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南大東島におけるさとうきび生産の変動とその安定化要因の考察―地図情報システムと取引記録データの新たな活用方法―

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ

[2009年8月]

【調査・報告】
 
〜平成20年度 共同調査〜調査情報部

はじめに

 沖縄県は平成18年6月、国の「さとうきび増産プロジェクト方針」に基づき、県全体および各島における「増産に向けた取組目標および取組計画(増産計画)」を策定し、関係者が一体となって増産に取り組んでいるところである。

 このような状況を踏まえ、当機構では、平成19年度の専門調査において、東京大学大学院農学生命科学研究科中嶋康博准教授をはじめとするグループに対して、「砂糖生産における規模拡大と生産インセンティブに関する分析」をテーマに調査を依頼し、南大東島のさとうきび生産の実態に関して調査結果を報告した(「砂糖類情報」2008年4月号、5月号参照)。

 第一報(4月号)では、島内の代表的なさとうきび生産者6戸に対するヒアリング調査を基に、南大東島のさとうきび生産農家の現状と課題、特に水利用の種類とその効果、今後の可能性について分析した。第二報(5月号)では、島全体の①単収(10アール当たりの収量)と糖度の分布②かん水による単収・糖度の向上効果③営農意識・経営内容と単収・糖度④かん水実施のための条件―の4点について分析した。分析のためのデータベースは、(1)製糖工場が保有する農家ごとの生産成果と取引記録(2)調査グループが独自に実施したアンケートに基づく生産者の意識・行動調査結果―から作成したもので、生産者・ほ場ベースで構築した。

 平成20年度については、当機構が調査グループと共同で調査を行い、前回の結果をさらに詳しく検討を進めた調査結果を報告しつつ、データのさらなる活用方法として、(1)GIS(地図情報システム)による分析の可能性(2)生産者行動の詳細―についての2点を紹介する。

1.GIS(地図情報システム)による分析の可能性

 製糖工場と農家との原料(さとうきび)取引の記録は生産状況を理解するために有用なデータであり、収穫・搬入の実態はほ場ごとに把握されている。また、品質取引制度の導入以降は、ほ場ごとの平均糖度も明らかになっている。製糖工場は、すべてのほ場の生産(出荷)者名、場所、収穫面積、作型、品種、予想単収、予想出荷量、予想糖度を事前に確認して、原料の搬入割り当てを行い、製糖期の工場の操業計画を立てている。また農家への原料代金の支払いのため、原料搬入量・糖度・搬入日・収穫ほ場も正確に記録されている。なお、平成19年産より農家の生産状況を把握するための植え付け(OCR)調査によって、ほ場のより一層正確な特定ができるようになっている。

 前回は島内のさとうきび生産者に対し、経営概況や生産者意識、経営行動に関するアンケート調査を実施したが、今回は追加のアンケートを実施して、ほ場ごとに、18/19年期と19/20年期を中心にかん水の実施状況について調査を行った。

 今回、GISを利用して以上のデータを畑の場所(畑の地番)を手掛かりに、ほ場地図に落とし込む作業を行った(注)。この試みは、工場が保有している収穫・搬入データを分析する方法を探るための準備である。図1では、18/19年期のほ場別単収を地図上で視覚化した。濃い赤色が塗られている部分は単収が高いほ場を示し、色が薄くなるにつれて単収は低下していくことを意味している。ただし、ほ場の地番情報との突合ができない部分が残っているため、必ずしもすべてのほ場の単収を特定できていない。データ整理は今後改めて検討することとして、今回はGIS利用方法についての検討の現時点での途中経過を報告するにとどめる。

資料:大東糖業(株)の保有データとアンケート調査結果を基に作成。
図1 ほ場ベースで見たさとうきびの単収の分布(18/19年期)

 このようにデータをGISで視覚化することで、生産・経営成果の違いが地理的な状況を考慮しながら確認でき、それが場所的特性に起因するのか、あるいは個人的特性に起因するのか考察しやすくなる。

 なお、図1でほ場の外枠が水色で囲まれた部分は、かん水を実施していないほ場のみを特定し、塗り分けたものである。これによれば、かん水を実施していないほ場は、周辺のほ場と比べて単収が低いことが明瞭であり、地域に関係なく、かん水が単収に与える影響が大きいことが理解できる。

