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ベトナム砂糖産業の概要について

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最終更新日:2010年3月6日

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[2008年6月]

調査情報部調査課

 1990年代半ばから砂糖産業が急速な発展を遂げ、砂糖自給を見込める水準まで砂糖生産を増加させたベトナムの砂糖産業について、英国の調査会社LMC社からの報告をもとにとりまとめたので紹介する。

1.砂糖の生産、消費および貿易状況

 ベトナムでは、1990年代後半から2000年代初めにかけて砂糖部門が急成長し、30を超えるさとうきび工場が新設されたため、現在では砂糖をほぼ自給できるようになった。さとうきびはベトナム全土で栽培され、35を超える工場で処理されているが、栽培部門と製糖部門の生産状況には差が見られる。ASEAN地域で経済統合が進み、域内産輸入砂糖との競争が激化していることから、ベトナム政府は、業界の整理統合を促す方向にある。その一方で、経済の堅調な成長を背景に国内需要は急速に拡大しており、効率的な製糖業者が事業の拡大を図る余地は大きいといえる。

図1 1991/92年度〜2007/08年度の生産量、消費量および純輸入量の推移


(1) 国内需給バランス―増加する生産量と需要量―
  ベトナムでは1990年代半ばから砂糖産業が急速な発展を遂げてきた。その結果、現在では砂糖をほぼ自給できる状況にあるが、純輸入国となる年が多い。
  1990年代半ばまでは、砂糖の工業生産は小規模で、遠心分離機にかけられない砂糖を製造する手工業生産(handicraft)が中心であった。なお、特に注記がある場合を除き、本報告書に示されたデータはすべて、遠心分離機を使って生産された砂糖に関するものである。
  砂糖は、2006年に価格がそれまでの低迷から一転して高騰し、農家がさとうきびの増産に転じたため、2007/08年度(10月〜9月)の生産量が140万トン前後に達するものと予想される。
  消費量は経済成長を背景に急速な伸びを示しており、2007/08年度には140万トンを超える見通しである。

表1 2000/01年度〜2006/07年度の砂糖需給バランスの推移
(単位:1,000トン、粗糖換算)
注1:予測値
資料:ISO、LMC推定値


(2) 砂糖の生産量 ―RE糖への転換―
  ベトナムで生産される砂糖は2種類に大別できる。
・耕地白糖(国内ではRS糖と呼ばれている)
・精製糖(国内ではRE糖と呼ばれている)―さとうきび工場に併設された精糖工場で生産されている。その製造業者はNagajuna、Binh Duong、Bourbon、Vietnam Taiwan Sugar Company、Tate & Lyle、Lam Son、Cam Ranh、Tra Vinhなどで、まだ数が少ないが、増加する傾向にある。RE糖は通常、EC2等級糖(EC No.2grade sugar)で、色価が45ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)単位未満であるが、Vietnam Taiwan Sugar Companyの精製糖は色価が平均で50ICUMSA単位前後と、品質がやや低い。
  国内市場におけるRS糖とRE糖の比率は現在、60対40あたりで推移しているが、RE糖の需要が高まっていることから、2015年までに市場に供給される砂糖の100%がRE糖になるとベトナム政府は見ている。

(3) 砂糖の消費量―年間10%の伸びをみせる消費量―
  ベトナムにおける砂糖の消費量は2000/01年度以降、年平均でおよそ10%と急激な伸びを見せている。
  家庭用部門は2007/08年度、白糖換算で80万トン前後に上るものと予想される。国内の消費量に占める家庭用部門と加工用部門の比率は、それぞれ約60%と40%である。
  加工用部門では特定の用途が大きな比率を占めることなく、「その他食品」と「その他」がそれぞれおよそ9%と12%を占めて、最も多い。
  ベトナムでは毎年、40万トン前後のRE糖が消費されている。主なユーザーとして、Vinamilk、Coca―cola(年間消費量は約1万2,000トン)、Pepsi―cola、Dutch Ladyなどがあげられる。
  消費は増加している中で、成長の潜在力が最も大きいものと見られるのは飲料市場である。炭酸飲料(CSD)の消費量は現在、国際的な水準から見ると極端に少ないと見られている。その主な要因は習慣(例えば、緑茶の人気が高い)と生活様式(一般的に国民の健康意識が非常に高い)である。一方で値ごろ感は、重要な問題とは考えられていない。
  これは、炭酸飲料の生産が増加する可能性が極めて大きなことを示唆しており、飲料メーカーは市場占有率を高めるべく、マーケティング・キャンペーンに力を入れている。

