう。
いかに餡粒子以外の不純物を除去するかが味の決め手のひとつであるが、同時に餡粒子は水分を多く含み(β化という)変質と腐敗しやすいものであり、それを防ぐことが大切である。
それを変質しにくくする(β化からα化にする)ために必要なのが “砂糖の持っている保水性” という特性である。
砂糖には一度つかんだ水分を離さないという性質がある。
そもそも酵母類や細菌類は水分(自由水)が少なくなると繁殖しにくい状態となる。砂糖が水分を取り込むとその水分は細菌類が利用することができない水分となるため防腐効果が大きい。同時に保水性はでんぷん類のα化を持続させ硬化を防止する作用がある。この性質を上手に利用しているのが「すあま」「ぎゅうひ」等で少々日が経っても固くならない特徴があるが「餡」についても同じことがいえる。
甘さと美味しさが餡にとってなくてはならなぬ物であるということは言うまでもないが、甘さだけではない特性が生かされているのである。
日本を代表する食文化のひとつでもある和菓子=数多くの種類を持つ餡は、砂糖の存在によってこそ成り立っているといえよう。