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砂糖の国際需給とEUの砂糖制度改革後の動向

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ

[2010年02月]

調査・報告
調査情報部審査役 斎藤 孝宏
同上席調査役 脇谷 和彦

1 はじめに

 砂糖国際価格は2009年を通して上昇を続け、2010年1月には1ポンド当たり30セント(ニューヨーク現物価格)を記録した。この要因としては天候不順と新興国の底堅い需要などと言われている。またEUが輸出側から輸入側に転じたことも大きく影響している。

 今回は、ひっ迫する砂糖の国際需給の下で、昨年11月にロンドンで開催された国際里機関(ISO)セミナーでの内容と、EUでもCAP改革の先頭集団にある英国の状況を報告したい。

2 砂糖の国際需給ひっ迫下での国際砂糖機関(International Sugar Organization:ISO)セミナーにおける議論

 今回のセミナーには、66カ国から407人が参加し、“CRUNCH TIME FOR SUGAR & ETHANOL”と題して、2008年秋の世界金融危機以後激動する時代の中での各国の砂糖産業の動向等について、さまざまな視点から報告、論説が行われた。本章では、同セミナーにおける発表等から、世界の砂糖需給の概況、最大の生産国ブラジルの動向及び最大の消費国インドの動向について紹介する。

(1) 概況 〜大きい天候要因〜

 06/07、07/08年度(10月〜9月、以下断りのない限り同じ)と世界の砂糖需給は供給過剰が続いたが、08/09年度はインドの生産量減少が影響して、1130万トンの供給不足となった。09/10年度は全体の生産量、消費量とも前年より増加するとの予想の中、インドはモンスーン期の降雨不足から生産量が回復せず、前年度に続いて輸入が必要と予想され、ブラジルの生産量は長雨の影響からインドの不足分をまかなうところまで伸びないとの予測から、全体として720万トンの供給不足となり、在庫率も前年より低下(37%→32%)して、最近20年間で最低の水準に達するものと見込まれている。(各数字はISO資料による)

 ニューヨーク砂糖現物相場は2009年1月にポンド当たり13セント台だったものが徐々に上昇し、7月から8月にかけて急激な上昇により20セントを突破した後は20セント以上の水準で高止まりしており、2009年12月の平均価格は、25.28セントと2008年12月の2倍以上の水準となった。

(セント/ポンド)
図1 ニューヨーク砂糖相場の推移
表1 世界の砂糖需給バランス(2008/09〜2009/10年度)
(単位:百万トン、粗糖換算)
資料:ISO(2009年11月)
(ISO セミナー2009プレゼンテーション資料より)

(2) 最大の生産国ブラジルの最近の動向 〜緩慢な新規プロジェクトの進行〜

 ブラジルの調査会社DATAGROのプレゼンテーションによれば、現在ブラジルではさとうきび栽培に適すると考えられる土地6500万ヘクタールのうち、さとうきび栽培には720万ヘクタールしか使用されておらず、栽培面積は年々着実に増加し、これに伴ってさとうきび生産量および砂糖の生産量も増加してきている。

 09/10年度の砂糖生産量も前年度を上回る見込みであるが、8月後半以降の長雨の影響で歩留まり(さとうきび1トン当たりの糖度重量(ATR))が前年の142kg/トンから132kg/トンへ低下した影響で、ISOは09/10年度の砂糖生産量を前年度から140万トン(4%)増の3800万トンにとどまると予測している。

 なおISOによれば、国際砂糖価格高騰の影響で、09/10年度におけるさとうきびのエタノールへの仕向け比率は、前年度の58%から56.6%に低下する見込みであるが、ブラジル国内のエタノール需要はフレックス車の伸び(2009年9月の販売台数は過去最高の26万5889台)を受けて堅調で、09/10年度(4月〜3月)の消費量は前年比6%増の215億リットルと予想されている。ブラジルの砂糖産業関係者によれば、「さとうきび生産量の増加は国内のエタノール需要がけん引している」とのことであった。

 また、Rabobank International Brazil(オランダ最大の金融機関Rabobankのグループ銀行)のプレゼンテーションによれば、ブラジルさとうきび農耕連合(UNICA)は2020年のさとうきび圧搾数量の目標を10億トンとしているが、この目標達成のためにはおよそ400万トン相当の施設新設が必要となる。しかし2008年の金融危機以来銀行側の貸し渋りが見られるようになり、新しいプロジェクトの進行は緩慢になっている。また、資金提供先の選択が厳しくなり、体力のある大企業に対してのみ融資が行われる結果、大企業による中小企業の吸収など、業界の整理統合が進むのではないかとの予測を示した。

