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北海道におけるてん菜などを原料としたバイオエタノール製造の取り組みについて

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ

[2010年02月]

【生産地から】
調査情報部 調査課 課長代理 遠藤 秀浩
調査情報部 情報課 西脇 孝行
札幌事務所 所長補佐 北村 徹弥

はじめに

 農業産出額第1位を誇る北海道において、「農業の担い手に対する経営安定のための交付金(以下、「交付金」と言う。)」の対象外となるてん菜や規格外の小麦を原料としたバイオエタノールを製造する取り組みが始まった。

 本稿では、平成21年11月から本格的な操業を開始した北海道バイオエタノール株式会社十勝清水工場の取り組みを紹介する。

1.経緯

 同社によるバイオエタノールの製造は、政府の「バイオマス・ニッポン総合戦略」(平成14年12月閣議決定、平成18年3月改定)に端を発する。この戦略に基づき、農林水産省は平成19年4月、農村の地域資源などを活用して、国民生活の向上と農村の振興を図るとともに、国産バイオ燃料の実用化の可能性を示すことを目的とした「バイオ燃料地域利用モデル実証事業」を創設した。

 豊富なバイオマス資源を抱える北海道において、この事業の活用により、国産バイオ燃料の利活用を推進し、ひいては基幹産業である農業の基盤強化を図ることが重要との機運が高まった。こうして、平成19年4月に、国産バイオ燃料の利活用の推進を主たる目的として、北海道農業バイオエタノール燃料推進協議会が設立され、同年6月には、JAグループ、糖業といった農業界を始め、電力、ガス、金融、JR、輸送、自動車などの他の業界も含め合計20社の共同出資による北海道バイオエタノール株式会社が発足した(表1)。

 また、平成21年3月には、ホクレン清水製糖工場の敷地内に、同社のバイオエタノール工場が完成した。

 バイオエタノール製造の原料としては、道内で生産される交付金対象外のてん菜と規格外小麦を活用することとした。このような余剰農産物を有効に利用することにより、食料生産と競合しないバイオエタノールを生産できる。

 また、集荷コストが抑えられ、安定的な原料確保が可能であるという理由から、十勝地方が工場の建設地として選ばれた(図1)。

表1 出資構成および資本金(平成21年12月現在)
資料:北海道バイオエタノール株式会社
資料:北海道バイオエタノール株式会社
図1 原料調達位置図(平成20年度)

2.工場の概要

 工場は、平成21年3月からバイオエタノール製造実証プラントの試験的な製品製造などの調整・能力確認運転期間を経て、同年11月2日から本格操業となった。

 操業期間は11月から9月までの300日で、年間1万5000キロリットル(1日当たり50キロリットル)の燃料用バイオエタノールを製造する計画である。

 原料の内訳は、てん菜約7万6000トン、小麦約2万1000トンからそれぞれ7,500キロリットル、合計で1万5000キロリットルのバイオエタノール製造を見込んでいる。

 原料の使用時期は、操業期間を半期に分け、11月から3月までの約150日間はてん菜(1日当たり535トン)、それ以降から9月までの約150日間を小麦(同150トン)とする計画である。

 次に、バイオエタノールの製造工程を紹介する。

【バイオエタノール製造工程】(図2)

※クリックすると拡大します。
資料:北海道バイオエタノール株式会社
図2 バイオエタノール製造工程

①原料受入工程

 交付金対象外てん菜の場合は、敷地内にあるホクレン清水製糖工場においててん菜から糖分を抽出した糖液を、パイプラインを通じて、直接、受入設備へ送られるケースと、日本甜菜製糖(株)芽室製糖所などの他の製糖工場が製造した糖液を受け入れるケースの2つがある。なお、糖液は、結晶化前の固形分が65%のシックジュース(濃厚汁)と固形分が15%のシンジュース(希薄汁)の2種類の受け入れが可能である。

