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さとうきび新品種「農林25号」、「農林26号」の特性

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ

[2008年10月]

【調査・報告】
沖縄県農業研究センター作物班(農水省さとうきび育種指定試験地)
出花幸之介、宮城克浩1)、謝花治2)、伊禮信、内藤孝
1)現宮古島支所作物園芸班 
2)現八重山農政・農業改良普及センター

はじめに

 沖縄県農業研究センターさとうきび育種指定試験地の設置目的は、奄美以南の南西諸島に適応する、早期高糖、安定多収のさとうきび品種の育成である。南西諸島各島の生態地域に適応し、早期高糖性で耐風性や耐干性および病虫害複合抵抗性を備える安定多収性、機械化適性のさとうきび品種の育成を育種目標としている。

 さとうきびを基幹作物とする、沖縄本島など沖縄県の主要16島と鹿児島県の奄美大島以南の5島は、国内唯一の亜熱帯海洋性気候で温暖である。これら島々は南北500キロメートル東西1000キロメートルにわたり本土面積の半分にもなる広大な海域に分布するので、島々におけるさとうきびの栽培条件は大きく異なる。沖縄県那覇の年間降水量は2,037ミリであるが、鹿児島県名瀬では2,900ミリを越し、南大東島では1,600ミリ程度である。また島々には起源や特性が大きく異なる種々の耕地土壌が分布し、ハリガネムシや黒穂病など問題も多様であるので、実際にこれら島々で選抜試験を経て適応性の高い品種が選抜される。

 さらに、さとうきびの成長が最も旺盛な7月から登熟期にさしかかる10月ごろまで、毎年いずれかの島々で、回避しがたい台風や干ばつの被害により生産が阻害される。試験中の系統を島々に実際に植えて備えておき、偶発的に襲って来る台風や干ばつに遭遇させることで、これらの障害に抵抗性のあるものが品種として選抜・育成される。これらの事から、広域適応性で台風や干ばつ条件下でも安定して生産性の高い品種を育成するには、多くの島々の関係者が協力し合って現地選抜試験のネットワークを形成する必要がある。

 そこで、沖縄県農業研究センター作物班と名護、宮古島、石垣の3支所、鹿児島県農業開発総合センター徳之島、大島支所、両県の各島々の製糖工場が中心に実施する15現地試験地(分みつ糖12、含みつ糖3)からなる育種ネットワークが組織され、さとうきび育種指定試験地や九州沖縄農研センターを中心に品種育成を進めている(図1)。


図1 さとうきび育種ネットワーク体制


 南西諸島の島々に人々が安心して住み続けるためにも、収量や品質が安定して高く、付加価値の高いさとうきび品種を育成することは重要である。今回は、育種ネットワークにより開発した新品種「NiH25」および「Ni26」の特性について紹介する。

1.宮古島に適するさとうきび新品種「農林25号」(NiH25)

 沖縄県宮古島地域の平成18/19年期のさとうきび収穫面積は、夏植えが92%、春植えが5%、株出しが3%である。夏植えは比較的台風や干ばつの影響が少ない作型であるが、2年1作で土地利用効率が低いことから、栽培コストを低減し生産性を向上させるため、春植え株出し型栽培への移行が求められている。

 同地域ではかんがい施設の整備が進みつつあるが、いまだ整備されていない地区では、干ばつの影響が大きく生産が不安定である。主用品種である「NiF8」(23%;平成17年)は干ばつ条件下では収量が低下する事例が多い。よって生産量が安定して多く春植え株出し栽培に適する品種を育成し、同地域における生産増大を図る必要がある。

 「NiH25」(旧系統名RH86-410)は、沖縄県農研センター作物班(農水省さとうきび育種指定試験)において、茎伸長が優れ多収のハワイ育成系統「H73-6110」を種子親、早期高糖性の九州沖縄農研センター育成品種「NiF4」を花粉親とした交配組合せから選抜・育成された。

 ハワイ州さとうきび研究所の交配で得られた種子を用いて、昭和61年に育成地において実生を養成し個体選抜を行った。以降栄養系統選抜を重ね、昭和63年に「RH86-410」の系統名を付与し、平成2年に各支所に配布し、平成3年から系統適応性検定試験に供試した。平成14年から沖縄農研センター宮古島支所において奨励品種決定調査に供試すると共に、干ばつ害の顕著な宮古島市城辺のほ場において現地適応性検定試験を実施し、普及見込み地域における適応性を検定した。その結果、優秀性が認められ、「NiH25」として平成19年10月に品種登録された。また平成20年3月にさとうきび農林25号として認定され、沖縄県奨励品種として採用された。

