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てん菜糖みつとホエイを原料とした酵母によるセラミドの生産

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2007年9月]

【調査・報告〔生産/利用技術〕】

 
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
北海道農業研究センター 寒地バイオマス研究チーム 研究員
高桑 直也

 てん菜製糖副産物である糖みつや、生乳からチーズを製造するときに副生するホエイは、主成分が糖質でかつ液状であることから、微生物の培養原料に適している。本研究ではこれらを原料としてセラミドを合成する酵母を生産し、菌体から抽出したセラミドを化粧品素材等に利用する技術開発に着手したので、その成果の一部を紹介したい。

1 はじめに

  セラミドは、とくに皮膚の角質細胞間に豊富に含まれている脂質成分の一つで、皮膚から水分蒸発を防止する役割を担っている。セラミドの補充が肌の保湿効果やアトピー症状に有効であることが分かってからは、化粧品原料やトイレタリー商品としての市場が生まれてその名が広く知られるようになった。また、1998年頃からセラミドの内服効果が認められ、美容サプリメントとしての素材ニーズが飛躍的に高まった。その市場規模は、2005年度では13.5億円と推計されており(株式会社富士経済編、2006)、サプリメント、飲料、菓子およびヨーグルトなどの応用食品市場では200億円を越えている。従来、セラミドは牛脳由来のガラクトシルセラミドや化学合成品が利用されていたが、前者はBSE発生以降利用が困難となり、後者も安全性の観点から食品素材としては利用の制限があった。そのため、現在では米糠や小麦胚芽などの植物由来のセラミド(グルコシルセラミド、図1)が利用されているが、これらに含まれるセラミドは微量で、抽出・精製には多大なコストを要するために市場価格はきわめて高価となっている(3%含有品で1kg当たり20万円前後)。また、近年ではセラミドの大腸ガン発症予防効果が示唆されたことから(間、2007)、さまざまな有効性に富んだ素材として大きな期待が寄せられている。

  北海道東部は畑作と酪農が日本で最も盛んな地域である。ここで収穫された農作物や畜産物の多くは現地で加工されるが、その過程でさまざまな副産物が発生する。そこで、筆者らのグループは、基幹畑作物の一つであるてん菜から砂糖を製造するときに副生する糖みつ(ビートモラセス)および牛乳からチーズを製造するときに副生するホエイ(乳清)を原料として、酵母によってセラミドを低コストで製造するための技術開発を行い、北海道における新事業創出および地域経済の活性化を目指すことを着想した。本研究によって、肌の保湿、アトピー性皮膚炎緩和および発ガン予防などに有効なセラミドを蓄積した酵母菌体を生産できれば、酵母から抽出したセラミドを付加価値の高い食品素材、化粧品および医薬品の原料として使用できることになる。

  酵母によるセラミドの発酵生産技術を確立するためには、利用する酵母菌株の選定・作出および実用レベルで活用できる培養条件の検討が重要である。まず、本研究では研究機関保存菌株の中からセラミド蓄積性の高い菌株を選定し、酵母中のセラミド含量を乾燥菌体1g当たり3mg以上(植物セラミドの市場価格を基に試算した工業生産における最低の目標値)とする培養条件を明確にした。同時に、胞子分離などの手法による育種を行ってセラミド高蓄積株を作出するとともに、生乳や乳製品などの食品からセラミド高蓄積酵母の分離・選抜も試みた。また、セラミドの効率的で低コストな抽出・精製法を検討し、得られた酵母セラミドの機能性を評価した。

