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EUの砂糖制度改革とその改革下におけるドイツ砂糖産業の状況について

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ

[2009年9月]

【調査・報告】
特産業務部特産製品課 課長代理 真弓 正展
調査情報部調査課 係長 前田 昌宏

はじめに

 EUにおいて2006年7月から開始された砂糖制度改革は、1968年から実施されてきた従来の制度から大きな変化を伴うものであった。英国の調査会社であるLMC社の資料からEUの砂糖生産量と輸出量が世界に占める割合を見ると、それぞれ粗糖換算で、改革前の05/06年度(10月−9月)に生産量14.7%、輸出量17.2%であったものが、改革後の08/09年度(推定値)では9.7%、1.4%、09/10年度(予測値)では9.7%、1.0%と大きく減少し、砂糖制度改革を境として、砂糖の主要輸出地域から純輸入地域に転じる結果となっている。

 一方、最近の砂糖価格を見ると、NY砂糖先物相場は、8月に大きく上昇し、1980年以来28年ぶりに20セント/ポンドの壁を突破した。この状況は、インドが8月以降も輸入関税を免除する措置を決定するなど、08/09年度に続き09/10年度も多くの輸入が必要となる見込みであることと、8月現在、世界最大の輸出国であるブラジルが天候不順となっていることが大きく影響している。しかし、EUが主要輸出国でなくなり、世界の砂糖貿易構造が変化したことも価格高騰の根幹としてあるであろう。

 本稿では、このように世界の砂糖需給に影響を与えたEU砂糖制度改革の進捗状況とその制度改革下のドイツの砂糖産業の状況などについて、6月16日〜17日にベルリンで開催されたF.O.Licht社主催の「World Sugar 2009」での発表された内容を交えながら報告する。

 なお、本稿中断りがない限りは、生産量などの数値はすべて白糖ベースである。

1.EUの砂糖制度改革の進捗状況と砂糖生産の状況

(1) 砂糖制度改革の目的と概要 〜需給バランス調整のため域内生産量を抑制〜

 EUの砂糖制度改革が行われた背景には、3つの理由が指摘できる。第1に、補助金を受けた砂糖の輸出やアフリカ・カリブ・太平洋諸国(African,Caribbean and Pacific Countries:ACP諸国)から輸入された砂糖の再輸出について、ブラジル、オーストラリア、タイからの申し立てがあり、2005年5月にWTOパネルで違反裁定を受けたこと。第2に、92年から改革を進めてきたEUの共通農業政策(Common Agricultural Policy:CAP)に砂糖分野を適合させる必要性があったこと。第3に、EBA(Everything But Arms)スキーム(注1)に基づき2009年10月から開始される後発開発途上国(Least Developed Countries:LDC)からの輸入自由化や、経済連携協定(EPA)によって2015年から開始されるACP諸国からの輸入自由化に対応するためである。

 こうして、補助金に保護される形で過剰となっていた砂糖生産量を、域内の消費量約1600万トンに合わせる必要性が生じた。従来は、域内消費量が1600万トン程度であるのに対して、生産量が約1900万トン、輸入量が200万トン程度であった。余剰分となるB糖、C糖(注2)およびACP諸国からの再輸出の計5〜6百万トン程度が、輸出に仕向けられていた。砂糖制度改革によって域内生産量を約1200〜1300万トンに抑え、前述したACP諸国やLDC諸国からの輸入量と生産量の合計が、消費量に見合うように需給バランスを是正するよう目標は設定された。

(注1)LDC50カ国で生産される武器以外の全産品(Everything but Arms)に無税、割当制限なしで市場参入を認める措置。

(注2)これまでEUでは、生産された砂糖を、域内消費に仕向けられるA糖、輸出補助金を受けて世界市場に輸出されるB糖、生産割当の超過分で補助金の対象外であるが、域外に輸出されなければならないC糖と区分して管理していた。

表1 制度改革によってEUが目標とした数値
資料:EU 委員会農業農村開発総局(DG―Agri)
(F.O.Licht 社主催World Sugar 2009プレゼンテーション資料より)