(3) 最大の消費国インドの最近の動向 〜10/11年度では輸出を見込む〜

 インド政府(消費者問題・食料・公的分配省)のプレゼンテーションによれば、08/09年度の砂糖生産量は、穀物への作目転換などによるさとうきび減産の影響で、前年度の2600万トン(白糖換算)から大幅減の1500万トン(同)となって750万トン(同)の供給不足が生じ、期初在庫1400万トン(粗糖換算、ISO)から必要量を国内消費に充てたほか、252万トンの輸入を行った(うち140万トンは翌年度へ繰り越し)。09/10年度もモンスーン期の降雨不足により、さとうきび生産量は低水準が続くと予想される。このため砂糖の生産量は前年度をわずかに上回る1600万トン(白糖換算)と見込まれ、750万トン(同)の供給不足を予測している。

 一方、さとうきびの用途として分みつ糖と競合するジャガリー(jaggery)と呼ばれる含みつ糖については、分みつ糖と比較して生産コストが高い割には価格が高くないため、08/09年度よりも価格的魅力が減少したとしており、さとうきびのジャガリーへの使用比率は、08/09年度の34%から09/10年度には23%に低下するとしている。

 10/11年度については、国際砂糖価格の高騰を背景に農家のさとうきび生産意欲が高まって作付面積が増加し、ジャガリーへの使用比率もさらに低下して、砂糖の生産量は2600万トン(同)となり、100万トン(同)の輸出が可能であると見通している。

 なお、政府は08/09年度の供給不足に対応して、2009年4月から輸入砂糖への免税措置を実施しているが、同措置の期限は粗糖については2010年12月、白糖についても延長されて2010年12月となっている。

 また、消費者を保護することを目的に政府によって決められた価格(市場価格を下回る水準に設定された価格)で販売されていた砂糖(levy sugar)の09/10年度における工場の生産量に占める徴収割合が、従来の10%から20%に変更されたとしている。

表2 インド政府による砂糖の需給予測
単位:百万トン(白糖換算)
資料:インド消費者問題・食料・公的分配省
(ISO セミナー2009プレゼンテーション資料より)

3 EUの砂糖制度改革と英国の状況

 EUは、1992年からEU共通農業政策(CAP)における直接支払いを開始した。その後、2004年まではその支払いの基礎を生産に置いていたが、生産とは切り離して農家の土地面積による単一支払い(SPS:Single Payment Scheme)が2005年から導入され、支払いの主勢を占めるようになった。また、その後、SPSの条件として環境保全への対応(クロスコンプライアンス)が条件となったことに加えてSPSの資金の一定部分を農村開発に仕向ける「モジュレーション」(後述)が導入され、CAPが農業政策から社会政策の傾向を強めている。このようなCAPのもとで2006年から砂糖制度改革が開始された。

(1) EUの砂糖需給の動向

①生産割当を600万トン削減

 2006年から開始されたEUの砂糖制度改革は、生産割当数量の削減(2010年2月末までに600万トン(異性化糖、イヌリンシロップを含む))、の目標をほぼ達成してきた。この間、砂糖生産国23カ国のうち生産効率の低いポルトガル、ラトビア、スロベニア、アイルランド、ブルガリア5カ国は砂糖生産から撤退し、砂糖の生産国は18カ国となった。生産効率の高い地域への生産集約が行われた結果、フランス、ドイツ、ポーランド、英国、オランダ、ベルギーの6カ国で生産割当の75%を占めている。

 生産割当の削減目標である600万トンに対し、これまでの削減数量は580万トンである。欧州委員会は2010年2月に「Final Cut」(強制的な割当数量削減)を行うことが規定されているが、国際砂糖価格が高騰し、供給不足が続いている状況の中、この20万トンの削減は実施されないのではないかとの見方をする関係者もあった。

表3 制度改革に伴うEUの砂糖生産割当数量の変化
(単位:百万トン)
資料:欧州委員会農業農村開発総局(DG―Agri)
(ISO セミナー2009プレゼンテーション資料より)

②支持価格を36%引き下げ

 介入価格を廃止して導入された参考価格は、07/08年度のトン当たり631.9ユーロから09/10年度は同404.4ユーロまで36%引き下げられた。なお、2009年8月時点(参考価格=541.5ユーロ)での市場価格は561ユーロと報告されている。

