[2001年2月]
ブラジルは、世界第1位の輸出量を誇り、その動向次第で世界砂糖価格に大きく影響を与えます。さらに、近年、糖度の高いVHP (Very High Polalization) 粗糖のアジア地域への流入が、タイ及びオーストラリアなどの輸出にも大きく影響を与えています。そのため、同国のさとうきびの生産量及び砂糖の在庫量は燃料政策を含め、世界の砂糖業界から常に注目されています。
ブラジルの砂糖産業については平成12年1月号で紹介しましたが、その後の動向について、LMC社からの VHP粗糖に関する報告及び昨年11月開催された ISOセミナーでの講演内容等を参考に取りまとめ報告します。
ブラジルの概況
ブラジルは、国家アルコール計画を実施し、さとうきびからアルコール (エタノール) と砂糖を生産する唯一の国である。糖みつからエタノールを生産している国は多いが、さとうきびから直接エタノールを生産している国は、ブラジルのみである。さとうきびの50〜60%がエタノール、40〜50%が砂糖に利用されている (LMC 社の報告によれば、97/98年度は砂糖44%、エタノール56%であった)。さとうきびの生産は、中・南部地域が中心で全体の80%強が生産されている。北・北東部地域は、気候、地形面で不利な条件であるため生産量も少なく、1991〜1998年の間、地域的なエタノール奨励政策 (価格プレミアム、工業生産税の免除) が実施された。
砂糖の消費量は91/92年度の728万トンから98/99年度には924万トンに27%増加した。一方、生産量が同期間に2倍以上に増加したことによって輸出量も増加し、91/92年度の約161万トンから98/99年度には927万トンまで5.7倍以上に増加している。
また、2000/01年度においては、消費量は増加傾向にあるが、さとうきび生産量の減少とエタノール在庫の枯渇により砂糖生産量は減少するため、輸出量も98/99年度の実績から4割程度減少するものと予測されている。
エタノールについては、1980年代は含水エタノール使用車 (100%エタノール) が販売されていたが、1990年代には24:76 (エタノール:ガソリン) で混合される無水エタノールを使用した車が販売されるという構造変革があったものの、需要は過去10年間115億〜135億リットルで安定している。現在、すべてのガソリン車は、エタノールとガソリンの混合燃料を使用しなければならない。また、ブラジル政府は、無水エタノールの需要を高めるため、試験的にディーゼル車に無水エタノールの混合 (3%) を許可している。
表1 さとうきび生産量等の実績
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94/95年度 |
95/96年度 |
96/97年度 |
97/98年度 |
平均 |
中・南部地域:
収穫面積 (1,000ha)
さとうきび収穫量 (1,000トン)
単収 (トン/ha) |
2,949 196,315 56.6 |
3,049 204,273 57.0 |
3,149 229,756 62.0 |
3,270 247,396 64.3 |
3,104 219,435 60.0 |
北・北東部地域:
収穫面積 (1,000ha)
さとうきび収穫量 (1,000トン)
単収 (トン/ha) |
1,080 44,629 35.1 |
1,033 47,413 39.0 |
1,057 56,466 45.4 |
1,145 53,460 39.7 |
1,079 50,492 39.8 |
ブラジル合計:
合計圧搾量 (1,000トン)
砂糖への使用量 (1,000トン)
砂糖への使用割合 (%)
1トン当たり必要原料 (TC:TS)
砂糖生産量 (1,000トン、粗糖ベース) |
240,944 102,258 42.4 8.2 12,478 |
251,686 111,583 44.3 8.4 13,318 |
286,223 125,687 43.9 8.1 15,572 |
300,856 132,336 44.0 8.3 15,975 |
269,927 117,966 43.7 8.2 14,336 |
さとうきび生産総額 (10万USドル) |
2,979 |
3,470 |
102,217 |
108,351 |
100,638 |
農業生産総額 (10万USドル) |
90,273 |
101,713 |
102,217 |
108,351 |
100,638 |
農業生産総額に占める さとうきびの割合 (%) |
3.3 |
3.4 |
4.2 |
4.2 |
3.8 |
|
注:さとうきび生産総額は、さとうきび収穫量に農民のさとうきび1トン当たり手取額をかけたもの。 |
表2 ブラジルの砂糖生産実績等の推移
(単位:千トン、粗糖ベース) |
