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米国の砂糖消費拡大活動とその効果測定および砂糖の流通事情について

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

機構から

[2008年2月]

調査情報部 部長 加藤 信夫
調査情報部調査情報第三課 課長代理 天野 寿朗
調査情報部調査情報第三課 係長 菊池 美智子

1.砂糖協会による砂糖の消費拡大活動
(1) 砂糖協会について
(2) 過去(1986〜1995年)の消費拡大活動の結果
(3) 2005年からの活動による消費者の意識変化と効果測定
2.米国の砂糖の流通実態について


 米国カリフォルニア州にて開催された米国砂糖連盟(American Sugar Alliance)が主催する第24回国際甘味料シンポジウム(2007年8月4日〜8日)に参加した際に、砂糖協会(The Sugar Association)の会長であるAndrew Briscoe氏より、本協会による戦略的な砂糖の消費拡大活動について話を伺った。また、本シンポジウムに参加していたカリフォルニア州の砂糖流通業者から、砂糖の流通実態や最近の砂糖市場の動向についても伺う機会があったので、それらの内容について報告する。

1.砂糖協会による砂糖の消費拡大活動

(1) 砂糖協会について
 砂糖協会は、前身の砂糖研究財団(Sugar Research Foundation)が1943年に設立されて以来、砂糖に関する普及啓発および広報、科学的な研究活動を行っている。現在は、砂糖の製造者や原料作物の生産者団体など15者が会員となっている。

(砂糖協会のこれまでの活動については、砂糖類情報2002年9月号、2007年1月号で紹介しているので参考にされたい。)

(2) 過去(1986〜1995年)の消費拡大活動の結果
 砂糖協会では、これまでにも栄養、健康、料理などでの砂糖の果たす役割や、砂糖と肥満との関係などについて情報を提供するなど、砂糖の消費を拡大させるための活動を行ってきた。1986年から1995年の10年間に、総額4,760万ドル(約45億円(注1))をかけて継続的に活動を行った結果、図1に示すように、砂糖の販売額は継続して前年を上回った。なお、投資効果としては、1987〜2002年の対前年販売増加額の総額は総投資額の19.1倍にもなっている。
 砂糖の販売額は1999年まで対前年に比べて増加しているが、その後、販売額は減少に転じている。これは、投資効果(砂糖の販売額の増加)は投資停止後も一定期間は継続するものの、効果を持続させるためには、投資効果の状況をみながら再投資することが必要であると考え、2005年より消費拡大活動を再開している。

出典:The Suger Associationから入手した資料により作成
図1 1986〜1995年の消費拡大活動による対前年砂糖販売増加額の変化

(3) 2005年からの活動による消費者の意識変化と効果測定
  2000年をピークにその後砂糖の消費量が減少したことを受けて、中期的には消費の減少に歯止めをかけることを、長期的には毎年1〜2%ずつ消費を拡大させることを目標に、2005年からSPP(The Sugar Promotion Program)と名付けた消費拡大活動を行っている(図2)。この活動は、砂糖協会の会員がスポンサーとなり、2006年には9都市(シカゴ、シアトル、ポートランド、ミネアポリス、セントルイス、ミルウォーキー、グランドラピッド、フレズノ、トレド)に絞って、4ヶ月間に集中的に実施された。
  内容としては、特に家庭の母親と子供を中心に、消費者に対して砂糖に関する正しい知識の普及を行った。砂糖協会ではSPPを実施するに当り、①砂糖に関するプラス面の情報によりマイナスの誤解を払拭する、②砂糖の効果を広く報じることで消費を拡大させる、③消費者の砂糖に対する好意的な意識を背景に食品業界などのユーザーに砂糖の使用を働きかける、④新製品などで砂糖の使用が特徴として挙げられるまでに消費者の砂糖への意識を好転させる、の4つの段階を経て取組を発展させ、「砂糖少なめ」や「シュガーフリー」を特徴とする商品に対抗する商品の販売促進にまでつなげたいとしている。
  2006年の取組としては、具体的には、店頭で「砂糖は低カロリー(1さじ15kcal)」や「砂糖は自然食品」であることを訴える広告、「家庭でのお菓子作り」を促す内容の掲示、砂糖のパッケージに「SUGAR Sweet by Nature」といった共通のロゴマークの表示などを活用した普及啓発活動を行った(図3)。さらに、テレビやラジオ、雑誌を使った広告も行っており、協会ではこれらのメディアを使った広告が最も影響力があるとの見方であった。これらの活動を実施するにあたり、2006年には262万ドル(約3億1,000万円(注2))の費用をかけているが、9都市に限らず全米で実施した場合には3600万ドル(約43億円(注2))が必要であるとしている。
  また、2006年のSPPに対する効果測定として、SPP前後で消費者の砂糖に対する認識の変化についても調査しており、結果は表1の通りである。調査方法としては、各SPP実施地域から300人ずつ、さらにSPP実施地域外(表1では「全国」と分類)より300人をそれぞれ無作為に抽出し、SPPの実施前後に電話による聞き取り調査を行った。なお、SPPの実施前後での調査対象者は同一ではない。
  SPP実施地域ではSPPの実施により、「お菓子作りに適している」、「安全な食べ物である」など砂糖に対して良いイメージの項目については認識が高まっており、一方、「糖尿病の原因である」、「肥満の原因である」という誤ったイメージの項目については「そう思う」と答えた率が低下しており、砂糖に対する誤解の払拭の効果が見られている。さらに、「低カロリーである」や「バランスを考えた食事の一部」など、SPP実施前に消費者の認識が低かった項目ほど、SPP実施前後での認識の変化が大きく、効果が大きかったと考えられる。
  米国での砂糖消費量は、ハリケーンカトリーナの影響などを受けてばらつきはあるものの増加傾向にあり、砂糖協会での取り組みは、その要因の一つとして参考にもなる(図2)。しかし、砂糖協会では、SPPのような消費拡大活動を単に実施するだけでなく、活動後に投資効果や意識調査によってその効果を測り、その結果を今後の活動方針に反映させている点が注目すべきところである。

