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最終更新日:2010年3月6日
近年の米国の砂糖産業をめぐる情勢として、2008年に成立した新農業法の施行と北米自由貿易協定(NAFTA)によるメキシコからの砂糖輸入の影響が指摘されている。このような状況下において、米国農務省(USDA)が自ら主催する米国農業観測会議(OUTLOOK)にあわせて、2018/19年度(10月〜9月)までの長期的な需給見通しを公表したので、報告する。
※本稿は、面積および重量について、単位を原文に標記されたエーカーおよびショートトンからヘクタール(1エーカー=0.40469ヘクタール)およびトン(1ショートトン=0.907185トン)へそれぞれ置き換え、換算した数値を記載している。
てん菜の収穫面積は、2007/08年度の50万5000ヘクタールから2008/09年度は16%減少の42万6000ヘクタールへ、てん菜の生産量は、2007/08年度の2890万トンから2008/09年度は12%減少の2540万トンとなる見通しである。
2009/10年度は一転して、てん菜の収穫面積と生産量は、54万9000ヘクタール、3190万トンとそれぞれ増加する見通しである。2010/11年度は、51万2000ヘクタール、2950万トンへそれぞれ減少すると予測される。
2010/11年度以降2018/19年度まで、若干の増減はあるものの、てん菜の収穫面積は51万ヘクタール、てん菜の生産量は2950万トン前後の水準で、それぞれ安定的に推移する見通しである。このような増産は、てん菜生産地域において、他の作物よりも高い収益性が見込まれることによると考えられる。
一方、さとうきびの収穫面積は、2007/08年度の33万7000ヘクタールから2008/09年度は33万6000ヘクタールへ、さとうきびの生産量は、2007/08年度の2650万トンから2008/09年度は2610万トンへ、それぞれわずかに減少する見通しである。
2009/10年度は、さとうきびの収穫面積と生産量は、34万1000ヘクタール、2630万トンへそれぞれ増加する見通しである。
2010/11年度以降2018/19年度まで、若干の増減はあるものの、さとうきびの収穫面積は34万ヘクタール、さとうきびの生産量は2650万トン前後の水準で、それぞれ安定的に推移する見通しである(表1)。
表1 てん菜およびさとうきびの生産見通し |
資料:USDA |
てん菜糖生産量は、2007/08年度は428万3000トン、2008/09年度は383万3000トン、2009/10年度は461万4000トンへ、粗糖(さとうきび由来)生産量は、2007/08年度は311万3000トン、2008/09年度は316万6000トン、2009/10年度は336万9000トンへ、それぞれ推移する見通しである。
2010/11年度以降は、てん菜糖、粗糖ともに増減はあるものの、2018/19年度は、てん菜糖の生産量は482万9000トン、粗糖の生産量は361万6000トンとなる見通しである(表2)。
表2 砂糖の生産量、輸出入量等見通し(単位:千トン・粗糖換算) |
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2009/10年度における砂糖の輸入量は187万5000ショートトンの見込みである。このうち、関税割当以外の輸入については、2008年1月から実施の北米自由貿易協定(NAFTA)による貿易自由化の影響で、メキシコからの無税・無枠の輸入の急増が懸念されている。
2009/10年度におけるメキシコからの砂糖の輸入は、36万3000トンの見通しとなっている。2009/10年度から2014/15年度までのメキシコから米国への砂糖輸出量は、年平均14万4000トンずつ増加する見込みである。
このようなメキシコからの輸入増加の原因についてUSDAは、米国から輸入される異性化糖(HFCS・高果糖コーンシロップ)の使用量がメキシコの清涼飲料業界向け甘味料需要の75%まで増加し、その結果、メキシコ国内で余剰となった砂糖が米国に流れ込むためと見込んでいる。
2015/16年度以降は、メキシコにおける砂糖消費量が年間約5万トンずつ増加するとし、米国への砂糖輸出は減少すると予測される(表2)。
国際価格の指標となる粗糖価格(ニューヨークNo.16)は、2007/08年度の1ポンド当たり23.34セントから2008/09年度は同25.66セントへ上昇したが、2009/10年度以降はゆるやかに下がり続け、2018/19年度の同21.29セントとなると見込まれる。
てん菜の生産者価格は、2007/08年度の1トン当たり39.70ドルから、2008/09年度は同46.83ドルとなり、2009/10年度から2010/11年度にかけては下落して、同38.91ドルとなる見込みである。その後、変動を繰り返し、2015/16年度から1年ごとに7セントずつ上昇し、2018/19年度は同37.52ドルとなる見通しである。
さとうきびの生産者価格は、2007/08年度の1トン当たり29.25ドルから、2009/10年度の同31.77ドル上昇し、2010/11年度以降は下降と上昇を経て、2018/19年度には同30.96ドルとなる見通しである(表3)。
表3 粗糖および生産者価格の見通し |
資料:USDA |
2008年農業法(2008年6月18日成立)における砂糖政策は、①短期融資制度(ローン・プログラム:Loan program)による価格支持(製糖事業者への融資政策)②販売割当(Marketing Allotments)による生産・流通管理③関税割当(TRQ)による輸入管理④砂糖・エタノールプログラム(Sugar for Ethanol)―の四本柱となっている。
(1) ローンレートについて
ローンプログラムは、商品金融公社(CCC:Commodity Credit Corporation)が、製糖事業者に対して砂糖を担保に融資する制度で、砂糖価格が低下した場合には、製糖事業者は現金による返済はせず、担保砂糖のCCCへの没収、つまり「質流れ」によって、返済義務が免除されるというものである。この制度における融資額がローンレート(融資単価)であり、2011/12年度まで2008年農業法でその単価が定められている。粗糖については、2008/09年度の1ポンド当たり18.00セントから、2009/10年度には同18.25セント、2010/11年度は同18.50セント、2011/12年度は同18.75セントと段階的に引き上げられる。また、てん菜糖については、粗糖のローンレートの128.5%相当に規定されており、2008/09年度の1ポンド当たり23.13セントから、2009/10年度には同23.45セント、2010/11年度は同23.7セント、2011/12年度は同24.09セントまで引き上げることが規定されている(表4)。
表4 ローンレートの見通し |
注 :2011/12年度までは、2008年農業法で規定されている。 資料:USDA |
(2) 砂糖・エタノールプログラムの影響
砂糖・エタノールプログラムは、砂糖の食用からエタノール用へ転用を誘導する制度で、国内需要を超える砂糖の輸入が生じた場合、余剰輸入相当量の国内産糖をエタノール生産に回すというものである。このプログラムに基づき、砂糖の供給過剰分に係る入札を実施し、最も低い売渡価格を提示した製糖工場と最も高い買入価格を提示したエタノール工場との間で行われる取引についてその差額をUSDAが補てんする。つまり、砂糖の供給過剰分をUSDAが間接的に購入することで、国内需給を安定させる狙いがある。また、メキシコなどからの輸入増加による砂糖の供給過剰分をエタノール工場が吸収することにより、国内生産量を維持する効果が期待できる。
表2の「CCC補てん対象数量」が、このプログラムによりエタノール生産に仕向けられるものである。USDAは、2013/14年度に、主にメキシコからの輸入増により需要を上回る供給となり、砂糖・エタノールプログラムが制度創設後、初めて発動されると見込んでいる。CCCによる補てんは、メキシコからの輸入が増える2014/15年度まで増加し、その後は、メキシコからの輸入減と連動して減少すると見込まれる。
1)砂糖類情報2008年7月号「米国新農業法における砂糖関連政策について」
2)砂糖類情報2008年12月号「第25回国際甘味料シンポジウム概要」
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