 さとうきび品種の国際命名における慣例に基づき、日本国内の農林水産省関連機関で育成された25番目の品種という意味で「Ni25」、交配がハワイに由来するという意味で「H」が用いられている。


図2 宮古島地域に適するサトウキビ新品種農林25号「NiH25」


2.農林25号の特徴

 「NiH25」は初期伸長が優れ、「NiF8」と比べて茎長が長く、一茎重が重い(表1)。宮古島地域の干ばつ条件下において、原料茎重、可製糖量は「NiF8」と比べて春植えでは同程度、株出しでは明らかに多い(図3)。宮古島のかん水が困難で干ばつ年に収量が不安定となる地域において「NiF8」などの代替として普及(600ヘクタール)を見込んでいる。夏植えで10%の増収が、春植え・株出しでは30%以上の大幅な増収が期待できる(図3、表1)。


図3 宮古島地域における「NiH25」


表1 さとうきび新品種「農林25号」の特性概要
注1) (数値)はNiF8に対する比率(%)を示す
注2) 育成地は生産力検定試験、宮古島支所は奨励品種決定調査の1月または2月の収穫調査結果、宮古島の現地適応性検定試験は12月の収穫調査結果を示す。
注3) 宮古島城辺地域の降水量;以下の時期において生産が抑制される干ばつ条件であった。平成14年4月の降水量が57ミリ(平年の29%)、8月が55ミリ(平年の22%)平成15年4月38ミリ(平年の19%)、5月19ミリ(平年の9%)、7月32ミリ(平年の26%)平成16年3月46ミリ(平年の32%)、5月57ミリ(平年の26%)、7月32ミリ(平年の27%)6月中旬から7月下旬まで39mm平成17年6月下旬から17日間、7月中旬から14日間降雨なし
注4) 宮古島支所の平成15年春植えは、降雨分布が良く、高収量であった。



(栽培上の留意点)

 株出しでは、不萌芽対策のため土壌害虫の防除を行うことが必要である。有傷接種法による黒穂病抵抗性は「弱」であるが、ほ場では黒穂病の発生が確認されておらず、ほ場抵抗性があるものと推察される。しかし念のため黒穂病が多発生するほ場での栽培は控えると同時に、栽培に際しては健全種苗の利用、苗の消毒、発病株の抜き取り等の管理が必要である。また春植えの茎数確保のため、植え付け時の苗は多めに投入した方がよい。

3.南北大東島に適するさとうきび新品種「農林26号」(Ni26)

 沖縄県南北大東島の平成14〜18年のさとうきび平均単収は、4,040キログラム/10アールで県平均より1,684キログラム少ない。また平均甘しゃ糖度も13.3%で県平均より1%程度低い。これら低収量、低糖度要因の一つとして干ばつと台風の被害が上げられる。また同地域は農家1戸当たりのさとうきび経営面積が大きく、大型農業機械により管理が行われており、その結果株出し収量が低下していると言われている。

 同地域の収穫面積の7割以上を占める「F161」は、台風や干ばつなどの気象災害を受けやすく収量が低いほ場も多い。また晩熟なため早期の収穫には適さない。このため台風や干ばつ等の気象災害に強く、早熟高糖で株出し多収の品種が求められている。

 「Ni26」は、早期高糖性で茎伸長に優れ、株出し収量の多い「RK85-55」を種子親に、耐倒伏性を具え、脱葉性の良い「RF79-247」を花粉親に用いた交配組合せから選抜した。平成6年に交配を行い、平成7年に実生選抜を実施し、平成9年に「RK95-1」の系統名を付与した。平成10年に各支所に配布し、平成11年から系統適応性検定試験に供試して以降、早期高糖性、耐倒伏性、安定多収を重視して選抜した結果、優秀性が認められ、「Ni26」として平成19年10月に品種登録された。さらに平成20年3月に「さとうきび農林26号」として認定され、また沖縄県奨励品種として採用された。

 さとうきび品種の国際命名における慣例に基づき、日本国内の農林水産省関連機関で交配・選抜育成された26番目の品種という意味で「Ni26」が用いられている。

図4 南北大東島に適するさとうきび新品種農林26号「Ni26」

4.農林26号の特徴

 「Ni26」は原料茎数が多く、原料茎重は「F161」に比べて春植えでは同等、株出しでは安定して重い。甘しゃ糖度が高いため、両作型とも可製糖量は安定して多い(図5、表2)。台風時の茎折損は「F161」より少ない。

 「Ni26」は早期から甘しゃ糖度が高く、可製糖量が多く、年内(12月)収穫にも適する。夏植えでは10月から甘しゃ糖度が基準以上になり、可製糖量も多いので、「Ni26」は早期収穫が可能な品種である。

