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沖縄県宮古地域のさとうきび増産に向けた株出し推進について

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ

[2009年3月]

【生産地から】
沖縄県農業研究センター宮古島支所 作物園芸班長 宮城 克浩

1.はじめに

 沖縄県宮古地域は沖縄本島から南西に約290km離れた 島嶼 とうしょ で、宮古島、伊良部島、多良間島など8つの島からなる。年間の平均気温が23.3度の温暖な気候と、平坦な台地からなる農地を有し、耕地率は54%と高く、農耕上恵まれた条件にある。反面、土壌は土層が浅く、保水力の弱い琉球石灰岩土壌(島尻マージ)であるため、夏季の少雨の際には干ばつなどの気象災害を受けやすく、さらには毎年のように襲来する台風や病害虫の発生による生育障害なども多く、農業をとりまく自然環境は厳しいものがある。このような中、農業基盤整備事業をはじめとする国、県による各種事業の積極的推進や、地下ダム利用の促進など生産性向上のための各種の条件整備が順調に進展しており、今後の農業に対する期待は大きい。

 当地域の農業はさとうきびを基幹作物として肉用牛との複合経営を基本に展開しており、両作目で農業産出額の68%を占めている。その他の作目としては葉たばこの生産が多く、また、近年は本土の端境期をねらった冬春期出荷用としての野菜やマンゴーなどの熱帯果樹の生産も多くなってきており、作物の多様化が進んできている(図1)。

資料:宮古の農業(2007年宮古支庁宮古農政・農業改良普及センター)
図1 宮古における2006年農業産出額(概算:139億円)の構成割合

 本稿では宮古農業の基幹作物であるさとうきびについて、生産の現状と課題を紹介し、増産に向けた株出し栽培の推進と、さらなる安定多収生産のための方向について提案する。

2.さとうきび生産の現状

 宮古島の2007/2008年期のさとうきびの生産量は23万3千トンで、1ヘクタール(以下、ha)当たりの収量(以下、単収)は77.62トンであった。伊良部島は生産量7万200トン、単収89.24トン、多良間島は生産量2万7千500トン、単収101.80トンであり、各地域とも近年では生産量の多い年であった。収穫面積から算出した同年期の作型割合は、宮古島で夏植えが88%、春植えが9%、株出しが3%であった。伊良部島は夏植えが98%、春植えが1%、株出しが1%で、多良間島は夏植えが96%、春植えが2%、株出しが2%であり、各地域ともに夏植えに偏った作型である。宮古島における各作型の単収の平均(1998年〜2007年)は夏植えが71.3トン、春植えが44.9トン、株出しが51.1トンである。

 現行栽培条件下において夏植えの栽培割合が多い理由として、夏植えが春植えや株出しに比較して気象災害に強く安定した収量が確保できること、株出しの場合はサキシマカンシャクシコメツキ(通称ハリガネムシ)やアオドウガネ、ケブカアカチャコガネなどの土壌害虫(幼虫)による株出し不萌芽の問題が存在すること、また春植えの場合は、植え付けと収穫の時期が重なるため作業上の困難が伴うことなどがあげられる。

資料:さとうきび及び甘しゃ糖生産実績(沖縄県農林水産部)のデータから作成
図2 宮古島における作型別の単位収量の推移

3.生産向上のための株出し栽培の必要性

 国においては、さとうきびの増産対策を図るため、平成17年に「さとうきび増産プロジェクト基本方針」を策定した。沖縄県、鹿児島県の両県においては、同方針に沿って島別にさとうきびの生産目標を設定し、さまざまな生産向上対策を実施している。

 宮古地域のさとうきび生産目標は年間35万トンであり、目標達成に向け関係機関が一体となって増産対策に取り組んでいる。このような中、宮古地域全体の2007/08年期の収穫面積は4,061haで、生産量は33万1千トンであった。同期は台風の襲来や干ばつ被害もなく気象条件にも恵まれて、過去10年間でも生産量の多い年であった。同年のように気象条件に恵まれ、生産量の多い年においても増産プロジェクトの目標生産量を下回ることから、現状の栽培条件下での目標達成は厳しいと言わざるをえない。生産量の向上には土地生産力(単収)の向上だけでなく、収穫面積の拡大が必要である。宮古地域における過去10年間(1998年〜2007年)の収穫面積の平均は4,168ha(図3)で、単収は69トンである。現状の収穫面積で目標の35万トンを達成するためには、単収を84トンとする必要があり、15トンの大幅な単収アップが求められる。生産量向上に向け、夏植えの栽培改善によるさらなる単収アップを図ると同時に、2年1作の夏植えから1年1作でほ場の利用効率の高い春植え・株出し栽培の割合を増やすことによる収穫面積の確保が必要である。そのためには春植え・株出しの単収向上と安定化が必要不可欠である。土壌害虫による株出し不萌芽の問題については、近年開発・登録されたプリンスベイト(砂糖類情報2007年6月号で紹介)の使用により改善が期待されており、さらに性フェロモンを利用した交信かく乱法(南大東島で成果が報告されている)によるハリガネムシ防除に向けての取り組みが今年度から行われるなど、株出し栽培への移行環境は整いつつある。

