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国際甘蔗技術者会議に出席して

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最終更新日:2010年3月6日

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海外レポート
[2002年2月]


 昨年9月オーストラリア・ブリスベンで行われた国際甘蔗糖技術者会議においては、「栽培・生産技術全般」、「生理・技術・作物保護」、「副産物」、「製糖技術」 の4つの分科会と、専門性の高い分野についてはワークショップが開催されました。また、同会議・主催のエクスカーションとしてオーストラリア・コンドン地区におけるサトウキビ栽培状況の視察が行われました。それらの概要を紹介していただきました。

沖縄県農業試験場作物部 伊禮 信
国際農林水産業研究センター沖縄支所 寺内 方克 ・ 松岡 誠


会議の概要
オーストラリア・コンドン地区のサトウキビ栽培の状況
終わりに


 2001年9月17日からの21日までの5日間にわたり、オーストラリアのブリスベンで第24回国際甘蔗糖技術者会議 (International Society of Sugar Cane Technologists ; ISSCT) が開催された。ISSCT は、サトウキビから砂糖を生産するためのあらゆる技術に関する研究情報や意見交換を行うことを目的に1924年に発足し、80余年の歴史を持つ国際的な学会である。
 大会は主要なサトウキビ生産国で3年毎に開催される。オーストラリア・ブリスベンでの開催は、1935年、1950年に続き、3度目であった。過去に台湾で開催された第13回大会、フィリピンで開催された第17回大会、インドネシアで開催された第19回大会には、日本からも多くの糖業関係者が参加した経緯があるが、近年の参加は僅かである。
 サトウキビの研究や生産技術は刻々変化しており、大会やワークショップに参加し世界的な情報を得ることは意義深いと考えられる。ここでは、主として Agronomy (栽培・生産技術全般) および Biology (生理・育種・作物保護) に関する研究の現状と、エクスカーションで訪れたサウスウェールズ州のサトウキビ栽培を紹介する。

