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ロシアの砂糖需給について〜急速に増加するロシアの砂糖生産〜

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最終更新日:2010年3月6日



機構から

[2007年10月]

国際情報審査役


 ロシアは、砂糖の年間需要が600万トンを超える砂糖の消費国であるが、この砂糖需要の多くを輸入に頼り、年間400万トン以上の輸入を行ってきた。しかし、国内製糖産業が1990年代の不況から立ち直りつつあり、2005/06年度には国内生産量が300万トンを超えたこと、また、近年消費量が減少傾向であることから、近年の輸入量が減少している。
 世界の砂糖相場に大きな影響を与えるロシアの砂糖産業について、LMCからの報告をもとに国際情報審査役でとりまとめたので紹介する。

砂糖産業の概要

国内需給バランス
  • 砂糖の消費量は1990年代後半に大幅に増加したものの、人口の減少などの影響でここ数年、低下する兆候が見られる。人口は、1990年から2005年にかけて平均すると1年に0.2%ずつ減っている。
  • 対照的に、生産量は不況に陥っていた1998/99年度に大きく落ち込んだが、それ以降、着実に回復しており、2006/07年度には粗糖換算で350万トン前後に達するものと予想される。これは、1990年代後半に比べて250%、1990年に比べると130%の増加となる。
  • 生産量の回復に、消費の減退が重なり、国内需給は緩和されてきた。その結果、輸入糖のシェアは1990年代後半の90%近くから、消費量の50%未満にまで低下する見込みである。

    単位:100万トン、粗糖換算
    図1 1991/92年度〜2006/07年度生産量、消費量および純輸入量の推移

    表1 2001/02年度〜2007/08年度の砂糖需給バランスの推移
    (単位:1,000トン、粗糖換算)
    資料:ISO、LMC
    注:1. LMC概算値 2. LMC予測値

生産量、消費量および輸出入量の内訳

砂糖の生産量
 さとうきび部門のないロシアでは、白糖しか生産を行っていない。てん菜製糖工場では、国内で栽培されたてん菜を原料として精製糖を製造するだけでなく、先に述べたように、輸入した粗糖の精製も行っている。
 ロシアで製造された精製糖のほとんどは、品質が(ロシア連邦規格・計量国家委員会の規格の)Gost2194で、糖度が99.7度、色価が90〜120ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)単位である。これよりも質の高いGost2294(色価は45〜60ICUMSA単位)の精製糖もあるが、国内消費量の4%に当たる25万トンほどしか生産されていない。

砂糖の消費量
  • 自家製のアルコール飲料やジャムに使う砂糖も含め、ロシアでは家庭用が砂糖の消費量全体の3分の2を占めている。その他の主な比率は、パン類と菓子類が合わせて17%、乳製品が5%ほどで、飲料部門がわずか3%にとどまっている。
  • 国民一人当たりの消費量は、平均して40〜45kg程度である。近年砂糖の需要は、経済危機に陥った1990年代後半、他の食料の不足や食肉価格の高騰により、安価にカロリーを摂取できるパン類や国産の菓子類の消費が促されたことで最も高まった。
  • 砂糖の密輸や精製されていない不法な砂糖は、取り締まりが行われているものの、依然として砂糖産業の課題である(ベラルーシとの貿易に関して詳しくは、後述の「現在の問題」を参照されたい)。
輸出入
  • 年間の輸入量は平均で約340万トンに上り、ほとんどが粗糖として輸入された後、てん菜製糖工場で製糖期以外の時期に精製される。白糖も少量ではあるが、ウクライナ、ベラルーシやモルドバなど近隣の独立国家共同体(CIS)から輸入されている。
  • 国別で見ると、ブラジル産が大半を占め、2005年には全体の80%に上った。一方、砂糖の輸出量は2005年が14万7,000トンなどごくわずかで、主な輸出先は、中央アジアの砂糖不足に悩む諸国である。

    表2 砂糖の国別輸入量
    (単位:1,000トン、粗糖換算)
    資料:ISO

    表3 2000/01年度〜2006/07年度の砂糖消費内訳の推移
    (単位:1,000トン、白糖換算)
    資料:LMC
異性化糖および代替甘味料の位置づけ
 ロシアの甘味料市場では砂糖が主流をなしており、代替甘味料は消費量全体のごくわずかを占めるに過ぎない。
 ただし、ロシアでは砂糖価格が比較的高い一方で、小麦の価格が低い(関税込みの輸入価格(いわゆる輸入パリティー)よりも安い)ことから、今後、ブドウ糖や果糖の生産が競争力を持つ余地があると言える。Cargillはすでにこの部門への投資を行っている。生産量に関するデータはまだ入手できないが、2007年には15万トン前後のブドウ糖が生産されると当社では見ている。
 表5に、2001/02年度から2006/07年度における代替甘味料の消費量の推移をまとめた。
  • ロシアで最も多く消費されている人工甘味料はサッカリンで、2001年から概算でおよそ5%の伸びを示している。サッカリンは乳製品、パン類や炭酸飲料の製造に使われる。
  • 人工甘味料で2番目に多く使われているのはアスパルテームであるが、2006/07年度の消費量は10万トンほどにとどまるものと予想される。