資料:さとうきび及び甘しゃ糖生産実績(沖縄県農林水産部)のデータから作成
図3 宮古全地域における収穫面積および収穫量の推移

 宮古島における製糖工場の操業は現在、1月〜3月に行われている。その期間、生産者は収穫作業に追われるため、春植えの植え付けや株出し管理は収穫を終えた3月以降に行っている。春植え・株出しの生産性が低く、かつ作柄が不安定であることは、植え付けや株出し管理作業の開始時期が遅いことが要因であると言われている。春植え・株出しの生産性の安定、向上のためには、収穫時期を早め(年内収穫)、春植えを早期に植え付けること、また株出しについては収穫後、早期に株出し管理を行うことが必要である。こうした栽培時期の早期化により台風や干ばつに遭遇する夏季までに植物体を大きくし、夏植え同様、気象災害を最小限にすることで生産の安定、向上が期待できる。

 一方、早期収穫の場合さとうきびの糖度が十分に上がっていないことが懸念される。この問題を考えるために、図4に2005年頃まで宮古地域の主要品種であった農林8号(NiF8)の近年の夏植えにおける甘しゃ糖度の推移を示した。各年度とも2月で最も糖度が高くなっているが、12月においても5年中3年で基準糖度の13.1%以上となっている。2007/08年期の宮古地域における品種の収穫割合は、宮古1号が39%と最も多く、次いで農林15号(Ni15)が37%となっている。これらの品種は、農林8号よりも早熟性であることから、12月からの収穫は十分可能であろう。

注:沖縄農研センター宮古島支所の気象感応試験のデータによる。
図4 NiF8の夏植えにおける甘しゃ糖度の月別推移
注: 2007年9月12日に植え付けし、2008年10月7日にサンプリンング調査(1区5茎の3反復)を行った。破線は基準糖度帯を示す。
図5 宮古島における夏植えの10月調査時の結果

 また、過去の試験において、夏植えの植え付け時期を遅らせることで土壌害虫の被害が軽減され、株出し不萌芽が軽減できるとの報告もあることから、夏植えの多い現状においては、夏植えから春植え・株出しへの移行を進めていくのと平行して、当面は、植え付け時期の遅い夏植えの収穫後の株出しを行うことで、株出し面積の拡大を図っていくことも考えていく必要がある。

4.さらなる生産向上のための夏植え型秋収穫株出し栽培

 現在、宮古地域のさとうきび作は2年1作の夏植えが中心であるため、年間の栽培面積7,993ha(1997年〜2006年の平均)に対して、収穫面積は4,025haであり土地利用効率が低い。2010/11年期以降の経営安定対策(交付金)の対象要件を満たす生産者を増やす観点からも、収穫面積の拡大は重要な課題であり、2年1作の夏植えから1年1作の株出しへの移行を急ぐ必要があると考える。

 夏植え型秋収穫株出し栽培は、夏植えして翌年の秋に収穫を行い、収穫後に株出しする栽培である。そのメリットは、夏植えと同様に気象災害に強くて単収が高く、かつ秋に収穫して株出しを行うため、1年1作が可能となり土地利用効率が高い。また秋収穫後の株出しは冬収穫後の株出しと比較して、萌芽時の気温が高いため萌芽が良く、さらに夏植えと同様な生育経過をたどるため、夏植えの利点が発揮され、収量も多く生産量の向上が期待できる。

 沖縄県では、これまで沖縄本島南部、南大東島、久米島および石垣島で同栽培型に関する幾つかの試験が行われており、秋収穫可能な品種である農林24号(NiN24)、農林26号(Ni26)の開発を含め、一定の成果が報告されている。農研センター宮古島支所においても、2007年9月に両品種を活用して同栽培型による実証試験を開始した。2008年10月に行ったサンプリング調査の結果では、農林15号(Ni15)の甘しゃ糖度が12.9%と基準以下であったのに対して、農林24号は13.5%、農林26号も14.1%と基準以上であった。これは秋収穫が実用的な技術であることを示唆している。今後は秋収穫後の株出しについての秋収穫評価とあわせて、春植え・春収穫、収穫後の株出しとの比較により、宮古における同栽培型の有利性の検討、評価を行っていく予定である。

5.おわりに

 宮古地域の農業は、さとうきびと肉用牛の複合経営を基本に展開している。現在、穀物価格の高騰などによる輸入飼料価格の高騰は、肉用牛生産者の経営を圧迫しており、飼料の自給率向上は重要な課題である。近年、飼料作物の作付けが増えてきている状況下において、飼料作物とさとうきびとのほ場競合を回避し、さとうきびの持続的生産を進めていくには、さとうきびの梢頭部の飼料化は必要となってくるであろう。夏植え型秋収穫株出し栽培は、収穫の早期化および収穫量の増加による収穫期間の拡張をとおして、梢頭部の長期安定供給にもつながることから飼料の自給率向上に有効な手段である。

 宮古地域は葉たばこ栽培が沖縄県下でも最も多い地域でもある。近年は冬春季出荷用の野菜の生産も多くなってきていることから、現行の製糖期(1月〜3月)においてはほ場や労働の競合が厳しさを増している。夏植え型秋収穫株出し栽培は、収穫の早期化により、さとうきびと葉たばこや園芸作物との輪作、また労働競合の緩和を可能にする技術である。宮古農業の持続的発展のためにも早期の導入が望まれる。

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