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91/92 年度 |
92/93 |
93/94 |
94/95 |
95/96 |
96/97 |
97/98 |
98/99 |
99/2000 (見込み) |
2000/01 (予測) |
消費量 |
7,276 |
7,349 |
7,575 |
7,874 |
8,230 |
8,590 |
8,943 |
9,238 |
9,350 |
9,550 |
生産量 |
9,342 |
9,925 |
10,097 |
12,270 |
13,835 |
15,572 |
15,975 |
19,365 |
20,789 |
14,910 |
輸出量 |
1,614 |
2,273 |
3,008 |
3,616 |
6,299 |
5,497 |
6,972 |
9,267 |
11,940 |
5,400 |
在庫量 |
2,650 |
3,519 |
2,585 |
3,150 |
2,456 |
2,672 |
2,732 |
1,675 |
1,173 |
1,133 |
|
出典:95/96年度までISOデータ、96/97年度以降LMC社のデータ |
ブラジルの砂糖生産
ブラジルでは、粗糖 (デメララシュガー、クリスタルシュガー (粗糖(VHP粗糖を含む)として輸出、袋詰で白糖として国内販売)、精製糖 (グラニュー糖、精製された非結晶糖) が製造されている。圧倒的多数はクリスタルシュガーとして生産されているが、その25%は国内の精製糖工場で精製糖の原料として使用されたり、袋詰で白糖 (色価100〜300 ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)単位) として国内販売されている。
残りの75%は輸出量のほとんどを占めており、糖度はバルクの場合約99.5〜99.6度 (色価500〜800 ICUMSA単位) であり、VHP粗糖として世界に輸出されている。
異性化糖は、砂糖が低コストで生産されていることから生産されていない。
VHP粗糖の輸出量の増大
従来のさとうきび圧搾工場において生産される粗糖の糖度は、一般に98〜99度であった。オーストラリアの先端技術を有する圧搾工場でさえ、VHP粗糖は生産されていない。この VHP粗糖を生産するためには、生産工程の変更が必要である。ブラジルと他の砂糖生産国の大きな相違は、砂糖を生産しているほとんどすべての工場がエタノールも生産していることである。ブラジルの圧搾工場は、2ラインの構成になっており、1ラインは砂糖、もう1つはエタノールとなっている点で、他の国とは配置が異なっている。砂糖ラインでは、1番糖のみを生産していることから糖度が高い。かつて、ブラジル国内ではそのほとんどが低品質の白糖として、直接消費用に販売されていた。しかし、国内市場には需要に限界があるため、96/97年度以降、バルクでの輸出が増加しはじめ、99/2000年度には1,194万トン (LMC 社の報告によれば、そのうち660万トンがVHP粗糖) に増大した。
輸出されたVHP粗糖は、一般の粗糖と同様に輸入国で精製されている。このVHP粗糖を使用することにより、輸入国の精製糖業者は、精製コストを約10USドル/トン削減できる。そのため、オーストラリア産やタイ産に比較し、中・南部ブラジルからの運賃が比較的高いにもかかわらず、近年、大量のVHP粗糖がアジア地域に輸出されている。1999年には、マレーシアとシンガポールの精製糖業者が、中・南部ブラジルから30万トンのVHP粗糖を輸入した。また、ドバイ、サウジアラビア、カナダ、エジプト、イラン、モロッコ及びロシアなどが、ブラジルのVHP粗糖に大きく依存するようになっている。
さらに、精製糖業者は、99.0度を超えた分に対してほとんどプレミアムを支払う必要がない。これは、国際糖度プレミアム表が99.0度までしかないためである。つまり、プレミアムを支払うことなく、高品質の原料を利用することによって、コストパフォーマンスを得ることができるのである。
砂糖価格等の自由化
1988年以前、さとうきび、砂糖及びエタノール価格の設定と販売は、IAA (砂糖アルコール協会) によって厳しく管理されていた。1989年、IAAは廃止されたものの、業務を継承したSRD (地域開発事務局) を通じて統制力が維持されていた。1997年、無水エタノール価格が自由化され、1999年、含水エタノール価格及び砂糖価格が自由化された。
現在の政府関与は、輸出ライセンスを付与し、設定された割当を超える輸出に課税することのみである。しかし、これも近年は課されていない。
低コスト生産
輸出の中心を占めるブラジル中・南部地域の生産コストは、世界で最も低く、甘しゃ糖の場合、オーストラリアを100とした場合でも86.7である (94/95年度)。その後もレアル切り下げ、継続的なコスト削減が実施されていることから、競争力はなお一層増しているものと思われる。
