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南大東島におけるさとうきび生産の低単収要因と単収向上の可能性に関する考察(その2)―アンケート調査報告―

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最終更新日:2010年3月6日

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[2008年5月]

【調査・報告】
東京大学大学院 農学生命科学研究科 准教授 中嶋 康博
宇都宮大学 農学部 農業経済学科 講師 神代 英昭
東京大学大学院 農学生命科学研究科 西原 是良

はじめに

 前号では現地調査に基づいて南大東島が沖縄県内の他市町村と比較して低単収である原因について考察した。本稿では現地調査で明らかになった事項を中心に、実施したアンケート調査の分析結果を紹介することにする。アンケート調査では、経営状況、認識、将来の意向などについて質問を行った。また品質取引を行っている関係から、農家ごとの収穫面積、生産量、糖度などの生産成果はほ場ベースで確認することができるので、そのデータと農家の意識などを組み合わせて、生産実績を左右する要因を考察した。

1.アンケート実施の概況

 アンケートは平成19年11月に実施した。18/19年期に大東糖業にさとうきびを出荷した234名の生産者に配布して、そのうち174名から回収した(回収率74.4%)。配布数でみて74.4%、生産量ならびに収穫面積でみて8割程度の回収率となった。
 配布したアンケート(次頁参照)には、ほ場ごとに18/19年期のさとうきびの作付状況と収穫実績などを記した生産者本人の「野帳」情報を添付した。生産者にはその野帳にしたがって灌水したほ場を特定してもらい、その結果を利用して灌水の有無や営農意識・経営内容が単収や糖度に与える影響を分析することにした。

2.単収と糖度の分布と推移

 南大東島の18/19年期の平均単収は10アール当たり4.4トンで、作型別にみると夏植が6.3トン、春植が4.8トン、株出が3.8トンであった。もちろんこの値は平均であって、ほ場によっては相当にばらついている。そしてそのばらつきも気象条件や病虫害の発生によって大きく状況が異なる。
 図1には、14/15年期から18/19年期の5年間の単収分布の変化を示した。図1のデータはアンケート回答の有無にかかわらず個別生産者の野帳に記載されたすべてのほ場ごとの単収の度数分布となっている。ここでのほ場は、地番のついた一筆ごとの畑ではなく、各農家で作型・品種によって自在に区切って利用されている実際の畑の各区画で把握している。したがって年によってほ場の数に増減がある。
 平均単収は、10アール当たり14/15年期が5.2トン、15/16年期が4.7トン、16/17年期が3.2トン、17/18年期が2.6トン、18/19年期が4.1トンであった。はじめの2年間は比較的単収が高かったが、次の3年は低迷した。特に16/17年期と17/18年期は必要な時期での降雨不足とその後襲来した台風の被害によって極端に単収が低かった。18/19年期は降雨不足ではあったが、台風の被害を免れたので単収が少し向上した。
 一方、図2には14/15年期から18/19年期の5年間の糖度分布の変化を示した。糖度は、14/15年期が13.6度、15/16年期が13.2度、16/17年期が12.4度、17/18年期が12.3度、18/19年期が13.1度であった。分布をみると16/17年期と17/18年期は11度から12度半ばまでの低糖度帯のほ場が非常に多く、他の年ではほとんど見られない現象であった。この両年は台風の襲来で潮害にあったため、糖度が上がらなかった。

(参考) アンケート様式とその項目
※クリックすると拡大します。

図1 ほ場ベースにみた南大東島さとうきびの単収の分布

図2 ほ場ベースにみた南大東島さとうきびの糖度の分布

3.灌水による単収・糖度の向上効果

 本研究の最大の目的である灌水利用と生産状況との関係について定量的な検討を行った。生産状況の指標として利用する単収や糖度は、出荷時に計測・把握されたデータである。灌水との関係は基本的にほ場ごとに集計・検討した。
 アンケートで得られた回答結果を利用して単収や糖度を左右する要因を探った。データは平成18/19年期の灌水実施状況と平成19年時点での経営実態・意向回答結果に基づいている。なお以下の表にある「総計」には、一部法人は含まない。