 台風や干ばつ害により低収で低糖度になりやすい南北大東島地域において、「F161」の代替として普及(南大東島300ヘクタール、北大東島75ヘクタール)する予定である。本品種の普及により、「F161」に比べ糖度と単収の向上が期待され、収穫時期の早期化も可能になる。


図5 南大東島における「Ni26」



表2 さとうきび新品種「農林26号」の特性概要
注1) ( )内の数値は育成地が「NiF8、南大東島が「F161」に対する比率(%)を示す。
注2) 育成地は生産力検定試験、南大東島は奨励品種決定調査現地適応性検定試験の1月または2月の収穫調査結果による。ただし、平成17年の南大東島の春植えは、12月収穫調査結果である。
注3) 株出しは春植え収穫後の株出しを示す。ただし、南大東島の株出しは、平成14年が春植え収穫後の1回めの株出し、平成15年以降は前作株出し収穫後の株出し(平成15年:2回株、平成16年:3回株、平成17年:4回株)である。
注4) 風折茎率は、株出しにおいて、台風通過後に折損茎率を調査した結果である。
注5) 南大東島の春植え、株出し(春植え収穫後)は干ばつ期にかん水を行っているため収量が多い。


(栽培の留意点)

 有傷接種法による「Ni26」の黒穂病抵抗性は「弱」であるが、ほ場抵抗性は農林9号よりも強い。黒穂病が多発生するほ場での栽培は控えると同時に、栽培に際しては健全種苗の利用、苗の消毒、発病株の抜き取りなどの管理が必要である。

5.島々におけるさとうきび品種の栽培状況とこれから

 沖縄県農業研究センター(さとうきび育種指定試験地)では昭和51年の発足から現在までにNi6、NiN7、Ni9、NiTn10、Ni11、Ni13、Ni15、Ni17、Ni21、NiH25、Ni26を育成した(表3、表4)。


表3 奄美大島以南の分みつ糖を生産する島々におけるサトウキビ品種の収穫面積(ha)
平成18/19収穫実績

表4 黒糖を生産する島々におけるサトウキビ品種の収穫面積(ha)
平成18/19収穫実績
注1)波照間島・西表島・与那国島の合計



 指定試験の発足当初は沖縄県下ではNCo310(世界的な広域適応性品種)が栽培面積80%以上を占めていたが、さび病や黒穂病に罹病するようになり甘しゃ糖度も低かったことから現在では減少した。それに伴い平成13/14年期には、九州沖縄農研センター育成のNiF8が沖縄県内でも30%近くの栽培面積を占めるようになった。しかしNiF8は甘しゃ糖度が高いものの、痩せ地における収量性がやや低いことが問題となった。前後して、当試験地育成のNi9が平成14/15年期に25%近くの栽培面積となった。しかし黒穂病が大発生したため、当試験地で平成14年に育成されたNi15とNi17の栽培面積が急速に拡大した。

 現在Ni15は沖縄県宮古地域を中心に県全体の22.5%で、特に黒糖生産地域である多良間島において95.6%を占め、黒糖生産地域での普及率が高い。また、Ni17は沖縄県内では久米島を中心にして増加しており、鹿児島県奄美地域でも23.8%の普及率である。

 これら最近の品種の普及が早い背景として、これらの品種が優秀であり栽培現場の人気も高いのはもちろんである。そのことも含めて、島々の製糖工場の農務を中心とするメンバーがさとうきび育種ネットワークを支え、地域ニーズを的確に捉え、地域に密着して活動を行った結果であるところが大きい。

 植え付け経費は栽培コストの3分の1を占めるので、さとうきびでは株出し栽培をより多数回行う事が有利である。早期高糖で株出し多収の品種の育成を急ぐ必要がある。大東島地域向けの早期高糖で株出しの単収が高い「RK96-6049」は実用化間近の系統である。

 また新植の単収を高位に確保し、かつ株出しの単収を上げる革新的作型として「夏植型秋収穫」が提唱されている。この作型を可能とするには土壌温度がまだ高い秋〜初冬に高糖度となる品種が必要で、現段階で暫定的に品質取引の基準(甘しゃ糖度13.1%)以上を目標としている。Ni26はこの要請に応えられる可能性のある品種であるが、これに次ぐ有望系統として沖縄本島、八重山、大東島地域向けの早期高糖で新植と株出しで産糖量が高い「RK97-7020」を育成中である。


参考文献
1.宮城克浩ら、2007.九州沖縄農業研究成果情報 第22号、65-66
2.謝花治ら、2007.九州沖縄農業研究成果情報 第22号、67-68
3.杉本明ら、2006.6.砂糖類情報 干ばつ・台風と南大東島
4.杉本明、 2007.7 砂糖類情報 甘み・砂糖・さとうきび(10) さとうきびの品種改良


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