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オーストラリアのさとうきび生産状況

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最終更新日:2010年3月6日

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[2009年5月]

【調査・報告】
調査情報部 調査課

 オーストラリアの砂糖産業は、国際市場での競争力を高めるために、これまで以上に大規模な生産体系へと移行しつつある。このような状況下における砂糖生産の現状および今後の見通しについて、豪州農業資源経済局(ABARE)の発表を基にとりまとめたので、報告する。

1.さとうきび生産状況

 オーストラリアのさとうきび生産地は、クイーンズランド(QLD)州のモスマンからニューサウスウェールズ(NSW)州のグラフトンにかけての東海岸地帯に集中している。西オーストラリア(WA)州のオード川流域でも生産されていたが、2007/08年度(7〜6月)に製糖工場が閉鎖されたことにより、さとうきびの生産も中止されている。

 2000年以降、ブラジルをはじめとする主要な砂糖輸出国での砂糖生産が増加し、輸出価格が低迷していたことから、さとうきび生産を中止する生産者が増加していた。さらに、都市化、大豆やピーナツなどマメ科の輪作作物の増加、林業など他の産業での収益性の向上なども反映して、収穫面積が、最大であった2003/04年度の44万8000ヘクタールに比べ、2007/08年度には12%減少している。一方で、さとうきび生産量は、生産性の向上などにより同期間に1%しか減少しておらず、2007/08年度には370万トンであった。特に、小規模生産者がさとうきび生産をやめ、大規模生産者が増加し、収量が増加している。

 さとうきび生産者は、1999/00年度には7,000戸以上であったが、2007/08年度には4,138戸と10年足らずで1/3以上も減少している。2007/08年度における1戸当たりの平均さとうきび生産量は、8,299トンであるが、個別の生産者の生産規模は大きくばらついている。全体の約2/3の生産者が7,500トン以下の小規模な生産を行っており、この層での生産は全生産量の1/4に当たる。一方、3万トン以上の大規模な生産者は、全体の3%に過ぎないが、全生産量の20%を占めている。

 地域別には、オード川流域での生産規模がもっとも大きかったが、同地域でのさとうきび生産が2007/08年に中止されて以降は、QLD州のバーデキン、マッカイ、ハーバート川流域が、比較的生産規模の大きな地域となっている。収量では、NSW州が1ヘクタール当たり131トンと多いが、これは、他の地域でのさとうきびの生育期間が9〜16カ月であることに比べてこの地域での生育期間が18〜24カ月と長いためである。また、オード川流域、バーデキン、バンダバーグ、マッカイでは、大半がかんがいによる生産を行っている。

図1 オーストラリアのさとうきび生産地帯
出典:ABARE、Financial performance of Australian sugar cane producers 2005-06 to 2007-08
図2 収穫面積およびさとうきび生産量の推移
出典:ABARE、Australian commodities vol 16 no 1 March quarter 2009
図3 さとうきび生産者数と1戸当たりさとうきび生産量の推移
表1 生産規模別生産者数および生産量の割合
注:2007/08年度は予測値
出典:ABARE、Financial performance of Australian sugar cane producers 2005-06 to 2007-08
表2 地域別さとうきび生産規模(1者当たりの平均規模)
注 :2007/08年度は予測値
出典:ABARE、Financial performance of Australian sugar cane producers 2005-06 to 2007-08

2.さとうきび生産者の意向

 ABAREの調査によれば今後3年間に、さとうきび生産を拡大する意向を持っている生産者は、2006/07年度には20%であったが、2007/08年度には13%に減少している。一方で、生産を縮小する意向の生産者は、同年度に16%から17%に増加している。全体としては、さとうきび生産については拡大する場合も縮小する場合もあるが、農業部門以外での事業も維持、拡大し、農業部門においても多角化したいという意向にあるとみられる。

 さとうきび生産への意向については、地域による収益性の違いが反映されている。収益性の低いQLD州南部、バンダバーグ、QLD州極北部の各地域では、2007/08年度に20%以上の生産者がさとうきび生産を縮小する意向を示しているが、収益性の最も高い地域であるハーバート川流域では、縮小する意向の生産者は4%しかいない。

 また、かん水施設はさとうきび生産にとって重要な投資であるが、6割の生産者が栽培期間中に少なくとも1度はかん水を行っている。かん水の方法としては、半数以上がかんがい設備を利用しているが、特に、ハーバート川流域およびバーデキン地域では主に井戸を利用している。利用できる水量が減少した場合や水の価格が上昇した場合の対応については、1/4の生産者がさとうきびの生産を減らすことになると考えている。かん水率の高いバンダバーグ、バーデキンおよびマッカイ地域では、水量の減少や水価格の上昇に対して、さとうきび生産を縮小すると考えている生産者の割合が特に高くなっている。しかし、かん水方法の改善に前向きな対応を考えている生産者も多く、1/5の生産者はより効率的なかん水方法を採りたいとしており、さらに、水の再利用システムや貯水能力を増強するための投資を考えている者も多い。