①灌水の有無
 今回、アンケートおよび補足調査で灌水実施の有無を確認できたほ場は1,131(ほ場総数は1,155)ある。そのうち灌水していたほ場は654、灌水していないほ場は477であった。表1に示したように、その平均単収を比べると灌水しているほ場は5.3トン、灌水していないほ場は3.1トンであった。これらは統計的(0.1%水準)に有意な差があり、灌水の単収向上効果が現実のデータで確認できた。
 一方、平均糖度は灌水しているほ場が13.2度、灌水していないほ場が13.0度であり、統計的に(0.1%水準)有意な差が存在している。ただしそれは基準糖度帯(13.1〜14.3%)の中なので生産者の収入単価はほぼ同じである。収穫のあった1,155カ所の全ほ場で総生産量は45,366トンであったが、そのうち基準糖度帯より低い糖度だったほ場の数は550(47.6%)、そこでの生産量は21,793トン(48.0%)、基準糖度帯内のほ場は519(44.9%)、生産量は20,689トン(45.6%)、基準糖度帯超のほ場は86(7.4%)、生産量は2,885トン(6.4%)であった。
 これ以降、いくつかの観点から灌水の「あり・なし」の影響を分析していくことにする。

表1 平均単収および平均糖度における灌水効果
(単収:t/10a、糖度:度)
注)各欄の前半は平均値、プラスマイナスの後は標準偏差。
統計的検定を行った結果、単収、糖度ともに0.1%水準で有意差あり。

②地理的差異
 表2で集落別に単収および糖度の比較をしよう。南大東島内には6つの集落があるが、平均単収、平均糖度について島内における順位を調べたところ、いずれも集落間で統計的に(それぞれ0.1、1%水準)有意な差が確認された。この集落間の差は、灌水利用の有無を付してみても観察される。在所集落は灌水あり・なしにかかわらず他地域よりも単収水準が高く、その背景には島の中央部に位置し、潮風の影響を受けにくいなど有利な条件が存在しているのだろう。北、新東、旧東、南の各集落については、灌水のあり・なしによって単収および糖度の順位が変化しており、北や新東は特にその差が大きい。このように灌水の効果には土壌や気象・地理的条件の差が影響するのだと考えられる。

表2 集落別平均単収および平均糖度と標準偏差
(単収:t/10a、糖度:度)
注)各欄の前半は平均値、プラスマイナスの後は標準偏差。
統計的検定を行った結果、***印の項目では0.1%水準、**印は1%水準、*印は5%水準、#印は10%水準で集落間に有意差あり。

図3 南大東島の集落

③経営規模
 図4は、生産者を経営規模(収穫面積で把握)でグルーピングして、ほ場面積別の単収の平均を確認したものである。分散分析の結果、灌水あり・なしどちらでも階層間での平均値には統計的に(10%水準)有意な差があることが確認できる。規模間での単収差は特に灌水なしの場合に顕著であった。特に2ヘクタール以下の最小規模層の単収が高く、これは丁寧な肥培管理を行っているからだと思われる。2〜6ヘクタールの経営層では、多くの場合2ヘクタール以下の層に比べて単収が低下しているが、6ヘクタール以上の経営層では2〜6ヘクタールの経営層と比較しての成績は必ずしも悪くない。このように、ある程度経営規模が大きくても、管理手法次第で高い単収を得ることが可能なのである。

図4 経営規模と単収
注)棒グラフは平均値、上下に伸びる線は標準偏差

④作型
 表3のように、春植、夏植、株出の3つの作型の間で単収にも糖度にも統計的に(0.1%水準)有意な差が認められた。灌水あり・なしにかかわらず、単収水準は、夏植>春植>株出の順番(18/19年期)となっている(通常は夏植>株出>春植の順)。
 このような単収差があるにもかかわらず、18/19年期の作型別の生産割合は、夏植の場合は面積で見て11.0%、生産量で見て15.2%となり一番少なかった。春植は面積で19.0%、生産量で21.1%、株出が最も多く、面積で70.0%、生産量で63.7%となっている。作型選択に関しては、単収だけでなく、畑の回転率や作業の手間などを考慮しているためこのような生産割合であることは言うまでもない。なお糖度については、春植>夏植>株出の順になっている。

