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EUの糖業事情(2)〜需給状況、砂糖産業をめぐる課題など〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ

[2009年6月]

【調査・報告】
調査情報部 調査課

 EUは、世界最大の砂糖輸出量を誇っていたが、2006年の砂糖制度改革により、将来世界最大の砂糖輸入地域になることが予想されている。

 その影響を受けつつある近年の需給状況などについて、英国の調査会社LMCからの報告を基にとりまとめたので紹介する。

 なお、5月号ではEUの砂糖制度改革の内容を、6月号ではEUにおける需給状況、てん菜および製糖の生産状況、異性化糖の政策、砂糖産業をめぐる課題について報告する。

5.需給状況

(1)EU全体の生産・消費・輸出入

 近年、EUの砂糖の消費量は1800万トン(粗糖換算)前後で推移している(表1)。

表1 砂糖の需給動向
(単位:千トン、粗糖換算)
注1:概算値、2:予測値
資料:ISO、LMC

 生産量は消費量を上回って推移してきたが、砂糖制度の改革の一環として生産割当数量の削減が進められる中、この傾向は逆転しつつある。実際、EUは2005/06年度まで世界最大の白糖の輸出量を誇っていたが、2006/07年度以降、純輸入国(地域)に転じ、現在では世界最大の砂糖輸入国(地域)の一つとなり、2009/10年度には輸入量が粗糖換算で420万トンを超えるものと予想されている(図1)。

資料:LMC
図1 EU27カ国の生産量、消費量および輸出入量の推移

 表2に、2005年から2007年の3年間におけるEUの砂糖平均輸入量を相手国別に示した。

表2:砂糖輸入上位10ヵ国(2005年〜2007年平均ベース)
(単位:トン、粗糖換算)

資料:LMC

(2)用途別消費

 砂糖の用途別消費割合は、ここ数年ほとんど変わっていない(表3)。家庭用が全体の約33%を占め、業務用が全体の約67%で、業務用の内訳を見ると、飲料部門(19%)、菓子部門(15%)、パン類部門(12%)の3部門で、消費量全体の約46%を占めている。

表3 砂糖の用途別消費量の推移
注:予測値
資料:LMC

6.てん菜およびてん菜糖の生産状況

(1)てん菜栽培部門の生産状況

 てん菜の作付面積は、2003/04年度の約220万ヘクタールから2008/09年度には約140万ヘクタールまで減少した。収穫量も同様に、約1億1500万トンから約8300万トンまで減少した。作付面積および収穫量の減少は、砂糖制度の改革に伴う生産割当数量の削減策によって、製糖業者の工場削減に伴い、てん菜栽培農家の栽培縮小や中止が原因とみられる。

 単収は2004/05年度の1ヘクタール当たり59.4トンから2007/08年度は同65.2トンへ増加した。その要因としては、生産効率の低い農家が、てん菜栽培の規模の縮小あるいは離農する一方で、生産効率の高い農家による高収量の品種の採用と、病害虫防除の充実ならびに営農方法の向上に向けた継続的な取り組みが挙げられる。

 てん菜のショ糖含有率は17%強であまり変化していないのに対して、1ヘクタール当たりの産糖量は、2004/05年度の約9トンから2007/08年度には約10トンに増加した(表4)。

表4 てん菜などの生産動向
注:予測値
※ :てん菜の生産額は、各年の砂糖の生産に使われたてん菜の数量に、砂糖に加工されたてん菜1トン当たりの農家受取価格を乗じたものである。
資料:LMC

 しかし、加盟国ごとの状況に目を転じると、地域によってばらつきが見られる。てん菜の生産の大部分が集中するフランス、ベルギー、オランダ、ドイツ、ポーランド、チェコ共和国、イギリス、デンマーク、スウェーデン、リトアニアの10カ国(てん菜ベルト地域)は雨が多く、寒冷な気候で、てん菜の栽培に適した自然条件に恵まれショ糖含有率も比較的高い。一方で、オーストリア、スロバキア、ハンガリー、イタリアやルーマニアなどの中・南欧は、てん菜ベルト地域と比較すると夏期が高気温のため、ショ糖含有率が低い。

(2)てん菜糖製糖部門の生産状況

 EUではてん菜糖の生産が6大製糖業者に集中し、2008/09年度の生産割当数量に占めるこれら6社のシェアは、合計で約75%に上る。これら大手製糖業者のうち、協同組合形式の経営形態をとる者が4社と過半数を占め、それらの生産割当数量に占める割合は合計で59%に達している(表5)。

