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フランスの製糖企業におけるてん菜およびバイオエタノール生産の事例〜砂糖制度改革への対応を含めて〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ


[2009年4月]

調査情報部調査課 課長代理 遠藤 秀浩
調査情報部調査課 課長補佐 平石 康久

 てん菜の栽培やてん菜からのバイオエタノール生産についてフランスの製糖企業であるテレオス社(Tereos)に聞き取り調査を行う機会があったので報告を行う。

 なお、EUのバイオエタノール事情に関する全体的な記事については、当機構の「でん粉情報」2009年3月号(https://www.alic.go.jp/starch/world/report/200903-01.html)に掲載しているので、併せてご覧いただきたい。

1.テレオス社の紹介と砂糖生産の概況

 生産者組合が経営するフランス最大の製糖企業である。組合に加入している生産者は1万2千人であるが、非加入生産者からもてん菜が納入されている。

 常勤の従業員数は1万3千人で、EU(フランスとチェコ)、南米(ブラジル)、アフリカ(モザンビーク、フランス領レユニオン)に32工場を所有している。

 製糖事業の他、飲料用アルコール、バイオエタノールやでん粉の製造も行っている。

 2007年度、テレオス社のてん菜のは種面積は176千ヘクタール(以下、ha)、単収は81トン/ha(糖度16%基準)、てん菜の収穫量1,250万トン(飲料用アルコールやバイオエタノール用途含む)であり、そこから145万トンの砂糖を製造・販売した。同年度の根中糖分は平均で18.3%であった。

 フランスにおける同社所有の製糖工場の操業日数は年間平均85日であった。

2.EUの砂糖制度改革によるテレオス社への影響と対策について

 EUの砂糖制度改革によりテレオス社の砂糖事業は大きな影響を受け、改革に対応するための努力を行っている。具体的な影響と対策については以下のとおりである。

① フランス国内に12あった製糖工場(レユニオンの工場を除く)のうち、3工場を閉鎖し、砂糖生産割当数量の2割を削減。

 工場の閉鎖に伴い、製糖工場の操業日数が年間平均85日から100日に延長されることになる。

 また、残った9工場のうち、4工場はバイオエタノール製造ライン併設型工場となっている。

② 生産割当の返上に伴い、組合に非加入の生産者を中心に3,100戸の農家が同社へのてん菜の納入から撤退した。

表1 てん菜生産を継続する農家としない農家の比較
資料:テレオス社年次報告書

③ 各種の合理化などを推進

A)サンプリングを行う頻度をトラック台数の66%から50%へ削減。
B)てん菜付着泥の削減(2001年28.7%から2007年の11%)。
C)トラック最大積載量の規制緩和(26.6トンから28.1トンへ拡大)。
D)ガスや燃料などエネルギーの消費量の削減(工場により12〜17%)。
E)使用する石灰の量の削減
F)てん菜1トン当たりにかかる労働時間の短縮による労働生産性の向上

④ 他用途への販路拡大

 バイオエタノール、飲料用アルコール、化学薬品用途に利用するてん菜の買い入れを増加。テレオスフランスの2006年度の収入のうち14.5%が飲料用アルコール・バイオエタノールの売上となっている(前年度は8.8%)。

⑤ 英国の砂糖商社ザーニコフ社およびドイツのてん菜糖企業である北部製糖社と共同で、輸入糖の販売組織を設立

⑥ スペイン製糖企業との共同会社設立および製糖工場から精製糖工場への転換

A)スペイン企業の生産減少分埋め合わせと、同社販売網による砂糖販路拡大
B)スペイン最大の製糖工場(Valladolid工場)を精製糖工場へ転換(注1)。それにともない、フランスにあったNantes精製糖工場を閉鎖。

(注1)てん菜からの製糖活動を継続するとともに、年間12万トンの粗糖を精製できるように設備投資を行う。

資料:テレオス社年次報告書
図1 テレオス社における平均エネルギー消費量の推移
資料:テレオス社年次報告書
図2 テレオス社における石灰使用量
資料:テレオス社年次報告書
図3 テレオス社における労働生産性
資料:テレオス社年次報告書
図4 テレオス社におけるてん菜の泥の付着率

