[1999年7月]
オーストラリアは、世界第7位の砂糖生産国、世界最大の粗糖輸出国であり、我が国にとっては、タイと並んで粗糖輸入先の双璧である。同国における砂糖産業の中心は、砂糖生産量の95%を占めるクィーンズランド州であり、同州においては、1991年に制定された砂糖産業法に基づき、 a)州砂糖事業団(QSC)が州内で生産された粗糖の全量を一元的に取得し、国内販売と輸出を独占している他、 b)出荷先製糖工場ごとのさとうきび作付面積の割当と毎年の需給事情に応じたさとうきび出荷量の制限、 c)製糖工場ごとの製糖量の制限、 d)さとうきび品種の指定、 e)製糖工場の新設許可制、 f)さとうきび生産者側と製糖工場側が現地でさとうきびの圧搾期間や価格を取り決める地域交渉団体の設立等、広範な規制がなされている。なお、本稿は、英国LMC社に当事業団が委託して行った調査結果にその後の情報を追加して企画情報部がまとめたものであり、「II」については全面的な書き換えとなっている。
【1】 砂糖産業の概況
さとうきびは、オーストラリアの7州のうち3州(クィーンズランド州、ニュー・サウス・ウェールズ州及び西オーストラリア州)において栽培されており、主な栽培地域は、北東クィーンズランドから北ニュー・サウス・ウェールズに及ぶ2,100kmの沿岸地帯に広がっている。この地域は、オーストラリアのさとうきび及び砂糖の生産量の約99%を占めており、クィーンズランド州だけで約95%に及ぶ。
1995/96年度までは、クィーンズランド州以外では、ニュー・サウス・ウェールズ州のみで生産されていたが、その後、ウエスタン・オーストラリア州のオード川地域で生産されるようになり、96/97年度には4万トン超の粗糖を生産した。同州の生産量は、21世紀初頭までに50万トンを超えるまで増大すると思われるが、オーストラリアにおいてクィーンズランド州の生産が中心であることは変らないと考えられる。
1.国内需給
オーストラリアは、世界第7位の砂糖生産国であり、世界最大の粗糖輸出国である。粗糖換算で1994/95〜96/97年度の平均では約530万トンを生産し、国内生産量の76%〜90%、数量で約450万トンを輸出している(表1)。
表1:砂糖の需給バランス〔1994/95−1996/97〕
| 1994/95 | 1995/96 | 1996/97 |
生 産 | 5,215 | 5,122 | 5,620 |
消 費 | 930 | 938 | 976 |
輸 入 粗糖 白糖 合計 |
1 1 2 |
1 1 2 |
1 1 2 |
輸 出 粗糖 白糖 合計 |
4,315 126 4,441 |
4,377 228 4,605 |
4,021 254 4,275 |
在庫変化 |
△(154) |
△(419) |
△(373) |
2.さとうきび及び砂糖の生産実績
表2は、94/95〜96/97年度の砂糖産業の主なデータを示している。この間、さとうきびの生産量は、年間約7%の率で増加しているが、これはクイーンズランド州のバードキン及びハーバート川地域における生産増が影響している。
さとうきび生産は、約7,000の農場経営者によって行われており、1経営体の平均的な栽培面積は約60ha、中規模の家族農場が中心である。農業総生産額にさとうきび生産額が占める割合は6%〜8%である。
表2:農業生産〔1994/95−1996/97〕
| 単 位 | 1994/95 | 1995/96 | 1996/97 |
収穫面積 | 千ha | 365 | 382 | 401 |
きび生産高 | 千トン | 34,943 | 37,372 | 39,944 |
きび単収 | トン/ha/年 | 96 | 98 | 100 |
砂糖生産量 | 千トン/粗糖換算 | 5,215 | 5,122 | 5,620 |
原料処理量/産糖量 | トン | 6.7 | 7.3 | 7.1 |
A きび生産額 | 千US$ | 942,671 | 872,698 | 924,847 |
B 農業生産額 | 千US$ | 16,599,500 | 10,463,460 | ― |
A/B比率 | % | 5.7 | 8.3 | ― |
3.生産量及び消費量の内訳