 さらに詳しく見ると、前回報告(2008年5月号)でも整理したように、18/19年期のデータによれば、池の沢地区(島の西部)の平均単収は4.7トン、新東地区(島の北東部)の平均単収は3.9トンであり、池の沢地区の方が高単収のほ場が多く存在することが観察される。単収の標準偏差はそれぞれ2.3トン、2.2トンであったことから、両地区内で同じ程度のバラツキがあったことになる。視覚化することによって明らかになったが、そのバラツキの分布には地理的なまとまりはなく、隣り合わせのほ場でも単収に相当の違いがある。このことから、土壌条件や気象状況の違い以上に、個々の経営内容の違いが単収を左右しているのではないかと推測される。

2.生産者の経営内容と生産成果の関連性

 さとうきびの増産、生産の安定化に向けた対策を進めるにあたってまず検討すべきことは、生産者行動の実態である。気象条件や地理的条件は根本から変えることはできないが、生産者による工夫によって緩和することはできるのであって、実際にその取り組みの違いは同一年の同一地域における単収の格差となって観察されている。現地調査と統計分析を進めた結果、特に水利用のあり方の影響が最も大きいことが明らかになった。本稿ではかん水行動に注目し、それを生産者ごとに整理し、今後の活用の可能性について検討する。

 前回の報告(対象は18/19年期)では、特にかん水行動に関して、①島全体でかん水に関する意識が高く、また、実際にかん水を実施する農家が多かったこと②かん水の効果は非常に高く、実施の有無がほ場間や経営間における大きな較差として表れていたこと―の2点が極めて特徴的であった。特に干ばつが16/17〜18/19年期まで3年連続で続いたことは、かん水施設の必要性を生産者に認識させることとなった。図1の地図からもかん水の普及率の高さが確認できる。

 なお、干ばつが発生した16/17年期は、年間を通してみると降水量が多かったが、それは数回にわたる台風の襲来によるものであり、潮害も発生して、平年と比べると収穫量、単収が共に大きく落ち込んだ要因となった。その一方で、19/20年期は降水量が回復し、島全体で豊作となった(表1)。

表1 南大東島における近年のさとうきび生産概況
資料:大東糖業(株)

 本稿では、干ばつが続いた16/17〜18/19年期の3年間と良好な降雨があった19/20年期の、短期的に気候条件の変動が極めて大きい計4年間の複数年での観察に基づいて、各生産者のかん水方法別の収穫面積率を手掛かりに、生産者行動(かん水行動)と経営成果(単収)の相互関係とその変化を分析する。生産者ごとにインタビュー内容、工場の取引記録データ、筆者らが実施したアンケート結果を利用しながら総合的に考察する。

 平成19年に行ったアンケート調査で把握したかん水方法は、①貯水池より直接②貯水池→マリンタンク(設置型農業用タンク)③地下水より直接④トラック→マリンタンク⑤その他−の5つである。これに、⑥かん水はしているが方法不明⑦かん水なし⑧無回答のため不明−を加えて、農家ごとに4年間分を集計した。また、平成20年に追加のアンケート調査を行い、ほ場ごとに、いつからかん水を始めたかを過去にさかのぼって確認したので、かん水行動の時系列的な追跡が可能になった。

 以下では、平成20年8月にヒアリング調査を実施した6農家に焦点をしぼって考察する。調査対象農家6戸の概要は表2のとおりである。分析した結果を踏まえて、かん水行動としては典型的な3つのタイプに分類した。なお、ヒアリング調査は追加アンケートの実施以前に行っているために、以下の説明の中のかん水方法のアンケート結果で「不明」などのままになった部分がある。また、農家は取引記録を残していなかったり、生産状況を記憶していなかったりする。そのような場合でも、インタビューから得られた情報と取引記録を結びつけることで、より正確な生産者行動の分析が可能となるのである。

表2 調査農家の概要
資料:聞き取り調査により作成。
注)「作業受委託の状況」の欄のカッコ内の表記は、委託の場合は委託先、受託の場合はオペレーター
を務めている組織を示す。

(1)かん水未実施(A氏)

