ホーム > 砂糖 > 生産現場の優良事例など さとうきび生産関係 > 奄美大島における受託調整組織の設立について
最終更新日:2010年3月6日
1.はじめに
奄美市は、奄美大島の中部から北部にかけて位置し、笠利町地区は大島郡龍郷町をはさんだ奄美市の飛び地となっている。飛び地の北部は山の少ないなだらかな地形で、さとうきびと肉用牛や野菜等との複合経営を中心とした農業が盛んである。
今回取材したのは、奄美市笠利町内の宇宿、節田、屋仁の3地区である。これら3つの地区のさとうきび栽培面積等は、表のとおりである。畑地かんがい、ほ場整備、農道整備も進んでおり、これらの3つの地区を合計すると、生産量では奄美市の7割、栽培面積では6割を占め、さとうきびの主生産地となっていることが分かる。
奄美市の生産量(単位:トン) |
奄美市の栽培面積(単位:a) |
2.設立までの動き
(1) 宇宿地区さとうきび管理組合宇宿地区さとうきび管理組合の組織図 |
(2) 節田校区ハーベスタ活性化組合
先行した宇宿地区をモデルとして、節田地区むらづくり指導委員会及び関係機関が連携し、平成19年2月1日に設立された。基本的には「節田地区むらづくり委員会」を核として、地域の話し合い運動を活発に行い、さとうきび農業に従事する農家が、安定的・効率的な生産体制を確立することにより増産を図ることを目的に、品目別経営安定対策に対応できる基幹作業の受委託を調整・管理する組織とし、ハーベスタ所有者等6名で構成されている。節田、和野、平、土浜の各集落のさとうきび生産農家約160戸から基幹作業を受託することとしている。
同活性化組合自体は機械を保有していないが、ハーベスタを所有する組合員、奄美市さとうきび受託組合が基幹作業を行うとしている。
設立時は組合費を無しとしていたが、設立後に勉強会等を行うごとに、事務用品等の不足が生じたため、平成20年度からは組合員6名から5,000円を徴収する予定にしている。
節田校区ハーバスタ活性化組合の組織図 |
(3) 屋仁校区さとうきび管理組合
宇宿、節田地区の事例に学びつつ、屋仁地区むらづくり推進委員会の話し合い活動を核として平成19年6月23日に設立された。
屋仁、川上集落のさとうきび農家約20戸が所属している、管理組合自体は機械を保有してはいないが、基幹作業は、組合員以外の機械保有者で、同地区を網羅している認定農業者、奄美市さとうきび受託組合が行うこととしている。
組合費は、組合に書記会計係を置いたことから、その賃金支払い分を含めた組合運営の必要最低限の事務費として3,000円徴収している。
屋仁校区さとうきび管理組合の組織図 |
(1) 活動内容
①受託の仕組み
各組合ともに基幹作業(主にハーバスタ収穫)の受委託調整組織として活動している。どの組合も農家の基幹作業の申し込みは組合を通じて受託者へ申し込むこととしている。また作業料金は申込者が直接受託者に支払うこととしている。これにより、組合は会計処理を行う必要がないため、組合の負担は軽くなっている。なお、宇宿地区は設立当初、作業料金の会計事務を組合の業務としていたが、組合の負担を軽くするため、図のように改正した。なお、ハーバスタの作業料金は統一されており、5,300円である。
②品目別経営安定対策への対応
昨年から、奄美市さとうきび振興対策協議会等が品目別経営安定対策の説明会を開催し、また、会報等を配布して各農家に参加の呼びかけを行った。そして、農家が対象要件審査申請の未申請がないようチエックを行うとともに、各農家がどの対象要件区分に属しているかを把握し、各農家の制度への理解の促進の一端を担ってきた。また、前述のように基幹作業の申し込みは各組合を通じて行っているため、組合は各農家の受委託の割合が把握できるので、支援対象要件のボーダーライン付近にある生産者に対して調整を図ることもできる。
(2) 設立の効果