砂糖生産量の約80%は輸出用の粗糖であり、残りの20%は国内消費用に精製される。精製糖の輸出は僅かである(表3)。
粗糖については、 中東からの新たな需要やインドネシアなど従来からの需要国の需要増加も見込まれる。
表3:粗糖及び精製糖別生産量〔1994/95−1996/97〕
| 1994/95 | 1995/96 | 1996/97 |
精製糖 |
1,164 |
1,197 |
1,134 |
粗 糖 |
4,050 |
3,925 |
4,486 |
合 計 |
5,215 |
5,122 |
5,620 |
表4は、国内における精製糖消費の内訳を示しており、94/95〜96/97年度の3年間で消費量が年1.7%の増加率で増加している。
表4:国内砂糖消費量の内訳〔1994−1996〕
|
1994/95 | 1995/96 | 1996/97 |
千トン | % | 千トン | % | 千トン | % |
家庭用消費 | 210 | 23.0 | 205 | 22.0 | 215 | 22.0 |
加工用消費 飲 物 パン類 菓子類 乳製品 缶詰製品とジャム 他の用途(食品外含む) 小 計 |
376 81 112 51 74 21 717 |
40.6 8.8 12.1 5.5 8.0 2.3 77.0 |
373 82 112 51 74 22 714 |
40.6 8.9 12.2 5.6 8.1 2.4 78.0 |
396 88 120 55 79 23 762 |
40.6 9.0 12.3 5.6 8.1 2.4 78.0 |
合 計 | 927 | 100.0 | 919 | 100.0 | 976 | 100.0 |
1人当たりの消費量(kg/人/年) |
51.5 | 51.1 | 53.7 |
1人当たり消費量は、3年間で4.0%と僅かではあるが増加している。1980年代、1人当たり消費量が著しく減少したため(ISOの「SUGAR YEAR BOOK 1985」によれば、1979年の1人当たり消費量は、55.3kg/人であったが、1983年には49.1kg/人となっている。)、砂糖業界は天然の安全な甘味料及び防腐剤としての砂糖の役割をPRするキャンペーンを実施した。1983年当初は、一般的な宣伝キャンペーンであったが、1990年代初頭になると、個々の企業が独自のブランドをPRする方向に転換した。現在では、医師若しくは栄養学者などの保健衛生の専門家に対象を絞った一般的なキャンペーンが実施されている。対象を絞ったキャンペーンによって、消費量のマイナス傾向は解消されたものの、1980年代後半の1人当たり消費量の水準に回復してはいない。
1980年代における1人当たり砂糖消費量の減少の主な理由は、異性化糖若しくはノンカロリー甘味料などの代替甘味料への移行ではなく、甘味料全体の減少であった。
甘味料の中で異性化糖の占める割合は僅かであり、1996年においては総消費量の1%に満たない。アスパルテーム、サッカリンのような人工甘味料は需要が高く、それぞれ1996年の甘味料全体の7%、2.5%を占めている。アセスルファム−Kは1990年以降人気を得ているが、他のカロリー甘味料若しくはノンカロリー甘味料と比較するとごく僅かである。
異性化糖は国内で生産されており、輸入は行われていない。主に、コーディアル(リキュール)、自家製飲料及びアルコール飲料に使用されている。
表5:異性化糖・砂糖の生産量及び消費量〔1994/95−1996/97〕
| 1994/95 | 1995/96 | 1996/97 |
生 産 量 |
砂糖 A 異性化糖 %(異/砂) |
5,215 6 0.1 |
5,122 6 0.1 |
5,620 6 0.1 |
消 費 量 |
砂糖 B 異性化糖 %(異/砂) |
930 6 0.6 |
938 6 0.6 |
976 6 0.6 |
輸 入 |
砂糖 C 異性化糖 %(異/砂) |
2 0 0 |
2 0 0 |
2 0 0 |
輸 出 |
砂糖 D 異性化糖 %(異/砂) |
4,441 0 0 |
4,605 0 0 |
4,275 0 0 |
【2】クイーンズランド州の砂糖産業政策
1.州砂糖産業法の概要
