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メーカーによるグラニュー糖の加熱特性の違い

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2008年11月]

【調査・報告】
 
神戸大学名誉教授
岸原 士郎

1.はじめに

 砂糖は食生活の上で必要不可欠なものの一つで、上白糖、グラニュー糖、白双糖、三温糖、黒糖などさまざまな種類がある。砂糖の種類によって、主成分のスクロース(ショ糖)以外の不純物の種類や含有量が異なるため、性質や味覚が異なり、それぞれの特性に合った用途で使用されている(1)。砂糖商品のうち、グラニュー糖や白双糖(グラニュー糖より結晶粒子を大きくしたもの)は不純物量が非常に少なく、純度の高い砂糖で、糖度(検糖計で測定したショ糖分)は99.9°以上である(1)。グラニュー糖は非常に純度が高いので、どの製品も性質は同じと思われがちだが、使用方法によっては顕著な差がでることがある。例えば、「和菓子製造業者が特定のメーカーの砂糖を使用する」「綿菓子がうまくできる白双糖とうまくできない白双糖がある」あるいは「ベルギーワッフルのトッピング(トッピング後に焼く)に適した白双糖と適さない白双糖がある」などを耳にすることがある。グラニュー糖の性質を詳しく調べると、メーカーによって性質に違いがある。

2.グラニュー糖の純度

 グラニュー糖の主な不純物の分析例として、水分0.01%、還元糖0.01%、灰分0.00%(0.005%未満)、色価8.9 IU(ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)単位)が示されており(1)、国内数社の製品の分析結果(表1(2))も同程度の不純物含有量である。表1には次項以降で説明する融点も記載している。高純度が要求される試薬のスクロースのJIS規格では強熱残分(硫酸塩)0.01%以下、酸(CH3COOHとして)0.006%以下、塩化物(Cl)5ppm以下、硫酸塩(SO4)0.003%以下、カルシウム(Ca)0.003%以下、鉛(Pb)3ppm以下、鉄(Fe)5ppm以下、転化糖は試験適合(JIS規格の転化糖試験方法に従えば、化学量論的には0.378%以下)と、不純物量の合計は0.400%以下となっており、グラニュー糖は試薬スクロースのJIS規格を十二分に満たす純度である。

表1 異なるメーカーのグラニュー糖の主な不純物と融点(2)
測定法: 水分はカールフィッシャ法で測定し、還元糖、電導度灰分および色価はICUMSA法にしたがい、融点は毛細管法で測定した。

3.グラニュー糖の融点

 一般に、純度の高い結晶の融点は特有の一定値を示し、不純物を含む結晶の融点は低くなる。ところが、グラニュー糖は非常に純度が高いにもかかわらず、融点は、表1のように、メーカーによって大きく異なる。同じメーカー(同じ工場)のグラニュー糖でも一番糖(注1)(融点177℃)、二番糖(融点185℃)、三番糖(融点186℃)で融点が異なる(3)。また、さとうきび由来、てん菜由来に限らず、融点は異なる(4)。さらに、4社の試薬スクロースについて測定した結果でも、融点(173℃、178℃、179℃、182℃)はそれぞれに異なる。ハンドブック類や辞典類でもスクロースの融点は160℃〜191℃間で種々の記載がある(1)
  融点の変動の原因として、含有量は少ないが、結晶内に含まれる不純物(水分を含む)による融点降下が思い当たる。水分が融点を下げる原因と想定する報告(5)(6)はあるが、水分含有量と融点とは相関がないという報告(7)もある。表1においても、水分の最も多いグラニュー糖Dの融点が最も低い。融点降下とは逆に、Kを多く含む結晶は融点が高いという報告(7)もある。このように、グラニュー糖の融点の相違を結晶内に含まれる不純物による融点降下で説明することは困難である。

(注1)一番糖、二番糖、三番糖
 精製糖の製造工程において、ファインリカー(精製された純度の高い糖液)を結晶缶で煎糖してできる最初のショ糖結晶を一番糖といい、一番糖を取り出して残った振り蜜(一番蜜)を再び結晶缶で煎糖してできる結晶を二番糖、さらに二番蜜から煎糖してできる結晶を三番糖という。