組合員になることにより、さとうきび及び制度に関する情報の共有化、地域の連携が図ることができるため組合員に安心感が生まれている。また、受委託に係る調整、手続きを組合が行うことにより、組合員はそれらのわずらわしさから解放され、生産に集中でき、生産意欲が高まってくるとしている。
(3) 今後の課題
現在は受委託の調整が主業務だが、最終的には対象要件に該当する生産法人、協業組織に移行したいと考えている。その条件のひとつとして、①さとうきびの販売名義を法人として販売収入を法人名義の口座に入金する、②この口座は品目別経営安定対策の交付金の振込先とする、③収入から必要経費を除いた部分を組合員に分配する、といった経理の一元化が必要となる。これには組合内に経理の専門家を置くことが必要と考えられるが、島内には人材も少なく、組合の経済的な負担が大きいことなどから、なかなか前に進まないのが現状のようである。
4.奄美市さとうきび受託組合
笠利町へのハーべスタ導入に伴い、行政、農協、製糖会社等の出資により、奄美市さとうきび振興対策協議会の下部組織として、平成6年8月3日に設立された。基幹作業の受託組織として、奄美市のさとうきび生産や前述の各組合に対して、大きな役割を担っている。同受託組合は、品目別経営安定対策が始まる以前に設立されたが、平成19年度から始まったこの制度により、取り巻く状況が大きく変わった。
(1) 概要
設立当初は、ハーベスタによる収穫作業、トラクターによる耕起作業などの受託作業を主体としていたが、農業機械の余剰能力を利用して、農家の高齢化に伴い耕作できなくなったほ場を借り入れている。借り入れたほ場は、栽培面積21ha、収穫面積13haであり、19砂糖年度は680tのさとうきび生産を見込んでいる。
(2) 受託組織としての役割
ハーベスタによる収穫作業に関しては立地条件、作業効率の良いほ場(大きな道路の近く、機械の移動がたやすい、土地改良など整備されたほ場等)を優先的に受託する傾向がある。しかし同受託組合では奄美市全域の農家を対象に、ほ場の条件に関係なく受託している。このように前述の三つの組合の補完的な役割をはたしている。
(3) 状況の変化とその対応
19年産のさとうきびは黒糖用として工場に搬入されている。これは同受託組合がサービス事業体であり、生産者ではないためである。そのため、対象生産者となるため、法人化を含めた組織の見直しを考えている。
対象生産者となることで、①安定したさとうきび生産を続けることができる、②遊休地の流動化を進めてほ場の面積を拡大し、増産につなげることができる、③安定したさとうきび生産により従業員の年間雇用の場が確保される、(4)ほ場の面積が拡大・安定することにより従業員の雇用の拡大につながる等といったメリットがあると期待している。
5.まとめ
平成19年からの品目別経営安定対策では、認定農業者や農作業受託組織を基にした担い手・集落営農組織の育成が重要とされている。そのため、鹿児島・沖縄県の各地では、生産農家、関係機関が連携しながら多くの農作業受委託組織が設立されている。昨年10月に、当機構はさとうきび・甘蔗糖検討会を開催した。同検討会では、鹿児島・沖縄両県の生産者が自らの取組や自が抱える問題を提示し、生産者同士で議論を行った。そのなかで、これらの農作業受委託組織を対象要件に該当する組織へと移行するための問題点として、経理一元化を挙げる生産者が多かった。奄美市での3つの地区も同様の問題が挙げられていた。奄美市では、3つの地区以外でも農作業受委託組織の設立に向けて意欲を示している地区もあり、今後は生産農家、JA、行政、糖業等が一体となって、全地域での設立を目指すこととしている。
最後になりましたが、今回の取材に対し、お忙しい中ご協力いただきました奄美市笠利総合支所朝野氏、富国製糖(株)取締役勢氏、業務部長中山氏、宇宿地区さとうきび管理組合長昇氏、節田校区ハーベスタ活性化組合長奥氏、龍郷町産業振興課長竹田氏、JAあまみ山田氏に深く感謝いたします。
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