表5 EU の砂糖産業の構造と経営形態(2008/09年度)
資料:LMC、CGB 報告書(2008年12月)

 EU全体で見ると製糖部門の生産状況は、工場数が2001/02年度の256カ所から2008/09年度には112カ所に激減し、それに伴い、平均処理能力が増加傾向にある。(表6)。

表6 てん菜糖工場の生産実績
注1:平均稼働日数は、製糖期間の日数から工場の休止日数を差し引いたものである。
2:2009/10年度は予測値
資料:LMC

 また、てん菜糖製糖業者は、事業の合理化を進め、工場の再編による生産拡大を進めてきた。こうした動きは加速しており、てん菜糖製糖業者はスケールメリットを活かしたコスト削減に取り組んでいる。

 とはいえ、設備の稼働率の向上には、てん菜の季節性から自ずと限界がある。このため、てん菜糖製糖業者は、大規模な設備能力をコストをかけて所有し、生産規模を維持する方法か、生産割当を返還して適正規模まで設備を縮小し、稼働率を向上させる方法か、いずれかを選択することを余儀なくされている。

 どちらの方法を選択しても、単位産糖量当たりの固定生産コストは上昇することになる。

 2002/03年度から2006/07年度の平均実績と2009/10年度の予測による主な加盟国における工場の平均規模(図2)と1日当たりの産糖量の推移(図3)を見ると、加盟国によって、工場の実績に極めて大きな開きがあることがよく分かる。

資料:LMC
図2 主な加盟国のてん菜糖工場の平均規模
資料:LMC

図3 主な加盟国のてん菜糖工場の1日当たりの産糖量

(3)栽培農家と製糖業者の関係

 栽培農家が受け取るてん菜の最低価格(ショ糖含有率16%基準)は、2006/07年度までは1トン当たり32.9ユーロだったものが、引き下げられて、2009/10年度には1トン当たり26.3ユーロとなる(砂糖類情報2009年5月号「EUの糖業事情(1)」参照)。

 ただし、実際のてん菜の生産者価格は、製糖業者と栽培農家の間の個別の交渉で決まり、ショ糖含有率が16%以上のてん菜にはそれに見合った報酬を与えることが、糖分取引の規則で定められていることから、最低価格よりも高く設定されている。(表7)。

表7 ショ糖含有率に応じた生産者価格の調整率
資料:LMC

 また、てん菜の品質面に対する奨励金も設けられている。例として、ショ糖含有率が比較的低いとされる製糖工場の操業初期または後期に原料を搬入した場合の上乗せ分や、凍結、霜などの被害を受けた原料を搬入した場合のペナルティが挙げられる。ただし、このような奨励金の仕組みは、国もしくは、同一国内の地域によっても異なり、ほとんどは栽培農家と製糖業者との協定で定められている。

 また、てん菜のショ糖含有率16%、工場の歩留まり81.25%を前提条件として、改革後の砂糖制度に基づき、ビートパルプから得た収益の100%を栽培農家が得て、栽培農家と製糖業者との協定に基づき、糖みつの販売で得た収益の100%を製糖業者が得ることとなっている。

 割当外糖の原料として使われるてん菜は、割当糖用のてん菜と価格の算出方法が異なる。割当外糖用てん菜の価格は、加工業者と栽培農家間との取り決めで、てん菜の栽培費用に小麦など代替作物の粗利益相当額を上乗せした価格が設定されている。

7.異性化糖について

(1)異性化糖と代替甘味料の位置づけ

 2003/04年度から2008/09年度におけるショ糖、異性化糖、高甘味度甘味料を含む全甘味料(ノンカロリーを含む)の消費量の推移を表8に示した。

表8 EU内における甘味料消費の推移
(単位:千トン、白糖換算)
資料:LMC

 EUでは砂糖の消費量が圧倒的に多いが、甘味料全体に占めるシェアは過去6年間で、66%から64%に若干低下している。

 高甘味度甘味料では、サッカリンとアスパルテームの消費量が多く、その大半が中国産である。サッカリンは、中国で環境汚染問題が生じて製造工場が閉鎖され、過去1年半にわたって同国のサッカリンの供給に支障が生じた影響で、2007/08年度と2008/09年度に消費量が減少した。アスパルテームについては、安全性に対する懸念が根強く、EUでの売上げに影響が出ているとはいえ、2004/05年度以降、消費量がわずかながら伸びを示している。また、1990年代末にイギリスに本社を置くTate & Lyle社が発売した甘味料のスクラロースがここ数年、増加している。