図1 植物セラミド(グルコシルセラミド)の基本構造酵母由来のセラミドは、
主としてスフィンゴイド塩基の9位にメチル基が付加しており、脂肪酸の炭素数は18である。


2 方法および結果

1)研究機関保存菌株の中からセラミド蓄積性の高い酵母菌株の選定
  セラミドはキノコやカビなどの真菌類にも存在するので、酵母を利用すれば効率的に生産可能と考えられるが、その存在が報告されているのはカンジダ属酵母のような病原性株ばかりで、製パンや醸造に使用されるSaccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス セレビシエ)にはまったく検出されていなかった。筆者らは先の研究において、酵母におけるセラミドの分布を広範に精査し、Saccharomyces kluyveri(サッカロマイセス クルイベリ)およびそれに近縁のKluyveromyces lactis(クルイベロマイセス ラクティス)に含まれていることを発見している(Takakuwa et al.,2002)。S.kluyveriは、α―ガラクトシダーゼを分泌して糖みつに含まれるラフィノースを完全に分解して増殖源とすることができる。また、K.lactisは、ホエイ中の主成分であるラクトースで旺盛に増殖する。そこで、S.kluyveriについては、研究機関で保存されている22株すべてを入手し、てん菜糖みつを用いた培地でフラスコ培養を行って各菌体中のセラミドを定量した。その結果、高蓄積性株としてCBS 6546など計4種、低蓄積株としてCBS 4798など計5種および標準株としてNBRC 1685など計13種に分類されることが判明した(図2)。ジャーファーメンターでの培養を検討した結果、増殖も良好でセラミド含量が高いCBS 6546を培養条件最適化の検討を行う菌株として選抜した。K.lactis菌株については、セラミド含量が高い傾向にあり、また、さまざまな基礎研究の対象として利用されているNBRC 1267を選定株とした。

2)てん菜糖みつとホエイを用いた培養条件の最適化
  S.kluyveriが蓄積するセラミドの含量は、培地の塩濃度およびpHが上昇すると高まり、培養時の高温条件下では低くなった。また、無機塩、ビタミンおよびグルコースで構成される最少培地では、菌体収量は少ないもののセラミド含量は増加し、とくに培養時の飢餓条件がセラミド含量の増加に有効であった。てん菜糖みつ培地のジャーファーメンター培養で得られたS.kluyveri CBS 6546菌体をさらに脱塩水を用いて飢餓培養すると、セラミド含量は3mg/g菌体となった。

  一方、ホエイを用いたK.lactis NBRC1267のセラミド含量の増加条件としては、高窒素源濃度、高初発pH、ナトリウム塩添加および高通気量が効果的であった。ジャーファーメンターを用いたホエイ培地でのK.lactis中規模培養では、フラスコ培養時と同程度のセラミドを含む菌体がより多量に得られた。最終的には、ホエイ培地(4%ラクトース)に硫安を2.0%、クエン酸ナトリウムを3.5%添加して72時間培養すると、セラミド蓄積量を3.2 mg/g菌体まで上昇させることができた。

図2 セラミド高蓄積性酵母の選定

3)S.kluyveriの胞子分離法によるセラミド高蓄積株の作出
  半数体株の交雑育種によってセラミド高蓄積株を作出するために、S.kluyveriの保存菌株から合計168株の半数体を分離した。てん菜糖みつ培地で培養したこれらの菌株の中にはセラミド含量が標準株よりも高値の株が見出されたが、その高蓄積株同士の交雑株ではセラミド含量が半数体よりも低値であった。このように、異なる菌株由来の半数体同士の交雑では形質の安定が見込めなかったので、セラミド高含量、高菌体収量の生産性に優れている菌株としてCBS 4800株由来の半数体SP―25株を選定した(図3)。なお、S.kluyveriの保存菌株のα―ガラクトシダーゼをコードするMEL遺伝子の部分配列の類縁関係および倍数性のフローサイトメーターによる調査から、SP―25株は形質が安定な二倍体で工業生産に好適であると判断された(Tamura et al.,2005)。


