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バイオエタノール実証事業とてん菜生産について

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最終更新日:2010年3月6日

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[2008年4月]

【今月の視点】

JA北海道中央会資源環境プロジェクト 柴田 浩一郎

1.バイオエタノール実証事業の概要

 JAグループ北海道は、農水省の「バイオ燃料地域利用モデル実証事業」により、バイオエタノールの実証事業に取り組むこととなりました。昨年6月に北海道バイオエタノール株式会社を設立し、平成21年度以降本道の農産物を原料として燃料用バイオエタノールの製造を開始する予定です。原料としては、当面交付金対象外てん菜と規格外麦を使用する見込みで、てん菜生産にとっても大きな意味のある事業となりますので、その内容について解説します。
 バイオエタノールとは、農産物の糖質・でんぷん質やセルロース等をアルコール発酵させて製造したものです。現在注目されている燃料用バイオエタノールは、近年ガソリンとの混合用として製造され、カーボンニュートラル(発生する二酸化炭素は原料農産物の生育中に吸収されることから、大気中の二酸化炭素を増加させない)な燃料として、温暖化ガス削減の切り札として利用が拡大しています。すでに南米や米国、欧州、中国、インド、タイなどでE10(ガソリンにエタノールを10%直接混合したもの)などが利用されており、我が国も2030年にはE10ガソリンを流通させる目標を掲げています。現在のところ「揮発油等の品質の確保等に関する法律」によって、ガソリンにエタノールを3%まで混合することが認められています。地球温暖化防止の観点から、我が国としてもバイオエタノール混合燃料の国内生産を進めることとしており、今回の事業は各方面から注目されているところです。
 さて、今回取り組む実証事業では、プラントをホクレン清水製糖工場内に建設し、年産1万5千kl(日量50kl)の燃料用バイオエタノールを製造販売します。これは国内における燃料用エタノール製造では最大のもので、この規模のものは現在は国内にはありません。(モデル事業では、オエノンホールディングスが苫小牧に同規模のプラントを建設する予定です。)
 原料は当面、交付金対象外てん菜、規格外麦としています。バイオエタノールの販売については、現在の流通環境と税制面から全量を「バイオマス燃料供給有限責任事業組合」(石油連盟傘下の石油元売各社のバイオエタノール共同購入組織)にETBE(※)原料として販売することを予定しています。ただし、ETBEについては安全性の確認等の課題があることから、国内のバイオ燃料の流通状況を踏まえつつ、流通方式について引き続き検討を進めることとしています。
 原料については、作柄変動などに対応可能な確保の仕組みを、政府の原料安定確保支援策を求めつつ、今後検討することとしています。エタノール向けのてん菜については、価格は委託加工てん菜(交付金対象外)と同価格水準で供給することから、交付金対象てん菜の価格よりも低水準となるものの、これまでの価格水準を下回ることはありません。平成19年産では一部エタノール用として旧糖区を超えた原料輸送の試験も実施しています。
 てん菜の生産抑制的な政策が継続されていますが、交付金対象外てん菜(2007年度において糖換算で64万tを超えるもの)をエタノール原料とすることは、てん菜作付面積を維持して畑作における輪作体系を守ることにつながるため、畑作農業にとっての意義は大きいといえます。
 一方、エタノール向けの規格外麦については、市場価格で供給されることから、これも従来の価格水準を下回ることはありません。ただし、規格外麦の供給量は毎年大きく変動し、安全な家畜飼料としての需要が高まっています。このため、どのぐらいをエタノール向けとするかは慎重に調整することが必要となります。

てん菜の生産動向

2.今後の課題

 今回のバイオエタノール実証プラントの位置づけは、技術の大規模実証試験を行う施設であり、製造規模からみても商業プラントとはいえませんが、実証事業が終了する2011年までには「自立的経営」をめざすこととされています。そのため、中長期的な政策支援を前提に、収支改善に向けた課題を整理することが必要です。技術や販売(副産物も含む)面での努力に加え、商業化への検討も求められています。
 流通上の課題もあります。製造したエタノールは全量石油連盟に売却しますが、石油連盟のETBE製造施設は横浜にある施設が整備される見込みであり、北海道からバイオエタノールを長距離海上輸送する予定です。しかし、コスト面と二酸化炭素削減の面から長距離輸送は望ましくなく、「地産地消」を原則とすべきと考えています。今後は、ETBE製造施設を道内に整備するか、E3として道内流通させるか、中長期的な展望を踏まえ、政策的に方向性を示すべきであると考えています。もちろん、道内のエタノール混合方式(直接混合=E3方式、ETBE方式)の統一は言うまでもありません。
 原料面では、日本のように食料自給率の低い国では、ソフトセルロース系(てん菜のトップやパルプ、稲わら、トウモロコシの茎葉など)のエタノール発酵技術の開発により、原料選択の幅を拡大することや、資源作物の開発や政策的支援策の検討も必要です。
 国内で製造されたエタノール価格は原油価格や輸入エタノール価格に左右されますが、安定的な製造を継続するためには国産エタノール価格の安定化が重要です。また、ガソリン税の免除措置や二重課税の回避など税制面のバックアップも併せて措置することが必要となります。
 さまざまな課題がありますが、これらの課題に対して農水省をはじめ他の省庁も前向きに検討していると聞いています。地球温暖化防止や農業振興をはかる上での新たな方向性としてバイオマス事業の取り組みは重要です。今回のバイオエタノール事業を、官民挙げた取り組みによって、農業の可能性をさらに拡大したいとJAグループ北海道は考えています。

(※)ETBEとは、石油製造過程の副産物であるイソブテンとバイオエタノールから製造される。


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