会議の概要

 例年同様、大会では Agronomy (栽培・生産技術全般)、Biology (生理・育種・作物保護)、Co-Product (副産物)、Factory (製糖技術) の4つの分科会が設けられた。ISSCT は専門性の高い分野については、ワークショップを随時、大会とは別に開催しているが、今大会では、分子生物学ワークショップと製糖技術ワークショップが併催された。新しい研究分野である分子生物学に関するワークショップは参加者の注目を集めていた。他に、昆虫学ワークショップ、病理学ワークショップ、農業工学ワークショップ、栽培学ワークショップ、育種学ワークショップ、エネルギー工学ワークショップが大会前に開催されたとのことであった。
 今大会には58ヵ国から712名が参加した。大会直前のアメリカ同時多発テロ事件に加え、アンセット航空の倒産もあり、交通網が混乱をきたしたことで、アメリカおよび中南米を中心に75名が参加できなかった。また、航空機の都合により途中帰国せざるを得ない者もあった。開催国であるオーストラリアの参加者が最も多く、他にインド、南アフリカからの参加者が多かった。製糖企業から参加が多かったのが印象的であった。日本からは筆者ら3名の他、研究者1名と農家1名が参加した。
会場内の展示ホール
会場内の展示ホール
 大会はブリスベン会議・展示センターで行われ、会場の正面入口には複数メーカーの大型ハーベスタが展示されていた。各分科会会場とは別に、会場内にはスポンサーとなった企業などの展示ブースが設けられ、収穫機や製糖工場で使用される圧搾関連の大型機械部品、生産ラインに関連する部品、ライン管理・品質管理に関するコンピュータシステムや分析機器、オーストラリアで栽培される主要な品種等が展示された。展示ブース中央には、インドや中国等に向けて新たに開発されたという最新小型のハーベスタが展示され、インド製糖企業関係者が大きな関心を寄せていた。小型とはいうものの、その大きさは日本でいう小型ハーベスタ (日本国産) と中型ハーベスタ (外国産) の中間ほどはあった。従来よりも小型ということで関心を寄せる者は多く、小型機械収穫が必ずしも日本にのみ特化しているのではないとの印象を受けた。
 展示ブースには、ポスター展示スペースが併設され、筆者らはそれぞれの発表課題を展示した。ポスターでは、栽培・生産技術全般分野の発表が多く、育種学分野のポスター発表は5課題と少数であった。多く国から各分野のポスター発表がなされたが、個別的な問題の解決や解決法に関するものが多かった。栽培・生産技術分野では、窒素反応に関することや栽植密度を改善した植付け法、育種学分野では、初期選抜における最適な選抜方法や、品質に関する系統集団のトレンド等、日本国内において既に報告あるいは実用化されているものも多かった。
 一般発表は、一課題あたり30分と十分な発表時間と質疑応答時間を取って行われた。栽培・生産技術分野では、昨年アメリカ・フロリダ州で行われたワークショップの報告や、土壌物理性による生産力、土壌分布による生産力の差異等、各国の現況を知るうえで有用な発表がなされた。他にも興味深い発表がいくつかあった。
 オーストラリア・サトウキビ試験場事務局 (Bureau of Sugarcane Experimental Stations ; BSES) の A. L. Garside らは、サトウキビのみを連続的に単一栽培することがサトウキビそのものの収量を低くしていると報告した。サトウキビは連年連作できる貴重な作物であるが、日本においても古くから輪作が輪作作物のみならずサトウキビにも良い影響を与えることが言われている。本国のサトウキビ主要産地は南西諸島域に限定されており、限られた地域で持続的に生産力を高く維持できる、他の作物を含めた土地利用においても基幹となる作物であるという観点から興味深い報告であった。
 同じくオーストラリア・サトウキビ試験場事務局 (BSES) のT. A. Bull らは、サトウキビの新しい栽培法について報告した。オーストラリアのサトウキビ作では、一貫した機械化が成立している。機械化はサトウキビおよび砂糖生産に大きな益をもたらしたが、一方、土壌・作土層の硬化や土壌肥沃度の減少による減収、害虫防除が不十分になりがちなことによる減収、茎の収穫ロスが増えているといった問題がある。サトウキビ本来の生産ポテンシャル、土地本来の生産ポテンシャルを多少損なっているのは否めない。
 これまでに、条間あるいは畝間の距離を狭める栽培法 (面積あたりの栽植密度を増加した植付法) で面積あたりの収量が増加することが報告されている。これらを踏まえ、さらに、効率的な植付と発芽茎の確保、害虫のコントロール、土壌中の水の効率的な利用等も考慮し、栽植密度や畝幅の異なる植付法 (2条、3条、4条植え) を提案するものであった。植付条数が増えるに従い畝間距離は減少し、面積当たりのサトウキビが増加することにより高い土地利用効率が期待できるが、既存の栽培法に置き換えるにはさらに検証が必要とのことであった。
 サトウキビの収量を高めるための栽植密度の改善は古くから各国で試みられている。近年では収量性に加え、省力・機械化や、環境の保全・維持による持続的生産が前提あるいは背景となることもあって、栽培・生産分野において各国の興味を引く課題のひとつであった。
 パネルディスカッションでは、土壌の金属類を含む環境要因からのリスクを最小限に抑えるには?といった発表や、施肥窒素の最適なマネージメントといった発表、人工衛星利用による生産あるいは品質の管理といった発表や製糖企業における経営・利益評価法の新たな試み等があった。
 一方、製糖技術分野の発表では、製糖工場のガスタービンの高効率化があった。近年のサトウキビ栽培・砂糖生産技術では、徹底した省力化・機械化・低コスト化が要求されており、各国からの各分野の発表も、その方向に沿ったものとなっていた。
 環境問題からの発表もいくつかみられたが、日本国内において既報告のものが多く内容的には乏しい感があった。育種学分野の発表が予想外に少なかったのも残念であった。発表に加え、各ブースの展示内容を含めて、日本からの情報発信あるいは日本と諸外国との情報交流の必要性を強く感じた。