オーストラリア全国の砂糖生産量の95%を占めるクイーンズランド州の砂糖産業を規制しているのは、1991年に制定された同州砂糖産業法(Sugar Industry Act 1991、第一次産業庁所管)である。同法は、砂糖産業発展の中核として州砂糖事業団を設立する他、さとうきび作付面積の割当と出荷量の制限、さとうきび出荷先製糖工場の指定と製糖量の制限、さとうきび品種の指定、さとうきびの搾汁期間や価格等の重要事項を決定するための地域交渉団の設立、さとうきび試験研究会議の設立、製糖工場の新設許可制等、同州の砂糖産業に関して広範な規定を定めている。
その後の改正を踏まえた主な内容は、次の通りであり、規制の対象は粗糖を基本としている。(精製糖については特段の規制がなく、国内販売や輸出は自由となっている。)
なお、同州砂糖産業に対する規制のあり方、砂糖関税の必要性等を調査するため、1995年9月、連邦政府と州政府により砂糖産業調査委員会(SIRWP)が設置され、翌年11月に勧告が行われた。その内容は、a)粗糖及び精製糖関税の撤廃、b)販売価格の輸出価格パリティー化等国内販売面における改善、c)No.1プール価格とNo.2プール価格の1999製糖期間における格差解消、d)さとうきび作付面積、製糖量制限における現地自主性の増大等であり、これを踏まえ、砂糖輸入関税の撤廃を初めとする規制緩和が進められている。
ア. クイーンズランド砂糖事業団(Queensland Sugar Corporation, QSC)の設立(下記2参照)
QSCは旧砂糖ボードを引き継いだ機関であり、主な権限、業務は次の通りとされている。
・同州産粗糖の購入、販売及び貿易の独占(州第一次産業庁長官の許可があれば、他州産についても可能。現在、別途の商業協定に基づいて、西オーストラリア州産粗糖の輸出も行っている。)
・バルクシュガー・ターミナル(後述)、加工、貯蔵等施設の獲得、建設、運営管理等
・地域委員会の運営費負担
・同州砂糖産業生産物の品質、市場に関する試験研究の実施
・必要書類の提出、関係者の出頭等についての命令
・さとうきび生産者、製糖工場、ユーザー等代表との定期的な協議・意見交換(最低3ヵ月に1回)
また、長官は、必要な場合、QSCに対し業務命令を発することができる。
イ. QSCによるさとうきび作付面積の割当
さとうきび生産者に対する作付面積の割当はQSCが行う。割当は、出荷先工場を指定して、単に面積だけでなくその土地(割当土地)と併せて行われ、規定に従って登録される(さとうきび割当登録)。総割当面積は、毎年2.5%ずつ拡大されることになっているが、上記SIRWPの勧告を踏まえ、さらに規制緩和が進む模様である。割当を受けた権利の売買やその解消には、下記「地域委員会」の承認が必要となる。
ウ. さとうきび出荷数量及び製糖量の制限
上記割当土地から生産されたさとうきびは、全量指定工場に出荷することが義務づけられており、需給事情に応じて毎年の出荷量及び製糖量が調整される仕組みとなっている。
すなわち、 a)生産者ごとに割当土地面積から生産されるさとうきび数量が「ファーム・ピーク」として定められる一方、 b)製糖工場ごとに、傘下にある生産者のファーム・ピークの合計から製造される砂糖の総量(粗糖換算)が「ミル・ピーク」として定められる。
両者はいずれも最大値であり、各年の出荷限度量及び製糖限度量は、QSCにより需給事情に応じて毎年決定される。
エ. QSCによる粗糖の取得及び支払い価格の決定
同州産粗糖は、全量QSCが取得することとされており、違反者には罰則が適用される。地場消費用等の目的で製糖工場が留保することは、総生産量の1%以内であって、QSCの助言に基づいて長官が定める数量だけ認められるが、その販売先、価格等は厳しく制限される。
取得された砂糖については、その砂糖の性格により、No.1プール価格、No.2プール価格またはペナルティー価格が支払われる。
a) 出荷限度量内のさとうきびから生産された粗糖であって、同製糖限度量内のものについてはNo.1プール砂糖価格
b) 出荷限度量内のさとうきびから生産された粗糖であって、製糖限度量を超えたものについてはNo.2プール砂糖価格
c) 両者以外の粗糖については、ペナルティー砂糖価格