 このEUの砂糖制度改革のポイントについては、以下のとおりである。詳しくは本誌2009年5月号「EUの糖業事情(1)〜砂糖制度改革とその影響について〜」中に記載しているので参照されたい(なお、後述するLDC諸国およびACP諸国との貿易取決めについても同記事に詳述しているので、併せてご覧いただきたい)。

① 砂糖、異性化糖、イヌリンシロップの生産割当数量の合計を2010年2月末までに600万トン削減すること。ただし、制度改革前にC糖を生産していた加盟国の生産水準の維持を後押しするため、これら加盟国が110万トンを限度として生産割当枠を1トン当たり730ユーロで買い増しできる措置も講じられた。

② 割当糖に対する介入価格制度(いわゆる最低価格保証制度)を廃止し、07/08年度からは、参考価格制度に移行した。従来の制度では、割当数量の範囲内の白糖1トン当たり631.9ユーロの介入価格が設定されていたが、2009/10年度には1トン当たり404.4ユーロの参考価格が設定された。これにより、砂糖価格は36%の引き下げとなった。粗糖についても同様に、1トン当たり496.8ユーロから335.2ユーロに引き下げられた。

③ てん菜の最低価格が1トン当たり32.9ユーロから26.3ユーロへ引き下げられた。ただし、これに対する補償として、てん菜栽培農家には、価格引き下げによる所得損失分(推定値)の60%相当額が直接支払いによりCAP予算から給付される。

④ 割当糖に対する輸出払戻金制度を08/09年度より廃止した。この結果、2008年9月以降、砂糖に対する輸出補助金は支出されていない。

 これまでの生産割当数量の削減状況を見ると、09/10年度までに砂糖で523万トン、異性化糖で22万トン、イヌリンシロップで32万トンと、目標の600万トンをほぼ達成する合計577万トンの削減が達成される見込みである。砂糖については、割当の買い増しが約100万トンあったため、実質的には、約420万トンの削減となっている。イヌリンシロップは、全割当数量の削減となった。

表2 加盟国別の砂糖生産割当数量
(単位:トン)
資料:EU 委員会

 改革前は、23の加盟国で砂糖が生産されていたが、改革の結果、ブルガリア、アイルランド、ラトビア、ポルトガル、スロベニアは砂糖生産から撤退し、現在は18カ国のみとなっている。また、生産が続いている加盟国のうち、イタリア、ハンガリー、ギリシャ、スペイン、スロバキアおよびフィンランドでは大きく割当数量を削減し、その生産規模は小さくなっている。

 生産割当の削減は、てん菜糖製糖業者による任意の割当の返還とその返還に対する補償金である再構築助成金により賄われている。再構築助成金のうち90%はてん菜糖製糖業者が、10%はてん菜生産者が受け取ることとなっている(この配分率は、当初、「てん菜生産者の取り分を最低10%とする」というあいまいなものであったが、2007年10月の制度改革の改定によって現行の比率に固定された)。この再構築助成金の財源は、てん菜糖製糖業者が支払う再構築賦課金である。再構築助成金と再構築賦課金の単価は、表3のとおり割当を削減した年度によって異なる。

表3 再構築助成金と再構築賦課金の単価
(単位:ユーロ/トン)
注:部分撤退1:製造施設の一部を撤去し、残った設備を砂糖生産に使用しない場合。単価は完全に停止した場合の75%。
部分撤退2:割当の一部を放棄し、かつ残った設備を粗糖の精製に使用しない場合。単価は完全に停止した場合の35%。
資料:Council Regulation(EU)No320/2006of20February2006より作成

 改革当初の06/07年度と07/08年度では、目標の600万トンに対して220万トンの割当が返還されたのみであった。しかしながら、08/09年度にはこれを大きく上回る割当が返還され、結果的に順調に割当の削減が行われた形になっている。このように08/09年度に削減が進んだ理由として、関係者は以下のEU委員会の措置を挙げていた。

① 09/10年度終了時に削減数量が600万トンに達していない場合には、EU委員会による最終削減(Final Cut)が行われること。この最終削減は、それまでの自発的な削減に対して、一律かつ強制的なものとなる上、再構築助成金も交付されない。 