表2 2000/01年度〜2007/08年度の砂糖消費内訳の推移
(単位:1,000トン、粗糖換算)
注:予測値
資料:LMC推定値


(4) 輸出入量
  ベトナムではここ数年、粗糖と白糖の両方を輸入している。ISO(国際砂糖機関)に報告されているベトナムの公式な2006年の輸入データによれば、次のような状況となっている。
  粗糖はほぼすべてタイから輸入されている。一方、白糖の主な輸入先はEU、マレーシアとシンガポールで、2006年にはこの3ヵ国で全体の80%を超えた。
  ベトナムの輸出量は概して少ないが、年によってばらつきがある。2006年は5万トン強にとどまった。大半の砂糖はラオスやカンボジアなどの近隣諸国と、インドネシアやフィリピンなどASEAN地域内の主要輸入市場に輸出されていると考えられる。

表3 2006年の砂糖の国別輸入量
(単位:1,000トン、粗糖換算)
資料:ISO


(5) 異性化糖および代替甘味料の位置づけ―マイナーな市場シェア―
  ベトナムでは、有カロリー代替甘味料の消費量が極めて少なく、異性化糖(HFS)と結晶果糖はほとんど消費されていない。
  人工甘味料のなかでは、サッカリンとチクロの消費量が多く、ここ数年中国からの輸入が増加している。
  だが、砂糖は現在、消費全体の85%を占めており、甘味料市場で主流をなしていることに変わりがない。

(6) 糖蜜・エタノール産業 ―アルコールや発酵製品原料として重要な糖蜜―
  ベトナムでは燃料用エタノール事業は進められていない。一方、糖蜜は飲用エタノールや発酵製品の製造に使われている。
  ベトナムには現在、糖蜜を原料にエタノールを製造する工場が8ヵ所あり、工場の平均生産量は1日当たり5,000リットルから1万5,000リットルである。
  糖蜜は発酵産業にも原料として利用されている。合併会社4社(Vedan、味の素、A―one、Mi―Won)が、糖蜜を原料にグルタミン酸ナトリウムを生産しており、ベトナム南部で生産される糖蜜の45%から50%が、この生産に使われている。
  糖蜜はパン酵母や、家畜のセミスターター(離乳)飼料の製造にも使用される。糖蜜を原料とする製品としては他に、乳酸、クエン酸やリシンが挙げられる。

表4 2000年〜2006年の代替甘味料消費の推移
(単位:1,000トン、粗糖換算)
資料:LMCによる推計
注:甘味度により白糖換算を行っている


2.主要な生産状況

(1) さとうきびの生産概況 ―改善途中にある生産効率―
  さとうきびは、熱帯性気候で湿気の多い南部地方から、比較的気温も湿度も低い北部地方まで、ベトナムの各地で栽培されている。雨量が十分にあるため、さとうきびの栽培ではかんがいは行われていない。ただし、気象条件が異なるため、地域によって生産状況に差が見られる。
  さとうきびの栽培は、小規模な民営の農場が全面的に担っている。データを見ると、栽培部門の生産水準は低めであるが、徐々に向上していることがわかる。製糖工場は数が多く、そのほとんどがスケールメリットを実現できていない。そのうえ、処理能力が過剰で、設備利用率が低い。このことから、近年、工場の整理統合が進められている。
  さとうきび栽培状況については下記のとおりである。

・近代的な砂糖産業の拡大とともに、さとうきびの生産面積および収穫量はこの10年間、急速な伸びを示してきた。
・さとうきびの単収は徐々に向上しているとはいえ、1ヘクタール当たり50トン前後で、比較的低い水準であることに変わりがない。砂糖の歩留まりは、近年改善されているものの、南部地方(湿度が高いため、収穫期の熟成度が制限される)を中心にショ糖の含有率が低いことで、1ヘクタール当たり5トン前後と相変わらず芳しくない。

