ホーム > 砂糖 > 生産現場の優良事例など さとうきび生産関係 > さとうきび生産量1000トン農家の増産に向けた取り組み
さとうきび生産量1000トン農家の増産に向けた取り組み
最終更新日:2010年3月6日
|
生産地から
|
|
[2006年8月]
鹿児島県徳之島農業改良普及センター |
農業改良技師 竹之下 佳久 |
1.徳之島地域の概要
長寿の島、闘牛の島で知られる徳之島は、鹿児島県本土の南約460kmに位置し、年間平均気温21℃と四季を通じて温暖な気候を利用した農業が営まれている。基幹作物はさとうきびで、全農業生産額の4割弱を占め、肉用牛(生産牛)、ばれいしょがこれに続き、これら3部門で全農業生産額の84%を占めている。その他に、かぼちゃ、にがうり、しょうが、ソリダゴ、タンカンなどのほか、マンゴー、パションフルーツなどの亜熱帯果樹も栽培されている。夏場は台風や干ばつに悩まされることが多く、園芸作物の多くは冬場の温暖な気候を利用した作型で栽培されている。
今回紹介する大竹興産は、島の南部に位置する伊仙町でさとうきび専業経営を営んでおり、平成10/11年期から4年連続、平成16/17年期から2年連続生産量1,000トンを達成するなど地域のモデル的な経営体である。
2.大竹興産の経営概況
大竹興産は平成8年に有限会社大竹興産(代表取締役 大竹精一氏)として設立された。現在の構成員は4名で、12月の製糖期始めから夏植植え付け時期まで、ハーベスターやトラクターのオペレータとして2名雇用している。
経営面積は28haで、うち自作地が2haと借地中心の経営である。作型別では、春植が4.3ha、株出が14.5ha、夏植が4.3haで、今年の新植夏植は4.9haを予定している。
品種構成は、農林8号が全体の85%を占め、農林17号が5%、その他品種が10%である。今後は新たに鹿児島県の奨励品種になったKY96-189、KY96T-537を積極的に導入していく計画である。
機械装備は、平成9年に補助事業で導入したハーベスタ(文明農機製HC-100)の他、トラクター4台、プラウ、プラソイラ、ロータリー、中耕ロータリー、全茎式プランター、株揃機、小型薬剤散布機、動力噴霧器、マニュアスプレッダー、パワーショベルなど、さとうきび栽培に必要な機械はすべて揃っている。
生産量・単収の推移は下表のとおりである。伊仙町は徳之島の中では干ばつ被害を特に受けやすい地域であるが、大竹興産は栽培規模が大きいにもかかわらず、生産量、単収を維持しており、栽培技術の高さがうかがわれる。
3.増産に向けた取組み
(1) 土作り対策
新植前には必ずパワーショベルによる深耕作業を行っている。深耕により、土を柔らかくするとともに雑草密度を下げている。また夏植前にはできる限りクロタラリアなどの緑肥を植え付け、これらも鍬込む。徳之島の土壌は地力の低下が著しいため、緑肥鍬込みにより地力が維持され安定栽培につながっている。
|
|
パワーショベルによる深耕の実施 |
クロタラリア鍬込みの様子 |
(2) 早期植え付けの実施
大竹興産では、早期植え付けを実施している。春植は3月末日まで、夏植は8月末日までに植え付けている。植え付けは全茎式プランターと呼ばれる植え付け機を利用し無脱葉で植え付けている。
目標とする面積を適期に植え付けるため、整地、種苗の準備などは新たに臨時雇用を入れて行っている。
(3) プランター植に適した優良種苗の確保
さとうきびの種苗には特に気を使っている。島内で生産販売されているメリクローン苗や、国の種苗管理センターの優良種苗による種苗更新を行い、モザイク病などによる減収を防いでいる。また、次年度春植用には5月末から6月上旬の梅雨時期に、次年度夏植用には10月に植え付ける。生育期間が短く根本付近の芽まで確実に発芽する若いさとうきびを種苗に使い、プランター植でも確実に出芽するようにしている。
(4) 雑草対策
さとうきびは雑草との戦いと言われるが、大竹興産では除草剤散布作業はすべて機械化し、効率的で効果的な除草対策を行っている。植え付け後の雑草発生前までにセンコル水和剤を、薬剤散布機で全ほ場に散布している。機械散布により作業時間が短縮され適期作業が可能になるとともに、散布むらがなく除草剤の土壌処理効果が長期間持続する。
それでも発生した雑草にはアージラン液剤を散布する。その際、薬剤は株元にのみ散布し、さとうきびへの影響をできるだけ少なくして殺草効果が得られるよう工夫している。
この体系処理により雑草発生量が年々低下し、基準薬量以下でも十分除草効果が得られるようになり低コスト化にもつながっている。
|
|
薬剤散布機による土壌処理
|
さとうきびの株元へ除草剤を散布 |
(5) 収穫直後の株揃え作業の実施
株出予定ほ場では、畦上のハカマを取り除く株揃え作業を収穫作業後1週間以内に行っている。株揃え機による作業は10アール約30分で終了する。収穫作業で忙しい製糖期間中には、短時間で株揃え作業を終わらせ、確実に初期萌芽させ、茎数の確保に努めている。
(6) 根切り機の利用
株出ほ場では、出芽確認後に根切り機による根切り、施肥作業を行っている。根切りにより古い根が切断され新根の発生を促すとともに、根切り位置に筋状に施肥することで、さとうきびの根の近くに肥料を施用し、雑草に吸収される肥料をできるだけ少なくしている。
(7) 施肥体系
春植の施肥体系は、基肥にBB538(N:15%、P:13%、K:8%)を80kg/10a、追肥は培土時に株出予定ほ場では、140日タイプの緩効性肥料を含んだBB880(N:18%、P:8%、K:10%)を80kg/10a、植え替えほ場では、BB538を80kg/10a施用している。
夏植は、基肥にBB538を40kg/10a、追肥は中耕時(植え付け2ヵ月後)にBB538を70kg/10a、最終培土時(植え付け4ヵ月後の年内)に、270日タイプのみの緩効性肥料を含んだBB880(特別注文)を70kg/10a施用している。なお、最終培土は製糖期前に終わらせることで、作業の分散化を図っている。
4.今後の目標と課題
栽培面積30ha、生産量1,500トンを目指している。株出がさとうきびの魅力という信念のもと、今後とも春植を中心とした株出体系の確立に向けて取り組み、平均単収6トンを目指したいとのことである。また現在の株出回数は平均2回であるが、これを3回、4回と増やし更なる低コスト化を図る計画である。株出回数を増やすには土作りや雑草対策の他、欠株対策も必要となる。ハーベスタ収穫に伴う引き抜きをできるだけ少なくする栽培技術の確立や、収穫作業体系の見直しを行いたいとのことである。
最後に大竹興産から一言。「さとうきび生産の秘訣は段取り力。目標とする時期までに確実に作業を終わらせるには、今何をどこまで終わらせなければいけないか常に考えて作業を行うことが必要。」とのことである。
大竹興産は、基本的なさとうきび栽培技術を確実に実践し、生産量、単収の向上に努めている地域のトップリーダーである。今後益々の活躍が期待されている。