(2)異性化糖を対象とした政策

 EUでは、砂糖制度によって、異性化糖の生産も規制されている。表9に、2005/06年度から2009/10年度までの割当数量の推移を示した。この表を見ると、対象期間に、異性化糖の総割当数量(追加された割当数量を加算し、返還された割当数量を差し引いた数量)が2005/06年度の約50万トンから2008/09年度は約82万トンへ増加したことが分かる。しかし、2009/10年度は約69万トンへ減少する見通しである。

表9 異性化糖の生産割当数量の推移
(単位:千トン、白糖換算)
注:2009年1月31日までに各加盟国に提出された割当数量返還申請書に基づいて算出。
資料:LMC、砂糖管理委員会

 国別に見ると、増加している国が多いが、減少している国もある。再構築期間の間、主な生産国では割当数量を返還した国が多く、一部の国では異性化糖の生産を全面的に止めている。

 その例として、Roquette社とTereos社が挙げられるが、前者はスペインとフランスにおける自らの異性化糖の生産割当を、後者はイギリスとスペインにおける割当数量を、それぞれ返還した。ルーマニアは国全体の異性化糖の生産割当を放棄し、Eaststarch社(Tate & Lyle社とADM社の共同企業体)とRoquette社は、同国における異性化糖の生産割当を、それぞれ1万4,000トン分と1,500トン分、返還した。

 異性化糖と同じく、果糖用イヌリンの生産量も、砂糖制度によって規制されている。これまでEUは、イヌリン由来の果糖を、砂糖の域内価格に近い水準で販売できたため、果糖用イヌリンの製造業者と同様、イヌリンシロップの製造業者にとっても魅力的な市場であった。しかし、今回の改革によって、主な製造業者はすべて生産中止に追い込まれた。

8.砂糖産業をめぐる課題

 2009/10年度にLDC(後発開発途上国)諸国からの砂糖の輸入が完全自由化され、EU市場に輸入される砂糖(その大半は粗糖が占める)が増加するものと予想される。てん菜糖工場で粗糖の精製を行い、てん菜糖の生産縮小分を補おうとするてん菜糖製糖業者が出てくる一方、精製業者はTSN(精製用粗糖の伝統的供給必要量)の割当に縛られなくなり、生産拡大を模索するであろう。EUでは、これらの新たな取決めを受けて、EU域外の生産者と取引契約を結び、2009/10年度から砂糖の輸入を始めるてん菜糖企業が多くなる見込みである。大口契約の例としては、British Sugar社と南アフリカのIllovo社間の粗糖(約70万トン)と、Suedzucker社とモーリシャス間の精製糖(上限40万トン)の契約が挙げられる。この砂糖の大半は、南欧で販売される可能性が高い。

 EU市場は、今回の改革が終了してしばらくの間、北および北西ヨーロッパで供給過剰に陥る反面、南部で供給不足になる見通しである。EU全体で見ると精製設備は十分あり、てん菜糖生産量全体の不足分を補うことができるが、精製糖工場の大部分が、砂糖が供給過剰の地域に集中している。この状況に対応するため、砂糖が不足する地域への精製糖工場の新設計画がすでに立てられている。特に南東ヨーロッパおよびイタリア南部と、北ヨーロッパの一部が、設備能力増強への投資の魅力度が高いと思われる。

 EUの砂糖制度の改革によって、域内のてん菜糖生産が縮小し、供給不足が深刻化すれば、第三国からの砂糖の輸入を増やさなければならない。しかし、ACP(EUの旧植民地であるアフリカ、カリブ、太平洋)諸国およびLDC諸国に、EUの需要を満たすだけの供給余力があるとはみられていない。EUの市場価格がこれら諸国にとって魅力的であれば、国内市場向けをEUへの輸出に振り向けさせることも可能である。また、改革後、EUの市場価格は、初めて国際価格の影響を受けることとなる。

 割当外糖の販路が限定されるため、製糖業者は、エタノールの製造をはじめ、余剰てん菜の活用法の模索を加速させている。具体的には、てん菜糖工場の敷地にエタノール施設を建設中、あるいは、すでに建設した製糖業者もある。エタノール製造事業に投資をしている製糖業者は、てん菜の売買に関して、エタノール製造用として別途、契約を結んでいる。

 また、てん菜糖液を原料に自らエタノールを生産するのみならず、穀物由来の施設を有する第三者に販売することも可能である。さらに、余剰てん菜のエネルギー関連の活用法としてバイオガスの製造も検討されている。


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