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家庭用砂糖の消費拡大のためのマーケティング手法と砂糖の種類の多様化について

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2007年11月]

【今月の視点】

 
中村学園大学 流通科学部 准教授片山 富弘
調査情報部 調査情報第3課 課長代理 天野 寿朗

 日本全体の砂糖の消費量は1980年代以降減少傾向にある。精製糖業界は、普及啓発の取組を行っており、ここ2年ほど家庭用砂糖の消費の占める割合については下げ止まり傾向がみられるようになったが、依然として低い水準にあると言える。
 このような現状を踏まえて、本稿では、商業活動におけるマーケティングの手法を家庭用砂糖の販売にどう生かすかについて考察を行うとともに、販売されている砂糖の種類の状況や方向性について、海外での動向を含めて考察し、今後の家庭用砂糖の消費拡大の可能性を探る。

1.砂糖の消費拡大におけるマーケティングの意義

 家庭用砂糖の消費拡大のためには、消費者が砂糖をどのような場面で、どのくらいの量を、どのように使用しているのかのニーズ把握を行い、これを踏まえた「マーケティング」を実施することが有効である。
 この「マーケティング」の定義は、1985年のアメリカ・マ−ケティング協会(AMA)によるものが世界的に普及しており、「個人や組織体の目的を満足させるために、アイデアや商品やサ−ビスに関する企画、価格設定、販売促進および流通を計画し、遂行する過程である」とされている。
 その後、2004年には、AMAによって「マーケティングは組織的な活動であり、顧客に対し価値を創造し、価値についてコミュニケーションを行い、価値を届けるための一連のプロセスであり、さらにまた、組織および組織のステークホルダー(関係者)に恩恵をもたらす方法で、顧客との関係を管理するための一連のプロセスである」が付け加えられている。
 また、この定義のほか、マーケティングにおいては、顧客満足度を向上させ、かつ、維持させることが重要なことである。
 これらのことから、家庭用砂糖の消費拡大のための有効な手段として考えられるのが、消費者の求める価値の追究、すなわち、消費者に対するヒアリングを通じたニーズ調査や顧客満足度調査の実施であり、その結果を踏まえた新製品開発である。

2.家庭用砂糖の販売に関するさまざまなマーケティング手法

 中村学園大学により実施したアンケート調査の分析結果(砂糖類情報10月号調査・報告「消費者の砂糖の購買行動に関する実証研究」参照)から、消費者が砂糖を購入する際に重視する要素は一様ではなく、パッケージのデザイン、栄養成分の表示、価格の割安感、雑誌・テレビなどの広告、口コミなど、さまざまな要因があることが判明した。
 このことから、これらの要素に即した多角的な販売活動を行うことが重要であると言える。砂糖の消費拡大を図るための具体的なマーケティングの手法としては、主に次のようなものが挙げられる。

(1) 特徴付け
 砂糖の特徴を消費者にわかりやすく表示することである。一口に砂糖と言っても、グラニュ糖、上白糖、三温糖、黒砂糖など、さまざまな種類があり、それぞれの持つ特徴も異なる。砂糖について漠然としたイメージを抱かせるより、それぞれの砂糖がどのような特徴を持つのか、具体的に知らせるための工夫が重要である。

(2) 割安感をアピール
 低価格を求める消費者に対しての商品の割安感をアピールすることである。消費者の目にしっかりとめるため、特に特売時などにおける小売店頭の陳列の工夫が大切である。

(3) メディアを利用した知名度の拡大
 テレビやラジオをはじめとするメディアにおいて、CMなどを積極的に活用することである。また、テレビの料理番組などで砂糖の使用を積極的に取り上げることも消費者の購買意欲を刺激するために有効といえる。

(4) 試用促進
 店頭において、何かの料理に使用できるといった消費者の献立例を示すことである。例えば、「煮物には三温糖を使うとコクが出せます」といったように、具体的な料理や調理法を提示することで、その砂糖に対する理解が深まるとともに、提示された砂糖を使用するということも期待される。

(5) 産地のイメージを根付かせる
 砂糖をその原料であるてん菜やさとうきびの生産地の北海道や鹿児島・沖縄のイメージと結びつけることである。砂糖に対する消費者の意識を高めるという点で有効な手段である。

(6) 不協和削減のプロモーション
 一言でいえば、マイナス・イメージを払拭する啓蒙活動である。現時点でもいくつかの啓発活動がなされているが、さらなる誤解の払拭に向けて、「砂糖は米などの他の炭水化物とカロリーは同じ」、「砂糖はスプーン一杯4キロカロリー」など、具体的なスローガンを用いて、消費者に理解しやすいプロモーションを行うことが効果的である。同時に、砂糖が身体に必要不可欠であるプラス面の情報を提供することも欠かせない。

3.砂糖の種類の多様性の状況

 砂糖の消費拡大を図る上で、前述のマーケティング手法のうち、「特徴付け」は重要な要素である。海外では、色、形状など日本と比べ砂糖の種類が多様化していると感じられるが、これまで日本の砂糖の種類と比較したレポートはなかった。
 そこで、予備的な手法ではあるが、機構が砂糖の需給に関する海外の現地調査時に行った市場調査、インターネットによる検索、さらに、日本の精製糖メーカーや商社からの聞き取りの結果などを踏まえて、以下のように家庭用砂糖の種類についての実情を整理してみた。