オーストラリア・コンドン地区のサトウキビ栽培の状況

土壌の特徴
 大会会期中に ISSCT 主催によりエクスカーションが実施され、サウスウェールズ州コンドン地区のサトウキビ生産地域において、硫酸酸性土壌地帯における対策、機械収穫の状況等を視察することができた。
 硫酸酸性土壌地帯では、地下水位面以下に硫酸鉄を含む層が存在する。この層はかつて海水面が高い時、一帯がマングローブ林の様な状態の時に有機物が堆積して形成された。通常この層は地下水面以下にあり、水によって酸化が抑制されているが、地下水位面が上昇すると酸化されて硫酸が生成される。その後の地下水位の上昇によって植物の生育する土壌に硫酸が上昇する。硫酸酸性土壌は作物に影響を及ぼすばかりでなく、水路の水が酸性になって魚などの生物が死滅したり、人工的な構造物の腐食を進めたりするため、大きな問題となっているが、地下水位以下にあることから、通常は酸化を抑制されている。時に地下水位が低下すると、硫酸塩は空気に触れ酸化して硫酸となる。地下水位が上昇すると硫酸は水と一緒に地表近く (作土層) に移動する。硫酸により耕作土壌が強酸性となり、サトウキビを含めすべての植物の生育に悪影響を及ぼす。また、硫酸が用水路に溶け出すと水生生物にも悪影響を与える。日本、沖縄県においても硫酸塩を含む土壌が局所的に確認され、草木さえ育たない土壌として知られている。サトウキビ試験場事務局 (Bureau of Sugarcane Experimental Stations ; BSES) は、ニューサウスウェールズ州のコンドン地区をモデル地区とし、その対策法を研究している。

酸性土壌対策
 コンドン地区では、平坦な低地でサトウキビが栽培されており、起伏のある丘陵地は畜産に利用されている。硫酸酸性土壌は主としてサトウキビが栽培されている圃場で問題となっている。コンドン地区は海岸に近いことから、しばしば圃場が灌水し、酸性化する被害がでている。サトウキビは比較的酸性に強い作物であるが、強酸性土壌では生育が悪くなり、収量が低下する。この対策として、コンドン地区では近郊から得られる石灰の施用によって酸を中和している。石灰の施用によって酸を中和している。石灰の施用によって収量は上がるが、土壌のpHは石灰施用後に再び低下することから、その作用は永続しない。植え付けに際しては、通常サトウキビは溝の底に植え付けるが、この地区の地下水位の高い圃場では反対に盛った土の中に植え付けている。圃場には排水路が巡らされており、この排水路の水を継続的に中和するために移動式の石灰中和装置が開発されている。この装置は石灰石を破砕する回転ドラムに水路の水を循環させて中和するもので、トラクタに装着して移動できる。硫酸は水路の壁面で形成されて溶出して被害をもたらすことから、この装置による水路の中和には期待が寄せられている。さらに、この地区では農家の啓蒙活動に力を入れており、被害予測地図を作成して予防と対策に役立てている他、農家が土壌の酸性度を体感できるよう酸性度に応じて発砲する検定キットを開発している。