3.てん菜の買い入れ価格について

 てん菜の買い入れ価格については、砂糖制度改革により最低生産者価格は削減されており、2008年度には1トン当たり26.7ユーロとなった。(2005年度43.63ユーロから2009年度には26.3ユーロまで削減予定)。差額は直接支払いにより64.2%が補てんされている。

 一方、生産割当の返上やC糖(注2)の生産ができなくなったため、余ったてん菜についてはエタノール用途等の製造用原料として、低価格で買い入れられることになった。

(注2)生産割当を超えて生産され、規則により輸出に回されていた砂糖。WTOのパネル判決で生産が禁止された。

表2 てん菜の買い入れ価格
資料:テレオス社年次報告書

4.テレオス社によるエタノール生産・販売の概況について

 テレオス社によるエタノール販売について、聞き取りを行った結果は以下のとおりである。

 テレオス社は2007年度に43.5万キロリットル(前年比170%)のエタノールを販売した。そのうち原料は45%がてん菜、残りが小麦であった(2006年度はてん菜が77%)。

 バイオエタノールの販売先の9割はETBEメーカーであるが、徐々に直接混合用のバイオエタノール販売が増えているということである。なおフランスではガソリンの販売量のうち、E5ガソリンが全体の4分の1を占めるようになった。

 フランスのサルコジ大統領は2009年度のE10導入に積極的な姿勢を示しているという。これは、ETBEの利用を継続する場合、ETBE製造企業の独占的な地位による弊害が懸念されているためという。また、世論による直接混合の後押しもあるとしていた。

 担当者によれば、E10の導入の方法は対応済車種と未対応車種を公表し、消費者が判断する方法がとられるのではないかということであった。過去に無鉛ガソリンを導入した時にも同様の措置がとられた経緯があるという。

 工場への訪問途中で立ち寄ったガソリンスタンドではガソリン1リットル当たり1.11ユーロに対して、E85は0.83ユーロと0.28ユーロの価格差があった(2008年11月10日)。ガソリンスタンドには石油資本系列と、カルフールなどの流通系列のスタンドの両方が存在するが、E85の価格は石油資本系では同じ時期、1ユーロを超える高値がつけられているということである。

 バイオエタノールの混合方式によって工場からのバイオエタノール運搬方式に違いがあり、ETBE製造の場合、石油化学プラントで製造が行われるため、エタノール運搬は沿岸部にあるプラントに航路や路線がつながっている船や鉄道によるものが多く、直接混合の場合ブレンダーにおいて混合が行われるため、トラックによる運搬が多いということであった。

 バイオエタノールの品質により規格を決める際には水分率が一番のポイントであるということである。さらに食品用途や化学、製薬用途(アルコール)であれば、独自の基準が追加される。原料による品質の差はないということであった。

5.フランスにおけるてん菜の生産について

 てん菜の生産はフランスてん菜産業研究所によると下記のとおりである。

 フランスでは農家1戸当たりの平均経営耕地面積は80〜90haであり、そのうちてん菜の面積は15haとなっている。

 地域により差があり、訪問したピカルディ―地方では経営耕地面積150ha(てん菜30ha)だが、リールの北部では経営耕地面積が20〜30haとなっている。

 てん菜の品種については、そう根病(リゾマニア)抵抗性品種の作付けがこの数年で大きく増加し、耐性のない品種からの切り替えが進んでいる。

 薬剤使用の効率化(一部病害への重点化)と抵抗性品種の導入によって、農薬の使用量は削減されている。

 また、砂糖の収量が増加している一方、窒素肥料の使用量は減少している。これはたい肥への切り替え(130kg/haを施肥するようになっており、過去と比較して30kg増加)と、栽培のモデル化を行い、残留窒素の存在を計算し、最適な量の肥料投入を行った効果が表れているためということであった。