出典:ABARE、Financial performance of Australian sugar cane producers 2005-06 to 2007-08
図4 さとうきび生産者の今後3年間の経営意向
出典:ABARE、Financial performance of Australian sugar cane producers 2005-06 to 2007-08
図5 さとうきび生産縮小意向の生産者の割合
出典:ABARE、Financial performance of Australian sugar cane producers 2005-06 to 2007-08
図6 かんがい設備の水源
出典:ABARE、Financial performance of Australian sugar cane producers 2005-06 to 2007-08
図7 水不足や水価格上昇時の対応

3.さとうきび・砂糖産業の多様化

 オーストラリアの砂糖産業では、バガスやさとうきびの葉などのトラッシュを利用した電力の供給が注目されている。特に、NSW州では、伝統的に行われていた、火入れによりさとうきびの梢頭部や葉を燃やした後に収穫する方法(焼畑)から火入れをしない方法に移行したことで、さとうきびの葉などが利用できるようになった。さとうきびの原料茎から分けられた葉などは、ほ場のマルチとして販売されるか、製糖工場でバガスとともに発電に利用される。工場で必要な電力を上回る分は、国の電力網に供給されている。NSW州政府は再生可能エネルギー最低目標(MRET:Minimum Renewable Energy Target)を定めて、温室効果ガス放出の調整を行い、抑制を図っている。この目標は、温室効果ガス放出量の確認方法などが難しいとの理由で、農業分野には少なくとも2015年までは適用されない。しかしながら、燃料代は、製糖工場の生産コストの約1/4を占めることから、砂糖産業への影響も大きい。

 QLD州の製糖工場では、州全体の消費電力の約2%に相当する約1,100ギガワット時を発電しているが、妥当なインセンティブがあれば、州全体の必要量の20%まで発電量を増やすことも可能であるとしている。

 また、発電のほかに、エタノールの生産も行われており、糖みつを原料に年間6500万リットルのエタノールを生産している。砂糖産業は、2億7000万リットルのエタノール生産分に相当する原料糖みつの供給が可能ではあるが、糖みつは家畜飼料としても利用されており、飼料市場での収益が良いと見られることから、仕向け先として競合することが見込まれる。

4.世界およびオーストラリアにおける砂糖生産の中期見通し

 世界の砂糖生産は、これまでと同様に増加傾向で推移し、2013/14年度(10月〜9月)には2008/09年度の1億6100万トンから10%増の1億7740万トンになると予想されている。ブラジルのさとうきび生産量の増加と、2006/07年度から行われているEUでの砂糖制度改革によるビート生産の減少が、大きな動きになると見込まれている。ブラジルでのさとうきび生産量は2013/14年度には2008/09年度から18%増加するとみられている。同国ではエタノールの需要が高まっていることから、エタノール生産に向けられるさとうきびの割合は、2008/09年度の58%から2013/14年度には62%にまで増加するが、砂糖生産も同3210万トンから3460万トンに増加する。また、EUでは、制度改革による砂糖の生産割当の減少などに伴い、域内でのビート生産が引き続き減少し、砂糖生産は2008/09年度の1670万トンから2013/14年度には1580万トンに減少するとみられている。

 その他の国では、2008/09年度は、小麦、米、とうもろこし、大豆などの価格が高かったことからこれらの作物に切り替わり、さとうきびおよびビートの生産量が減少した国が多かった。しかし、2008年に多くの作物の価格が低下しており、中期的にはさとうきびおよびビートの生産が回復するとみられており、特にこの動きはインド、タイ、東ヨーロッパで見られるだろう。また、ロシアでは、ここ10年にわたり毎年1割程度の割合で砂糖生産が増加しており、この動きは今後も続くとしている。中国では、単収の向上により、生産が伸びるとみられている。

 オーストラリアでは、さとうきびの生産地域は東海岸沿岸地域に限られているが、この地域でさとうきびの栽培面積が拡大することは見込めない。このため、ABAREでは、中期的に砂糖生産が大幅に増加することはないと見ている。同国のさとうきび収穫面積は、前述のように近年減少しているが、この傾向は今後も継続し、2013/14年度には37万9000ヘクタールにまで減少するとみられる。この面積の減少分は、今後もさとうきびおよび砂糖の両方での生産性の向上によって補えるとしており、砂糖生産はおよそ490万トンの水準で維持されると見込まれている。

表3 中期的砂糖生産の見通し
注 :2008/09年度は見通し。2009/10年度以降は予測値。
出典:ABARE、Australian commodities vol 16 no 1 March quarter 2009

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