② EU委員会は、生産割当量の一定割合について、1年間に限り生産を認めない一時凍結措置を行った。これにより、06/07年度に250万トン、07/08年度には200万トンの生産割当の一時凍結が行われている。てん菜糖製糖業者にとっては生産割当を保持していても、生産が行えない上、再構築賦課金を徴収されたことから、生産割当の削減に対する強い働きかけとなった。また、この一時凍結と同等またはこれを上回る割当を返還した場合、てん菜糖製糖業者は、再構築賦課金の支払いを免除された。

③ 08/09年度に限り、てん菜生産者向けに、従来から規定されていた「再構築助成金の10%」に加えて、新たに追加的な補償237.5ユーロ/トンがEU予算より支出されることとなった。これにより、てん菜生産者は、最高で割当1トン当たり300ユーロ(625ユーロの10%と237.5ユーロの合計)の補償を受け取ることとなった。また、てん菜生産者は、てん菜糖製糖業者が所有している生産割当数量の10%を限度として、製糖業者を通さず、生産割当数量の削減を直接申請できることが認められるようになった。

 このように、09/10年度までに削減目標の達成が困難とみなされた場合、10/11年度に補償の無い最終削減を義務付ける一方、08/09年度までに割当を返還すればより多くの補償を担保するという、EU委員会の硬軟織り交ぜた対策により、割当の削減は進んだのである。

(2) 砂糖制度改革後の砂糖需給 〜輸出地域から純輸入地域へ〜

 EU委員会では、08/09年度と09/10年度の域内の砂糖と異性化糖の需給について、表4のように見通している。

表4 EU の砂糖需給バランスシート
(単位:百万トン)
注1:値は、砂糖と異性化糖の計である。
注2:08/09年度は推定値、09/10年度は予測値
資料:EU 委員会農業農村開発総局(DG―Agri)
(F.O.Licht 社主催World Sugar2009プレゼンテーション資料より)

 生産量は、改革前の05/06年度で割当外も含めると2170万トンであったが、09/10年度には1670万トン(05/06年度比23.0%減)と大きく減少する見込みである。

 輸出量および輸入量について見ると、05/06年度には、輸出量850万トン、輸入量230万トンであったのに対し(ただし、05/06年度は例年よりもてん菜の豊作および制度改革を控えての「駆け込み」輸出量が多くなっていることに留意する必要がある。例年は平均500万トン程度)、09/10年度には輸出量40万トン、輸入量が350万トンとなる見込みである。この数値からもEUが純輸出地域から純輸入地域へと変化したことがはっきりと認められる。

 なお、EU域内での砂糖消費の動向について、関係者に聞き取りを行ったところ、EUでは昨今の経済不況にる大きな影響は、今のところ見られていないとのことであった。日本では不況によって嗜好品の消費が減少する向きがあるが、EU域内では、日常の「小さな幸せ」を得ようと消費量の大きな落ち込みはないとのことである。

(3) 砂糖輸入国を取り巻く状況 〜LDC、ACP諸国の砂糖生産状況〜

 EUの輸入先のほとんどは、LDCまたはACP諸国である。さらに2009年10月からはLDC諸国からの輸入、2015年からはACP諸国からの輸入がいずれも自由化されることにより、これらの国のEUへの市場アクセスはさらに拡大されることとなっている(ただし、LDC諸国に関しては、2009年の自由化後も、年間輸入量が前年よりも25%以上増加した場合には、セーフガード措置が発動される。また、ACP諸国に関しては、2015年の自由化後も輸入量が350万トンを超えた場合は、特別セーフガードが適用される)。

 表4に示したとおり、EUは、09/10年度で350万トンの砂糖輸入を見込んでいる。しかしながら、糖業関係者の間では、この大部分を占めると見込まれるLDC、ACP諸国からの輸入については、生産能力に疑問があるとともに砂糖制度改革によって粗糖の参考価格を白糖と同様に従来の介入価格であるトン当たり496.8ユーロ(ポンド当たり約32.11セント1ユーロ=1.425米ドルで計算)から同335.2ユーロ(約21.67セント)に引き下げたことにより、LDC、ACP諸国から輸入される粗糖の買取り価格も同様に引き下げられることから、EUへの輸出意欲が低下する可能性があるとして、懐疑的な声もあった。

 こうしたことについて、国際砂糖機関(International Sugar Organization:ISO)が、これらACP諸国やLDC諸国の生産見通しについて発表していたので紹介したい。