昨年11月ロンドンで開催された第9回 ISOセミナーにおいて、ブラジルの業界紙データグロ社社長のピリニオ・マリオ・ナスタリ氏は、「一般に、ブラジルの低コストはエタノールに対する補助金のためであると言われているが、政府介入が全く無い中で、民間投資によって実現されたものである。コスト削減による生産性の向上は、含水エタノールの生産性において、1975年に2,204リットル/haから1999年に5,500リットル/haに向上したことを見ても明らかである。」と述べている。
コスト削減は、水道や電気などの公的価格と同様、さとうきび、砂糖及びエタノール価格を政府が管理していた1985〜1997年の間に実施された。平均生産コストを下回る水準で価格が設定されていたため、圧搾業者は、生産を増大させ規模の経済を実現することにより、コスト削減を図ってきた。また、農家レベルでは、損失期間が長期にわたったため、融資先の欠如から集約化が進行し、同時に機械化による収穫コストの削減、最新の港湾設備のインフラ整備が民間投資によって実施された。これらにより、現在、エタノール価格は、ガソリンと競争できる価格に低減し、無水エタノール価格は1バレル当たり28.40米ドル、石油価格は23.70米ドルとなっている。
また、バガス、ケーントップ、葉などのさとうきび夾雑物も今後さらに活用され、エタノール、砂糖の生産コストのさらなる削減が図られるものと思われる。
ブラジルのさとうきび産業の目標
ナスタリ氏は、同セミナーにおいて次のように述べている。「ブラジルの政策は、WTOのあらゆる条項を順守し、エタノール及び砂糖価格は、市場価格に従い、政府介入はほとんどない。ブラジル産業は、当面、(1)砂糖とエタノールの海外市場の拡大、(2)エタノール利用の国際化、(3)輸出補助金、非関税障壁などのあらゆる貿易障壁の撤廃を目標としているが、これらの目標は、(1)エタノールの国内需要は1985年以降安定しており2010年まで変わらない、(2)国内砂糖需要は年間2%程度の伸び、(3)ブラジルにおける生産制限はないといった確信のもとに構築されている。そのため、輸出に対しては、(1)最新のインフラが整備されている、(2)抜群の競争コストを有している、(3)広範な融資が可能となり運転資本の資金調達に大きな変化が生まれている、(4)先物市場に積極的に参加できるようになり低価格での砂糖販売を強いられることはなくなったなどの点から問題はない。
さらに、現在の国内砂糖価格は、ニューヨーク市場の10.7セント/ポンド、エタノール価格も10.4セント/ポンドに相当し、データグロ社の2001年の予測価格も国内砂糖価格がニューヨーク市場の11.5セント/ポンド、エタノール価格も11.8セント/ポンドに相当すると見込んでおり、世界価格との格差もほとんどないことから、輸出に対するマイナス材料は見られない。」
一方、リヒト社によれば、ブラジルからアジアへの輸出は、(1)輸出可能量の増大、(2)レアル切り下げ、(3)運賃の値下がり、(4)品質、(5)エタノール余剰などの要因から、1997年の1万4,000トン、1998年25万3,000トン、1999年には50万トンと増加してきた。しかし、2000/01年度の輸出量は、ブラジル国内における(1)エタノール価格の値上がり、(2)エタノール在庫が枯渇したことによる混合比率の見直し (24%から20%へ) やエタノール輸入関税を0とする門戸開放政策がとられている状況から、99/2000年度に比べ、40%減少する可能性があるとしている。その背景には、ブラジル産VHP粗糖のアジア市場への進出により影響を受けているオーストラリア産粗糖がそれに対抗して品質を高めることに成功したと伝えられる (クイーンズランド砂糖有限会社) こともあると考えられる。以上のことから、2000/01年度のアジアへの砂糖輸出は減少するものと予測される。
ブラジルのさとうきび産業の将来
ナスタリ氏は、「ブラジルには、現在、貿易障壁はなく、生分解性プラスチック、リジン、クエン酸、ペニシリン、ビタミン、ソルビトール、マンニトールなどの高付加価値商品を生産するために、安価な原料となるスクロース、グルコースやフラクトースなどの供給を求めている国際的な企業にも活動の場を提供している。
今後も(1)低コスト、(2)VHP粗糖の生産技術等を生かし、国際競争力をさらに高めていくものと思われる。」とも述べている。
リヒト社によれば、今後の人口増加 (2000年61億から2050年89億人) に対処可能な砂糖の生産国は、ブラジル、オーストラリア、タイ、グアテマラ及びベトナムなどと思われるが、最も有力視されるのは、その燃料政策次第であるが、(1)さとうきび栽培に理想的な天候、(2)広大な未開拓地が多い、(3)土地が安価等の理由からブラジルであるとしている。
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