・これを反映して、TC:TS比(砂糖1トンの生産に必要なさとうきびのトン数)も9から10の間にとどまっている。

・栽培部門に関しては、より良い品種の選択に加え、適切な防除方法や農法の採用により、生産性を高めることができると考えられる。さとうきびの栽培は、ほとんどのさとうきび生産農家にとって始めてまだそれほど年月が経ってない取組であるからである。生産状況の改善に加え、農家が(単収を減らさずに)株出し栽培を増やし、また、輸送費を削減するためにさとうきびの栽培地を工場の近くに集中させれば、コストの削減を図ることができる。

表5 2001/02年度〜2006/07年度のさとうきび生産状況の推移
(単位:1,000トン、粗糖換算)
資料:LMC作成
注1:  さとうきびの生産額は、各年に砂糖の原料として使われたさとうきびの数量に、砂糖の原料として使われたさとうきび1トン当たりの農家の販売価格を乗じたもの。


図2 1990/91年度〜2007/08年度の砂糖歩留まりの推移
資料:LMC作成


(2) 製糖部門の生産状況
  製糖部門では、1990年代に巨額の投資が行われ、30を超える工場が新設された。さとうきびの収穫量も増えたが、工場の増加にともなう処理能力の増大には追いつかず、設備利用率が低い工場もある。そのため、国営工場では整理統合が進められている。
  新たに建てられた工場の多くも処理能力が大きくなく、スケールメリットを発揮することは難しい。ただし、台湾、フランスおよびイギリスの外資系の工場には、大規模な工場が存在する。
  その一方で、さとうきびの供給量の増加に伴い、設備利用率も上昇してきた。図3を見ると、工場当たりの産糖量が1990年以降、上昇傾向を示し、2000/01年度に比べ2倍に増加したことがわかる。
  ベトナム政府も、設備利用率のさらなる改善を図るため、圧搾部門の整理統合に力を入れ、とりわけ、さとうきびの供給が少ない地域にある小規模な工場に的を絞った取り組みを進めている。

表6 2000/01年度〜2006/07年度の製糖工場の主な生産状況の推移
資料:LMC

図3 1990/91年度〜2006/07年度の工場当たり産糖量の推移
資料:LMC作成


3.砂糖制度の主な特徴

(1) 生産管理 ―農家に依存するさとうきび栽培―
  ベトナムでは、さとうきびの栽培にいかなる制限も設けられていないが、同時に、栽培する作物をさとうきびから他の作物に転換することを禁じる規則もない。
  これは、投資家にとって魅力の1つではあるが、同時に一部の製糖業者に、さとうきびの安定した供給確保のため、苦労を強いる結果となっている。土地法で、農地の使用権は農家にしか与えられないと定められているため、製糖工場は自らのさとうきび農園を作ることができず、さとうきびの栽培と納入を農家に頼るしかない。

(2) 国内価格支持 ―密輸に影響される国内市場―
  ベトナムでは砂糖の最低価格が政府によって設定されてはいるが、法律で義務付けられたものではないため、単なる指標的な位置づけである。国内価格は、純輸入国から純輸出国に、あるいは純輸出国から純輸入国に転じた時などを中心に、国内の需給バランスが劇的に変わるため、従来から変動が激しい。とはいえ、国内の市場価格は概ね、国際市場から砂糖を輸入するコストに連動している。これは、国内価格と下記の項目を比較すると明らかである。
1.国際市場から輸入された関税込みの砂糖価格
2.タイの国境を越えて密輸された砂糖の価格。砂糖を(ラオスかカンボジアを通ってトラックで、あるいは、小さな船でメコン川を渡って)密輸するコストは、1トン当たり70〜80米ドル前後と推算されるため、マージンを1トン当たり20米ドルと考えると、国際価格よりも1トン当たり100米ドルほど高くなくては、密輸の魅力はなくなる。
  データを見ると、国内価格が国際価格に連動しながらも、輸入価格を下回る傾向を示してきたことがわかる。実際、国内価格は、密輸砂糖が市場に流れる価格に極めて近い。これは、関税が国内価格の支持に有効ではないことを示しているといえる。
  ベトナム政府は、収穫期には砂糖の密輸の警戒態勢を強めるものの、農家が収穫したさとうきびを売りさばいた後の端境期にはあまり注意を払わないという見方が一般的である。そのため、端境期には価格が思ったほど上昇しない。
  北部地方のハノイでは通常、砂糖価格はホーチミン市よりも1キロ当たり100ベトナムドンから200ベトナムドン(0.6〜1.2米セント)ほど高い。ただし、北部地方では供給過剰で砂糖が余り、消費の中心地である南部地方に生産量の20%前後を販売せざるを得ない。南部地方で価格が低く抑えられている背景には、競争の激化と違法な輸入品がメコン川を越えて渡ってくる脅威にさらされていることがある。
  品質面から見ると、RE糖は通常、RS糖よりも1キロ当たり500ベトナムドンほど(1トン当たり約30米ドル)高い価格で取引されている。しかし、この割高分はRE糖の供給状況に大きく左右され、大きく値を下げて、RS糖と同水準で取引される場合もある。
  2004/05年度から2006/07年度までのさとうきびの平均価格と白糖の平均卸売価格を見ると、農家の販売価格は平均で1トン当たり25米ドル台、砂糖の卸売価格は平均で1トン当たり417米ドルであった。
  小売価格については、入手できたデータはなかった。大半の砂糖は個々の小売業者が袋詰めし直した後(ブランドを使わず)、一般消費者に販売される。Bourbonは、少量ながら砂糖を生産し、Mimosaというブランド名で自社のスーパーマーケットに並べて直接販売している。