 ISOによると、2015年までに計画されているACP諸国やLDC諸国の生産規模の拡大が実現すれば、生産量は粗糖換算で現在の約7百万トンから14/15年度には9.5百万トンになるとしている。この結果、当該諸国の消費量が年平均3%伸びたとしても、2014/15年度には、EU向けとして輸出可能な量は07/08年度の1.9百万トンから80%増の3.5百万トンへ増加すると見込んでいる。また、輸出額も、EUの制度改革による粗糖価格の下落が見込まれるものの、14/15年度までに、05/06年度の24%増となる10億4000万ユーロに達するとみられる。ただし、世界の粗糖価格がEUと同程度まで上昇した場合は、EU以外の市場にも輸出される可能性が生じるとしている。

表 ACP 諸国およびLDC 諸国の砂糖需給バランスシート
(単位:千トン、粗糖ベース)
資料:ISO
(F.O.Licht 社主催World Sugar2009プレゼンテーション資料より)

 なお、主要な輸入先国の生産状況については、以下のとおりである。

モーリシャス(ACP)

 同国は伝統的に生産の90%以上をEUへ輸出している。砂糖は同国経済にとって重要な産品であり、砂糖輸出額は、総輸出額の19%、GDPの5%を占める。耕作地の90%、国土の45%でさとうきびが栽培されている。作付面積の拡大は不可能であるため、生産コスト削減に取り組んでいる。具体的には、さとうきびの単収と製糖歩留りを20%向上させるとともに、2006年に10あった工場を4工場にする集約化を図っている。また、製糖業者の収入の多角化の成功例として、バガスによるコジェネ構造の進展があり、大規模な電力供給者となっている。

 さらに、EUへの輸出について、従来の粗糖ではなく精製糖として販売できるよう国内に精製工場を新設中で、9月に稼働する予定である。

エチオピア(LDC)

 同国は、砂糖の増産計画を実行しており、その内容は、テンダホ(Tendaho)での工場新設と既存の3工場の大幅な規模拡大である。新設される工場は、年間15万トンの生産能力となる見込みである。

ガイアナ(ACP)

 同国では、コスト削減により砂糖生産を大きく増加させる計画がある。エタノールの製造能力拡大に取り組むとともに、余剰バイオマスからの熱電供給システムで、同国政府への売電を計画している。同国最大の製糖会社であるGuySuCo社は既存工場の改良と新工場の建設を計画している。

マラウイ共和国(ACPかつLDC)

 同国の08/09年度の砂糖生産は前年度比10%の伸びが見られた。これはNchalo Estate社の規模拡大によるものである。将来的にさとうきび生産は、毎年11万トン増加すると予想される。

モザンビーク(ACPかつLDC)

 内戦前には70万トンの生産があった同国では、内戦の終結とともに砂糖生産が徐々に回復してきており、10/11年度は、49万トン程度の生産が見込まれている。また、輸出インフラの整備の一環として、輸出港であるマプト(Maputo)港の拡張工事が行われている。

スーダン(LDC)

 同国で進められているWhite Nile Sugar Projectは、その最終段階にあり、この取り組みにより、同国の砂糖生産量は45万トン増加すると見込まれる。さらに、2010年には、さらに製糖工場を増設する追加計画も伝えられている。これは、国内市場の急速な成長に対応するため、また、EUの一層のLDC諸国への市場開放など輸入需要の増加を考慮に入れたものである。

タンザニア(ACPかつLDC)

 同国の砂糖生産量は、09/10年度までに約15万トン増の47.5万トンに達すると見込まれている。同国の4つの製糖会社すべてが、投資による規模拡大を計画している。

カンボジア、ラオス(両国ともLDC)

 この2国では、タイの投資により、08/09年度に2つの工場が稼働を始め、その全量をEUに輸出した。タイの投資家筋によると、ラオスとカンボジアの2工場の年間砂糖生産は、2010年にはそれぞれ10万トンと5万トンに達するとみられる。