③輸出枠を超える要望

 WTOのルール上、割当糖(注1)の輸出払戻金の対象数量は137万トンであるが、欧州委員会は、08/09年度から輸出払戻金の給付を廃止し、現在割当糖の輸出は行われていない。また、割当外糖(注2)については、09/10年度の輸出枠が当初65万トンに設定されていたが、わずか2週間で限度数量に達したため、割当糖において認められている輸出上限枠をわずかに下回る135万トンまで拡大された(割当外糖についても、てん菜生産者への補助など「間接的な」補助を受けた砂糖とみなされているため、輸出量が137万トンを上回らないよう措置されている)。この135万トンについても、11月20日時点で輸出ライセンスは全て申請済みとなっている。

 09/10年度はてん菜が記録的な豊作となって各国とも生産量が前年を上回り、世界市場価格も高いことから、製糖企業としてはより多くの砂糖を輸出に回したいところであるが、上記の制限があることから、135万トンを超える割当外糖は域内のエタノール用途、化学・薬品用途に向けられ、残りの相当の数量が在庫として翌年度へ繰り越される見通しである。

(注1)改革後のEUの砂糖制度において生産割当数量内で生産した砂糖。

(注2)生産割当数量を超えて生産された余剰分の砂糖。

④輸入はLDC、ACP諸国から

 EUの砂糖の輸入先の大部分はLDC(後発開発途上国)およびACP(EUの旧植民地であるアフリカ、カリブ、太平洋)諸国である。

 LDC諸国からの輸入については、「EBAの原則」(LDC諸国からの武器・弾薬以外の輸入品を数量制限なしに無税輸入を認める制度)に基づき、2009年10月以降完全自由化された。

 ACP諸国との間で1975年から結ばれていたsugar protocol(砂糖議定書)は2009年9月末で終了し、ACP諸国からの砂糖輸入はEPA(包括的なEPA締結はカリブ海諸国とのみ、その他の地域については個別のACP諸国との暫定協定を締結)によって規制されることとなった。

 具体的には、14/15年度までの間、経過措置としてACP諸国(LDCを除く)産の無税砂糖輸入に二重のセーフガードが設定されており、以下の要件を同時に満たした場合に発動される。

(a)LDC諸国を含むACP諸国からの輸入量の合計が350万トンを超えたとき

(b)LDC以外のACP諸国からの輸入量が09/10年度では145万トン、10/11〜14/15年度の間では160万トンを超えたとき

 2015年10月1日以降は完全にEPAのセーフガードが適用されることになっており、EUの砂糖市場価格が2カ月連続で前年度の市場価格の80%を下回った場合にセーフガードが適用されることとなる。 

 なお、ACP諸国産の砂糖の輸入について、輸入業者は2009年10月1日から2012年9月30日までの間、EUの粗糖参考価格(335ユーロ/トン)の90%の水準を下回らない価格での購入が義務付けられているが、12/13年度以降はこの価格保証が消滅し、ACPへの支払価格は市場の決定に委ねられることになる。

 こうした国々からの輸入量の増加の見込みについてある製糖関係者は、「今後LDC、ACP諸国が生産能力をどれだけ拡大できるか疑問であるうえ、それらの国々の国内砂糖消費もかなり急速に伸びており、輸入量の伸びは一般的な予測ほど速くならないのでなないか。」との見方を示した。

(2) 英国における砂糖制度改革関連の動向

①英国の砂糖制度改革と製糖企業等

 EU第4位の砂糖生産国である英国においても、砂糖制度改革の結果、砂糖の生産割当数量を13.5%削減することとなり、一部買い増しもあったが、割当数量は当初の約113万9000トンから約105万6000トン(09/10年度)となった。

 こうした生産割当数量の削減による工場稼働率の低下などに対処するため、国内唯一の製糖企業であるBritish Sugar社(以下、「BS社」)は、国内に6カ所あった製糖工場のうち2カ所(Allscott、York)を閉鎖して東部の4工場(Newark、Wissington、Cantley、Bury St.Edmunds)に集約した。この結果4工場はフル稼働が可能になり、生産効率は向上した。

 またBS社は、経営多角化の一環としてBP社(英国に本拠を置くエネルギー関連企業、旧British Petroleum社)、デュポン社とのジョイントベンチャーによりエタノールを生産している。現在Wissington工場がてん菜糖を原料とする年間7000万リットルの生産能力を有しており、2010年には北部Hull市に小麦を原料とする4億2000万リットル規模のエタノール工場を立ち上げる予定とのことであった。