(1) 日本と海外の砂糖の種類の比較
 両者とも種類は豊富であるが、その中身を見ると、日本と海外それぞれの特色の違いがある。
 海外のケースを見ると、英国においては、その数は日本よりも多い。そのバリエーションの中身は、デメララシュガーなど日本では製造されていない砂糖が存在するほか、粒径の種類の多さが特徴となっている。グラニュー糖ひとつとっても、通常のもの、細粒、極細、最小、高純度中粒、大粒といった具合に粒子のバリエーションが豊富で、オーガニックシュガーや液糖・シロップなどでも多様性に富み、米国においては現地調査で訪れたカリフォルニア州のスーパーでの陳列棚を見ると「Cane Sugar」とうたったものやブラウン系の色ものの砂糖が充実しているが、日本においてはこれらの種類の砂糖はここまで一般的に普及はしていない。
 しかし、近年、日本においても砂糖の種類のバリエーションが広がっている。

表 英国のメーカー(Tate & Lyle 社)の製品一覧
出典:Tate & Lyle http://sugar.alic.go.jp/japan/example_03/社のウェブサイト(http:/www.tateandlyle.com/TateAndLyle/default.htm)より

英国のメーカー(Tate & Lyle 社)の砂糖
(左:細粒の白糖、中央:オーガニックシュガー、右:ラフカットの角砂糖)

(2) 日本における砂糖のバリエーションの実例(精製糖メーカー、商社でのヒアリング結果)
①機能性を持たせた砂糖
  機能性の原材料を配合した砂糖がある。例えば、消化・吸収を穏やかにする機能を有するL―アラビノース(ビートパルプなどに含まれ、ショ糖の消化・吸収を穏やかにする働きを持つ)を配合した砂糖が実際に販売されており、厚生労働省により特定保健用食品としても認可がなされている。このような商品は、近年消費者の健康志向が強まっていることを考えると、消費者の目を砂糖に向かせる効果があると考えられる。スーパーの食品コーナーではなく、健康に対する意識が高い買い物客が訪れるドラッグストアでの販売戦略を行っている点が特徴である。健康志向を強める消費者ニーズに応えるという点で、今後もさらなるバリエーションが期待される分野であるといえよう。

②砂糖のブランド化
 消費者は、自身が価値を見出したものは多少価格が高くても購入する。その促進として砂糖の一種の「ブランド化」が有効な手段であると考えられる。従来は、砂糖に関してはこのようなマーケティング手法はあまり馴染みがなかったが、高級感を醸し出すデザインの砂糖を、スーパーマーケットやコンビニエンスストアではなく、百貨店に限定して置くことによって、高級志向の消費者に訴えるというアプローチも実際になされている。
 また、前述の産地のイメージを根付かせるという手法、例えば、黒糖のように沖縄のどこの地域・島が原産であるかをうたうことも、商品のブランド化を図り、消費者にこの種の砂糖の存在をアピールする有効な手段である。
 このように、ブランドを確立し、新たな需要を創造することにより、いわゆる「顧客満足度」を高め、多少価格が高くてもその商品に価値を見出し、消費者ニーズより新製品の開発につながることが期待されるのである。

③パッケージの工夫
 小売用砂糖のパッケージにおいて、例えば、スティックシュガーにおける1本あたりの分量のバリエーションや包装のデザインの工夫などは従来からも行われていたところである。
 近年はこれに加えて、消費者ニーズに対応した形でチャック付きの袋など、パッケージそのものに使い勝手の良い工夫を施すことが行われている。その他の例としては、小袋にスプーンを付けることによって、1回で使用する分量をわかりやすくするなどの工夫がなされているものもある。
 このように、前述のマーケティングの定義にもある「アイデア」を商品に盛り込むことによって、消費者にとっていかに使い勝手を良くするかということに工夫を凝らすことも有効な手段であると言える。

4.今後、家庭用砂糖の消費拡大を図るために

 以上のように、前述の実例に見られるような「顧客満足度を向上」させる商品をいかにして開発するかということについてアイデアを張り巡らせることが、今後の家庭用砂糖の消費拡大を図るうえで何らかのヒントになるのではないかと考えられる。
 今後の家庭用砂糖については、もともと充実している包装形態に加えて、粒径や色、機能性、デザインなどのバリエーションを増やしていくことが考えられる。
 例えば、海外のように、ブラウン系で、かつ、多様な粒径の砂糖を商品のラインアップに加えることである。
 こうして充実させた砂糖には、スーパーなどでの陳列方法を含めた前述の「特徴付け」が重要であると言える。
 また、マーケティングにおいても、販売先の多様化や宣伝活動の投資効果を測定し、常に宣伝活動の見直しを行うことが必要である。
 このような視点でマーケティングを行うことによって、消費者の関心を引き付けることにより新たな需要を生み出し、家庭用の砂糖の消費拡大につながる可能性を見出すことができると考えられる。

さまざまな工夫がなされている砂糖

米国カリフォルニア州のスーパーマーケットの砂糖の陳列棚
(日本と比べてブラウン系の品揃えが多い)


訂 正
 
  2007年9月号「糖みつについて」の文中に“化学調味料”と記述しましたが、“うま味調味料”に訂正いたします。
 これは、①“化学調味料”という名称が商品の性質を正しく表現していないという認識から昭和60年以降は“うま味調味料”という名称が使用されている、②うま味はグルタミン酸ナトリウムなどの物質でひきおこされ、グルタミン酸ナトリウムなどは世界各国でとうもろこしやさとうきびの糖みつなどの天然原料から微生物の力を利用した発酵法によって製造されている、③うま味のもととなる物質を人工的に生産した調味料ではない、ということによるものです。
 読者の皆様に、訂正をさせていただきます。



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