2.ドイツにおける砂糖産業の状況

(1) 砂糖産業の概要 〜EU砂糖生産量の1/4を占める〜

 ドイツは、EUにおいてフランスに次ぐ第2位の砂糖生産国であり、08/09年度においては、EUの砂糖生産量のうち25.2%を占めた(フランスはEUの生産量の28.1%を占め、この2カ国でEU生産量の5割以上を占めている)。ドイツ国内の製糖会社は、Südzucker社、Nordzucker社、Pfeifer & Langen社およびSuiker Unie社の4社である。07/08年度にはこれら4社で24の製糖工場が稼働していたが、08/09年度には制度改革に対応するため4工場が閉鎖され、現在は20工場となっている。その内訳は、Südzucker社が9工場、Nordzucker社およびPfeifer & Langen社がそれぞれ5工場、Suiker Unie社が1工場である。なお、閉鎖された工場は、Südzucker社が2工場、Nordzucker社およびPfeifer & Langen社がそれぞれ1工場となっている。

 08/09年度の砂糖関係指標を挙げると、てん菜の作付面積は約36万4000ヘクタール、生産者数は約3万4000戸、1戸当たり作付面積は10.6ヘクタールで、産糖量は約364万トンとなっている。それぞれを我が国のてん菜糖産地である北海道と比較すると、作付面積は、北海道の約5.5倍、生産者数は3.8倍、1戸当たり作付面積は1.5倍、産糖量は5.0倍である。てん菜の単収については、1ヘクタール当たり北海道同64.4トンに対しドイツ63.2トンとほぼ同程度である。

 農家戸数は、06/07年度の4万2926戸から08/09年度までに8490戸減少した。これに伴い、戸当作付面積は06/07年度には8.4ヘクタールであったが、08/09年度には06/07年度比26.2%増の10.6ヘクタールとなっており、砂糖制度改革以降、規模拡大が進んでいることが分かる。

 産糖量を州別に見ると、ニーダーザクセン州は、Nordzucker社の4工場が稼働しており、最も生産量の多い州となっている。次いでSüdzucker社の3工場があるバイエルン州、Pfeifer & Langen社の3工場とSüdzucker社の2工場があるノルトライン=ヴェストファーレン州と続いている。

 また、ドイツ製糖業界全体の就業者数を見ると、ドイツ連邦統計庁の集計では、2008年は、年平均で4796人となっている。この数字は前年比7.9%減少となっており、さらに制度改革前の2005年の5939人と比較すると実に20.2%の減となっている。

表6 ドイツの砂糖生産の概要
資料:ドイツ砂糖産業協会発行資料と北海道てん菜関係資料から機構作成
資料:ドイツ砂糖産業協会2008/09年度年報
図1 ドイツのてん菜耕地と製糖工場分布図

(2) 砂糖制度改革に伴うドイツの砂糖産業の状況

〜課題と業界の取組み〜

 関係者への聞き取りによると、砂糖制度改革に伴う現時点の課題は、輸送コストの上昇と輪作体系への影響であった。

 てん菜の輸送費については、生産者団体と製糖業者との交渉で決定されている。生産割当の削減に対応するため、工場を閉鎖したことにより、地域に製糖工場がなくなってしまい、てん菜の輸送コストが大幅に上昇してしまった地域があるとのことであった。例えばメクレンブルク=フォアポンメルン州の生産者は、州内のNordzucker社の工場が閉鎖されたため、隣のニーダーザクセン州の工場まで出荷せざるを得なくなった。これに伴いNordzucker社の負担する輸送費が上昇してしまったため、再構築助成金に加えて追加的に支払いをして、生産者に対して生産中止を促した事例もあったとのことである。

 また、輪作体系への影響については、てん菜の栽培を中止した結果、大麦や小麦など他の輪作作物の生産について好結果が得られなかったところもあるとのことであった。このため、バイオエタノール仕向け用など砂糖向けよりも収益が低くなってもやはりてん菜を作付けすべきか思案している生産者もあるとのことであった。