 一方、閉鎖した2工場に原料のてん菜を供給していた生産者は、てん菜の生産を中止または栽培の権利を譲渡して一時的な補償金を得るか、輸送費を負担(BS社からの補助は提示されたが限定的だった)して残った工場に供給するかの選択を迫られることとなった。特に英国西部の生産者は、輸送費の負担が大きく採算が取れないことから生産を中止するケースが多く、てん菜の生産地域は東部が中心となった。このような状況の変化に伴い、英国内の07/08年度のてん菜生産者数は、06/07年度に比べ約25%減少(6508→4876、欧州砂糖製造企業協会(CEFS)資料による)した。

 なお、BS社、NFU(全国農業者連盟)など関係者によれば、てん菜栽培中止後の代替作物としては、小麦、油糧種子など従来栽培していた他の輪作作物が、面積を拡大して栽培されているとのことであった。てん菜は英国畑作生産者にとって、収益性が高く輪作体系上価値の高い作物ではあったが、「欠くことができない」というほどの重要性までは有していないという認識である。

表 EUの砂糖需給バランスシート
(単位:百万トン)
資料:欧州委員会農業農村開発総局(DG―Agri)
注:砂糖と異性化糖の計である
(ISO セミナー2009プレゼンテーション資料より)

②砂糖制度改革による農家への補償

 砂糖制度改革により、てん菜価格引き下げに対する農家への補償措置としてSPSにおいて受給権(後述)を上乗せすることで支払われることとなった。農家の生産したてん菜に係る砂糖の重量を基準として、2006年のトン当たり9.71ユーロから始まり、2009年までに約10ユーロが追加支給された。

4 英国におけるCAP直接支払いの状況

 イングランドのCAPにおける直接支払いは、農業管轄省であるDEFRA(Department for Environment and Rural Affairs)によって政策決定され、補助金支払機関であるRPA(Rural Payment Agency)によってなされる。

 なお、英国の地方自治制度は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの各地方によって異なり連合王国政府が全体を統括している。中でもイングランドが全体の人口の約8割を占め、行政や経済の中心となっている。

(1) 直接払いに対する政府の対応

 CAPの直接支払いは、当初の生産に連動した支払い(Coupled)から生産とは切り離した(Decoupled)単一支払い(Single Payment Scheme)に移行し、最終的には地域ごとの同一単価(Flat Rate)を土地面積に乗じての支払いに移行することとなっている。これらの制度変更の背景には、生産をベースに支払いを行うとどうしても生産にインセンティブを与え生産過剰を招き、結果としてEUの財政を圧迫することとなったことがある。EU各国の対応は国情によってまちまちであるが、英国は農家の規模が比較的大きいことなどからEUの中でも、先進的に対応してきたと言える。

(2) イングランドにおける単一支払制度

①地域別支払への完全移行

 イングランドにおいては、単一支払制度は、2005年から実施され、現在は、生産履歴と地域別支払を混合して実施しているが、2012年には後者に完全移行することとされている。

 また、単一支払の対象となる農業者数は約107,000人となっている。また、2008年の支払実績は約16億ポンド(約24億円、1ポンド=150円)である。

表 EU 主要国における単一支払の適用状況(2008年1月時点)
資料:EU 委員会作成から抜粋
注:混合とは、生産履歴支払と地域別支払を組み合わせたもの
(参考) 生産履歴支払と地域別支払の予算シェアの推移
単位:%

②農家が単一支払を受けるための手続き

 各農家には、過去の生産面積に基づいて、単一支払を受けることのできる受給資格(受給権)が割り当てられており、各農家はその範囲内で支払を受けることができる。

 実際に支払を受けるためには、各農家は適正な申請書を作成し、所定の期限までに、これをRPA(注3)に提出することが求められる。不正確な記述がなされた場合や申請書の提出の遅れた場合には、支払額が減額されることがある。

 さらに、農地を良好に管理することなどの責務(クロスコンプライアンス)を適切に履行することが求められおり、この責務に違反した場合には、その程度に応じて支払額が減額されることがある。

 2009年の場合の主なスケジュールは次の通りである。

(注3)RPA:Rural Payment Agency(地域支払機関):英国イングランドの環境食料農村地域省(Defra)の政策実行機関として、2001年に設立された。単一支払制度の運営などを担っている。レディングの本部を含め、6か所に事務所を有する。役職員数は約3,500人(2009年12月末現在)である。

