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南大東島におけるさとうきび増産への取組と平安座賢二氏の経営事例〜かん水実施の効果〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ

砂糖類情報
[2008年7月]

【生産地から】
那覇事務所 所長 仁科 俊一


写真1  南大東島

はじめに

 南大東島は沖縄本島から東に360キロメートル離れた、太平洋にぽっかりと浮かぶ周囲20.8キロメートル、面積30.7平方キロメートルで人口1,330人の小さな島である。およそ100年前に、八丈島からの移民により開拓された島という歴史を持つ。
  南大東島におけるさとうきび栽培面積は、1,200ヘクタールで耕地面積の9割を占め文字どおり「さとうきびの島」として有名である。農家数は260戸で、1戸当たりの栽培面積は約5ヘクタールと沖縄県の平均(80アール)を大きく上回る。

 また、大型機械による機械化一貫体系が確立しているので、南大東島は新たなさとうきびの制度のもとで、機械化・規模拡大といった課題に対するモデル地域となり得る。その一方、生産量は近年単収低下と共に低迷しているため、いかに単収を高めて増産につなげていくかが大きな課題となっている。
  その南大東島において、徹底したかん水で実績を上げている農家である平安座賢二(へんざ けんじ)氏の取組について紹介する。

1.南大東島のさとうきび栽培

(1) 栽培の特徴
  南大東島のさとうきび栽培は、各農家の経営規模は平均5ヘクタールと大きく、また、大型ハーベスターでの収穫がほぼ100%と、大型機械化一貫体系が確立している。
  一方、栽培面積は1,200ヘクタール程度と比較的安定しているものの、台風・干ばつなど気象災害などにより単収が低下し、生産量は低迷している。また、夏植え、株出しの単収が低下傾向にあるのに対し、かん水を春植えを中心に行っていることが影響しているのか、春植えの単収にやや上昇の傾向が見られるのが特徴的である。

注:平成19/20年は見込み数量
資料:沖縄県
図1  南大東島のさとうきび作型別面積および生産量の推移

注:平成19/20年は見込み数量
資料:沖縄県
図2 作型別単収推移(S47〜H19)

写真2  収穫機
写真3  植え付けプランター

(2) 機械化とその問題点
  機械化一貫体系が確立している一方、大型機械の導入によって、次のような問題点が生じている。

①広い畝幅による茎数の減少など
  「さとうきび栽培指針」(平成18年3月 沖縄県農林水産部)では畝幅120センチメートルで10アール当たり9千本〜1万本の茎数確保が基本となっているのに対し、南大東島では、全量大型ハーベスターでの収穫を行っていることから、畝幅が150センチメートル以上と県内で最も広いため、栽培密度が低くなり、茎数は10アール当たり7千本程度と少なくなっている。

②大型機械の踏圧による土壌硬化
  ハーベスターや植え付け機をはじめ、すべての機械の大型化が進んでいるため、特に干ばつが常時発生する地域では、大型機械の踏圧による土壌の硬化がさとうきびの根の発育を阻害し、単収減を引き起こす原因となっている。
  このほか、南大東島におけるさとうきび生産量は、台風や干ばつなどの気象災害が大きく影響し、年ごとの変化も大きいが、大型機械化がひき起こす上記①、②の問題は、気象による被害をさらに大きくしているとの指摘もある。このため、防風林の整備、かん水対策などが現在積極的に進められている。

(3) 土地生産性の向上
  大型機械による機械化一貫体系により、労働生産性が向上している一方で、土地生産性は低い状況となっている。これは機械化を進める上ではある程度やむを得ないことでもあるが、1戸あたりの栽培面積が平均5ヘクタールと広いために、高齢者では適期作業などの栽培管理が行き届かないことなどによる影響も指摘されている。
  南大東島の産業はさとうきびを中心に成り立っているといって過言ではない。さとうきび生産量の減少は、甘しゃ糖工場の操業に大きな影響を与えている。大型機械から小型化、積極的なかん水や適期の栽培管理の徹底など、少しでも土地生産性を上げ増産への工夫と努力が求められる。

(4) 単収低下への対策
①かん水の効果
  かん水が単収向上の対策として重要であることは、言うまでもない(表1)。土壌水分は、生育収量に大きな影響を及ぼすもっとも重要な要因であるが、生育期に水分不足になると成長が抑制され、収量が低下する。特に干ばつ被害を受けやすい地域においてかん水は重要である。なお、南大東島におけるかん水効果(18年産)については、「南大東島におけるさとうきび生産の低単収の要因と単収向上の可能性に関する考察(2)」(砂糖類情報2008年5月号)を参照されたい。

表1 生育期別かん水効果
          資料:「さとうきび栽培指針」(平成18年3月沖縄県農林水産部)、農試業務年報(1965〜1970)宮古支場
          注:指数は無かんがい時を100としたときの原料茎重、または可製糖量