 A氏は、作付面積が18.5ヘクタール、収穫面積が15.5ヘクタールという大規模の農家である(図2)。作業の大部分を委託している。周囲で機械化が急速に進行していくのを目の当たりにして、自分で作業をすることに疑問を抱いたことから委託に切り替えた。現在、かん水施設は保有せず、かん水はまったくしていない。図2での「不明」は「かん水なし」を意味している。かん水をしないと夏植えが困難と考えているため、新植部分は春植えを中心としている。また、苗の確保に不安を抱えていて、他から調達している状況である。天候に影響されやすく、単収の変動幅が最も大きい経営である。

資料:大東糖業(株)の保有データとアンケート調査結果を基に作成。
図2 A氏のかん水方法別収穫面積率と単収の推移

(2)かん水未実施から導入へ移行(B氏およびC氏)

 B氏は、作付面積が54ヘクタール、収穫面積が39.6ヘクタールという極めて大きな規模の農家であり、労働生産性を重視した経営を行っている(図3)。かん水の効果は認めつつも、積極的には導入していなかった。図3の「不明」の部分は、ヒアリング調査によれば、大部分が「かん水なし」に該当すると考えられる。他の生産者と比較して単収水準が全期間を通じて低く、干ばつによる影響もかなり大きい。しかし、干ばつが連続した3年目の18/19年期に、収穫面積30%のほ場へマリンタンクを経由したかん水を行うことになった。その後、天候に恵まれた19/20年期に単収が上昇し、他の生産者との格差は小さくなった。かん水方法別収穫面積率は低下したが、マリンタンクによるかん水は継続している。

資料:大東糖業(株)の保有データとアンケート調査結果を基に作成。
図3 B氏のかん水方法別収穫面積率と単収の推移

 C氏は兼業農家で、作付面積が8.4ヘクタール、収穫面積が7.3ヘクタールであり、島内の平均規模の農家である(図4)。兼業のため、多くの作業を委託しており、かん水実施率も最も高かった18/19年期で20%弱に過ぎず、十分には実施できていない。図5の地図から明らかなように、干ばつだった18/19年期におけるC氏のほ場は周辺と比べて単収が低い。天候が良好となった19/20年期に単収が回復している。また、図4でかん水方法が「方法不明」となっているのは、ヒアリング調査によると、トラック搬送によるものであった。効果のあるかん水を行おうとすると、移動時間も含めて1日に6時間はかかってしまうため、兼業農家のC氏にとっては負担が大きく、かん水の程度は低くならざるを得ない。なお、アンケート調査で質問の対象とした期間以降であるが、平成20年6月にマリンタンク3基を導入したとのことだった。19/20年期、20/21年期は、天候に恵まれた期間が継続していた。それにも関わらず投資に踏み切った理由は、かん水効果の大きさ、トラック搬送によるかん水の困難さを考慮した上で、中長期的な観点から持続的なかん水利用を可能にしようと判断したためである。

資料:大東糖業(株)の保有データとアンケート調査結果を基に作成。
図4 C氏のかん水方法別収穫面積率と単収の推移
注)水色で縁取られたほ場がC氏のほ場。単収水準の 色分けは図1を参照。
図5 C氏のほ場の単収水準(18/19年期)

(3)積極的なかん水実施(D氏、E氏、F氏)

 D氏は、作付面積が17ヘクタール、収穫面積が11ヘクタール、新植部分は春植え50%、夏植え50%の大規模農家である(図6)。D氏が保有するほ場は、水源が近くにあって水利用に関しては好条件にあるが、一方で水はけが悪く雨が降ると大型機械による作業ができないという問題を持つ。16/17年期にはすでに池から直接ポンプによって水をくみ上げ、点滴チューブによりかん水をしている。ポンプはほ場ごとに1台ずつ設置している。D氏の単収は高く、ここで取り上げた他の農家の単収が17/18年期には全体的に低下し軒並み3トン未満まで落ち込んでいる中で、3.4トンを記録している。

資料:大東糖業(株)の保有データとアンケート調査結果を基に作成。
図6 D氏のかん水方法別収穫面積率と単収の推移

 E氏は、作付面積が20ヘクタール、収穫面積が12.3ヘクタール、新植部分は夏植えを中心とした大規模農家である(図7)。地下水から直接ポンプアップするほ場は全体の30%程度である。16/17年期にマリンタンクを2基設置しているが、それ以前から可能なところでは池から直接かん水していた。なお、マリンタンクの利用には工夫があり、マリンタンクに直結した貯水池からの引水分の利用割合は全体の20%(約3ヘクタール弱)に過ぎず、残りの畑にはトラックによって別の池から運搬してきた水をいったんマリンタンクにためた後、それをかん水に利用している。ちなみに、18/19年期には3日に1回マリンタンクを利用してかん水していたが、19/20年期にはあまり使用していなかったようである。以上のように早い時期からかん水を実施していたため、単収の水準が高く、干ばつが発生した年においても他の農家と比較すれば、その被害は少なかったことがわかる。

