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最終更新日:2010年3月6日
1 はじめに
品目別経営安定対策のもとで、今後とも、さとうきびを安定的に生産するためには、特例期間の終了する平成22年度以降も、できるだけ多くの生産者が交付対象となるよう、担い手育成やそれぞれの地域の実情に応じた本則要件に対応できる体制づくりに取り組む必要があります。本稿では、本県および各地域におけるこれまでの取組状況などを紹介します。
2 現状と課題
平成19年度の甘味資源作物(さとうきび)交付金の交付実績は図1のとおりであり、本県のさとうきび生産は、ハーベスタを中心とした作業受委託が進んでおり、基幹作業を委託している生産者が4,856人と全体の53%を占め最も多くなっている。
次いで特例要件を活用している生産者が、2,686人と29%を占めており、特に、手刈り中心で、ハーベスターの収穫率が低い与論島(県全体:68%、与論島:29%)においては、80%程度と高くなっている。このような特例要件生産者が、特例期間終了までに本則要件を満たす生産者となるよう育成し、できるだけ多くの生産者が交付対象となるよう支援することが急務となっている。
しかし、現実的には、(1)周知は行っているものの、生産者の危機感が伝わってこない。また、制度を理解していない生産者がみられる。(2)規模の小さい生産者は、委託を行うと作業料金という新たなコストが発生し、所得が減少してしまう。(3)小さいほ場や条件の悪いほ場は、作業受託者や借り手がいない。−などの課題を抱えている。
出典:農畜産業振興機構
「対象要件区分」
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図1 要件別甘味資源作物(さとうきび)申請の推移。( )内は割合% |
3 これまでの取組
1)担い手育成の取組
これまで、県段階では、現状把握のための農作業受委託体制実態調査を実施するとともに、担い手育成研修会、担当者会などの開催による取組推進や、農林水産省などとの意見交換会の開催による取組状況確認、現状報告、課題の抽出などを行い、また、プロジェクトチーム会による特例要件から本則要件への移行に向けた課題・具体的手法の検討などを進めてきた。また、各地域の取組状況を把握するとともに、推進上の課題を明らかにするために、進捗状況調査などを実施してきたところである。
地域段階では、制度説明会や集落座談会などにより周知徹底を図り、アンケート調査などにより地域の実態把握を行いながら、育成方向の検討や担い手育成目標の作成(3年後および将来に向けた具体的な体制づくり)を行うとともに、目標達成に向けた実践活動を実施しているところである。具体的には、さとうきび増産計画の推進と連動し、各島の糖業振興会、生産対策本部と各市町担い手育成協議会などとの連携を図りながら、(1)農家のリストアップ、重点指導、経営改善計画の作成支援などによる認定農業者の育成。(2)農地集積などによる規模拡大の推進など一定規模以上の生産者の育成。(3)共同利用組織や受託組織の育成(農業機械の導入支援、オペレーターの育成など)。(4)農作業受委託体制の整備(モデル地区を選定し、受託組織の育成や、作業調整機関や作業班の設立支援など)。―などに取り組んできた。
平成19年度交付実績で、作業委託要件生産者が53%、特例要件生産者が29%を占めるが、平成19年10月の申請当初は、作業委託要件生産者が45%、特例要件生産者が35%であり(図1)、これは、上記(3)、(4)などの特例要件生産者の基幹作業委託要件への誘導の取組の成果である。
また、作業受委託の増加に伴い、ハーベスタ収穫率が平成18年度の62%から19年度は68%へと向上した。
図2 集落での話し合い |
2)特例要件生産者対策の実施状況
このように、担い手育成に向けた様々な取組が実施されているが、特に、特例要件生産者の本則要件への移行に向けた取組状況を9月に調査し取りまとめた(表1)。 9月時点の各市町村見込みによる特例要件生産者のうち、認定農業者、一定規模以上の生産者の育成目標(移行目標)割合はそれぞれ2%、5%の見込みと低い。これは、特例要件生産者が栽培面積0.5ヘクタール以下の割合が61%、60才以上の割合が58%と小規模、高齢者であるためであると思われる。
最も多い育成目標は、作業委託要件への移行で、その割合は76%となっており、委託内容はハーベスタや株出管理機を中心とした作業委託である。