○マリンタンクの概要

  マリンタンクは、1台で(70トン)約1.5ヘクタールの面積をカバーできる。マリンタンクがある農家であっても栽培面積が5ヘクタール以上ある農家では、1日で全面積にかん水を行うことができず、4日に1日程度になるため、規模の大きな農家ではタンクを数台設置している場合があるが、1台を何軒かで共同利用している。
  マリンタンクの設置費用50万円と年75,000円積立金・電気代などの維持費がかかるが、図4のとおりかん水を行った畑と行っていない畑の収量の差は歴然である。
  また、協議会ではマリンタンクなどのかんがい設備がない畑における干ばつ防止対策として、トラックでの運搬によるかん水を農家へ呼びかけており、工場もかん水用のトラックをこれまでの10台から15台へ増やすなど積極的に農家を支援しているが、真夏の運搬作業は相当な重労働である。

図3  設置型農業用マリンタンクフロー図

②南北大東島におけるかん水方法
  南大東島のかん水(北大東島も同様)は、点滴かん水を基本としている。自然池から貯水池を経由し、畑の脇に設置したマリンタンク(設置型農業用タンク)から点滴チューブを畑の畝に設置して行うかん水方法である。
  さとうきび栽培は温度、水、日照がポイントであるが、そのなかで単収向上のため人為的な対策を講じることができるのが水である。
  南大東島では、気象条件も厳しくかんばつに見舞われる機会が多く、年間降水量は1600mmと少ないためかん水に必要な水の確保が課題となっている。このため、「南大東島さとうきび生産振興対策協議会」(以下、「協議会」という。)が中心となって単収向上に欠かせないかん水による干ばつ対策の啓蒙のため、①かん水効果の調査、②パンフレットの作成、③マリンタンクの設置の推進など―を行い積極的なかん水を呼びかけている。
  ため池などの整備による水源整備率は20%程度であるが、未整備地区におけるマリンタンクと点滴かんがいで、かん水可能面積は現在50%程度となっている。このような取組により1,200ヘクタールの栽培面積のうちかん水可能な面積は徐々に増加している。

③かん水による収益向上効果
  南大東島においてかん水が単収向上に効果があることは図4で確認できるが、かん水に要する費用との関係で収益がどのようになるのか、協議会の資料をもとに比較してみた。
  かん水されたほ場とされていないほ場における単収として、それぞれ南大東島における18/19年期の平均値(7.2トン/10アール、4トン/10アール)(図4)を当てはめて収益の差を試算すると、表2のような結果となる。

 資料:南大東村さとうきび生産振興対策協議会
図4  南大東島における点滴かん水効果比較(18/19年期)

表2  南大東島のさとうきび栽培におけるかん水実施の有無による収益比較
(単位;円)
     資料:南大東村さとうきび生産振興対策協議会

南大東島の集落

  干ばつ対策費として、通常10アール当たり13,000円程度の経費(チューブ・燃料代など)がかかるが、これらの費用を差し引いてもかん水による収益効果は10倍程度となる。当初の設備投資に費用がかかっても、かん水を行うことによって確実に収益を上げることができることが分かる。
  また、南大東島では、植え付け・収穫作業は他者に委託して、管理作業を各農家が行う形態が大半であり、委託費の割合が高いことも特徴的である。固定費がかかるため、単収を上げて全体の収入を上げなければ手取りが増えないということである。
  この試算は、ほとんどの作業を委託(耕起、整地、植え付け(苗代含む)、収穫)で行った場合の比較であり、必ずしも農家が一般的に行っている委託作業とは限らないが、これによると、単収が4トン以下の場合、経営はかなり厳しいと思われる。
  当然のことながら、収益を確保するためには、かん水による単収増を図りつつ、いかに委託作業などの経費を削減するかが重要といえる。
  点滴かんがいの有無により単収に大きな差が生じることは、農家も分かってはいたが、収益面での効果についての認識が充分ではなかった。最近の干ばつなどの気象災害による不作で農家に危機感が高まるなか、協議会による、かんがいの経済的効果を明らかにしたことで、「お金をかけても元は取れる」という農家の認識が浸透し、資金を投入して水源地から個別にパイプラインやマリンタンクの設置を行ったり、トラックでの水の運搬など積極的にかん水対策に取り組む農家が出てきている。一方、かん水設備を設置したくても、資金不足で出来ない農家や高齢で「あと何年作れるか分からないので新たな投資は出来ない」と考える農家があるのも事実で、このような農家に対する対策が検討されている。