    表4 2000/01年度〜2006/07年度の有カロリー甘味料需給バランスの推移
    (単位:1,000トン、白糖換算)
    資料:LMC

    表5 2001/02年度〜2006/07年度の代替甘味料消費の推移
    (単位:1,000トン、白糖換算)
    資料:LMC
    注 :2006/07年度はLMCの概算値。
       :甘味度により換算
主要な生産状況

 栽培部門でここ数年、生産性の向上が図られた。経済危機にあった時期には、資金が不足し、燃料や肥料などの高コストの生産資材の入手が難しく、これが単収の低下を招いた。その後、単収が回復し、栽培面積も増えたことに加え、収穫ロスの低減についても幾分進歩が見られる。このようにてん菜の供給状況が改善されたことで、製糖部門は処理能力をより有効に活用できるようになった。

栽培部門の生産状況
 表6に、てん菜部門の主な生産状況を整理した。経済危機に陥った1998年に比べ、生産状況は著しく向上している。てん菜は2000/01年度から収穫面積が25%ほど、収穫量が50%以上、それぞれ増加した。てん菜の単収と砂糖の歩留まりも着実に回復しているが、外国と比べると依然として低い水準であることに変わりがない。
  • てん菜の単収は2000/01年度の1ヘクタール当たり17トンから2006/07年度には31トンにまで上昇した。しかし諸外国と比較して低い水準であり、その一因としては、肥料の入手が引き続き制限されていることが挙げられる。
  • 同様に砂糖の歩留まりも2000/01年度の1ヘクタール当たり1.9トンから2006/07年度には3.2トンにまで増加しているが、国際的には低い水準となっている。
  • ロシアでは現在、農家が輸入品種のてん菜を栽培するなか、てん菜不足が引き続き問題となっている。これら輸入品種はショ糖の含有率が高い反面、ロシアの在来種よりも貯蔵期間が短いという欠点を抱えている。

    表6 2000/01年度〜2006/07年度のてん菜生産状況の推移
    資料:LMC
    注:2006/07年度はLMCの概算値。

    単位:トン/ヘクタール、白糖換算
    図2 1995/96年度〜2006/07年度の砂糖歩留まりの推移
製糖部門の生産状況
 1990年代はロシアの各産業が資金不足に陥った厳しい時期であり、この時の過少投資という負の遺産が、ロシアの砂糖産業の大きな足かせとなってきた。ソ連崩壊後、製糖部門は合理化の時代を迎えた。てん菜不足で多くの工場が閉鎖に追い込まれ、操業する工場の数は1990年の96ヵ所から2007年には82ヵ所に減っている。こうした工場の閉鎖は原材料不足が主な要因であったため、大規模で効率性の高い工場の一部が廃業した反面、規模の小さな工場が操業を続けるという事態に陥った。
 しかし、ロシアの投資環境はここ数年、改善してきており、砂糖部門への投資も増え、一部の外国企業が既存の工場の再建を進めている。

 表7に、2000/01年度以降における工場の平均処理能力と平均処理量の推移を示した。処理能力と処理量の改善にともない、年間稼働日数も68日から90日に増えている。しかし、引き続き輸送インフラとてん菜の貯蔵施設の整備が十分ではなく、近年になってもまだ収穫後のロスが目立つ。
 表7は、てん菜を原料とする製糖のデータしか表していない。工場では製糖期以外に、輸入された粗糖の精製も行っている。この精製作業は、工場の設備稼働率の著しい向上と生産された砂糖1トン当たりの固定費の削減につながるため、砂糖産業にとって極めて重要と言える。2000年度に85あった工場のうち、粗糖(甘しゃ糖)の精製を行っていないのは、わずか12工場にとどまった。更に粗糖(甘しゃ糖)の精製を行っている工場のうち7工場は、輸入粗糖の精製だけを行い、てん菜の処理をまったく行っていない。


