砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 生産現場の優良事例など てん菜生産関係 > てん菜直播栽培の普及状況について

てん菜直播栽培の普及状況について

印刷ページ

最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ

[2008年6月]

【今月の視点】

札幌事務所 所長 武居 正和
所長代理 戸田 義久

はじめに

 北海道におけるてん菜の栽培は、明治初期に開拓使によって導入、試作されたことに始まり、製糖工場の設立や各種支援制度の導入などにより、戦争による中断はあるものの栽培面積が拡大していった。当初は、直播により栽培が行われていたが、収量の安定確保のため、昭和37年(1962)から紙筒移植栽培技術が普及し、5年を経過した昭和42年(1967)には、移植率が全作付面積の50%を占めるようになった。昭和59年以降、平成16年までの直播率が5%未満となっていることからもわかるように、現在では、移植によるてん菜栽培が主流となっている。
  北海道畑作農業では、農家戸数が減少する一方、経営規模が拡大しているが、平成19年度から水田・畑作経営所得安定対策(品目横断的経営安定対策)が実施され、生産コストの低減、省力化が重要な課題になっている。
  こうした中、てん菜栽培については、重労働である移植作業の大幅な省力化、育苗経費などの軽減、育苗時、春先の農作業繁忙期の他作物との労働競合の回避などが課題となり、収量の確保だけではなく、栽培コストの低減を図ることが必要となっている。このような背景の中で、直播栽培技術の導入によるコスト低減が一層求められるようになり、行政・生産者団体もその推進を図っている。
  しかし、てん菜の直播栽培を普及していくに当たり参考になる資料として、個別経営体に係る優良事例はいくつか報告されているものの、既に直播栽培が導入されている地域について、直播栽培の普及の背景やメリットなどを地域(支庁・市町村)別に整理・分析したものは見当たらない。
  そのため、道内における直播栽培の普及状況について、機構札幌事務所が北海道農産振興課、農業改良普及センター、糖業、農業協同組合の協力を得て、地域の特色に応じた農家経営を行っているてん菜栽培農家、農協などから、直播栽培の普及状況について聴き取りを行ったので、その結果を順次報告する。

表1 19年産てん菜の地域・支庁別生産状況
資料:北海道
注 :普通畑面積は「耕地面積調べ」(農林水産省)

1.19年産てん菜の地域・支庁別生産状況 ―十勝、網走で全道作付面積の8割―

北海道全図(支庁別)

 北海道の耕地面積(平成18年)は、1,166千ヘクタールで全国の耕地面積の25%を占めている。北海道の耕地面積のうち、田は227千ヘクタール(19.5%)、畑は939千ヘクタール(80.5%)である。畑のうち、普通畑は413千ヘクタール(43.0%)、果樹園3千ヘクタール(0.3%)、牧草地は523千ヘクタール(55.7%)となっている。普通畑面積413千ヘクタールのうち約300千ヘクタールがいわゆる畑作物(麦、てん菜、いも、豆)の輪作が行われている。
  19年産てん菜は、全道の普通畑のうち16.1%に作付けされている。特に、道東北地域の網走、十勝支庁管内は、それぞれ25.3%、16.8%とてん菜の作付率が高い。また、てん菜の作付面積も十勝支庁管内43.4%、網走支庁管内40.0%とこれら2支庁管内で全道の83.4%を占めている。
  てん菜の地域別の直播率は道南地域18.5%、道央地域12.1%、道東北地域6.3%となっており、てん菜の直播率が全道平均(7.4%)よりも高い地域は、道南地域の渡島(42.8%)、後志(17.4%)、道央地域の石狩(29.1%)、空知(24.1%)、胆振(21.1%)、日高(23.2%)、道東北地域の根室(13.3%)、網走(7.6%)となっている。