図3 S. kluyveri 保存菌株から胞子分離により得られた実用菌(SP-25株)のセラミド収量


4)生乳や乳製品からセラミド高蓄積株の分離
  生乳や乳製品にはラクトース資化性能を有する酵母が多数見い出されることから、本研究では、種々の生乳や乳製品から工業生産用に優れたセラミド高蓄積株を探索することを目的とした。まず、入手した生乳・乳製品21種から、常法によって計2150株の酵母を分離した。全菌株をホエイ平板培地で培養したところ、480株が生育した。これらの菌体をアルカリ性の有機溶媒に懸濁し、その上清について薄層クロマトグラフィー分析した。セラミドが検出された54株をホエイ液体培地で培養し、それらのセラミド含量からM―11株を選抜した(図4)。対照株NBRC 1267と比較して、M―11株は薄層クロマトグラフィー分析において2.5倍のセラミド蓄積量を呈した。この菌株は、日本産生乳由来で、rDNAの塩基配列からK.lactisと同定した。M―11株はホエイ培地での菌体収量がNBRC 1267よりも劣るものの、培地当たりのセラミド収量がNBRC 1267の1.7倍あることから最終的にホエイからセラミド高生産用の菌株として選抜した(Sugai et al.,in press)。

3 今後の課題・展望

  現在、植物セラミド素材は保湿・美肌を目的とした機能性食品素材として上市されており、製造会社9社で市場を形成している。原料としては、コメ、コムギ、コンニャク、トウモロコシ、ダイズ、ヒマワリおよびマイタケなど多種にわたっており、各社抽出原料の違いによる特徴の訴求、機能性の研究および価格戦略など独自のセールスポイントをアピールしている(株式会社富士経済編、2006)。

  当該研究によって、セラミド高生産用酵母としてS.kluyveri SP―25ならびにK.lactis M―11を作出・選抜することができた。今後は、これらの菌株を実際に改良された培養手法で、てん菜糖みつやホエイを用いて培養し、それらからセラミドを分離濃縮することによって、酵母由来の新しいセラミド素材を市場に供給することが期待される。さらに、ビール酵母などについては菌体自体をプロバイオティクスとして利用する研究も進んでいることから、セラミド含有の酵母としての機能性が付加されたプロバイオティクス酵母としての販売も想定され、今後、幅広い食品素材や健康食品素材としての活用が考えられる。

  本研究成果をベースに、セラミド高生産酵母の分子育種や培養技術の改良をさらに進めることによって単位当たりのセラミド含量を上昇させて一層のコストダウンが達成できれば、酵母セラミド素材の市場優位性は高まるであろう。

 本研究は独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センターの委託を受け、異分野融合研究支援事業の一環として実施された(技術コーディネーター:帯広畜産大学 大西正男・小田有二、参画機関:帯広畜産大学、日本甜菜製糖株式会社、よつ葉乳業株式会社、日本製粉株式会社、北海道農業研究センター、研究期間:平成14〜18年度)。

図4 セラミドが検出された菌株からの抽出物の薄層クロマトグラフィー分析

4 文献

1) 株式会社富士経済編,生物由来有用成分・素材市場徹底調査,2006年度版:167―170,2006.
2) 間和彦,植物由来グルコシルセラミドの食品機能性評価とその応用―植物および真菌由来スフィンゴ脂質による大腸ガン予防効果―,オレオサイエンス,7(4):141―149,2007.
3) Tamura,M.,Matsumoto,O.,Takakuwa,N.,Oda,Y.,Ohnishi,M.,Production of cerebroside from beet molasses by the yeast Saccharomyces kluyveri,Food Biotechnology,19(2):95―105,2005.
4) Tamura,M.,Matsumoto,O.,Takakuwa,N.,Oda,Y.,Ohnishi,M.,Production of cerebroside from beet molasses by the yeast Saccharomyces kluyveri,Food Biotechnology,19(2):95―105,2005.
5) Sugai,M.,Takakuwa,N.,Ohnishi,M.,Arai,I.,Urashima,T.,Oda,Y.,Selection of lactic yeast producing glucosylceramide from cheese whey,Bioresource Technology,in press.

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