進捗率(育成目標生産者のうち、現時点でそれぞれの要件への移行が確実に見込める生産者の割合)についてみると、認定農業者、一定規模以上の生産者、共同利用組織の構成員はおおむね20%前後であり、今後、重点的な個別指導や、共同利用組織の設立支援などが課題である。また、基幹作業委託は39%であるが、そのうち受託組織への移行は53%で、既存組織への誘導(結びつけ)が図られつつある。しかし、新たな組織の設立や手作業を中心とした組織の検討、認定農業者への結びつけ、さらには労働交換での委託料支払いの検討など今後取り組むべき課題が残されている。
一方、「高齢」や「ほ場条件により委託ができない」「委託料が払えない」といった理由で耕作を中止する生産者も5%見込まれている。
表1 特例要件生産者対策の実施状況および進捗率 |
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3)具体的な事例
特例要件生産者の本則要件への移行に向けた取組として、これまで、集落営農へ向けた組織化の検討も行われているが、経理の一元化など解決すべき課題が多く、また、組織化に向けたリーダーや経理担当者の育成を含めた総合的な支援が必要であり、具体化が遅れている状況である。一方で、9月の調査結果のとおり、多くの特例要件生産者は基幹作業委託への移行が見込まれており、それぞれの島ごとにほ場条件やハーベスタ導入状況などが異なることから、地域の実情に応じた基幹作業受委託への取組が積極的に行われている。
奄美大島では、本誌平成20年4月号の報告にあるように、受託調整組織の設立が図られ、この組織を活用することで、委託する生産者は組織に委託すれば良いという簡便さ、受託する側は、効率的な作業の実施などが可能となり、作業受委託の増加が期待される。
沖永良部島では、認定農業者の割合が多いことに注目し、集落内または農協きび部会支部内に認定農業者を中心にした農作業受託班を設置し、支部の役員が農作業受委託の斡旋を行う集落モデル(図3)を目指して活動している。作業料金についても集落内で話し合い、受委託料金を労働交換で賄うことも検討している。また、作業受託班には規模の小さい農家も参加し、集落民が協力して管理作業などを行うことで、さとうきびの単収向上を図ることも目標としている。
図3 沖永良部島における集落モデル |
4 今後の取組
現在、各市町村において特例要件生産者の特例期間終了後の意向調査などをアンケート、聞き取り調査により実施、取りまとめを行い、その対策を検討している。基本的には、作業委託への移行が中心となるようであるが、市町村によっては、「今後どうして良いかわからない」という意見も多くあり、本県では、それぞれの地域に対応した取組を支援する計画である。
担い手育成については、今後も引き続き、認定農業者や一定規模以上の生産者を育成するとともに、それぞれの地域にあった農作業受委託体制の確立や個々の農作業受委託を調整する調整機関の設立などを推進する必要がある。
そのためにも、県段階では、具体的な組織育成の状況や、特例要件生産者対策に係る各地域の取組状況の進行管理などを行いながら、地域段階では、各市町担い手育成協議会などと連携し、地域の実情に応じた具体的な方策を検討し、これまでに明らかとなった課題の解決や取組方策を実践することとしている。
また、次期対策に向けて、できるだけ多くの生産者が支援対象となるよう、生産現場の課題を整理しながら、対象要件の見直しなど、国にさらに要請することとしている。
5 最後に
9月末の実態調査の結果における特例要件生産者の移行進捗率は35%となっていますが、10月15日現在の平成20年度甘味資源作物交付金対象要件審査申請状況(図1)は、基幹作業を委託している生産者が4,757人、52%で、特例要件を活用している生産者が2,606人、28%と平成19年度交付実績とほぼ同じであり、特例期間内は、特例要件を活用する生産者が多い状況がうかがえます。平成22年度以降、スムーズに本則要件へ移行するためには、残された期間内で、各地域の実状に応じた体制づくりをさらに進める必要があり、各地域とも具体的な実践活動を加速させる必要があります。
県としても、これらの取組に対して、関係機関・団体と一体となって支援を行い、さとうきび増産計画と連動しながら、本県の畑作地帯の重要な品目であるさとうきびの安定生産に努めることとしています。
図4 生育良好な20年産さとうきび |
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