表3 Origny工場の事例(てん菜原料)
300万トンのてん菜処理、30万キロリットルのバイオエタノール製造能力。総投資額2億ユーロであった。
資料:テレオス社
表4 Lillebonne工場の事例(小麦原料)
82万トンの小麦処理、30万キロリットルのバイオエタノールと30万トンのDDG製造能力。総投資額2億ユーロであった。
資料:テレオス社
資料:フランスてん菜産業研究所
図5 フランスにおける品種の種類
資料:フランスてん菜産業研究所
図6 農薬の使用量の推移
資料:フランスてん菜産業研究所
図7 1ha当たりの産糖量と窒素肥料(たい肥除く)施肥量の推移

6.ほ場見学を行った農家の概況

 ほ場見学を行った農家の概況についての聞き取り結果は、下記のとおりであった。
てん菜については、3月には種を行い、9月下旬〜10月に収穫を行う。

 この農家は2戸で機械を共同利用しており、経営耕地面積は2戸あわせて380haであった。このうちてん菜が150haで、残りの大部分はばれいしょ、一部に小麦も栽培されている。

 訪問した際には収穫作業の最中であったが、収穫機の効率としては、好天候でほ場の条件がよければ1日12haを収穫できるが、ほ場条件が悪いと8haにとどまる。

 農家による収穫作業は日中のみの作業だが、別途収穫を請け負う会社に外注を行うと24時間収穫作業が行われる。

 この農家の労働力は経営主+息子+常雇い2名である。フランスでは農場経営者の配偶者は農作業に従事しない。

 農家の抱える問題点としては、てん菜とばれいしょの2作物の交互作を続けているため、線虫の害が多発しており、この対策として抵抗性品種を利用している。

 てん菜の収穫後は製糖工場によって手配されたトラックですぐ工場へ搬入され、ほ場での保管は行われない。

 泥の除去についての指導が厳しくなり、それにより買い入れ価格も上下することから、収穫時と積込時に泥を除去するようにしている。

図8 収穫機とほ場トラック
図9 収穫機近景
図10 収穫機によるてん菜泥除去部
図11 収穫したてん菜のパイル
図12 てん菜パイルからトラックへの積み込み
図13 積込み時の泥の除去
(下部に除去された泥がたまっている)

7.テレオス社によるFuturolプロジェクト

 産官合同プロジェクトによるセルロースからのエタノール製造の研究について、テレオス社は積極的に関わっている。このプロジェクトはFuturolプロジェクトとよばれ、フランスのISP(国立石油研究所)、INRA(国立農業研究所)の研究機関、テレオス社やトータル社(石油会社)の企業、Unigrain,クレデアルコールの金融機関などが参画している。

表5 Futurolプロジェクトの計画
資料:テレオス社からの聞きとり

 2008年〜2015年の総予算は7400万ユーロ。研究開発に42%、パイロットプラントに38%、プロトタイプに16%の割合で支出予定であり、実施者による出資が4400万ユーロ、公的資金(OSEO)から3000万ユーロの分担となっている。

 Futurol研究は、①持続可能、②複数原料が利用可能(1トン/日程度の原料も利用できる程度)、③経済的に収支が合うもの、という方向性に沿って進められている。

 主要な研究テーマとしては、具体的には以下の3つがある。

①  最初の発酵の後の液(wine)のアルコール濃度を10倍に高める。
セルロース分解効率の向上。現在の糖度30%から大幅に向上
酵素の作業速度の向上。エネルギー効率の向上と工場の小型化に貢献。既存のやり方より20倍に高める。

 その他に具体的な製造を始めるために重要なテーマとしては、以下の4つがある。

a.リグノセルロースの原料として、どの植物を利用するか。
b.予備処理の方法の開発(煮る、つぶすなど)
c.酵素による分解について、不純物による阻害が起こらないようにする技術
d.副産物と廃棄物のリサイクル

 これらを1つの工場で行えるように統合化を図るということである。

 また、原料となる植物の選択については、バイオ燃料生産に適した基準を作成の上、判断し、その新しい植物をどのように輪作体系に当てはめていくか、1年生あるいは多年生植物のどちらが好ましいかを選択する必要があるということであった。現在有望なものとして、わら、搾りかす、ライ麦、ミスカンサス、ポプラの木が候補として挙がっている。

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