両プール砂糖価格は、QSCによる販売総額から所要の販売・運営経費等を控除した販売純益を考慮して決定される。現状ではNo.1プール砂糖価格がNo.2プール砂糖価格よりも幾分高い(97/98年度で6%の格差、下記2の(1)参照)が、SIRWP勧告を踏まえ、この格差は縮小されつつあり、99年度には解消されると伝えられる。ペナルティー砂糖価格は、1トン当たり1豪ドルと極端に低い。
粗糖の輸出価格及び国内販売価格はQSCが定めるが、1997年7月1日付けで砂糖の輸入関税(55豪ドル/トン)が撤廃されたことを受けて、国内販売価格については、幾つかの変更がなされている。(下記2の(1)参照)
オ. 地域委員会及び地域交渉団の設立
地域委員会は、各地域における関係者の意志疎通と合意形成を効果的に行うため、州知事によって製糖工場の地域ごとに設立される。委員は5名(うち、さとうきび生産者側、精糖工場側各2名)、任期3年で州知事から任命される。QSCに必要な助言・勧告を行うことができる他、面積割当の売買等は、この委員会が承認しないと実現しない。
地域交渉団は、その年の製糖期間、さとうきびの搬入方法、さとうきび価格等の重要事項を決定し、地域内で生じる紛争の仲裁を行うため、同じく州知事により製糖工場の地域ごとに設立される。交渉団のメンバーは4名(製糖工場側、さとうきび生産者側各2名)、任期は1年で州知事から任命される。メンバーが不適当とみなされる場合、州知事はいつでもそのメンバーを解任できる。
交渉が決着したにもかかわらず、さとうきび生産者が割当土地で生産されたさとうきびを製糖工場に出荷しない場合、製糖工場は、上記地域委員会の許可を得て、そのさとうきびを収穫、搬入することができる。
地域委員会と地域交渉団の地域は同一とされている。
カ. さとうきび試験研究会議の設立とさとうきび生産性向上地域の指定等
この会議は、さとうきびの品質・収量の向上、製糖技術の向上、さとうきび生産物の多様化等に関する試験研究を進めるため設けられるもので、さとうきび試験場が傘下に入る。その研究費等は、州知事が定める規則により、さとうきび重量当たり課徴金として製糖工場段階で徴収される。同州内で生産できるさとうきびの品種は、同会議の構成員である砂糖試験場長名で告示され、同場長の許可なしにそれ以外の品種を栽培した者には罰則が適用される。
同会議の勧告に基づき、重点地域については、長官によりさとうきびの「生産性向上地域」が指定されるとともに、同地域の「生産性向上委員会」が設立される。同委員会は、その地域におけるさとうきびの生産性と品質の向上を目的として、病虫害防除の推進を初めとする各種業務を実施することになっており、必要な人員を雇用し、病害虫防除に必要な農薬等を購入して生産者に配布し、それに助成することができる。これらに要する経費もまた、さとうきび重量当たり課徴金として製糖工場段階で徴収される。
キ. 製糖工場の新設許可制
製糖工場の新設は、その必要があり、工場設立者とさとうきび生産者との間で十分な取り決めがなされていると長官がみなす場合にのみ、許可される。
2.クイーンズランド砂糖事業団(QSC)
QSCは、同州砂糖産業法に基づき、1991年7月に旧砂糖ボード(Sugar Board)と旧さとうきび価格ボード(Sugar Cane Price Board)の機能を引き継いだものであり、実質的には旧砂糖ボードと同じ機関である。QSC 1997/98年度報告によれば、業務の概要は次のようになっている。
(1) 粗糖のマーケティング
QSCの中核的な業務であり、前述の通り同州産粗糖の独占販売に加え、別途の協定に基づいて西オーストラリア州産粗糖の輸出も実施している。
1997/98年度の場合、クイーンズランド産粗糖については、522万トンの記録的な増産になったうえ、国際市場が悪化し、国内向け需要も減少したため売れ行きが懸念されたが、国内販売77万トン(対前年度86.5%)、輸出445万トン(同109.4%)と、輸出の拡大により522万トンの完売(同105.3%)にこぎつけた。国内販売量が前年度より13.5%下回ったのは、国際市況の悪化に伴って精製糖プレミアムが大きく低下し、国内精製糖業者が輸出精製糖の原料となる国産粗糖の買い入れを手控えたためとされている。