4.融点の異なるグラニュー糖(スクロース結晶)の調製

  精製糖工場で製造されているグラニュー糖は、原料糖を材料にして種々の清浄(精製)工程を経た後、結晶化されている。3項で述べたように結晶内に含まれる不純物による融点降下がグラニュー糖の融点の変動の原因になるという説明は難しく、煎糖(結晶化)温度または清浄法の違いにより糖液中に残存する微量不純物の違いあるいは結晶化条件の違いが、形成される結晶の構造(結晶内の不純物の存在の有無ではなく、スクロース分子の立体的な形)に影響し、製造されたグラニュー糖の融点が変動するものと考えられる。そこでこれら二つの要素のグラニュー糖の融点への影響について検討しながら、融点の異なるグラニュー糖を調製した。

(1) 結晶化温度と融点との関係
  結晶化の際の温度は、溶液中のスクロース分子のコンホメーション(立体的な形)に影響し、結晶化する分子にも影響を及ぼして生成結晶の融点が異なることが考えられ得る。そこで、実験室規模の減圧結晶缶(8)を用いて、52℃と72℃で調製したスクロース結晶の融点を測定すると、それぞれ166℃および167℃であり、両者にほとんど差はなく、結晶化温度の融点への影響は認められなかった。

(2) 結晶化糖液中の微量不純物の種類と融点との関係
  糖液の精製効果を調べるため、試薬スクロースを精製水に溶解した糖液から回収した結晶(“結晶A”と呼ぶことにする)と原料糖を溶解した糖液から精製操作を加えないで回収した結晶との融点を測定すると、それぞれ166℃と186℃であり、2つの結晶の融点には20℃もの差があった(9)。このことから、糖液の精製法、すなわち結晶化溶液中に残存する不純物が溶液中のスクロース分子の立体構造に影響し、生成結晶の融点にも影響を及ぼすと考えられる。
  そこで、試薬スクロース溶液に種々の少量の不純物を添加して、結晶を回収して融点を測定すると、添加不純物の種類と濃度によって得られる結晶の融点は異なっていた(2)(9)。不純物を加えないで回収した結晶Aの融点(166℃)に比べ、融点を高める不純物と融点を低める不純物とが存在し、それぞれの例は以下のとおりである。

①融点を高めるもの:塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、アコニット酸ナトリウム、グリコール酸ナトリウム

②融点を低めるもの:塩化カルシウム、塩化マグネシウム

 ①のうち、炭酸カリウムは融点を高める作用が大きく、スクロース量の0.1%を添加した溶液から回収した結晶(“結晶B”と呼ぶ)の融点は187℃であった。また、②のうち塩化マグネシウムは融点を低める作用が大きく、0.1%添加した溶液からの回収結晶(“結晶C”と呼ぶ)の融点は150℃であった。微量に添加する不純物の種類と量を調整することによって、種々の融点のスクロース結晶をつくることが可能であることがわかった。
  なお、溶媒の種類(メタノール、エタノール、1―プロパノール、アセトトリル)によっても、回収スクロース結晶の融点は異なる(10)。例えば、エタノールでは、市販エタノール(濃度99%以上)から回収したスクロース結晶の融点は177℃で、水を加えてエタノール濃度を下げていくと、それらから回収された結晶の融点は徐々に下がり、40%エタノール水からの回収結晶の融点(160℃)が極小になって、結晶Aの融点(166℃)より低くなり、さらにエタノール濃度を下げると、結晶Aの融点に近づく。