 糖液の輸送費は、ホクレン分は直接パイプラインが引かれているので不要であるが、日本甜菜製糖(株)芽室製糖所からの費用をバイオエタノール工場が負担している。

 一方、規格外小麦の場合は、トラックで原料が運ばれ、小麦サイロに受け入れ、貯蔵する。

 規格外小麦の輸送費は、生産者から農協施設までの分が、農協が生産者に支払う原料代に含まれているため、農協施設からの費用をバイオエタノール工場が負担している。

②粉砕工程(小麦のみ)

 異物を取り除き、ミル(粉砕機)でエタノール変換効率が最良となる200ミクロンまで粉砕する。

③液化工程

 粉砕した原料を温水と混合、酵素を添加、加熱し、小麦に含まれるでん粉を液化する。なお、糖液は、この工程から仕込みが開始される。

④糖化・醗酵工程

 液化した原料を、1工程15時間の糖化・醗酵タンク4基により、合計2日半かけて連続醗酵させる。

⑤蒸留・脱水工程

 エタノール濃度約10%となった醗酵液を、醪(もろみ)塔へ送り濃度約60%へ、その後、濃縮塔へ送りさらに濃度約95%へ、2つの蒸留工程により濃縮する。

 最終工程として、4基あるゼオライト膜脱水装置を経て、濃度約99.5%以上の製品となる。装置の中には、水分とエタノールの分離特性に優れたゼオライト膜が4基合計で約1,000本設置されている(図3)。

図3 ゼオライト膜

<膜脱水装置(脱水膜)の解説>

○脱水膜には選択性が高いゼオライト材料を用い、ゼオライト薄膜用の基盤(支持管)には、セラミックの一種であるアルミナ材料を用いている。

○アルミチューブの外表面に水熱合成方法によりゼオライト薄膜を形成することでゼオライト分離膜を作製している。ゼオライト結晶は約0.38ナノメートルのウィンドウを有し、0.32ナノメールの水分子は透過するが、0.45ナノメートルのエタノール分子は透過しない。

⑥副産物(飼料)工程

 蒸留工程の醪塔から排出された残さを、副産物処理工程において遠心分離器により脱水、ドラムドライヤで乾燥後、DDG(Distillers Dried Grains)としてフレコンバックの形態で全量出荷される。

⑦排水処理工程

 残さの脱水により発生した排水は、嫌気処理により有機物を分解し、好気排水処理を施し、放流基準値内で河川へ放流される。その際、嫌気処理工程で発生したバイオガスはボイラーに送られ、各工程のエネルギー源として利用される。

 以上のように、搬入された原料は、およそ3日でバイオエタノール製品に加工される。

 工場内の設備は2人一組による24時間勤務体制をとられた制御室で集中管理されており、分析室で外観、酸度、密度などの項目の厳密なチェックが行われた後、製品タンクに貯蔵される。

 製品は、タンクローリー車で出荷され、苫小牧のバイオ燃料貯蔵施設を中継し、タンカー船で本州へ運ばれ、石油元売り各社で構成するバイオマス燃料供給有限責任事業協同組合(JBSL)へ全量販売される。なお、苫小牧のバイオ燃料貯蔵施設は、既存のガソリン貯蔵施設にエタノール受入設備を増強したものである。

 その後、石油元売り各社の製油所に輸送され、水と混ざりにくい性質のETBE(注1)に加工した後、1%以上の割合でガソリンと混合し、首都圏などのガソリンスタンドで販売される。

3.原料調達状況

 原料調達の方針は、JA北海道中央会を中心に原料生産者の代表が原料作物の生産動向を勘案して、決定する。

(1) てん菜

 19年産および20年産の交付金対象数量は産糖量ベースで64万トン、供給上限数量(注2)は68万4000トンと設定された。

 生産動向を見ると、19年産および20年産の収穫量は、天候に恵まれ、18年産と比べ約30万トン多い420万トン台となり、産糖量は供給上限数量を上回る70万トン台となった(表2)。このような状況の中、てん菜糖の在庫数量を勘案し、平成21年8月時点の計画では、21〜22年のバイオエタノール原料として、てん菜糖約1万9000トン分の糖液を調達することとなった。