輸出の拡大は、カナダ向け等が低迷する中でアジア向けが全輸出量の63%と健闘したこと、97/98年度新規輸出先となったイラン向けが大幅に拡大したことなどが要因となっている(表6)。インドネシア、イラン、日本、韓国、マレーシア、シンガポール各国においては、同州産砂糖のシェアが向上した。
表6:クイーンズランド州産粗糖の販売先(実販売量/千トン)
|
1990/91 |
1995/96 |
1996/97 |
1997/98 |
1998/99 |
総販売量 |
3,481.9 |
4,758.3 |
4,714.9 |
4,961.6 |
5,222.1 |
国内販売 |
646.6 |
787.1 |
927.6 |
894.5 |
773.6 |
輸 出 |
2,835.3 |
3,971.2 |
3,787.3 |
4,067.1 |
4,448.5 |
韓 国 |
410.8 |
673.3 |
576.2 |
678.6 |
798.5 |
日 本 |
696.0 |
679.6 |
662.9 |
646.3 |
707.9 |
マレーシア |
448.0 |
538.0 |
583.0 |
612.7 |
694.5 |
カナダ |
473.5 |
657.6 |
674.8 |
717.0 |
684.8 |
イラン |
― |
― |
― |
30.5 |
208.0 |
ニュージーランド |
74.0 |
155.9 |
190.3 |
133.1 |
182.4 |
エジプト |
24.0 |
120.0 |
62.1 |
165.0 |
173.0 |
インドネシア |
― |
― |
― |
71.0 |
168.0 |
1997年7月1日の砂糖関税撤廃の反映等により、1997/98年度においては次の4点の変化があった。
a) SIRWP勧告を踏まえた長官指令により、1997年7月1日以降、国内販売価格がこれまでの輸入価格パリティーベースから輸出価格パリティベースに変更された。これにより、国内向けの粗糖価格は、外国産に十分対抗できる水準に低下した。
b) 砂糖の輸入関税が同日撤廃されたことを受けて、a)に併せ、長年にわたって続けられてきた輸出リベートプログラムが同日廃止された。このリベートは、国産粗糖を精製して輸出する国内精製糖業者及び国産粗糖を使用して含糖製品を製造し、それを輸出する国内業者に対し、粗糖の国際価格と国内価格との差額を補填するものであったが、a)に伴って国内価格が国際価格水準またはそれ以下になるとして廃止されたものであり、同じく同勧告を踏まえた長官指令に基づいている。
c) QSCのバルク・ターミナルを利用せず、製糖業者の工場から粗糖を直接購入するユーザーには、その節約分の見返りとして、新たにリベートが渡されることになった。(同勧告を踏まえた長官指令)
d) 米国の粗糖関税割当制度の下でオーストラリアにもかなりの枠が割り当てられているが、その枠の国内における配分方法が連邦政府により変更された。これまでは全量クイーンズランド州に割り当てられていたが、97/98年度からは、全生産量に占める州別シェアに基づいて、同州に加え、ニューサウスウェールズ州及び西オーストラリア州にも配分されることになった。この変更に伴い、クイーンズランド州の製糖業界が被る減収額は、年間3百万豪ドル以上とみられると年度報告は記している。(1999米国会計年度当初割当のオーストラリア枠は89.9千トン)
(2) リスク管理と製糖業者に支払う粗糖価格の決定
粗糖の販売は、ニューヨーク取引市場No.11に連動して設定される輸出価格、輸出価格パリティーベースで設定される国内販売価格により行われる。製糖会社に支払う粗糖価格は、そこから所要経費等を差し引いて定められるため、国際糖価水準、為替レート、前払い資金の借入利率等に影響される。(同取引市場No.11における1米セント/ポンドの低下はQSC全体で年間約190百万豪ドルの減少を、また、米ドルに対する豪ドル1セントの上下は同約25百万豪ドルの変動をもたらすと年度報告は述べている。)