5.グラニュー糖(スクロース結晶)の結晶構造

 グラニュー糖の融点の相違は結晶構造に起因すると思われるので、加熱やX線を利用した分析法(示差走査熱量分析(DSC)(注2)、粉末X線回折分析(PXD)(注3)、単結晶X線回折分析(SXD)(注3))によって、上記4.項で調製した融点の異なるスクロース結晶(結晶A、BおよびC)の構造を解析した(11)
  その結果、結晶内でのスクロース分子の立体的な形は、図1に示すように、3つの結晶の間で外観上では区別がつかず、また、結晶内での分子の配列(並び方)も外観上は同じであり、基本構造は同じと思われる。
  また、結晶Aと結晶Cの加熱 熔融 ようゆう は徐々に進み、熔融開始から熔融終了までの温度幅が大きいのに対し、結晶Bの熔融温度幅は小さく、熔融は一挙に起こることが観察された。結晶A、BおよびCの結晶構造は見かけ上は同じに見えるが、加熱時の安定性は大きく異なる。
  さらに、結晶Aと結晶Bについて、物質にレーザー光を当てた時の光の散乱状態の測定(ラマン分光分析、偏光ラマン分光分析)(注4)を利用して結晶構造の解析を行ったところ、結晶の基本構造はほぼ同じであると推測されるが、水素結合に差があることが示唆されており(12)(13)、スクロース分子のOH基の配向あるいは水素結合のねじれなどの微細構造の違いが、結晶の融点に大きく影響を及ぼしていると推察される。

注: “G”と“F”はそれぞれスクロース分子のグルコース部分とフルクトース部分を意味し、その後の数字“1”〜“6”はグルコース部分とフルクトース部分の炭素の位置番号を表わす。
図1 異なる融点のスクロース結晶中の分子の立体的な形(単結晶X線解析による)(11)
(注2)示差走査熱量分析(DSC)
 測定試料と基準物質を同時に加熱し、試料と基準物質との間の吸熱量の差を計測することで、融点や結晶構造の変化などを測定する熱分析の手法。

(注3)X線回折分析
 X線が結晶格子によって回折される現象を利用して結晶内部で原子がどのように配列しているかを決定する手法。粉末のように多数の単結晶の集合と考えられる試料のX線回折を測定することを粉末X線回折といい、通常未知試料の同定に用いられる。また、試料の単結晶を作成してX線回折を測定することを単結晶X線回折といい、通常未知試料の分子構造を決定するために行われる。

(注4)ラマン分光分析
 ラマン効果(物質に光を入射したとき、散乱された光の中に入射された光の波長と異なる波長の光が含まれる現象)を利用した分析法。赤外線分光法と同様に分子の構造や状態を知るための分析法として利用されている。

6.グラニュー糖の加熱安定性

 異なるメーカー4社のグラニュー糖を試験管に入れ、シリコンオイル浴に浸漬して加熱を続けたときの熔融状況を図2に示す(3)。170℃のとき、グラニュー糖W(融点168℃)はほとんど全ての結晶が熔融し、熔融液は淡黄土色に着色し、グラニュー糖X(融点171℃)は一部の結晶が熔融し、熔融液体中に未熔融結晶が混ざっている状態であり、グラニュー糖Y(融点174℃)は試験管壁近くのほんの一部の結晶が熔融しはじめており、グラニュー糖Z(融点183℃)はまだ結晶の熔融ははじまっていない。

異なるメーカーのグラニュー糖(W、X、Y、Z)の融点はそれぞれ168℃、171℃、174℃、183℃である。
図2 異なるメーカーのグラニュー糖の加熱熔融状況(3)

 この4種のグラニュー糖を100℃で24時間保持すると、図3の写真のように、融点の高いグラニュー糖Zには変化は見られないが、融点の低い他のグラニュー糖3種は着色する(3)。しかも、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(注5)で分析すると、着色したグラニュー糖Wからは明らかにグルコースが検出されスクロースの分解が一定程度起こったことが分かるが、着色していないグラニュー糖Zからはグルコースは痕跡量である(4)

W、X、Y、Z:図2の説明を参照
図3 異なるメーカーのグラニュー糖の100℃で24時間保持後の様子(3)

(注5)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
 物質の分離・精製法の一つとしてクロマトグラフィーがあり、固定相と呼ばれる物質の表面を移動層と呼ばれる物質が通過する過程で物質が分離される。高速液体クロマトグラフィーの場合、固定相として極めて微細な均一の球形粒子を用い、移動相として液体を用いる。

