[2003年12月]
フランスにおける砂糖産業は、EUの砂糖制度に基づいており、生産割当が定められており、結果的に、栽培面積は、生産割当によって制限されています。また、フランスは、EU加盟15ヵ国のうち、最大の砂糖生産国及び輸出国でもあります。
こうしたフランスの砂糖産業の概要について、英国の調査会社LMC社からの報告をもとに、調査情報部でまとめたので紹介します。
生産状況
需給バランス
フランスの砂糖産業は、ビート糖、甘しゃ糖及び精製糖の3部門から構成されている。
年間400万トン以上生産しているビート糖産業、グアドループ島、マルチニーク島、レユニオンといったDOM(フランス海外県)に小規模工場を有し、年間約25万トンの粗糖を生産する甘しゃ糖産業、DOMから移入される原料糖と、コトヌ協定並びにEBA協定によりACP及びLDC諸国からの粗糖を精製する2工場をフランス国内に有する精製糖産業の3部門である。
ビートの播種が長雨の影響で遅れ、収穫量が落ち込んだ01/02年度の420万トンを除くと、ビート糖の生産量は、97/98年度以来、480万トンを超えている。同時期でみると、国内消費量は、230万トン前後で安定した状態が続いており、毎年250〜350万トンの輸出が可能となっている。10年後には、輸出量は約240万トンにまで減少すると予想されている。
フランスにおける砂糖の生産内訳は、ビート糖の生産量、DOMにおいて生産される甘しゃ糖の生産量及び輸入粗糖(DOM以外からの輸入)から精製された砂糖である。ビート糖の生産量は、砂糖生産量の約90%を占めている。フランス国内(DOMSを除く)で生産される砂糖は全て良質の砂糖であり、ロンドンNo.5で取引できる品質である。この品質は、砂糖の原料が、国内のビート糖か、輸入甘しゃ粗糖であるかには左右されない。
表1 砂糖の需給バランス |
(単位:1,000トン、粗糖換算) |
|
注)生産量は、DOMSでの生産量を含まない。 |
ビートの生産状況
砂糖の生産量は、「国別生産割当を超えて生産された砂糖は、価格支持を受けずに世界市場で売らなければならない」とするEUの砂糖制度に大きく影響されている。余剰生産された砂糖は、砂糖の世界価格で取引される。世界価格での取り引きは、砂糖の原料であるビートの価格を低下させるため、結果的にビート栽培面積を制限することにつながる。
ビート産業の収益向上の方法としては、圃場及び工場レベルでのコスト削減が挙げられる。フランスのビート産業は、EUの中で最も効率的な産業の1つであり、圃場の収益性及び工場の経営効率は、高い水準を示している。平均生産量及びビートの平均根中糖分は、国際基準からみても高いため、最近3年間でショ糖換算約11.5トン/haとなっている。
ビート栽培面積は、1970年以降漸減傾向にあるが、収穫量は、上昇してきている。それは、主に、ビート品種の改良及び病害虫への対策強化の結果である。収穫量の増加した要因は、栽培時期を早め、気候条件がビートに適合したためだと考えられる。1970年のビート平均収穫量は、1ha当たり45トンであったのに対し、1990年代末には65トンにまで上昇し、EUの中でも最上位となった。
また、収穫量が増加したもう1つの理由は、圃場における窒素肥料の改良である。1970年以降、窒素肥料は、180kg/haから140kg/haにまで減少した。土壌養分に関する分析を行なった。その結果、施肥量を減らすとともに、施肥時期を改め、改良された施肥技術を取り入れることに成功した。また、窒素肥料のコスト削減にもつながった。
ビートはフランス北部の農家においてよく栽培されている作物であり、地域間による農家規模格差は見られない。フランスの農家の規模は、EU加盟国中でも比較的大きく、ビート農家一戸当たりの平均面積は、約10haである。
ビートの根中糖分は、1970年代半ば以降、漸増傾向を示しているが、気候により変動する。降水量の少ない年には、糖分が高くなるが、収穫量は逆に減少する可能性が高い。例えば、97/98年度は、ビートの収穫量は、前年度の1ha当たり55.3トンから58.5トンまで上昇したのに対し、根中糖分は、18.9%から18.3%に低下し、その結果1ha当たりの砂糖生産量も減少した。
過去10年間において、フランス国内のビート糖工場のエネルギー効率は、著しい進歩を遂げた。90/91年度以降、砂糖生産量1kg当たりのエネルギー消費量は、17%削減され、4.4MJまで減少した。
ビートパルプの生産量は、年によって130万トンから170万トンまでばらつきがあり、乾燥ビートパルプが、総生産量のおよそ70%を占めている。乾燥ビートパルプは、動物の飼料産業に販売されることが多いが、非乾燥のビートパルプは、生産者に払い戻されることとなっている。
表2 ビートの生産状況の推移 |
|
資料: 砂糖年報、CEFS |
砂糖産業の現状
ビート糖産業
90/91年度は50工場あったが、02/03年度には34工場にまで減少した。また、同時期の1工場当たりの砂糖生産量は、90/91年度の8万7000トンから2000/1年度には12万トンまで上昇した。過去5年間を通じてみると、生産者による共同組合で経営される工場の割合が高くなってきている。
フランス最大のビート企業は、Union SDA-Union BSで、フランスの砂糖総生産量の約30%を占め、次いでCristal Union社が約21%を占めている。同社は、2000年1月に中小の共同組合4社と合併した。その次が、Saint Louis Sucre社の17%である。同社は2001年にドイツ最大の製糖メーカーであるSudzucker社に買収された。