2.平安座氏のさとうきび栽培

(1) 経営の概況
  南大東島では、労働生産性を優先した結果、土地生産性が低下し、さらに管理不足によって粗放化をまねいているという状況もみられるが、そんな中、平安座賢二氏は、適期の肥培管理など基本技術の励行と積極的なかん水を行って単収増を図っている。
  平安座氏は徹底したかん水により、南大東島で10ヘクタール以上のさとうきび栽培面積を持つ農家の中でも、ほとんどの年で島の平均を上回る単収をあげており、昨年は、社団法人沖縄県糖業振興協会が主催するさとうきび競作会において、一般農家多量生産部門で第1位((独)農畜産業振興機構理事長賞)に輝いた。 

写真4  授賞式の様子

【経営内容】

(2) さとうきび栽培の実態
  前述のとおり、南大東島のかん水は点滴かん水を基本としており、自然池→貯水池→マリンタンク→点滴チューブ(ほ場)という流れとなっている。
  自然池や貯水池に近いほ場であればポンプでくみ上げた水を、パイプを通じてマリンタンクへ送り、点滴チューブでかん水を行うことも出来るが、平安座氏の畑は貯水池から遠いほ場が多いため、貯水池から簡易ため池(コスト削減のため自ら製作した貯水槽)までトラックで水を運搬し、点滴かんがいを行っている。多い日には1日で20往復も運搬を行う。これを梅雨明けの6月から9月まで、父親と2人でほぼ毎日行っている。

写真5  簡易ため池
写真6  トラックによる水の運搬

  かん水は早めに行うことが重要であるため、梅雨明け1週間後から開始し、9月までほぼ毎日、自作の簡易ため池3カ所(容量約45トン)にトラック2台で貯水池から運搬してかん水を行っている。その運搬の労力は相当な負担になっていると思われるが、安定した生産量の確保のために−と平安座氏は労力を惜しまない。また、収穫時期にはハーベスターのオペレータもこなしているため、収穫作業に時間がとられがちだが、基本的な管理作業は怠らず、根切り・排土、補植などを、空いた時間を利用して確実に実行している。
  16/17年期から18/19年期における平安座氏のさとうきび単収の推移を見ると、16/17年期を除き、毎年村平均以上の単収を確保していることが分かる(図5)。平安座氏曰く、「安定した収量を毎年確保するためには、かん水が重要である。天候が良いときも悪いときも、あまり変わらない」とのことで、それを収量が物語っている。

図5  平安座氏の単収の推移

  3年前(16/17年期)、全くかん水を行わなかったところ、大干ばつなどの気象災害もあり、単収3トンという生産実績となってしまったが、翌年からかん水を積極的に行ったところ、村の平均単収の倍近い好成績を残している。トラックで水を運び始めた頃は、周りの人に馬鹿にされたということであるが、苦労が実り、ついに沖縄県における多量生産第1位の栄誉に輝いた。
  今後は、地下水をくみ上げるポンプや水源地からパイプラインを引くなど作業効率も考えながら増産に取り組んでいくこととしている。

おわりに

 南大東島の農家である平安座氏の沖縄県多量生産部門第1位の受賞は、干ばつが多く低単収地域である南大東島でも、「やればできる」ということを島民に知らしめ、大きな刺激を与えた。
  平安座氏の単収は、かん水の効果により村の平均単収と比べて明らかに高いが、決して難しい技術を使っているわけではない。経営感覚をもち、基本の技術に忠実に労苦を惜しまず、丁寧に水を掛けることこそが増産へのカギであることを示している。平安座氏の当面の目標は千トン農家になることであり、そのためには16ヘクタールまで規模を拡大したいと意気込んでいる。目標に向けた今後の活躍に期待したい。
  今期(19/20年期)南大東島では、さとうきびの収穫量が7万7千トンで、昨年比70%増となった。積極的なかん水の励行と気象条件に恵まれたことによる久しぶりの豊作で、島も活気づいている。農家の日頃の努力が実ったことは言うまでもないが、工場をはじめ地元関係者の地道なかん水に対する啓蒙や指導の結果、かん水の重要性が見直されたからであろう。
  規模拡大や大型機械化の急速な推進は、低単収・粗放化を招く恐れがある。その一方で高齢化が進むなか、安定的な生産の確保のため規模拡大・機械化・そして担い手の育成は避けて通れない。小型ハーベスターを使用した一貫体系への移行は、オペレーターの育成、ほ場からのさとうきびの搬出方法など課題はあるものの、1−(2)で述べた問題点を改善できる可能性があり、単収増をもたらすものとして検討に値する。
  今後とも、地域の実態に合わせた栽培方法、農家の作業能力に応じた適正な規模や機械を考えた検討が必要と思われると同時に、農家はしっかりとしたコスト意識をもつことが重要であろう。
  南・北大東島は、今後のさとうきびの増産対策や規模拡大、機械化を進める上でも重要な地域と考えられることから、機構としてさらに専門的調査を行うこととしている。これからもさとうきび栽培のモデル地域として増産に向けての取り組みに注目したい。


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