2.直播の普及の推移

(1) 全道 ―直播率は増加傾向で推移―
  北海道全域における平成10年から平成19年までのてん菜の作付面積は、平成10年の70,000ヘクタールから平成13年に65,874ヘクタールと4,126ヘクタール(5.9%)減少し、平成13年以降は平成15年目標生産費算定時の目標面積である68,000ヘクタールを下回って推移し、ここ数年は減少傾向を示している。
  直播が導入されている面積は、平成10年の2,741ヘクタールから平成19年の4,904ヘクタールと1.9倍となっており、直播率は、平成10年の3.9%から平成12年に3.2%まで低下したものの、その後徐々に増加し、平成19年には7.4%に達した。平成12年の直播率の低下は、平成11年の作柄が前年に比較してよくなかったので、所得を確保するために移植栽培に切り替えたためのようである。
  一方、てん菜栽培農家戸数は、平成10年から平成19年を見ると、平成10年の12,313戸から平成19年の9,416戸と2,897戸(24%)減少した。また、てん菜栽培農家の1戸当たりの栽培面積は、平成10年の5.69ヘクタールに比べて平成19年は7.07ヘクタールと1.38ヘクタール(24%)の増加を示した。

図1 全道の直播の推移
資料:てん菜糖業年鑑、北海道

図2 全道の農家数
資料:てん菜糖業年鑑、北海道

(2) 道南地域 ―他地域よりも高い直播率―
  道南地域(渡島・檜山、後志)は、比較的温暖な気候を生かして、野菜や米を中心にばれいしょ、豆類などの畑作物を加えた集約的な農業が営まれている。
  道南地域におけるてん菜の作付面積は、平成10年の2,156ヘクタールから平成13年に1,797ヘクタールまで低下したが、その後増加し、1,900ヘクタール台を維持している。直播が導入されている面積は、平成10年の68ヘクタールから平成19年の354ヘクタールと5.2倍となっており、直播率は、平成10年の3.2%から増加傾向をたどり、平成19年には18.5%に達した。
  一方、道南地域のてん菜栽培農家戸数は、平成10年の723戸から平成19年の507戸と216戸(30%)減少した。てん菜栽培農家の1戸当たりの栽培面積は、平成10年の2.98ヘクタールに比べて平成19年は3.77ヘクタールと0.79ヘクタール(27%)増加している。
  近年の道南地域の直播率は、他の地域(道央・道東北)に比べて総じて高い。この背景として、

(1)気候が温暖であることから凍霜害のリスクが比較的小さいこと
(2)高齢化が進んでいること
(3)1農家あたりの経営耕地面積が増加していること(平成19年は平成10年と比較して30%増加)
(4)農家の収益源として野菜などの高収益作物があること

 ―などから、育苗ハウス、移植機の新規導入・更新など移植によるてん菜栽培への投資を控え、直播を採用する農家の存在があるようである。

図3 道南地域の直播の推移
資料:てん菜糖業年鑑、北海道

図4 道南地域の農家数と1戸当たり作付面積の推移
資料:てん菜糖業年鑑、北海道

(3) 道央地域 ―直播率増加に道南と同じ背景―
  道央地域(石狩、空知、上川、留萌、胆振、日高)では水資源が豊富で夏季に比較的高温となることから、米や野菜等を主体とした農業が展開されている。
  道央地域におけるてん菜の作付面積は、平成10年の8,860ヘクタールから平成13年に7,855ヘクタールまで低下したが、その後増加し、おおむね8,500ヘクタールを維持している。直播栽培が導入されている面積は、平成10年の414ヘクタールから平成19年の1,030ヘクタールと2.5倍になっており、直播率は、平成10年の4.7%から平成19年には12.0%に達した。これは全道平均よりも4.6ポイント高い値である。
  一方、道央地域のてん菜栽培農家戸数は、平成10年から平成19年を見ると、平成10年の2,785戸から平成19年の2,003戸と782戸(28%)減少している。てん菜栽培農家の1戸当たりの栽培面積は、平成10年の3.18ヘクタールに比べて平成19年は4.28ヘクタールと1.10ヘクタール(35%)増加した。
  道央地域も道南地域と同様、直幡率増加の背景として、