表3 作型と単収および糖度
(単収:t/10a、糖度:度)
注)各欄の前半は平均値、プラスマイナスの後は標準偏差。
統計的検定を行った結果、すべての項目について0.1%水準で作型間に有意差あり。

⑤品種の影響  図5では、品種および作型別にみた単収を灌水あり・なしで比較した。灌水すると単収を大きく伸ばす品種や作型がある一方で、単収のばらつき(標準偏差)が大きくなるといった特徴も観察された。一方、灌水なしは全体的に品種・作型間の単収の差は小さかった。灌水がある場合も灌水がない場合も、品種間において単収および糖度に統計的に(0.1%水準)有意な差が確認できた。いずれの品種でも灌水の効果は確認できるが、特に夏植の農林9号、11号で著しい単収差が現れている。一方、株出の農林6号、春植の農林15号、またいずれの作型でもRK90―222という品種では、明白な灌水の効果を見い出すことができなかった。灌水の有無を考慮しながら、より有利な品種の選択をすべきである。

図4 経営規模と単収
注)棒グラフは平均値、上下に伸びる線は標準偏差

4.営農意識・経営内容と単収・糖度

 アンケートの結果から、生産者の経営内容や営農意識などが、平均単収や平均糖度に影響を及ぼしているかどうかを農家ベースで集計したデータで検証した。以下では有意な差が観察されたものを中心に述べることにする。

①経営内容の状況
 後継者の有無について尋ねたところ、この質問に回答した162名中、後継者ありが75名、なしが87名であった。後継者がいる生産者の平均単収は10アール当たり4.4トンで、後継者のいない生産者は3.9トンであり、これらの間には統計的に(5%水準)有意な差があった。
 それ以外に認定農業者であるかどうか、農業共済に加入しているかどうかといった項目でも単収や糖度に差が現れないか検討したが、いずれも有意な差は観察されなかった。
 将来の経営についての意向を尋ねたところ、「規模を増やす」と答えた生産者の平均単収は5.0トン、「現在のまま維持する」と答えた生産者は4.0トン、「規模を減らす」と答えた生産者は4.9トン、「わからない」と答えた生産者は3.8トンであった。これらの間で統計的(1%水準)に有意な差が確認された。経営規模拡大を志向する生産者の単収は有意に高かった。ただし、現状維持志向生産者109名に対して規模拡大志向生産者は34名と限られている。
 さとうきびをめぐる制度に関連して、旧来からの価格制度(品質取引)についての意見、「新たな砂糖・でん粉制度(さとうきびにおける経営所得安定対策)」についての認知度、FTAやWTO交渉の認知度について質問をしたが、その応答内容と単収等の間に一定の関係は確認できなかった。

表4 単収の目標と実績
(t)
注)各欄の前半は平均値、プラスマイナスの後は標準偏差。
統計的検定を行った結果、すべての項目について0.1%水準で作型間に有意差あり。

②単収・糖度目標
 自らが目標とする単収とその実績の比較を行った(表4)。
 目標とする単収が10アール当たり4トン未満の層ではやや高くなっているものの、それ以外では高い目標をもった生産者ほど高い単収を実現していることがわかる。そして目標水準階層間で見ると統計的に(1%水準)有意な差が確認された。
 単収の目標を持っていると回答した生産者に対して、どのような工夫をしているか質問した。その結果、「こまめに灌水」(1%水準)、「有機物投入・土つくり」(5%水準)する場合、単収に統計的に有意な差が現れた。それ以外の「作業を適期に実施」「品種の更新」「かぼちゃなどとの輪作」については、それらの作業を実施している生産者の平均単収は高かったが、統計的に有意な差は認められなかった。
 次いで自らが目標とする糖度とその実績の比較を行った(表5)。
 高い目標を持った生産者ほど高い糖度を実現している。目標水準階層間で見ると統計的に(1%水準)有意な差が確認された。