搬送されるさとうきび
搬送されるさとうきび
サトウキビの機械収穫
 次に、サトウキビの機械収穫の様子を視察した。収穫作業は1台の大型ハーベスタと2台のカーゴを牽引した搬送車の構成・3人で行われており、圃場外には収穫したサトウキビを一時的に保管するスペースが設けられていた。収穫前には火入れが行われ、圃場のサトウキビは、雑物となる枯葉がほとんど茎に付着していない状態であった。畝幅は150cm程と大型ハーベスタにあわせた広く取られていたが、畝方向の植え付け密度が高いのか、あるいは、栽培される品種が旺盛な分けつ力を有するのか、面積当たりの茎数は多いようであった。また、茎収量からは予想できないほど低い培土の状態であった。大型のハーベスタは搬送車とともに地面を揺るがしながら、駆け足でも追いつかないような速さで収穫を行っていた。圃場が平坦なこともあって、日本の機械収穫現場で見られる収穫茎の切断高さの微調整などはほとんど行われないようであった。培土が低い状態で高速運転による収穫を行っているにもかかわらず、サトウキビ株の浮き上がりなどは見られず、植え付け深度が深いか、あるいは、栽培される品種が強靭な根系を持つのであろうと推察された。一往復の収穫作業で搬送車のカーゴは満載となり、もう1台の搬送車と交代する。収穫したサトウキビを満載した搬送車は一時保管スペースに移動して収穫茎を移送用カーゴに積み替え、空のカーゴを牽引してくる。その間には先ほど空であった搬送車のカーゴが満載となっているといった見事な連携で作業が行われていた。
 続いて、代表的な農家の保有する機械類を視察した。この地域では通常30戸程の農家で生産者グループを組織しており、1つの生産者グループは2台程度ハーベスタを保有し、他作業に用いる農機を含め共用される場合が多いとのことであった。視察した農家には2台のハーベスタがあり、1台は稼動中で、比較的型式の古い1台が予備として控えていた。使用される農機は小さなものから大きなものまで、種類・数ともに多く、植え付けから栽培管理、収穫にいたるまで一貫して機械化が実現していることが容易に理解できた。中には日本で見慣れない農機もいくつかあり、そのようなものの中に、圃場を平坦にする機械があった。これは、道路舗装の際にアスファルトを均等に敷きならすために用いられる重機のようなもので、ハーベスタを含む農機を効率的に稼動させるための圃場作りに利用されているようであった。サトウキビ生産の徹底した省力化・機械化・低コスト化は、広く、平坦で、軽しょうな土壌に恵まれるという点だけではなく、機械利用を想定した圃場作りの努力によっても実現しているという点に留意が必要である。

健全種苗の生産
 株出時の病害 (Ratoon Stunting Disease ; RSD) 対策のために健全種苗を生産している圃場を視察した。RSD は微細な菌により引き起こされる病害で、罹病したサトウキビ株は株出栽培時に収量が大きく減じる。収量減少の度合いは品種により異なるが、今のところ完全な抵抗性を持つ品種は見出されていないようであった。
 サトウキビ生産における株出栽培は幾作かにわたり持続的・省力的に低コストで生産を行うことができる優れた作型である。そのため、RSD はオーストラリアにおいても重要な病害として位置付けられ、品種改良や分子生物学的手法による抵抗性付与等、対策のための研究が積極的になされている。一方、生産現場では健全種苗を用いることで対処しており、一部農家では、種苗利用のためのサトウキビが委託生産されていた。今後の研究の進展により、根本的な解決のための技術が開発されることに期待したい。

ニューサウスウエルズ州北部のサトウキビ栽培状況
 次いで、コンドン地区を含むニューサウスウェールズ州北部地域のサトウキビ栽培の状況を報告する。この地域は、オーストラリアのサトウキビ生産地域のうち最も南にあり、1978年から製糖工場が稼動した新しいサトウキビ生産地域である。ここでは3つの製糖工場が稼動しており、3万4千haでサトウキビが生産され、253万tの原料から29万tの砂糖が生産されている (1998年)。植え付け期は冬〜春にあたる8月中旬から10月いっぱいで、1年後もしくは2年後の7月〜11月に収穫される。収量は1年栽培でha当たり100〜110t程度、2年栽培では140〜150t程度で、可製糖率は11%程度である。いずれの栽培型においても、収量は日本のそれを大きく上回り、これまでに報告されたオーストラリアの事例もあわせると、旺盛な生育のサトウキビが想像される。しかしながら今作期においては、例年にない少雨の影響により茎の伸長が悪かったようで、視察した地域、特に1年栽培では予想外に茎の短いサトウキビが多かった。この地域では収穫の前にサトウキビ畑に火入れをするのが常のようである。環境との共存、環境の保護を考慮すると改善が望まれるところである。



終わりに

 最後に、今大会に参加しての感想を述べる。大会には世界各国から多くのサトウキビ研究者や、サトウキビ生産にかかわる者が参加した。会期前、あるいは会期中には開催国の生産と研究の現状を知るためのエクスカーションが設けられ、ティータイムを兼ね自由に討議できる時間も設定された。諸外国の研究者と情報交換や、情報のみでは実感しがたい生産現場の現況を知るうえで絶好の機会であると思われた。今後日本からの参加者が増えることを期待したい。



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