このため、QSCは各種先物取引、通貨スワップ取引やオプション取引、商業手形の発行等を通じて砂糖価格のヘッジ、為替リスクの緩和、低利資金の借り入れ等に努めている。同年度においては、世界市場価格の低落、豪ドルの対米ドルレートの低落といった悪条件下において、粗糖の販売収入として2,003百万豪ドル(対前年度105.1%)を確保し、直接販売経費156百万豪ドル(同113.0%)他を差し引き、製糖業者に対して粗糖代金として1,795百万豪ドル(同104.5%)を支払った。支払い単価は、No.1プール砂糖価格で343.25豪ドル/トン(同100.3%)、No.2プール砂糖価格で323.82豪ドル/トン(同100.3%)であった(両価格の格差は6%)。製糖業者からさとうきび生産者へのさとうきび代金の支払いは、地域ごとの取り決めに基づいて行われる。
(3) バルク・シュガー・ターミナル7基を活用した粗糖の搬入、貯蔵、輸出等
関係業界と州政府との協力により設置されたクインーンズランド州内7基のバルク・ターミナル(所有は州政府)の粗糖取扱量は、97/98年度において518万トンと前年度対比7.45%増加し、旧砂糖ボード時代を含めてこれまでの最高となった。年度内の利用船舶数は205隻、このうち189隻が輸出用であった。(平均的な船舶の規模は前年度よりも8.6%大型化して22,858トン、輸出用の場合は同4.3%大型化して23,462トンとなった。)
なお、バルクターミナルの所有権は、近々、州政府から州内の製糖業界に移転される見込みとなっている。
(4) さとうきび作付面積の割当等
97/98年度は、年度の2.5%増、12,514haが20製糖業者傘下の生産者に追加して割り当てられた。追加割当割合は地域によって異なり、前年度に比較して25%拡大した地域もあれば、全く拡大していない地域もある。
この拡大分を含め、クイーンズランド州における総割当面積は、508,077ha、さとうきび総生産者数は6,478となった。
(5) 貿易政策の分析及び要請活動
砂糖輸出を巡る環境を分析し、主要な問題に対しては連邦政府の第一次産業・エネルギー省、外務省に働きかける一方、重要問題については、砂糖業界に対していかに対応すべきか指導も行っている。97/98年度における重要問題としては、アジア経済危機・国際糖価低落状況下においてクイーンズランド産粗糖のアクセスを制限する動き(例えば、フィリピンがタイ産粗糖に有利となるASEAN特恵を発動)、輸出補助の動き、米国における関税割当制度の運用上メキシコを重視する動きがあった。
(6) 広報活動及び関係業界とのコミュニケーション(表7)
QSCは、顧客に対する販売支援とともに消費者向けの広報活動に努めており、97/98年度においては、精製糖業界と協力して、健康な食生活における砂糖の役割に焦点を当てた「砂糖:健康な生活における自然な素材」と題するキャンペーンが展開された。(年度報告は、最近の消費者調査によれば、砂糖が炭水化物であることを知っている消費者は全体の僅か8%であり、また、砂糖に関する消費者の態度がより否定的になっていると指摘している。)
国外においても同様な活動を進めており、特に、同州産粗糖の60%以上が販売されているアジア諸国において、肥満と糖尿病が関心事項になってきているため、健康的な食生活における砂糖の役割を記した資料を提供した。また、北京において中国のユーザーと政府関係者を対象としたセミナーを開催し、砂糖に関する最新の科学的知見を紹介するとともに、オーストラリア砂糖業界の紹介等を行った。さらに、日本の関係者とも意見交換が行われた。
一方、アジア経済危機の砂糖業界に及ぼすインパクトや競争相手の動向等については、業界団体代表者との定期的な会合で説明している。
表7:QSC 97/98年度報告コラムから
砂糖についての事実
最近の世界的な科学研究は、長年にわたる砂糖「神話」を論破し、健康的でバランスのとれた食生活における砂糖の役割を確認した。 |
砂糖は炭水化物
炭水化物は、単体として最重要な世界の食物エネルギー源である。 炭水化物食品には、種々の砂糖、澱粉、繊維が含まれる。 砂糖は健康な食生活に積極的に貢献しうる。 |
砂糖の摂取は痩身を伴う。
幅広い国々からのデータによれば、摂取エネルギーに占める砂糖の割合が高い人々ほど、肥満が少ない傾向にある。 |
砂糖は糖尿病患者にとっても楽しめる。