合理化は、今後5年間は引き続き行なわれると見られている。SDA-Union BSは、2003年までには、Villenoy工場を、またSucreries Disttileries des Hauts de France は、2005年までに1工場を閉鎖する予定である。これ以外にも、いくつかの工場の閉鎖が実施される見込みである。
甘しゃ糖産業
甘しゃ糖は、フランス国内では生産されず、DOMで生産されている。DOMでの砂糖生産量は25万トンであり、約51万トンに設定されている割当に達していない状況が続いている。レユニオンには、Sucrerie de la Reunion社が所有するLeCol工場と2001年3月にUnion SDAに譲渡されたSucrerie de Bois Gardel SA社が所有するLe Moule工場の方が規模が大きい。マルチニーク島には、生産者組合が所有するLe Callion工場のみであり、原料処理能力も1日当たり1,500トンと小規模である。auts de France は、2005年までに1工場を閉鎖する予定である。これ以外にも、いくつかの工場の閉鎖が実施される見込みである。
表3 さとうきびの生産状況の推移
資料: 砂糖年報、CEFS、FIRS
|
表5 ビート糖工場の生産能力の推移
|
精製糖産業
994年以降、フランスには精製糖工場はわずか2工場である。それは、Saint Louis Sucre社が経営するMarseilles工場(原料処理能力900トン/日)とNantes工場(原料処理能力600トン/日)の2工場である。この2工場は、規模が小さい上、年間平均操業日数が約170日と短く、稼動率も低い。このように、精製糖産業の低稼働率は、主としてEUの砂糖制度により、輸入粗糖に対する権利が限られているためである。
クアドループの精製糖工場は、年間100日しか稼動しないことから、稼働率が他工場と比べて低くなっている。将来、工場の統合及び合理化が進み、小規模で能力の低い工場が廃止され、大工場少人数の工場体制に移行することが予想される。
表6 精製糖工場の現状
会 社 名 |
Beghin-Say |
Saint Louis Sucre |
工 場 数 |
1工場 |
1工場 |
工場所在地 |
Nantes |
Marseilles |
操 業 日 数 |
170 |
170 |
生産量(千トン) |
600 |
900 |
砂糖生産量 |
102 |
153 |
資料:F.O.Licht , CEFS
|
表7 甘しゃ糖工場の生産能力の推移
|
砂糖の流通
フランス国内の販売及び流通は、主に各製糖企業ごとに、独自に行なわれている。Cristal Union,Union SDA-Union BS及びサン・ルイ・セクレ社は、自社製品を直接販売している。家庭における砂糖消費量は、全体の消費量の27%前後となっている。それ以外については、飲料部門及び菓子製造部門が大半を占めている。また、全部門を通じて、砂糖の消費量に見られる傾向は、年によってさほど変化がみられず、全体的に漸増傾向にある。一人当たりの消費量は、96/97年度の38.7kgから、01/02年度は41.7kgにまで増加した。
表8 砂糖の用途別消費量の推移 |
(単位:1,000トン、粗糖換算) |
|
異性化糖
フランスの異性化糖生産量は、EUの砂糖制度が定める生産割当により制限されている。02/03年度の合計は1万8,500トン(固形換算)であった。異性化糖が甘味料の総生産量に占める割合は1%未満である。最近5年間では、2万5,000〜6万3,000トンを近隣のEU加盟国、特にベルギーから輸入している。フランスでは、果糖分42%の異性化糖しか製造されていない。
表9 砂糖及び異性化糖生産量等の推移 |
(1,000トン、粗糖/固形換算) |
|
砂糖産業の現在の問題
フランスの砂糖産業の直面している問題は、EU加盟国全体の問題でもある。WTOのドーハラウンド交渉、共通農業政策(CAP)に関する2013年までのEUの総支出額の実質的凍結、2004年における新規加盟候補の10カ国の問題、EBA協定(武器以外全ての産品への無税・無制限措置)及び西バルカン協定の及ぼす影響について等が挙げられる。
フランスの砂糖産業の収益増のためには、圃場及び工場のコスト削減を行う必要がある。
ビートの生産については、EUにおいては比較的低コストであるが、圃場規模の拡大、生産者間での機械の共有により、ビート生産コストの低減の余地は残されている。
製糖工場については、資本の合理化及び工場の統合が挙げられる。後者については、能力の低い小規模工場を閉鎖し、能力の高い大規模工場を少人数体制に切り替えていくことである。
クリーン燃料の開発について、フランスはEUにおいて最も進歩した国である。
輸送に必要なバイオ燃料の使用に関するEU案では、EUでのエタノール系燃料に対する需要が、今後数年間で飛躍的に上昇するとされている。現在検討中の新法案が可決されれば、2005年までにEU加盟国は、輸送燃料の最低2%を再生可能な資源由来の燃料に使用することを義務付けることとなる。この比率は、2010年には5.75%に上昇する見込みである。このため、ビート糖産業は、バイオ燃料の使用量の増加から恩恵を受けることを期待している。
土壌水分の増加に伴う収穫時の混在物の問題は、収穫時の気候条件次第である。フランスは、EUの中でも土等の混在物が多く、1990年代前半は全重量の25〜35%も占めた。最近は、製糖工場の目標が18〜25%に設定されたことを受け、全重量の22%前後まで引き下げることを可能にした。ビート圃場の土壌条件を、排水設備を整え、水分をわずかしか含まない砂状に近い状態にし、2006年までに混在物を全重量の15%まで引き下げようとしている。また、収穫速度の改善、作付間隔の拡大、収穫機械の改良による改善も考えられている。