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最終更新日:2010年3月6日
さとうきびは、離島地域の基幹作物として農家経済はもとより関連産業への経済波及効果が大きく、離島地域の活性化、発展に大きく貢献している。しかし、近年、生産者の高齢化や相次ぐ台風の襲来、収穫面積の減少、単位当たり収量の減少などによって生産量が低迷し、原料不足により製糖工場の操業率に悪影響を及ぼしている。このような状況を改善する目的で、平成18年度に策定された「さとうきび増産に向けた取組目標及び取組計画」(以下、増産プロジェクト)に基づき、石垣島においても関係機関、生産者が努力しているところである。本稿では、石垣島のさとうきび栽培、増産に向けた主な取り組み事例を報告する。
石垣島では、さとうきび、肉用牛、水稲、野菜、パインアップル、たばこなどの多様な農畜産物が生産されており、その中で、さとうきびは島の耕地面積5,490ヘクタールの約半分に作付けされている。作型は夏植えが中心であり、春植えおよび株出しは非常に少ない。これは、春植えでは早期に台風が襲来すると茎の折損被害が大きいこと、株出しではカンシャクシコメツキ(ハリガネムシ)やアオドウガネなどの土壌害虫の食害によって不萌芽が生じるためである。収穫方法は、ハーベスターによる機械収穫が約6割、全茎無脱葉収穫(刈り倒して剥葉(はくよう)する人力収穫)が約3割、クリーンケーンが約1割であり、植え付けも全茎式プランターが主流で機械化が進みつつある。
(1)平成19年産の増産計画と生産実績の比較
石垣島の平成19年産の収穫面積は、前年度と比べて全作型で減少し、平成19年産計画に対する割合も、夏植え93.4%、春植え49.9%、株出し53.5%、合計収穫面積78.1%となっており計画は未達成であったが、単収は夏植えおよび春植えで計画を達成し、株出しもほぼ計画通りであった。生産量の実績は、収穫面積の減少が大きく影響し、計画に対し87.7%であった(表1)。
表1 石垣島の平成19年産の増産計画と生産実績の比較 |
資料:沖縄県さとうきび増産プロジェクト会議資料 |
石垣島は、新空港建設やリゾート計画などによって農地面積が減少しており、今後も収穫面積の拡大が難しい状況である。そのため、今後の計画達成に向けては、さらなる単収の向上を図るとともに、土地利用効率の高い株出しの推進によって収穫面積を確保し、生産量を増加させることが急務となっている。
(2)経営基盤の強化
①担い手の育成
さとうきび経営安定対策の要件の1つである認定農業者の育成を関係者が一体となって進めた結果、平成18年度34名、平成19年度98名と急増した。この数値はすでに平成27年計画を達成しているが、地域における中核農家を育成するために、今後も取組みを強化していく必要がある。
②農業共済制度への加入促進
石垣島には、平成18〜20年の3年間、生育旺盛期に2つの台風が襲来し、被害をもたらした(表2)。毎年のように発生する自然災害に対応した安定経営を営むためには、生産者の農業共済制度への加入が重要である。石垣島では、関係機関が連携して、各地域の公民館で行われる経営安定対策の要件申請受付け時において共済加入の呼びかけを行うとともに、個別訪問による加入促進を実施した結果、低迷していた引受率および引受面積は、計画を上回る数値となった(表3)。今後も計画達成のため、さらに取り組みを強化し、加入率の向上を目指すことが必要である。
表2 石垣島におけるさとうきび台風被害 |
資料:八重山の農林水産業 |
表3 石垣島における共済制度の増産計画と加入実績の比較 |
資料:沖縄県さとうきび増産プロジェクト会議資料 |
(3)生産基盤の強化
規模拡大を進める生産者への農地集積を支援するため、さとうきび増産プロジェクト基金事業を活用し、平成18〜20年度にかけて合計で30ヘクタールの遊休農地を解消することができた。収穫面積を確保するため、今後とも各種事業を活用し、散在する遊休農地の解消に努めることが必要である。
(4)技術対策
①単収の向上(夏植え適期植え付けの推進)