表2 てん菜の生産動向
資料:北海道バイオエタノール株式会社

(2) 小麦

 北海道産小麦の生産動向を見ると、19年産および20年産の収穫量は、18年産と比べ約10万トン多い60万トン台となった。規格外小麦の生産量のうち飼料向けは19年産が4万5000トン、20年産は7万8000トンと増加した(表3)。

表3 北海道産小麦の生産動向
資料:北海道バイオエタノール株式会社

 十勝管内の規格外小麦の発生量は、年間2万5000〜2万6000トンであり、大部分が飼料用や加工食品用として利用されている。当初は、このうち約2万1000トンをバイオエタノール原料として調達する計画であった。しかし、洞爺湖サミット(平成20年7月開催)や近年の世界的な食料危機をきっかけに、飼料向けも食料であるとの議論が高まった結果、飼料向け小麦の数量が19年産から20年産にかけて増加したにもかかわらず、バイオエタノール原料として調達できる数量は約4,500トンと、当初計画より減少する結果となった。

 以上のような生産動向を反映し、当初、エタノール換算で半々として計画されていた原料調達比率を、交付金対象外てん菜9に対し規格外小麦1へ変更し、小麦が減少した分をてん菜で補うこととしている。今後も原料の確保は、安定的な操業に必須の課題であるが、初年度から調達比率を大きく見直す事態となった。

(3) 工場の取り組み

 また、このような課題を受け、同社では、てん菜と小麦を併せて原料とする手法を試行している。

 北海道バイオエタノール株式会社によると、てん菜原料には、元々醗酵を促進するアミノ酸・ミネラル等が含まれているが糖液にするとそれらが減少し、小麦と比較して醗酵に時間を要し、別途、醗酵を促すための醗酵助剤の添加が必要となる。

 一方、小麦原料には醗酵を促すに必要なアミノ酸・ミネラル等が、糖液より多く含まれている。

 そこで、原料調達比率のてん菜:小麦=9:1の割合で、糖液に液化した小麦を混合したところ、醗酵に必要な成分を補うことができ、醗酵時間が短縮し、別途必要だった醗酵助剤の添加が不要となることが判明した。

 この結果を受けて、原料ごとに操業時期を区分するという当初の計画を検討し、このような混合方式の有効性を平成23年度末までの実証期間中に実証していきたいとしている。

4.おわりに

 北海道は豊富なバイオマス資源を抱えており、その利活用の向上により、温室効果ガスの排出抑制と循環型社会の形成においても、農業の果たす役割に期待が寄せられている。

 また、現在、工場にはバイオエタノール製造事業者、研究者をはじめ、北海道内外の見学者が連日のように訪れており、注目度の高さがうかがえる。

 北海道バイオエタノール株式会社は、「原料については、年によって豊凶の差があるが、基本的には生産者に喜んで作ってもらうための仕組み作りを、北海道の農業組織を挙げて進めていきたい。」と話す。

 バイオエタノールの製造および販売を通じて、北海道の農業団体と経済界が一体となり、基幹産業である農業の基盤強化を図り、地球温暖化の防止、新規需要の開発、農業・農村の活性化とともに、余剰原料を活用することによるてん菜の固有用途としても期待したい。

 最後になったが、本調査を実施するに当たり、ご多忙中にもかかわらず多大なご協力をいただいた北海道バイオエタノール株式会社札幌本社および十勝清水工場、ホクレン農業協同組合連合会の方々に、この場を借りて厚くお礼を申し上げる次第である。

(注1)ETBE:エチルターシャリーブチルエーテル(Ethyl Tertiary‐Butyl Ether)の略語のこと。バイオエタノールとガソリン製造の副産物として生産される「イソブテン」を合成して作られる。

(注2)供給上限数量:当年の交付金交付対象数量と、前年産で市場隔離されたものを併せて設定される。市場に出荷されるてん菜糖の供給量の上限となる。この供給上限数量を超えて生産された砂糖は、当年に市場隔離され、翌年の流通となる。

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