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フィジーの砂糖産業の概要〜内外の制度改革の岐路に立つフィジー砂糖産業〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ


[2009年3月]

調査情報部 調査課



 フィジーでは、白糖は生産されておらず、年間30万トンから35万トン前後の粗糖が生産され、砂糖産業はフィジー経済の中核を担っている。

 砂糖産業はフィジーにとって重要な収入源と雇用創出源であるばかりでなく、外貨獲得源ともなっている。また、2007年の日本におけるフィジーからの粗糖の輸入量は、オーストラリア、タイ、南アフリカ、フィリピンに次いで第5位となっており、日本にとって重要な輸入先国となっている。

 一方で、近年のEUの砂糖制度改革や政治的な対立による地主との借地更新問題など、フィジーの砂糖産業が克服しなければならない課題は多い。

 このようなフィジーの砂糖産業の概要について、英国の調査会社LMC社からの報告をもとに、とりまとめたので紹介する。なお、この報告は2008年10月現在のものであり、最新のデータについては、巻末資料編を参照していただきたい。

1.生産概要および需給状況

(1)生産概要

 さとうきびは、ビチレブ島とバヌアレブ島において、約1万8,000戸の小規模農家によって栽培されている。その多くがインド系住民であり、さとうきび畑の大半を所有している先住のフィジー人から土地を借りて農業を営んでいる。

 フィジーは2006/07年度まで、年間30万トンから35万トン前後の粗糖を生産してきたが、2007/08年度は、悪天候の影響などから、生産量が約24万9,000トンにまで急減した。2008/09年度の生産量も25万トン強にとどまると予測されている。

(2)国内需要

 砂糖の消費量は、生産量に比べ安定しており、ほぼ横ばいで推移している。2001/02〜2008/09年度の平均国内消費量は、約4万6,000トン(粗糖換算)である。2007/08年度における一人当たりの消費量は、約63.4キログラム(粗糖換算)で、世界的に見ても高い水準にある。

 白糖が生産されていないフィジーでは、飲料や菓子製品の製造用として、オーストラリアやニュージーランドから上質な精製糖を輸入している。これら加工用に使用される白糖の需要は、年間1万トン程度(白糖換算)と推測される。

資料:LMC
図1 砂糖の生産量、消費量および輸出量の推移
表1 砂糖の需給動向
(単位:1,000トン、粗糖換算)
注1:概算値、2:予測値
資料:ISO、LMC

(3)輸出入状況

 国産粗糖の大部分は、特恵価格でEUと米国に輸出されている。EUへはACP諸国(注1)とEUとの砂糖に関する特恵的な協定に基づき、例年、20万トン前後が輸出されている。また、米国へは関税割当(TRQ)制度により、例年、1万トンほどが輸出されている。

 2007/08年度は国内生産量が急減し、国産粗糖のほぼすべてを輸出に回したため、2008/09年度において白糖の輸入が増加すると予測される。

 また、EUへ輸出される粗糖には割当数量が設けられており、2008年現在、この割当数量は17万2,500トンであるが、フィジー政府が設立したフィジー砂糖公社(FSC)はEUに対し、30万トンへ割当数量を拡大するよう働きかけている。フィジーは後発開発途上国(LDC)に認定されていないが、現在進められているEUとフィジーを含めたACP諸国との経済連携協定(EPA)が締結されるまでの間適用される暫定協定によって、LDCの割当数量が再配分された場合には、フィジーの割当数量は、2007/08年度は25万6,000トン、2008/09年度は28万6,000トンとなる。

 EU、米国以外には、オセアニア地域へもわずかながら粗糖が出荷され、余剰分は日本を含む自由市場にも輸出される(表2)。自由市場向けの輸出量はその年によって異なるが、通常、5万トンから10万トン程度である。

表2 砂糖の国別輸出量(歴年)
(単位:1,000トン、粗糖換算)
資料:LMC

 2007/08年度に、さとうきびの収穫が急減したため、2007年の輸出量が大幅に減少した。

2.生産状況

(1)さとうきび栽培部門の生産状況

 2000年5月に起きた先住のフィジー系勢力によるクーデターを契機に表面化したフィジー系土地所有者とインド系農民との政治的な対立から、借地契約の更新が行われない例が多くなり、このことがさとうきびの供給に悪影響を及ぼし、表3にあるように、さとうきびの作付面積が年々減少し続けている。