 製糖会社は、減産による影響に対応しようとさまざまな努力をしている。ドイツ最大の製糖会社であるSüdzucker社では、アイスクリーム製造部門を売却して、ピザの生産、販売を始めている。また、同社の関連会社であるAgrana社では、砂糖、でん粉のほかに果物を取扱っているが、同社では、ヨーグルトやジャム向けなどの加工用にSüdzucker社の砂糖を使用している。こうして、企業活動の柱を砂糖生産のみに置くのではなく、経営の多角化を図っているということである。また、砂糖制度改革によって余剰分の輸出ができなくなったため、ドイツのような生産大国では、EU域内でのシェアを維持・拡大することも求められている。制度改革後の加盟国の生産割当量と消費量を地域別に見ると、大生産国であるフランス、ドイツがある中央ヨーロッパでは、生産割当が消費量を上回っているが、その他の地域では、消費量が上回っている(図2参照)。こうした需要が供給を上回る地域、特に生産割当数量を従来の2/3に当たる約100万トン削減したイタリアなどの市場をめぐっては、ドイツの製糖業者をはじめとして、各製糖会社間での競争が予想される。また、てん菜糖製糖業者と精製業者間での競争も、粗糖輸入量の増加に伴い激しくなることも同時に見込まれている。そのために、てん菜生産から製糖までの過程で、生産コストを低減する取り組みが求められている。

 このような業界をめぐる厳しい変化に対応するため、砂糖産業界は、消費拡大への取り組みおよび砂糖産業の存在意義をアピールするために、現在は「健康と環境」をテーマに活動しているとのことであった。

 まず、「健康」という面については、砂糖は肥満の原因である、というイメージを払しょくするため、砂糖の摂取のみが肥満の原因ではなく、運動不足、食事のバランスやその他の諸因も肥満の原因となるという正しい知識を普及させようとしている。

 また、「環境」については、バガスや糖みつなどの副産物の利用に代表されるように、砂糖生産がいかに地球環境に優しい産業であるかということを積極的に広く世間に周知させようとしている。例えば、てん菜の生産現場においては、従前からの製糖業界も協力した取り組みによって除草剤や駆虫剤の使用量の削減に成功している。このうち、除草剤については、発芽したばかりの小さな雑草への効果が大きいという事実を利用することにより、使用量が大幅に削減されたほか、農薬を使用する前に雑草の種類のみならずその繁殖密度も調査して作用物質を的確に選択することができるようになった。また、駆虫剤については、種子の周囲を保護するコーティングに微量の作用物質を含ませるいわゆるペレット種子の普及により、使用量は大きく減少し、環境に対する負荷も軽減された。

 また、EUでは低迷する乳価への対策として、2009年1月より乳製品の輸出補助金を再開したことを受け、EUの砂糖業界としても現在の厳しい状況を踏まえ、WTOで認められた輸出量(約127万トン)の範囲内において輸出補助金を再開するよう要請しているとのことである。しかしながら、現在のところ、この要望が受け入れられることは難しいもようである。

(単位:百万トン)
資料:EU 委員会
(F.O.Licht 社主催World Sugar2009プレゼン資料より)
図2 EU の地域別生産割当数量に対する消費量の過不足(砂糖)
資料:ラインラントてん菜栽培研究会
図3 ラインラント地方のてん菜栽培の例に見る雑草防除時の除草剤の使用量
図4 ラインラント地方のてんさい栽培の例に見る黄変病の防除における駆虫剤の使用量
資料:ラインラントてん菜栽培研究会

ドイツのバイオエタノール生産の状況

〜政策的支援により生産は増加傾向〜

 砂糖制度改革によって、砂糖用途向けとしてのてん菜の使用量は減少することとなった。しかしながら、EUのバイオ燃料振興の方針もあり、てん菜はバイオエタノール向けという新たな仕向け先ができている。EUでは、主に小麦、大麦、とうもろこしなどの穀物、てん菜、ワイン由来アルコールからバイオエタノールが生産されているが、2004年から、バイオ燃料の原料となる作物に対して、1ヘクタール当たり45ユーロの奨励金が直接払いに加算して支払われている。加えて、2008年12月に再生可能資源エネルギー利用促進指令について合意しており、これによりEUの全エネルギー消費量の約25%を占める運輸部門におけるバイオ燃料の使用が2020年までに需要量の10%になるよう義務付けられることとなった。