 結晶A、結晶Bおよび結晶Cを所定の温度まで加熱し、直ちに急冷して得た固体中の還元糖を測定した結果を図4に示す(11)。還元糖は、測定還元力をグルコース量に換算した値であるので還元糖のみを表わしたものではないが、スクロースの分解量の目安になる。結晶Aおよび結晶Cは140℃付近から還元糖が生成しはじめており、スクロースの分解がはじまり、さらに加熱温度が高くなるにしたがってスクロースの分解が進んでいることがわかる。このことより、スクロース分子の一部は結晶の熔融前に、あるいは熔融と同時に分解すると推測される。結晶Cの還元糖は176℃付近で極大になっており、スクロースの加熱分解で生じた還元性物質が増えて極大になり、その後還元性物質がさらに分解あるいは重合して還元力が減少したと思われる。結晶Bは170℃付近で極微量の還元糖が生成し始めているが、200℃までの加熱でも生成量は僅かである。これらのことより、融点の高い結晶Bのスクロース分子は熱に比較的安定で、融点の低い結晶Aおよび結晶Cのスクロース分子は熱に不安定で分解しやすいことがわかる。

還元糖量は3,5-ジニトロサリチル酸法で測定した還元力をグルコース量に換算した値である。
図4 異なる融点のスクロース結晶の加熱によって生成した還元糖量(11)

 融点の異なるグラニュー糖が食味に及ぼす影響を調べた例を紹介する。グラニュー糖Wとグラニュー糖Zから同じ方法で調製したカラメルソース(WソースとZソース)の性質および食味を比較し、官能検査の結果およびpH値と色差分析結果を表2と表3に示す(14)。2つのカラメルソースの間で、官能評価で差が認められ、色差分析でL*) (注6) を算出すると10.9となり、“大いに”差があるといえる。

(注6)L*値
 物体の色および物体間の色の差を数値化して表現する場合の規格の一つ。L*値は色差を表し、視覚との関係はつぎのとおりである。0〜0.5:かすかに、0.5〜1.5:わずかに、1.5〜3.0:感知せられるほどに、3.0〜6.0:めだつほどに、6.0〜12.0:大いに、12.0以上:多大に。

表2 異なるメーカーのグラニュー糖から調製したカラメルソースの官能評価(12)
注:N=82、有意差:*;p<0.05、**;p<0.01、***;p<0.001
表3 異なるメーカーのグラニュー糖から調製したカラメルソースのpHと色差分析(12)
色差ΔE*=10.9

7.まとめ

 グラニュー糖の純度は非常に高く、結晶の基本構造(結晶内のスクロース分子の立体的な形と配列)は一定であるように見えるが、融点が大きく異なるものがある。結晶の微細構造(スクロース分子の水素結合の仕方)に相異なるものがあり、それが融点やスクロース分子の熱安定性に影響を及ぼしていると考えられる。清浄法の違いによるファインリカー(結晶化させる溶液)中の微量不純物の影響で、生成するグラニュー糖結晶の微細構造が、メーカーによって異なり、融点の相違につながっていると思われる。グラニュー糖を十分に溶解しないで使用する場合(例えば、カラメルソース)、原料グラニュー糖のメーカーの相違が調製した製品の品質に影響を及ぼすことがある。

引用文献

(1) 高田明和ら監:砂糖百科,p.129〜144(糖業協会・精糖工業会)(2003)
(2) M.OKUNO et al.:Intern.Sugar J.,105,29(2003)
(3) 岸原士郎ら:精糖技研誌,52,1(2004)
(4) 坂本薫ら:精糖技研誌,53,9(2005)
(5) H.E.C.POWERS:Nature,182,715(1958)
(6) Y.LOOS:Carbohydr.Res.,238,39(1993)
(7) 鴨田稔:精糖技研誌,9,158(1960)
(8) S.KISHIHARA et al.:Intern.Sugar J.,96,451(1994)
(9) 奥野雅浩ら:精糖技研誌,50,9(2002)
(10) 奥野雅浩ら:精糖技研誌,51,1(2003)
(11) 作田はるみら:精糖技研誌,投稿中
(12) 土橋慶輔ら:第24回日本糖質学会年会A3―08p.40(2003)
(13) 土橋慶輔ら:日本化学会第83春季年会2PA―014(2003)
(14) 坂本薫ら:日本味と匂学会誌,12,401(2005)



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