表3 さとうきびの生産動向
※:さとうきびの生産額は、各年の砂糖の生産に使われたさとうきびの数量に、砂糖に加工されたさとうきび1トン当たりの農家受取価格を乗じたものである。
資料:LMC
資料:LMC
地図:さとうきびの産地と製糖工場

 また、借地問題をめぐる不安要因により、さとうきびの作付面積全体のごくわずかでしか改植が行われず、また、立場が弱く、借地契約の更新できない農家が、肥料や農薬などの農業生産資材に多額の投資を行う意欲を喪失した可能性もある。株出し栽培の最適な収穫回数は5回から6回程度であるが、長期間にわたり改植を行わず、株出しによる栽培を継続すると、さとうきびの品質低下を招くといった事態に陥ってしまうことになる。

 さとうきびの改植の頻度が極端に低い農家が増加したことで、図2にあるように、1ヘクタール当たりの産糖量が1994/95年度をピークに増減を繰り返しながら減少傾向で推移している。1994/95〜1999/2000年度の平均が1ヘクタール当たり約5.7トン、クーデターが起きた2000年5月以降の2000/01〜2007/08年度の平均が同約5.2トンとなっている。

資料:LMC

図2 1ヘクタール当たりの産糖量の推移

 最近になって、土地所有者が借地契約の更新に応じるケースが出てきたものの、完全に更新されるにはかなりの時間がかかるものと考えられる。FSCは、さとうきび栽培農家が資金を拠出している基金を財源として、農家を対象とした改植や肥料購入などの費用の支援のため、低利(2%)融資を行うことにより、さとうきび収穫量の減少と品質の低下をできるだけ防ごうと取り組んでいる。だが、このような施策をもってしても、今後3、4年以内に、収穫量が270万トン台に戻ることはまずないと業界筋ではみている。

(2)さとうきびの収穫・輸送状況

 フィジーにおけるさとうきびの収穫や輸送の効率の悪さは、砂糖産業における大きな課題となっており、改善すれば大幅なコスト低減が可能であると考えられる。

 現在、さとうきび収穫の大半は、農家に雇われたグループ別の手作業によって行われている。各グループは10名ほどで構成されており、担当地区ごとに1日当たり10トンの収穫量がノルマとして課せられている。すなわち、刈り取り作業員1人1日当たりの収穫能力は、平均で1日当たり1トンに過ぎない。

 収穫されたさとうきびは、農場から大型トラックまたは鉄道で工場に運搬される。多くのグループが同じような時間帯に収穫作業を終了させるため、大型トラックによる工場への原料搬入が一定の時間帯に集中することとなる。この結果、工場では大型トラックが長時間搬入待ちの列を作り、原料収穫から圧搾までに長時間を要し、工場の操業効率を悪くさせている。大型トラックが工場へ運搬する回数も、平均して1日に1回程度と非効率となっている。このような問題を生む背景には、1万8,000戸に上る小規模農家が、個別に収穫および搬入時期を決めているという事情がある。

 こうした問題に対処するため、グループにおける刈り取り作業員を増員するなど、収穫と輸送の効率化を図る試みがいくつか行われている。しかし、この試みはまだ広く普及していないのが現状である。

(3)製糖部門の生産状況

 フィジーでは、FSCが管理する製糖工場が、ビチレブ島ではラウトカ、ララワイ、ペナンの3か所で、バヌアレブ島ではラバサで、それぞれ操業している。

 1工場当たりの平均原料処理能力は、1日当たり6,000トン弱(表4)と比較的高いが、工場によって差がある。ラウトカ工場とラバサ工場がともに7,000トンを超えるのに対して、ペナン工場は2,400トンと、規模が小さい。

表4 製糖工場の生産実績
注:稼働日数は、製糖期間の日数から工場の休止日数を差し引いたものである。
資料:LMC
資料:LMC
図3 1工場当たりの平均産糖量

 産糖量について、2007/08年度は、いずれの工場もさとうきびの供給が減少した結果、1工場当たりの平均産糖量が減少し、7万トンを下回った。

 ラウトカ、ララワイ、ラバサの3工場では現在、改修工事が進められており、2009/10年度の製糖期前に完了する予定である。今回の工事で、工場の効率化が図られるとともに、粗糖の糖度を98.5度から99度超に向上させる計画で、VHP(高品質)粗糖の生産も可能となる。一方、ペナン工場では、今後も糖度が従前と同レベルの粗糖が生産されるため、前述の3工場の製品と混ぜて販売すると、平均糖度を下げることとなる。よって、ペナン工場の製品は、他の工場の製品とは区別し、需要のニーズに合った輸出先に向けるなどの対応が必要となるだろう。

