ホーム > 砂糖 > 生産現場の優良事例など さとうきび生産関係 > 鹿児島県におけるさとうきび栽培関連機械の現状と課題および研究成果
最終更新日:2010年3月6日
労働時間短縮に大きな役割を果たした小型ハーベスタは、初めて市販されてからまだ20年も経過していませんが、年々改良が加えられ進歩しています。またケーンプランタも同様に、20年も経過していません。
近年は、増産プロジェクトの中で株出し栽培比率の向上が奨励されており、これを受けて株出し管理技術についてもいろいろな機械開発が進んでいます。
今回は、鹿児島県で普及しているさとうきび関連機械の現状、これから普及が見込まれる機械について、またさとうきび機械化について試験研究を行っている鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場での取り組みを併せて紹介していきたいと思います。
さとうきびは鹿児島県南西諸島(種子島および奄美諸島)における基幹作物であり、作目別農業産出額の比率では熊毛地域で22.1%、奄美地域で33.2%といずれも第1位となっています。(「平成19年熊毛・奄美地域農林水産業の動向」(鹿児島県農政部)より)
図1
熊毛地域における作目別農業産出額の比率(平成19年)
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図2
奄美地域における作物別農業産出額の比率(平成19年)
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収穫面積は、減少傾向にありましたが平成18年以降は増加傾向となっています。
作型別面積は、平成20/21年期で夏植えが1,694ヘクタール(17.4%)、春植えが2,165ヘクタール(22.2%)、株出し栽培が5,903ヘクタール(60.5%)となっており、増産プロジェクトの取り組みもあって、ここ3年は株出し面積が増加してきています。
図3
鹿児島県におけるさとうきび収穫面積の推移
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図4
鹿児島県における作型別の面積の割合の推移
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品種別面積は、地域や島によりやや構成は異なりますが、平成20/21年期でNiF8が6,082ヘクタール(62.3%)で最も多く、Ni17が1,599ヘクタール(16.4%)、Ni22が775ヘクタール(7.9%)、Ni23が311ヘクタール(3.2%)、F177が386ヘクタール(4.0%)、その他609ヘクタール(6.3%)となっており、Ni17がやや減少傾向にある一方で、奄美地域を中心に多収・高糖品種のNi22およびNi23の普及が進みつつあります。
図5
鹿児島県における品種別面積の割合(平成20/21年期)
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20/21年期は天候にも恵まれ、また管理技術の励行と多収品種の普及もあって単収は過去最高の10アール当たり7,323キログラムとなりました。
(「さとうきびおよび甘しゃ糖生産実績」(鹿児島県農政部)より)
図9に、鹿児島県における主なさとうきびの機械化体系の流れを示しました。
ほ場準備から始まって、植え付け、肥培管理、収穫、株出し管理とつながっていきます。
図9
鹿児島県におけるさとうきび栽培機械化作業体系 |
植え付けは、二芽苗に調整した苗を植え付ける調苗苗式プランタおよび簡易プランタ、全茎のままを利用する全茎式プランタがあります。全茎式プランタの場合、切断後の苗選別ができないため、二芽苗より多くの苗を要します。
全茎苗
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二芽苗
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図6
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現在、鹿児島県内では全茎切断式プランタは徳之島を中心に71台、調苗苗式・簡易型は併せて449台稼働しています。
表1
鹿児島県におけるプランタ稼働台数
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(平成20/21年期)さとうきび及び甘しゃ生産実績
鹿児島県農政部農産園芸課より |
植付方法は、プランタを利用した機械化体系が出来上がっていますが、採苗・調苗に関しては、まだ機械化体系が出来上がっていないのが実状です。そのひとつの対応策が、ハーベスタを利用した採苗・調苗法です。ハーベスタで採苗した場合、必然的にビレットプランタの普及が予想されますが、ハーベスタで採苗した場合の調製方法、発芽率などの細かい調査は行われていないため、この植付方法で安定した生産を行っていくためには、これらの基礎的調査を行っていく必要があります。
図7
ビレットプランタによる植え付け
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また種苗供給については、種苗専用のほ場を設け、優良種苗生産を行い、確実に発芽させることが重要です。原料茎の残りを種苗として利用した場合、硬化した苗が多くなるため廃棄する原料茎が多くなり、また発芽数も少なくなります。確実に発芽させ、発芽茎数を確保することで、その後の株出し栽培時の萌芽数も確保することができます。
健全な芽子
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硬化した芽子
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図8
さとうきびの芽
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さとうきびの労働時間の大幅短縮を可能にしたのが、ケーンハーベスタです。
平成6年から事業導入が始まって以来着実に普及が進み、鹿児島県内で現在329台稼働しています。(平成20/21年期)
ハーベスタによる収穫は年々増加し、県全体ではハーベスタ収穫率は約70%となっており、現在ではハーベスタなしでは成り立たない状況になっています。開発当初は、トラッシュの混入率が高いなどいろいろと問題もありましたが、年々研究・改良が進んだ結果、現在では混入率は10%前後と少なくなっており、ハーベスタ収穫への移行は進むものと思われます。