表7 2000/01年度〜2006/07年度の製糖工場の主な生産状況の推移
資料:ロシア砂糖産業筋、LMC概算値
注: 2006/07年度のデータは概算値

単位:工場当たりの産糖量(単位:1,000トン,粗糖)
図3 1995/96年度〜2006/07年度の工場当たりの産糖量

砂糖制度の主な特徴

はじめに
 ロシアでは、政府が可変輸入関税(variable import tariff)によって高水準の価格支持を行っているものの、砂糖の国内価格は国際価格に連動している。

販売制度
  • 統一された販売体制は整えられていない。てん菜製糖工場と農業者の団体は自分たちが製造した砂糖を民間の取引業者に販売し、この業者が国内に砂糖を流通させている。
  • てん菜の代金を砂糖で受け取る農家も、その砂糖を販売するため、地元の市場には数多くの売り手が存在することになる。これに加え、各てん菜製糖工場は独自に砂糖の販売を行っている。
  • てん菜製糖工場と栽培者の団体は自分たちが製造した砂糖を民間の取引業者に販売し、この業者が主として50kgの袋詰めで各地域の消費センターに輸送する。砂糖は、地元の卸売商(merchant)が消費センターで購入した後、実需者や小売業者に販売される。
  • 大手の実需者は製糖工場と直接契約をして、必要な品質の砂糖の供給を確保している。
国内価格支持
 ロシアではここ数年間、相次ぐ関税構造の変更と商法の改正によって、外国の貿易業者ならびに投資家の間で混乱が生じている。ただ、可変輸入関税(variable import tariff)制度が導入されたことで、砂糖部門の透明性が増したことも事実である。ロシアでは2004年、輸入砂糖の季節関税を廃止し、代わりに粗糖の可変輸入関税(variable import tariff)と新たな白糖に対する関税が採用された。
 この可変輸入関税(variable import tariff)は、国際価格が低迷している時に高額の関税を輸入糖にかけて国内価格を支えることで、国内のてん菜栽培者を支援することを目的としている。
 また、白糖への関税は粗糖に対する関税より高率の関税を課しており、国内で精製される粗糖の輸入を促す働きがある。

 下記の図4に、可変輸入関税の仕組みを示した。関税は上限を1トン当たり270米ドル、下限を140米ドルとし、この範囲の中で、砂糖の国際価格の水準に応じて変動する。関税率は毎月設定され、それに先立つ3ヵ月間のニューヨーク先物価格の平均に連動している。輸入関税は2007年6月現在、1トン当たり140米ドルに設定されており、この9ヵ月間変わっていない。これは最も低い関税率だが、それでも、輸入砂糖から国産を守る保護効果は大きい。

図4 ロシアにおける砂糖の可変輸入関税(vsriable import tariff)の内容

表8 現在の貿易政策の内容(2007年6月現在)
注:1. 2007年6月の関税率

 製糖業者の組合から先ごろ、砂糖産業を対象とした支援の強化を目的とする提案が示された。この提案は、国内製糖業者の保護の強化を図るため、製糖期の間に1トン当たり250米ドルの季節関税を導入するという内容で、現在、政府が検討を進めている。
 表9は、2000/01年度から2005/06年度のロシアにおけるてん菜と白糖の平均価格を示している。この表を見ると、国内価格は国際市場をはるかに上回る水準で支持されていることがわかるが、輸入砂糖への依存度が高いため、図5のように、国内価格は国際価格に合わせて変動する傾向にある。

表9 2000/01年度〜2005/06年度のてん菜および砂糖の国内平均価格
(単位:米ドル/トン)
資料:LMC
注:1.税抜き

単位:白糖価格(米ドル換算)
図5 関税込みの輸入価格(いわゆる輸入パリティー)と国内価格の比較


市場アクセス
 ロシアは独立国家共同体(CIS)と自由貿易協定を結び、その国内で栽培されたてん菜を原料とする白糖の貿易を自由化するとともに、ウクライナを除く全CIS諸国に特恵市場アクセスを許可している。しかし、ベラルーシなど近隣諸国からロシア市場に輸入粗糖を精製した白糖が大量に流入するなか、CIS産の白糖(てん菜糖)とこれら輸入粗糖を精製した白糖の区別が付きにくくなり、問題が生じてきた。その結果、後述の「現在の問題」で説明するような貿易紛争にまで発展している。

栽培農家と製糖業者の関係
  • ロシアでは、大多数の国と異なるてん菜代金の支払いメカニズムを採用している。てん菜を納入した栽培農家は、現金の支払いを受ける代わりに、そのてん菜を原料に製造された砂糖の72%を受け取る。農家は、この砂糖を独自に販売することができる。
  • 甘しゃ糖を精製するてん菜製糖工場は、貿易業者の委託を受けて粗糖を精製し、所定の受託料を受け取る。
砂糖産業の現状