③農村開発事業とモジュレーション

 CAPによる農家経営の支援策は、単一支払制度を中心とする第1の柱と環境支払などを実施する農村開発を中心とする第2の柱で構成されている。これらの2つの柱については、第1の柱である単一支払に当てられる予算の一定割合が減額されて、第2の柱である農村開発の予算に振り替えられる仕組み(モジュレーションと呼ばれる)となっている。

5 イングランドの耕種農家の事例

 イングランド西部の農家で、以前にてん菜を耕作していた農家を訪ねるころができたので、この農家の事例を紹介したい。経営者は50代で、夫婦、息子とその婚約者、常雇用1名、臨時雇用3、4名で作業を行っている。

①経営の概況

 土地面積は700haで、所有地はそのうち200ha、残りは借地などであり、これらは、自宅から半径約25km以内にある。土地の半分以上は冬小麦の生産に充て、残りはナタネ、大麦、豆類、牧草を作っている。羊を250頭、ポニーを6頭飼養している。

②てん菜からの撤退

 EUの砂糖制度改革以前は28haでてん菜を耕作し、生産物は約60km離れた製糖工場へ納入していたが、CAPの砂糖制度改革により、その工場が閉鎖となり、80km離れた工場へ輸送しなくてはならなくなり、てん菜の収益は他の作物に比較して良かったが耕作を中止した。

③単一支払いに伴う膨大な事務などの処理

 単一支払いの対象となるためには、環境などへの配慮を行っていることを証明しなければならない(クロスコンプライアンス)ため、それに伴う書類作成の事務処理に多くの時間が費やされる。この農家では息子の労働時間の四分の一から三分の一が充てられている。農家によっては、書類作成を代行する専門家に依頼しているが、ここでは自ら行っている。

 クロスコンプライアンスを遵守しているかどうかの監視も厳しく、RPA,環境庁、獣医局、地方自治体などが抜き打ち検査や衛星などを使用した検査を行い、問題があれば、全面的な検査の対象となり、補助金削減の恐れがある。

 このため、これらに対応できない農家は経営を中止せざるを得なくなり、対応可能な農家に土地が継承され、規模の拡大につながっていくとこの農家は見込んでいる。

④農業の将来に希望

 また、この農家は、最近の農産物価格高騰などを受けて、食料安保やエネルギーの問題が議論されていることから、このことと環境重視的な政策が合わされば、農産物価格の価格は上昇する傾向にあり、将来の農業に対しては希望が持てるとしている。

6 おわりに

 昨年11月のISOセミナー開催後、ブラジル、インド両国の砂糖生産量が伸び悩むという観測による国際需給のひっ迫感は続いており、国際砂糖価格は上値を追う状況が続いている。

 同セミナーにおいても、話題の大半はこの2カ国に関連するものであった。現在の国際砂糖需給に対する影響力という点で、両国が中心的な存在であることは間違いない。

 一方セミナーの開催地でもあるEUについては、砂糖制度改革に伴って輸出国(地域)から輸入国(地域)に転じたことにより脇役に退いた感はあるが、短期間のうちに複雑な調整を含む制度改革をほぼ達成した事実は、EUの制度運用能力の高さを示すものだと言えよう。

 EUのCAPは、現在のところ、環境を非常に重視したもので、今後もクロスコンプライアンスの実施が対応可能な農家とそうでない農家を仕分け、農地の集積による農家の規模拡大につながっていくものと見込まれる。このことは、今後の農村社会のあり方の課題ともなり得るが、大規模化は生産性の向上につながることであり、てん菜を含む農畜産物の生産コストの低減が図られると見込まれる。EUの中でも比較的農家規模の大きな英国の例は、その点でEUの農家の将来像につながるのではないかと感じられた。

 今後もEUは財政などの理由から、農業部門への支出は制限され、CAPはより市場志向を強め、砂糖分野においても国際競争を前提としたものに変化していくであろう。砂糖制度改革により一度は砂糖分野での国際的な影響力を減じたEUであるが、生産性、国際競争力の向上を背景に、今後どのような形で砂糖の国際需給に関わっていくのか、その動向を注目したい。

(参考ウェブサイト)
EU委員会:http://ec.europa.eu/index_en.htm
DEFRA:http://www.defra.gov.uk/
RPA:http://www.rpa.gov.uk/rpa/index.nsf/home

 

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