3.砂糖制度の主な特徴

(1)自由な生産とその影響

 フィジーでは、さとうきびの強制的な作付け業務およびさとうきびから代替作物への転作制限といった生産管理政策は、存在しない。このため、次の二つの面でさとうきびの供給に支障が出ている。

 まず、借地更新問題により、多くの農家がさとうきび栽培を中止し、離農を余儀なくされる状況にあることである。

 さらに、キャッサバ価格の上昇の影響により、さとうきびからキャッサバへ転換する農家が増加している。この傾向は、収穫量が100トン未満の小規模農家が多いフィジー西部において顕著である。

(2)国内価格支持

 フィジー政府は、さとうきびの価格支持策を講じるとともに、砂糖の国際価格を下回る水準で国内市場に砂糖を供給している。2008年10月の価格は、国内が12.5%の付加価値税込みで1トン当たり663フィジードル(379米ドル(注2))、オセアニア地域へのFOB価格は1トン当たり576フィジードル(329米ドル(注2))となっている。2008年に輸入されたインド産粗糖(注3)の価格はこれらを大幅に上回っていたが、FSCがその差額を補てんし、輸入コスト以下で国内市場に砂糖が供給できるよう対応している。

 このような国内価格などへの補助は、EU市場へ高値で輸出ができていたからこそ可能であった。しかし、EUへの輸出価格はACP諸国に対し、2006/07年度の1トン当たり523.7ユーロから2009/10年度の同335.2ユーロへ、36%引き下げられる方向で、補助を実施する財源に充てることのできる資金も減少する。表5は、今後のフィジーの対EU輸出額の予測を示したものである。

表5 対EU粗糖輸出による収入(予測)
注:2008/09年度と2009/10年度に関しては、為替レートを1米ドル=0.74ユーロで算出。
資料:LMC

(3)販売制度

 フィジー産の砂糖はすべて、FSCの販売総代理店の役目を果たすフィジー砂糖販売会社(FSM)を通じて販売されている。

 FSMは、2008年に、現行の契約期間が終了する2009/10年度以降も引き続き英国のTate&Lyle社のテムズ精製糖工場に粗糖を供給する契約を更新した。

(4)栽培農家と製糖工場の関係

 フィジーでは、収益分配制度が導入されており、砂糖と糖みつの販売代金は、農家70%、製糖工場30%の比率で分配されている。同国では、収益の配分方法に問題があり、農家は、単収を向上させて収穫量を増やしても、その増加分も全農家に分配される。そのため、個々の農家の意欲を高める効果がない。

 こうした問題を克服するために、フィジーでは、品質を基準とした制度に改めて、品質の高いさとうきびを栽培した個々の農家に報いることが検討されている。

 その実現への最大の課題となるのは、各農家におけるさとうきびを納入する日程の調整である。甘しゃ糖度は、操業期間の中盤にピークに達する傾向にあるため、この時期にさとうきびの納入が集中し、その結果、供給が偏り、工場の操業がスムーズに進まなくなる。製糖工場の操業期間中、常に十分かつ安定的な原料供給を図るには、一部の農家に対し、甘しゃ糖度が比較的少ない操業初期や終盤などの時期に、さとうきびを分散納入させなければならない。この問題を解消するために、さとうきびの納入時期にかかわらず、農家は均等な報酬を受けることができる制度に移行することが検討されている。フィジーの砂糖産業が現在検討しているこの新たな収益分配制度は、長年にわたり機能してきたオーストラリア方式を概ね参考にしている。

4.糖みつおよびエタノール産業

 フィジーには小規模ながら飲用エタノール産業があり、アルコール飲料製造用に年間約6,000リットルのエタノールを生産している。今後、飲料向けの需要増は考えられないため、エタノール市場の拡大を進めるには、エタノール燃料政策の整備が重要となっている。輸入燃料のコスト高騰に対する懸念から、フィジー政府はバイオ燃料の利用拡大のための政策の取りまとめを進めている。政府は、バイオ燃料の主原料として糖みつとキャッサバを検討している。