 近年、ロシアのてん菜製糖部門に対する投資家の関心が高まっているが、こうした投資家にとっての魅力は、国内市場の大きさと、砂糖産業に対する手厚い保護である。これによってとりわけ、同部門では外資の存在感が増している。

表10 2006年の地域別てん菜糖生産状況
資料:第3回世界砂糖貿易会議(World Sugar Trade Conference:ドバイ)におけるVestaの発表


 ロシアでは伝統的に西部地域でてん菜を栽培してきた。てん菜の主な産地は、Central、Volgo―Vyatsk、Central―Chernozem、Povolzyhsk、North Caucasus、UralsとWestern Siberiaの6ヵ所であるが、なかでもCentral―Chernozemは産糖量が群を抜いて多い。
 黒海に近いKrasnador地方のてん菜製糖業者は、製糖期以外の時期に、自社のてん菜製糖工場で粗糖を精製することで、設備稼働率を大幅に高めるため、産糖量1トン当たりの固定費を大きく減少させることが可能である。

てん菜製糖産業の構造
 下記の表11に、主要な製糖会社6社の生産状況を示した。これら6社を合わせた市場シェアは70%ほどにも上る。残りは独立系の小規模な製糖会社で、国営の砂糖会社は1社もない。

表11 主要なてん菜糖会社
(2006年、単位:1,000トン、白糖換算)
資料:FO Licht、LMC
注:輸入粗糖の精製量は、2006年の粗糖輸入量を基に算出した概算値。この数字は、在庫量の動きによって、多少、
実際と異なる可能性がある。


 一部の製糖会社は、今後数年間で生産の拡大を図る意向を示している。
  • ロシア最大のてん菜糖会社Prodimex Holdingsは現在、ロシア砂糖市場で約17%のシェアを握っているが、今後、3年から5年で一部工場の近代化を図り、これを25%にまで伸ばす計画である。
  • 同国第2位のRusagroは、1億米ドルを投じて今後数年の間に4工場で生産の拡大を進める意向を示している。
  • フランスの製糖会社で、ロシアに3つの製糖工場を持つSucdenも、同じく1億米ドルをかけて、2008年までに工場の拡充を図る意向を表明している。また同社は、てん菜栽培専用の土地を25%増やす計画である。


    (参考)ロシアにおける地域区分図
    資料:Investment Opportunities in Russia ホームページ"Investment Map of Russia" より編集
    注 :太字はてん菜生産が行われている地域
砂糖産業の現在の問題

 ロシアの砂糖産業は現在、投資、再導入される可能性がある季節関税およびベラルーシからの砂糖の不正輸入といった3つの問題に直面している。
  • ベラルーシ:ベラルーシから砂糖が不正に輸入される問題は、ロシアの砂糖産業において、かねてから議論を呼んできた。ベラルーシはロシアに国産白糖(てん菜糖)を関税なしに輸出することが認められているが、てん菜ではなく輸入粗糖(甘しゃ糖)から製造された白糖が無関税で持ち込まれる事例が起きている。ロシア側は今年に入り、ベラルーシからの「灰色甘しゃ糖」の輸入防止に向けて動き出したが、これを徹底させる意志が政府にあるのか否かはまだ不透明である。不正輸入に歯止めをかけるために、ベラルーシから輸入される砂糖の税関検査は現在、モスクワ西部の税関所で一元的に行われている。これに加え、ベラルーシで国内価格を引き上げる動きがあり、これも、不正輸出の低減に一定の効果をあげることが期待される。
  • 新たな季節関税の導入:製糖業者の組合は現在、製糖期の間だけ、関税を現在の1トン当たり140米ドルから250米ドルに引き上げる、季節関税の導入を政府に働きかけている。今年初旬、2007年中にもこの季節関税が採用される可能性が高いとの見方が広まり、貿易会社による、駆け込み輸入が見られ、1月の輸入量は昨年同期のおよそ3.5倍にあたる38万トンに達した。しかし現在では、季節関税の導入は早くても2008年1月にずれ込むものと見られている。
  • 砂糖部門における投資の増加が追い風となって、砂糖産業の業績は今後も伸び続ける。砂糖産業でキャッシュフローの状況が改善するなか、生産資材の購入が容易になり、単収や歩留まりが引き続き向上して、他国との格差が縮まる。また外国投資家が同部門における動きを益々活発化させて、独立系企業の過半数の株式を取得し、経営権を握っている。とはいえ現在のところ、彼らが力を入れているのは、工場の新設ではなく、輸入粗糖の精製の委託を受けやすい工場を中心とした、既存の設備の再建で、今までの姿勢を変えていない。


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