図4 実際の国内価格と関税込み輸入価格(輸入パリティ)の比較
資料:LMC作成

表7  2004/05〜2006/07年度のさとうきびおよび砂糖平均価格
(米ドル/トン)
注:RS糖

(3) 市場アクセス ―徐々に削除される関税―
  ベトナム政府は、中央政府による意思決定システム、複数の為替レートの採用、割当制度、禁止措置、許認可制度、貿易補助金および国による貿易業務の独占によって国際貿易を長年にわたって管理してきた。しかし、ベトナムも徐々に国内市場を開放しつつあり、さらに今後、ASEAN自由貿易地域(AFTA)および世界貿易機関(WTO)との約束に従い、輸入関税の削減と関税障壁の撤廃によって、その開放を加速させなければならない。関税削減の行程表を表8に示した。

表8 今後の砂糖関税の推移
(米ドル/トン)
資料:WTO、LMC

(4) 販売制度 ―自由な砂糖販売―
  砂糖産業を対象とした国の販売制度はなく、各社は独自に自社の砂糖の販売を行っている。
  販売割当制度は存在しないが、一方で正式な流通システムもなく、製糖業者は国内市場で無制限に砂糖を販売できる。RS糖についてはほとんど、現金払いを条件に、卸売業者を通して販売される。
  業務向けの大口エンドユーザである企業には通常、1ヵ月の掛売りが適用される。RE糖の販売では業務向けが圧倒的多数を占めている。ただし製糖業者は普通、掛売りを適用する相手の選別に非常に慎重である。
  ほぼすべての砂糖がRE糖、RS糖ともに50キロ袋で売買されている。
 

図5 2001/02年度〜2006/07年度のさとうきび国内価格の推移
注:年度は10〜9月
出典:LMC作成


(5) 栽培農家と製糖業者の関係 ―固定化されていない両者の関係―
  ベトナムではさとうきびの利益を分配するシステムが確立されていない。ベトナム政府はさとうきびの最低価格を1トン当たり30万ベトナムドン(18米ドル)に設定しているが、実際にはさとうきびの価格は栽培農家と加工工場の個別の交渉で決まる。
  さとうきびの価格は、工場間の競争が激しい地域や、天候不順もしくは魅力的な収益を生む代替作物への転換によって供給が不足した時に、高くなる傾向が見られる。
  工場間のさとうきび争奪戦の激化を抑える目的で、2000年に砂糖の流通を監視する委員会が設置され、さとうきびの価格設定および供給に関する契約の順守状況が把握されるようになった。各工場はさとうきびの栽培期が始まる前に、農家と契約を結び、納入されたさとうきびの数量と糖度によって、その栽培期末にさとうきびの代金を支払う。