今後は、普及が予想されるNi22、Ni23などの多収品種に対応した改良が求められることになります。
図10
鹿児島県におけるハーベスタ収穫面積割合の推移
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ハーベスタ収穫後のほ場は、踏圧により硬化しているため、サブソイラやプラソイラにより耕盤破砕を行った後、株出し管理を行います。
株出し管理機は、株揃え機、根切り排土機、株揃から根切・施肥・除草まで同時に行える一貫工程機があり、近年は株の中央を開く補植開溝機も普及し始めました。これを使うと、株の中央に作溝すると同時に施肥を行い、欠株の所には二芽苗を補植していくことができます。
ただ、乾燥が続く時期に開溝すると、株が枯死することも考えられるので、この点については栽培的視点から、株割時期、土壌水分との関連など調査を行っていく必要があります。
図11
HC―50NN(文明農機) |
図12
MCH―30WE(松元機工) |
図13
開溝作業と同時に施肥
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図14
溝に二芽苗を補植
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ハーベスタの普及により労働時間は大幅に減少しましたが、受託面積も年々増大しているため、受託組織は作業に追われることになり、気持ちの焦りなどから農作業事故につながることも危惧されます。
このため、各島では、製糖開始前に受託組織のオペレーターを集め、安全な農作業のための講習会を実施しています。
図15
オペレーター研修(室内)
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徳之島での講習会では、農業開発総合センターからハーベスタの基本構造と安全な使用方法についての説明を行い、その後現地ほ場で各メーカーよりハーベスタの取り扱いについて説明がなされます。
図16
ハーベスタ取り扱いの説明
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農作業事故は、毎年同じような形態が多いので、毎年注意を呼びかけて事故を未然に防ぐことが重要です。
ハーベスタに限らず、農業機械は一歩間違えれば、命に関わる事故につながることになりますので、機械化が進めば進むほど事故防止対策は重要になります。
当センター徳之島支場では、旧農業試験場時代からさとうきび栽培の機械化について、さまざまな取り組みを行ってきました。さとうきびの機械化については歩行型刈取機を始め、ドラム脱葉機、小型ケーンハーベスタ、ケーンプランタ、防除機、株出し管理機、水流選別機、梢頭部回収機などの開発・改良に取り組んできました。ここでは、現在取り組んでいる課題について簡単に紹介します。
畜産の盛んな徳之島においては、さとうきびの梢頭部は貴重な自給飼料です。現在、梢頭部の回収については、畦畔部のみ人力で行っていますが、中心部についてはハーベスタ収穫時にトラッシュとして、ほ場に還元されています。
手刈り作業であった時期は、梢頭部が主な自給飼料原料でしたが、ハーベスタの普及とともに梢頭部の多くはほ場に還元されるようになりました。こうした背景には、牛の頭数増加に伴って飼料作物の栽培面積が増加し、さとうきびの栽培面積が減少してきたことがあります。さとうきびの梢頭部を回収できるようになれば、一枚の畑から下部は製糖原料として、上部は飼料として両方を利用することが可能となります。そうなると飼料作物の面積が減少し、さとうきびの栽培面積が増加することも考えられます。
図17
奄美地域におけるさとうきびと飼料作物の面積の推移
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図18
奄美地域における肉用牛頭数の推移 |
また、工場に搬入される原料の梢頭部は現在可能な範囲で人力除去されていますが、除去できる量は実際にはわずかです。除去原料が搬入されれば、歩留の向上も期待されます。
このため、平成15年度に梢頭部回収機が開発されましたが、価格面や多収ほ場への対応、回収率が不十分なことなどにより、まだ普及には至っていません。徳之島支場では、農水省委託プロジェクト研究(加工プロ3系「南西諸島北部地域に適する早期収穫用有望系統の選定と梢頭部利用技術の開発」)の課題の中で、さらに回収率を上げるように改良を行っており、今後稼働試験を実施して行く予定です。
図19
梢頭部回収機
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回収した梢頭部はそのまま牛に給与するだけでなく、ラップサイレージにより6カ月まで貯蔵が可能となることが、鹿児島県畜産試験場飼料部の分析から明らかになっています。(「平成16年度鹿児島県農業試験場徳之島支場農業機械化試験成績書」より)
図20
回収された梢頭部原料を食べる牛
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図21
梢頭部のロールベーララッピング
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当支場が主体となって開発、改良する機械のほか、新たに開発された機械について適応性を評価する試験も行っています。
評価試験は、基盤整備畑での作業性能などを評価するため長さ100メートル規模の大区画ほ場で実施しています。徳之島の土壌は、特有の重粘土状が多く、水分を含むと硬化して粘土質になり、機械への負荷は他の土壌と比べ非常に大きくなります。
このため、支場内で稼働状況を確認し、現場に普及した際に問題がある場合は改良を加えられたものについて、作業性能(時間、燃費など)の調査を実施します。
また、ハーベスタなどによる踏圧後の土壌の硬化状況や株揃え後の形状などの測定を行い、ほ場への影響についても調査しています。
図22
土が機械に付着しないように改良を行う |
図23
株揃え後の形状を測定する |
今回紹介したように、さとうきび栽培における機械化は、これまでの研究・開発により大きな進展を遂げており、基本的な機械化作業体系はほぼ出来上がって来ています。
しかし、機械利用を効果的なものとするためには機械自体をさらに現場に即したものに改良することのほかに、栽培的視点からの検討を加えることも必要と考えられます。このような意味で、プランタ植え付けにおける種苗の問題や、効果的な株出し管理作業のための条件を明らかにすることなども今後の課題と考えられます。
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