 フィジーでは、年間約8,000万リットルのガソリンが消費されている。表6にガソリンにエタノールを10%混合させる場合に必要となる糖みつとキャッサバの数量を示した。

 フィジーは現在、糖みつの純輸出国で、2007/08年度の糖みつの生産量は概算で11万6,000トン程度である。現在、国内で約5万トンが消費されているが、FSCは日系商社と共同で、4カ所の製糖工場のうち2カ所にエタノール製造ラインを建設することを計画しており、今後、製糖工場で生産する糖みつのすべてをエタノールの原料として使う方向にある。FSCでは、合計で年間3,300万リットルのエタノールを生産する予定で、国内需要をまかなった後、余剰分の2,000万リットル程度を輸出する計画である。

表6 ガソリンにエタノールを10%混合させる場合に必要な原料の数量
資料:LMC

 フィジー政府は、キャッサバを原料としたエタノールの国内生産の拡大を図ることも検討しており、キャッサバの供給を図るため、2008年に、中国企業からの投資による「エタノール生産での協力に関する覚書(MOU)」を中国政府と締結した。しかし、2008年10月現在、投資は行われていない。

 フィジー国内では、キャッサバは低所得者層を中心に主食として重要な役目を果たしている。キャッサバをエタノールの原料として使用した場合、生産の拡大を早急に図らなければ、国内価格の上昇を招く恐れがある。2008年にはキャッサバチップの輸出増加が一因となって、キャッサバの国内価格が高騰した。キャッサバをエタノールの原料に用いて、食用としての供給量が不足に陥ると、状況がさらに悪化しかねない。 自給用に栽培されるキャッサバは収穫量が年間6万トン程度で、作付面積が4,000ヘクタールと推測される。国内のエタノール燃料政策の推進に伴う需要の増加を満たすためには、作付面積を倍増させる必要があると考えられる。しかし、農家は商業規模でのキャッサバの栽培に慣れていないことと、土地の所有権の問題もあり、大規模な商業用農場を整備することは難しい。

 これらの理由から、糖みつの方がエタノール原料として適合性が高いと考えられる。

5.砂糖産業を取り巻く課題

 フィジーの砂糖産業が現在直面している最大の問題は、さとうきびの作付面積および収穫量が減少していることである。フィジー系住民とインド系住民との間の政治的な対立を背景とする借地問題を発端に、多くの農家が離農したことに加え、代替作物の価格上昇に伴い、さとうきびからキャッサバなど別の作物に転換する農家も出てきた。現在では一部で借地契約の更新が進みつつあるが、借地制度の機能が完全に回復するには、時間を要する。さとうきびの作付面積に関しては、長期的には拡大するとの楽観的な声が聞かれるものの、短期的に見ると今後数年間は、さとうきびの収穫量が減少する可能性が高い。

 EUはフィジーにとって最大の輸出市場であるが、EUの砂糖制度改革に伴い、フィジー産粗糖のEU向け輸出価格が著しく引き下げられるため、フィジーは生産コストの削減を図らなければならない。

 そのため、砂糖産業の収入源を多様化させるための方策についても検討が進められている。フィジーにある4カ所の製糖工場のうちラウトカ、ララワイ、ラバサの3工場は、コジェネレーション発電を行い、余剰エネルギーを国営のフィジー電力庁に販売している。ラウトカ工場では、バガスのほかに、廃材も燃料としている。

 ラウトカとララワイの2工場においてコジェネレーションを拡充した場合の事業性を評価するために、数多くの技術調査が行われてきた。これら調査の結果を踏まえ、ララワイ工場では2010年の初めまでに、収穫期間中にバガスを、収穫期間外には石炭と廃材の混合物を、それぞれ燃やすことで、1年を通して発電を行うコジェネレーション発電を導入する計画が進められている。これによって、およそ2,000万ワットの電力が生み出すことができる。

 この計画と併せて、糖みつとキャッサバを原料としたエタノールのプロジェクトが実現すれば、砂糖産業は今後、新たな収入源を得ることができることになる。

(注1)
 EUの旧植民地であるアフリカ、カリブ、太平洋諸国。

(注2)
 2008年10月の為替レートの平均値(1米ドル=1.75フィジードル)で算出。

(注3)
 表1の2008/09年度輸入量の白糖3万2,000トンに含まれている。


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