資料:大東糖業(株)の保有データとアンケート調査結果を基に作成。
図7 E氏のかん水方法別収穫面積率と単収の推移
砂糖類情報2009.8 20

 F氏は、作付面積が13ヘクタール、収穫面積が12ヘクタール、新植部分は春植え100%の大規模農家である(図8)。16/17年期には地下水とトラック搬送によってかん水を実施していた。特に干ばつの発生した年には、梅雨明けの7〜9月の間ほぼ毎日、貯水池からほ場近くのタンクまでトラック搬送していた。19/20年期にはトラックによる水の搬送量が前年期の半分以下の量で済んでいる。このように精力的にかん水を実施していたため、図9の地図から明らかなように、干ばつだった18/19年期におけるF氏のほ場は、周辺と比べて単収が高い。図8を見ると、特に17/18年期は多くの農家で単収の減少が見られる年だったにも関わらず、増加していることは極めて特徴的である。

資料:大東糖業(株)の保有データとアンケート調査結果を基に作成。
図8 F氏のかん水方法別収穫面積率と単収の推移
注)水色で縁取られたほ場がF 氏のほ場。単収水準の色分けは図1の注を参照。
図9 F氏のほ場の単収水準(18/19年期)

おわりに

 農家ごとにかん水方法別収穫面積率と単収の推移について3つのタイプに分類して検討したところ、以下の事実が確認された。

 かん水未実施タイプの農家は、収穫面積が極めて大きいか、あるいは兼業従事のために、かん水にまで手が回らない場合が多く、単収は極めて不安定である。

 かん水未実施から導入へ移行の農家は、干ばつが3年連続した3年目の18/19年期からかん水を開始する動きが見られた。そして、翌19/20年期には島全体の降水量は回復したがかん水を続けている。

 従来から積極的なかん水を実施していた農家の中には、取水条件に恵まれていなくともトラック搬送などの自助努力によって水を確保して、高単収を維持してきた事例があった。

 これらはヒアリング調査が実施できた6戸でのごく限られた事例の検討結果に過ぎないが、以上のような考察を取引記録に基づく正確なデータを活用しながら広範囲に行うことで、生産者行動の普遍的な分析とそれを踏まえた生産指導が行える可能性が高まると考えられる。

 平成21年7月現在、筆者らは、取引記録と独自アンケートによるデータベースをGIS上で作成して、それを基にして、かん水利用、作型、品種の選択が単収や糖度にどのような影響を与えるかの分析を進めている。そして、その結果を現場レベルでの理解が深まるようにGISによる視覚化を試み、普及指導の活用の可能性を検討している。データベース作成上の問題点や解析の手法などについては別の機会を利用して報告したい。

(付記)GIS地図や取引記録の利用に関して、南大東村役場、大東糖業株式会社から特別の配慮と支援をいただいた。ここに深く感謝の意を表したい。なお、分析は個人情報の取り扱いに慎重に配慮しながら進めた。

本調査の実施者
東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授 中嶋 康博
宇都宮大学農学部 農業経済学科 講師 神代 英昭
東京大学大学院農学生命科学研究科 修士課程 今井 麻子
農畜産業振興機構 食肉生産流通部 食肉需給課(前調査情報部調査課) 菊池美智子
農畜産業振興機構 特産業務部審査役(前那覇事務所長) 仁科 俊一
農畜産業振興機構 那覇事務所長 薄井 久雄

注:琉球大学川満芳信教授が北大東島でGISを利用した生産分析を行っている。(「NIRとGISを利用したサトウキビ営農支援情報システムの実用化・定着化」「砂糖類情報」2005年4月号掲載)。この報告で川満教授は単収を左右する要因として土壌条件に着目している。我々はこの研究を踏まえつつ、かん水施設の有無と生産者行動・意識など社会経済条件を要因に含めた分析を目指している。

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