(1)農家のてん菜に対する経営規模が小さいながら1戸あたりの耕作面積が増加していること(19年は10年に比較して28%増加)
(2)高齢化が進んでいること
(3)農家の収益源として野菜などの高収益作物があること

 ―などが挙げられ、稲からの転作時における育苗ハウス、移植機の導入など移植によるてん菜栽培への投資を控え、直播栽培を採用する農家の存在が考えられる。
  また、水田転作などの地域にあっては、てん菜栽培への転換を行っているが、元々の水田の面積が小さいことからてん菜のほ場面積が小さいことに加え、経費軽減のために育苗施設などを所有しない農家が多く、気象災害が少ない地域では直播栽培が推進されている。

図5 道央地域の直播栽培の推移
資料:てん菜糖業年鑑、北海道

図6 道央地域の栽培農家数と1戸当たり面積の推移
資料:てん菜糖業年鑑、北海道

(4) 道東北地域 ―適地で増加し始めた直播栽培―
  道東北地域(十勝、網走、宗谷、釧路、根室)では、広大な農地を生かし、大規模で機械化された畑作(十勝、網走)や酪農(宗谷、釧路、根室)が行われている。
  道東北地域におけるてん菜の作付面積は、平成10年の58,983ヘクタールから平成13年には56,222ヘクタールにまで減少したが、平成15〜18年はほぼ57,000ヘクタールを維持してきた。平成19年は18年に比べ若干減少し、56,084ヘクタールとなった。
  直播が導入されている面積は、平成10年の2,258ヘクタールから平成12年には1,681ヘクタールまで減少したが、以後増加に転じ、平成19年には3,520ヘクタールと1.6倍となっている。同様に直播率は、平成10年の3.8%から平成12年は2.9%と減少し、以後増加傾向をたどり、平成19年には6.3%となっている。
  一方、道東北地域のてん菜栽培農家戸数は、平成10年の8,805戸から毎年減少傾向を示し、平成19年には6,906戸と1,899戸(22%)減少した。てん菜栽培農家の1戸当たりの栽培面積は、平成10年の6.70ヘクタールに比べて平成19年は8.12ヘクタールと1.42ヘクタール(21%)の増加を示している。
  十勝管内は畑作4品(麦、ばれいしょ、てん菜、豆)、網走支庁管内は畑作3品(麦、ばれいしょ、てん菜)が農家の主な収益源として農家経営を支えている。直播率は平成10年の3.8%から平成19年は6.3%と増加傾向にあるものの、気象障害(風害、霜害など)での収量性の低下の危険を排除するために移植栽培を中心とする傾向が見られる。規模拡大による大型機械を導入するために防風林を排除したことによる風害の発生が多くなっていることも直播栽培に転換することが遅れる要因となっている。しかし、てん菜の直播栽培に適した土壌、気象環境下では、1戸当たりの耕作面積が増加していることもあり、直播栽培を導入する農家が増加し始めているようである。

図7 道東北地域の直播の推移
資料:てん菜糖業年鑑、北海道

図8 道東北地域の農家数と1戸当たりの面積の推移
資料:てん菜糖業年鑑、北海道

おわりに
  土壌条件、気象条件、都市近郊農業であるかないかなど条件によって事情は異なるが、てん菜栽培農家の中には、所得の維持拡大を目的として、てん菜栽培の低コスト化を行うために積極的に直播を導入し、工夫と経験により移植と遜色のない収量を上げ、その結果空いた時間で新たな作物に挑戦している農家も見られる。今回の調査ではこのような特色のある農家を訪問したので、次回からはその活動を紹介することにより直播導入のための条件を検討する。

参考資料:
○てん菜糖業年鑑((社)北海道てん菜協会編)
○「19年産てん菜生産実績」(北海道農政部農産振興課資料)
○平成18年度北海道農業・農村の動向−北海道農政部編−((社)北海道農業改良普及協会)
○平成18年度北海道農業・農村統計表−北海道農政部編−((社)北海道農業改良普及協会)


ページのトップへ