砂糖は糖尿病の原因ではない。 節度ある砂糖の摂取は、糖尿病患者にも受け入れられる。 |
砂糖は、子供が異常に活動的になることの原因ではない。
精製糖が子供の異常に活動的となる原因であることを示す証拠はない。 |
砂糖摂取者が、そうでない者と比較して虫歯のリスクが大きいということはない。
砂糖や澱粉を含む全ての炭水化物は、口内で虫歯の原因となる酸を作り出す細菌に利用されうる。 虫歯予防は、フッ素利用と口腔衛生の問題である。 |
(7) クイーンズランド州砂糖産業の振興
QSCは、SIRWP報告を踏まえ、砂糖業界における技術革新、付加価値向上、粗糖生産から関連製品生産への動きを支援するため、新たな政策を取りまとめた。
(8) 組織及び財政状況
QSCは、200名の従業員と10名の理事からなる組織であり、全理事は長官の助言に基づいて州知事から任命され、さとうきび生産関係者3名、製糖関係者3名、学識経験者2名、理事会議長1名、執行側代表理事1名からなる。議長は、業界関係者によって構成される選定委員会の勧告により、同長官から指名され、いずれも任期は3年となっている。全理事は各部門を分担し、所掌する会議への出席状況は年度報告に掲載される。200名の職員の約8割はバルク・ターミナルに駐在、本部職員は約2割である。
1997/98年度における総収入額は20億8百万豪ドルで、そのうち粗糖販売・輸出収入は2億豪ドルを占める。一方、総支出額は、粗糖の販売・輸出経費156百万豪ドル、粗糖代金の製糖業者への支払い1,795百万豪ドル等を合わせて2億1千7百万豪ドルとなっており、収入に対し1千2百万豪ドルのマイナス(前年度は7百万豪ドルのプラス)なっている。なお、QSCの運営に対する政府からの助成は一切なく、必要な場合は、製糖業者に対する課徴金で賄うこととされている。
(組 織)
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(従業員) |
97/98年度現在200名(ブリスベーン本部38名、バルクターミナル駐在162名)他に、109名のさとうきび検査員を製糖シーズン中に雇用。 |
表8:財務状況
項 目/年 度 |
1997/98 |
1996/97 |
1995/96 |
1994/95 |
収 入 |
2,007.5 |
1,911.8 |
2,005.2 |
2,061.8 |
粗糖販売収入 |
2,000.3 |
1,903.9 |
1,994.4 |
2,051.2 |
運用益収入 |
4.8 |
5.7 |
8.6 |
7.4 |
さとうきび検査収入 |
2.4 |
2.2 |
2.3 |
2.0 |
支 出 |
2,017.2 |
1.907.7 |
2,009.0 |
2,065.1 |
うち販売経費 |
155.9 |
137.9 |
155.1 |
151.8 |
ターミナル運営経費及び貯蔵経費 |
25.3 |
26.3 |
24.1 |
22.7 |
事務費(本部人件費等) |
5.1 |
4.9 |
5.1 |
4.7 |
製糖業者への支払い |
1,794.8 |
1,716.9 |
1,802.3 |
1,868.8 |
収入−支出 |
▲ 11.7 |
6.8 |
▲ 9.3 |
1.0 |
(参考指標) |
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粗糖支払い価格(豪ドル/トン)No.1 |
343.25 |
342.12 |
378.50 |
392.42 |
粗糖支払い価格(豪ドル/トン)No.2 |
323.82 |
322.76 |
357.08 |
363.35 |
割当面積(千ha) |
508.1 |
498.0 |
483.8 |
469.0 |
粗糖生産量(千トン) |
5,219.6 |
4,989.8 |
4,559.1 |
4,679.9 |
国内販売量(千トン) |
773.6 |
898.5 |
927.6 |
787.1 |
輸 出 量(千トン) |
4,448.5 |
4,067.1 |
3,787.3 |
3,971.2 |
注)平成11年6月18日現在、1豪ドルは0.6676米ドル |