表5 糖度の目標と実績
(糖度)
注)各欄の前半は平均値、プラスマイナスの後は標準偏差。
統計的検定を行った結果、すべての項目について0.1%水準で作型間に有意差あり。

5.灌水実施のための条件

 以上の検討結果から、単収や糖度などでの生産性の向上に灌水が大きな効果を持つことが確認できた。先の表1によれば、灌水すると10アール当たり2.14トンの単収増加となる。糖度の向上は確実だがわずかであるので、残念ながら収入単価上昇にはほとんどつながらないが、交付金単価をトン当たり16,320円、さとうきび取引価格をトン当たり4,191円(19年産、糖度13.1度)とすると、この単収の上昇によって、10アール当たり約4万3,000円収入が増加する。今回検討の対象とした生産者の平均規模は5ヘクタールであるから、総収入で見ると約220万円の増収となる。
 灌水するかどうかの農家の判断は、この増収分で灌水に掛かるコストを賄えるかという費用便益比に左右されるであろう。灌水するためには多大な労力がかかり、地域条件等によってはマリンタンクのような施設に投資する必要が生じる。アンケートで灌水方法を聞いたところ、回答のあった範囲内であるが、表6のような状況が明らかになった。最も過酷な労働を強いるトラックで水を運ぶ事例は、やはり限られていることがわかる。水源に近くポンプで直接送水できる有利な場所と水源から離れた場所とでは、灌水の費用便益比は大きく異なる。地理的な不利な条件を埋める措置がなければ、農家がたとえ灌水の効果を認識していても導入することはできず、増収のインセンティブは働かないであろう。
 今回のアンケートで調べたところ、現在灌水している土地は484ヘクタール、そのうち将来も灌水する意向の土地は440ヘクタールであった。現在灌水していないが将来灌水希望のある土地は164ヘクタール、現在灌水していて将来とりやめる意向の土地は24ヘクタールだけなので、差し引き140ヘクタールの増加が見込まれる。もし実現すれば、現在よりも29%ほど増加することになる。灌水を希望する土地が地理的にどこにあるのかによっても、水源を手当できるかどうかが左右され、実現可能性が変わってくる。

表6 灌水方法の実際
(ほ場数)
注)灌水方法の回答のあった畑について集計。

おわりに

 本稿で検討したデータは18/19年期のものである。このように干ばつの問題のある年においては、著しい灌水の効果が現れていること、そして農家の意識の高さが成果に結びついていることを見い出すことができた。19/20年期のような天候に恵まれた良好な条件の年度における灌水効果についても検討し、比較すれば、干ばつ時における灌水の予防的効果を明らかにできるであろう。
 今回の調査では、糖業メーカーによるほ場ベースでの詳細な生産の記録と、農家への独自のアンケートを組み合わせて分析を行った。この農家・ほ場ごとの生産記録によって単収や糖度の状況を正確に把握することができる。今回の調査を行ってみて、その記録だけでも単収の伸び悩みなどの原因を分析する手掛かりとなると感じた。さとうきび生産振興のために、品質取引制度で記録されたこれらのデータを現地生産の診断と指導に結びつける手法の研究を行うべきではないだろうか。

(付記)
 メーカーで記録している生産データ、農家の意識調査、ほ場の灌水状況などを突き合わせなければならなかったので、アンケートは記名式にせざるを得なかった。分析にあたっては個人情報の保護に十分に配慮しながら行った。なお灌水ほ場を特定する際に、南大東村役場からの補完的な情報を利用した。最後に本研究にご理解いただき、協力していただいた農家の方々、大東糖業株式会社と南大東村役場の皆様に深く感謝を申し上げる。

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