 EUにおける運輸用途燃料の消費は、2006年にディーゼル類が61.5%、ガソリン類が36.9%である。こういった状況を反映して、ディーゼルに混合されるバイオディーゼルが再生可能燃料の中の主力を占めており、EurObserv'ERによると、再生可能燃料に占めるバイオディーゼルの割合は2007年に約75%、バイオエタノールの割合は約15%となっている。2008年の輸送部門におけるバイオ燃料のシェアは2007年の2.6%から3.3%となった(ただし2010年の目標値は5.75%であり、順調とは言い難い)。

 EUにおけるバイオエタノール生産は2008年には前年比56.2%増の28億1600万リットルとなり、原料として使用されるてん菜についても2008年は676万トン、2009年には12.4%増の760万トンになると見込まれている。

 こういった状況を背景として、ドイツのバイオエタノール生産も右肩上がりで推移しており、2008年の生産量は、前年比44.2%増の5億6800万リットルとなっている。

 ドイツ国内のバイオエタノール工場は、2009年5月現在で稼働中の工場が8工場、建造中の工場が2工場となっている。稼働中の8工場のうちてん菜を原料としているのは5工場(穀物から生産する工場を含む)であり、これら5工場の生産能力合計では、773万リットルとなっている。

EUにおけるバイオエタノールとバイオディーゼル向け原料の使用量
(単位:千トン)
資料:F.O.Licht's「World Ethanol and Biofuels Report」April 14,2009
EU国別バイオエタノール生産量
(単位:百万リットル)
資料:eBIO(European Bioethanol Fuel Association:欧州バイオエタノール協会)
ドイツのバイオエタノール工場
(単位:百万リットル)
資料:eBIO
注 :2009年5月現在で稼働しているもの

3.終わりに

 2009年2月27日にEU委員会に提出された欧州製糖業界の社会対話に関する第6次報告書(Social Dialogue Report)によると、EUでは今回の砂糖制度改革によって、域内の47%の工場の閉鎖と2万5000人を超える直接の雇用機会の喪失が見込まれ、さらに当然のことながら、間接的な影響を受ける雇用者の数はそれを大幅に上回るとされている。このように今回の砂糖制度改革は大きな痛みを伴うものであった。この改革により、EU委員会は、域内生産者の国際的な競争力の強化が図られたとしているものの、これ以上の域内生産の減少を促すような施策は、糖業関係者にとって容易に受け入れられるものではない。EUの貿易交渉における砂糖関連品目の取扱いにも域内砂糖産業の保護の姿勢は見てとれる。その一つの例として、イスラエルとの自由貿易協定においては、農産物・加工品分野は、てん菜糖および粗糖(すなわち複合品目1701の全品)ならびにぶどう糖、異性化糖、乳糖を含み、化学的に純粋な果糖を除くその他の糖(すなわち1702 50を除く複合品目1702の全品)は、自由化手続から完全に除外されることとなっている。

 今回の改革による砂糖制度の枠組みは、2015年まで続くこととなっている。この改革によって生産性の低い国の多くは砂糖生産から撤退したが、ギリシャやハンガリーなど一部の国では結果的に砂糖産業は現時点で残っている。しかしながら、これらの国も、中長期的には砂糖生産から撤退する可能性もないとは考えられない。制度改革の始まった2006年から現在まではいわば過渡期であり、生産割当の削減が完了する09/10年度以降は、改革による影響がより鮮明に見られるようになってくるだろう。

 ドイツで実際に耳にしたてん菜の栽培をやめた後の輪作体系への影響や、その際生産者が講じる手段といった生産現場の対応から、EUが国際市場の中でどのように必要な量の砂糖を確保していくのかなど国家レベルの戦略まで、我が国にとっても参考になり得ることは多々あるかと思われる。このため、今後もEUの動向について注視していきたい。

 現在の砂糖の国際相場を見れば、EUが改革前に行っていた約500万トンの輸出が無くなった上、さらにインドの生産量が減少し、09/10年度も供給が消費を下回るとみられていることから、価格は大きく上昇している。今回の国際相場の上昇により、需要がひっ迫する国は対応を迫られるとともに、途上国などにおいては、砂糖生産への投機的な魅力の増加も考えられ、世界の砂糖産業構造にも大きくその影響が生じるであろう。こうしたことから、今回調査を行ったEUに加えて国際価格と各国の動向についても引き続き注目していくこととしたい。

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