4.砂糖産業の現状

(1) 製糖産業 ―政府による整理統合計画―
  砂糖産業は官民双方からの投資によって、生産量は1990年代初めから2002年にかけて10倍にも増え、100万トン台を突破した。
  公営工場のうち、生産を開始した新規工場の多くは、中国政府から資金の提供を受けている。これらの工場は比較的規模が小さなところが多く、さとうきびの栽培にあまり適していない地域に建てられたものもある。
  民間投資によるものは、Lam SonやBien Hoaなど国内企業と、Tate & Lyle、Taiwan Sugar、インドのNagarjunaおよびKCPなどの外国投資家による経営がある。
  砂糖産業の効率化と整理統合の促進を図るため、ベトナム政府は先ごろ、さとうきび調達活動の調整と生産計画の強化を目的とした一連の再編策を打ち出した。この再編策を進めるにあたり、同政府は工場を3つのグループに分類している。
  同政府はまた、整理統合が進展するまで、新規工場の営業許可を発行しないとの方針を表明した。その一方で、さらなるスケールメリットを実現するために、今後数年間で拡張を計画している既存の工場は多い。

表9 2006/07年度における民間工場の生産状況
資料:LMC
※:産糖量を処理能力で割ったもの

表10 再編策におけるグループ一覧
資料:LMC

表11 2006/07年度における公営工場の生産状況
資料:LMC
※:産糖量を総処理能力で割ったもの


(2) 精糖産業 ―生産の限定されているRE糖―
  ホーチミン市の工業地区に独立型精糖工場を持つBien Hoaを除き、すべての精糖工場は製糖工場に併設されている。
  精糖工場は、許可書(ライセンス)を取得しなければ輸入粗糖を原料とした白糖を国内市場で販売できず、この許可書がない場合には、再輸出しなければならない。
  RE糖の生産量は40万トン台で、現在はまだ、Bourbon、NIV、Tate and Lyle、Bien Hoa、Lam Son、Taiwan SugarおよびKCPの7社しか製造していない。

5.砂糖産業の現在の課題 ―原料確保に苦心する製糖業界―

 ベトナムの砂糖産業に規制がないことは、一部の製糖業者にさとうきびの安定した供給の確保のため負担を強いる結果となっている。土地法で、農地の使用権は農家にしか与えられないと定められているため、製糖工場は自らのさとうきび農園を作ることができず、さとうきびの栽培と納入を農家に頼るしかない。KCPの事例は、こうした厳しい状況を如実に表しているといえる。

表12 工場の拡張計画(さとうきび処理能力)
(単位:トン/日)
資料:LMC

(KCP社の事例)

  KCPは工場を当初、Quang Ngai州に建設した。この地域では従来はさとうきびの栽培が行われていなかったが、コメの耕作地を転換し、30万トンを収穫できるようにすると政府が約束した。しかし、この約束が実現されることはなく、KCPは1年度目、設備能力の10%しか稼動できなかった。2年度目に入って、設備利用率はわずかに改善されたものの、やはり17%にとどまった。
  そのため、KCPはさとうきびの栽培が集中するPhu Yen州に工場を移転することを決めた。この移転には500万米ドルの費用が必要であったが、政府から低金利の融資という形で支援を受けることができた。移転後の事業は順調で、同地域に今後、工場の建設を行わないという政治的確約もKCPは得ることができた。
  しかし、2005年に小規模な工場(500トン/日)が、KCPの操業する地域に移転してきた。その後KCPは2007年にこの小規模工場を閉鎖する政府決定を取り付けた。

 この種の問題は、すべての地域でさとうきびの供給が確保できるようになるまで続く可能性が高い。ベトナム政府は、現在のさとうきびの栽培面積で十分、製糖部門の需要を満たすことができると考え、さとうきびの供給拡大の取組みでは、垂直成長(すなわち単収の向上)に注力している。同政府は、補助金付信用供与によって農家に切り替えを奨励し、さとうきびの品種を変えることでこれを実現する。現在、さとうきびの平均単収は1ヘクタール当たり55トン、砂糖の歩留まりは1ヘクタール当たり5トンであるが、新品種への移行によって、2010年までに、それぞれ60トンと6.5トンに向上するものと予想される。
  砂糖産業が直面する主な問題としてはほかに、今後数年間で予定されている関税の引き下げが挙げられる。この引き下げは同産業にとって頭の痛い問題ではあるが、本報告書で述べたように、タイからの密輸によって、正式なルートから輸入される砂糖の価格が国内価格には反映されていない。関税の引き下げによる大きな影響の1つは、砂糖を密輸する魅力を著しく低下させることであると考えられる。


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