出典:The Suger Associationから入手した資料により作成
図1 1986〜1995年の消費拡大活動による対前年砂糖販売増加額の変化

出典:The Suger Associationから入手した資料により作成
図1 1986〜1995年の消費拡大活動による対前年砂糖販売増加額の変化

表1 SPPによる砂糖に対する消費者意識の変化
注1:「全国」は砂糖協会のキャンペーンの対象外の地域マーケットで、300人の消費者を対象として調査。
  2:「SPP」は、300人×9都市、計2,700人の消費者を対象として調査。
  3:全国もSPPもいずれも、電話による聞き取り調査。
  4:「変化(%)」はSPP実施前後の消費者の意識の変化率を示している。

2.米国の砂糖の流通実態について

(1) 日米での流通経路の比較
 日本での砂糖の流通は、特約店、二次卸店を経由しない場合もあるが、一般的には製糖業者から代理店、特約店、二次卸店を経てユーザーに販売されるのが主流である。米国では、製糖業者から流通業者を経由してユーザーに販売される場合もあるが、日本のように代理店、特約店契約の形態をとっていないこともあり、製糖業者から直接ユーザーに販売されることも少なくない(図4)。すなわち、砂糖の販売においては、流通業者と製糖業者は競合相手の関係にもある。このように競合が激しいため流通による利幅は少なく、流通段階では可能な限り簡素化し、利益を確保する必要がある。
 このように流通段階が簡素化されてはいるが、砂糖類を扱う流通業者はロサンゼルスだけでも約30社も存在している。流通業者を介して砂糖を購入するメリットとしては、①製糖業者からの大量購入による値引き、②迅速な配送サービス、③通常は製糖業者が扱わないような小口ユーザーへの販売、④砂糖とほかの商品(でん粉や塩など)との同時配送が挙げられる。

図4 砂糖の流通経路の日米比較

(2) 改装・加工による差別化
 今回、話を伺った流通業者は、1923年にロサンゼルスで創業しており、ロサンゼルスを中心にカリフォルニア州全体で、砂糖をはじめ液糖、異性化糖、でん粉などの業務用製品を扱っている(表2)。主な販売先は、菓子や製パン、乳製品のメーカーであり、2500〜3000社と取引がある。商品の仕入れ先は砂糖では5社、異性化糖では4社と取引しており、50ポンドの袋や1500ガロンの缶での流通が多く、大部分の商品が鉄道で入荷されるとのことであった。
 また、この会社では流通だけでなく、改装や加工によって付加価値を付けて販売することも行っている。図5のように、バルク商品の場合には、個別に包装することでパッケージ商品への改装や、溶解することで液糖などの液体製品への加工を、また、パッケージ商品の場合には、小分けにすることで少量のパッケージ商品への改装を行っている。さらに、砂糖とでん粉など異なる製品を混合することで、ミックス製品への加工も行っており、この場合には規定の商品のほかに、ユーザーの希望に応じた製品への混合にも応じている。これらの改装・加工された製品の流通に当たっては、包装に自社のロゴをいれるなど自社のブランド製品として販売しており、流通のみを扱う商品や小分けにした商品の場合の仕入れ先の製造者ブランドでの販売に対して差別化を図っている。

表2 カリフォルニア州の流通業者の概要

図4 砂糖の流通経路の日米比較

(3) 最近の砂糖市場の傾向
 米国における最近の砂糖市場の傾向については、特に「ナチュラル」と「オーガニック」をキーワードにした商品が好まれているとのことである。販売規模としてはまだ小さいが確実な変化が見られており、砂糖として小売されるものに加えて、これらのキーワードをコンセプトにした店舗での食品加工(スーパーマーケットでの総菜など)での使用も好調である。
 また、異性化糖の原料であるとうもろこしの価格高騰を受けて、異性化糖の価格が上昇し、砂糖に対する価格面での優位性が縮小したことなどが要因となって、異性化糖から砂糖への需要のシフトがみられるとのことであった。さらに、異性化糖業界が、「肥満の原因になる」などの報道に対して砂糖業界のように積極的に反論していないために、需要がシフトしているのではないかともみていた。砂糖協会でもこの動きには注目しており、全米で、学校などの教育現場をはじめとして、清涼飲料水の摂取をやめて水(ミネラルウォーター)を飲むようにする動きがあり、これが異性化糖の消費が減少している一因になっているとの話である。
 そのほかには、消費者がスーパーマーケットよりも大規模な倉庫売り型の大型小売店を多く利用していることから、この形態の店舗での販売および食品加工での需要が増加している。また、ユーザーでの事故を防止するために製品形態の少量化が進んでおり、以前は100ポンド袋が主流であったが現在では50ポンド袋に移っている。
 糖種については、ここ数年での取り扱いに変化はなく、ブラウン系が15%で残りは白糖(特にグラニュー糖)が主体であるとのことであった。一方、実際にスーパーマーケットで販売されている棚ではブラウン系の商品が目立っており、消費者にはブラウン系の商品が「ナチュラル」であると捉えられるのか、好まれている様子であった。

(注1)日本円への換算は、1995年の東京三菱銀行公表TTS年平均(1ドル=95.10円)を基に算出した。
(注2)日本円への換算は、2006年の東京三菱銀行公表TTS年平均(1ドル=120.11円)を基に算出した。

写真 カリフォルニア州でのスーパーマーケットでの様子

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