単収を向上させるためには、適期植え付け、その後の肥培管理が非常に重要である。夏植えが多い石垣島では、夏植えの植え付けが8月から11月までの長期にわたって行われている。その時期別の植え付け面積は、過去5ヵ年平均でみると、8月植え付けが168へクタール(18.5%)、9月植え付けが417ヘクタール(46.0%)であり、夏植えの植え付け適期である8月の植え付けは2割に満たない状況であった(表4)。平成19年産のみの実績ではあるが、主要3品種の夏植え栽培における時期別の単収をみると、いずれの品種でも8月植えの単収が高く、植え付け時期が遅れるほど単収が低下しており、8月植えの有利性が推定される(表5)。このようなことから、平成20年には、夏植え植え付け面積の約半分にあたる400ヘクタールを、8月に植え付けようとキャンペーンを実施した。石垣島の地元新聞に8月植えの有利性と増産プロジェクトの達成を唱える記事を掲載し、また石垣島製糖では8月植えを実施した農家に対して10アールあたり肥料2袋の助成を行った。さらに関係機関が一体となって広報活動を行った結果(図1)、目標を大きく上回る666ヘクタールの植え付けが行われた(表4)。この成果が明らかになるのは平成21年産の収穫時期であり、引き続き適期肥培管理の指導を行って単収の向上に努めたい。
表4 石垣島の夏植え植え付け時期別の面積 |
(単位:ha) |
資料:石垣島製糖(株) 注)種苗用の植え付け面積を含む |
表5 石垣島の夏植え植え付け時期別の単収(平成19年産) |
(単位:kg/10a) |
資料:石垣島製糖(株) |
図1 広報車による活動の様子 |
②株出し栽培の推進
離島のように限られた耕地面積で収穫面積を確保するためには、株出し面積を拡大することが重要であり、そのためには適期管理の実施、土壌害虫の防除が不可欠である。石垣島では、適期株出し管理の推進のため、3台の株そろえ機を導入し普及を図っているところである。平成20年4月の「さとうきびの日」の関連行事として、適期に株そろえしたほ場において現地検討会を実施し、多くの生産者に株そろえ機の実施効果を理解してもらった。また、平成21年3月の株出し増産推進大会では、株そろえ・根切り・施肥・土壌農薬散布の4工程の一貫作業を実演するとともに、実施したほ場の収穫調査結果を示しながら早期株出し管理の有効性を提案した(図2、3、表6)。また、カンシャクシコメツキ(ハリガネムシ)やアオドウガネなどの土壌害虫防除に有効な新農薬ベイト剤の展示ほを設置して、株出しの普及に努めているところである(図4)。
図2 株揃え実施展示ほでの現地検討会(平成20年4月) |
図3 株そろえ機を熱心に観察する生産者(平成21年3月) |
表6 株揃え実施ほ場の収穫調査結果(春植え後の株出し) |
調査日:石垣島平成21年1月、西表島平成21年2月 |
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図4 ベイト剤を活用した夏植え+株出し体系実証展示ほ |
石垣島では、平成21年1月6日から平成20年産の製糖工場の操業が始まり、去る4月1日に無事終了した。平成20年産は、相次ぐ台風の襲来と干ばつの影響によって茎の伸びが悪く、生産量は前年を下回る68,996トンであった。収穫面積は、前年に引き続き減少し1,086ヘクタールであった。一方、平均甘しゃ糖度は、登熟期の気象条件に恵まれ、品質取引始まって以来最高の15.1度であった。品質面では良い結果となったが、生産量については増産計画を大きく下回る厳しい状況であった。また、昨年から肥料・資材が高騰しており、さとうきび生産者を取り巻く環境もたいへん厳しい状況である。これらの課題を解決するには、収穫面積を確保することにより増産を図るとともに、植え付けが省略できて生産経費の削減につながる株出しを推進することが有効である。平成21年産の株出し拡大に向けた取り組みとして、当農業改良普及課では、夏植えに偏重した作型から速やかに株出しに移行すべく取り組みとして、ベイト剤を活用した夏植え+株出し体系の実証展示ほを設置した。また、石垣市役所においては、株出し体系を実施する生産者を対象に、春植え+株出しの植え付け30ヘクタール分のベイト剤を助成した。さらに石垣島製糖においても、同様に今年の夏植え+株出しの植え付けに200ヘクタール分、来年の春植え+株出しに50ヘクタール分のベイト剤の助成を予定している。このように、これまでの関係機関が一体となった取り組みによって、株出しにチャレンジする生産者も増えつつあり、今後、株出し面積の拡大と増産が期待される。
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