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さとうきび春植の適期植付・堆肥投入による単収向上
最終更新日:2010年3月6日
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生産地から
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[2006年9月]
沖縄県中部農業改良普及センター |
農業技術班 比嘉 良実 |
1.沖縄本島中部地域のさとうきび生産
沖縄本島中部地域には肥沃なジャーガルと呼ばれる土壌と乾燥しやすい島尻マージ土壌、さらに酸性の国頭マージ土壌の3土壌が分布し、土壌による単収の違いはあるものの地域のさとうきび平均単収は沖縄県平均を上回っている(表1、2)。
しかし、平成16/17年期のさとうきびの収穫面積は、1,018ha、生産量63,275トンで、5年前(平成12/13年期)の生産量81,527トンに比べて22.4%減少し、地区の3作型平均単収も6,215kgと5年前の平均単収6,937kgに比べ、やや低下している。
生産量と単収が減少傾向を示す原因としては、都市化による畑地の減少とさとうきび農家の高齢化による担い手不足を背景とする地力の低下、肥培管理の遅れ等が関連しているものと考えられる。
また、中部地区の作型は株出が65%を占め、特に5年次以上の長期株出面積比は同じく株出面積の多い本島北部や南部地区が7〜8%であるのに対し、中部地区は28%と高いことから(図1)、増産を図るためには、長期株出ほ場を更新して株出の単収を高める必要がある。
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図1 平成16/17年期さとうきび株出回数別収穫面積比率 |
さらに、株出更新の春植を単収向上させることが、次期株出の単収向上になり、春植促進にもなると考える。
このような状況から平成17年に中部地区内4カ所に春植の単収向上実証展示圃を設置した。
その成果をモデルとして生産農家、関係機関を対象に現地検討会や栽培講習会等を開催して、地域におけるさとうきびの生産性の向上を図り、さとうきび地域増産運動を推進することとした。
2.実証展示内容
単収向上対策として、以下を実施した。
(1) 早期植付:植付を早期に行うことで、生育のスタートを早め、生産量をより多く確保する。
(2) 良質苗の選別:芽子の健全な二節苗を選別し連結して植付けることで、発芽率向上と苗数の無駄を省く。
(3) 有機質堆肥の多量施用:球陽製糖が民間の堆肥工場と提携し、余剰バガス、牛糞等を材料に生産した堆肥を一部助成して、トン当たり1,250円〜1,650円の安価で農家に提供している。展示ほには10a当たり10トンを施用する。
(4) フィルターケーキによる覆土:保温効果を高め発芽を促進するため、苗をフィルターケ−キで覆土する。
(5) 培土時期の調整:原料茎数を一本でも多く確保するため、分げつが5〜6本発生してから平均培土を行う。母茎の草丈が50cmに生長した頃が目安となる。
(6) 除草剤の散布:植付け直後に除草剤を散布する(初期生育時に雑草が繁茂するとさとうきび原料が40%減収といわれている)。
(7) 欠株補植:補植苗用に5畦越しに2条植して、欠株が発生した場合に移植する。
(8) 干ばつ対策:適期かん水の実施
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写真1 ほ場への堆肥投入(10トン/10a)
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写真2 実証展示ほの植付け作業 |
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写真3 苗の植付け後にフィルターケーキで覆土する |
3.実証展示ほの管理作業
(1) 植付け前
(1)平成H17年1月11日に堆肥を10a当たり10トン散布した後、畦立て作業を実施
(2) 植付け時
(1)平成17年1月18日植付
(2)品種:Ni15(二節苗、40cmに調苗)
(3)畦幅:1.3m
(4)面積:実証区10a、慣行区5a
(5)植付方法:二節苗の手植
(6)植付本数:0.1a(畦幅1.3m×畦長7.69m)当たりの苗数は19本で、春植基準苗数2,400本/10aより少なかった。
(7)苗を植付けた後、植溝にフィルタ−ケ−キを厚さ約5cm覆土し、さらに発芽促進のためコンポ−ルビニ−ルでマルチした。
(3) 植付け後
(1)植付け7日後に除草剤散布(カーメックスD)
(2)平成17年3月にメイチュウ防除
(3)4月に追肥および平均培土、除草作業
(4)5月にガイダ−防除
(5)6月に追肥および中耕培土
(6)7月に除欠および除草作業
(7)9月と12月に剥葉作業
(8)10月に野鼠駆除
(4) 収穫は平成18年2月24日
4.実証結果
(1) 展示ほ4カ所の平均で、実証区の茎長は慣行区に比べ7月に20cm長く、その後差は見られなかったが、茎数は実証区が慣行区より多く推移した。(図2、写真4、5)。
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図2 平均茎数と茎長の推移 |
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写真4 単収向上実証区の生育状況(Ni15)
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(2) 12月の収量調査の結果、4地区の平均で実証区の単収は慣行区より1,500kg増収したが、甘蔗糖度では慣行区より約0.8度低かった(図3)。
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図3 収量と品質の比較(12月調査)
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(3) 葉緑素計による葉色(GM値)は測定していないが、4地区とも慣行区に比較して葉色が濃かった(観察)。
通常、化成肥料の消費等による肥料切れと気温の低下に伴って生長が抑えられ、糖分の蓄積が進むが、登熟期においても、堆肥の大量投入によってN成分の残効があって、実証区では葉中のN濃度が高くなり、慣行区より栄養生長に偏っていたため糖蓄積が遅れたものと推察された。
5.地域への普及成果
(1) 今回、実証ほを設置した読谷村の松田昌俊さんは本技術による栽培を積極的に行い、平成17/18年期沖縄県優良事例調査の全刈り審査においてNi15の春植で単収13,120kg、甘蔗糖度14,4度の成績を上げ、春植の1位となった。
(2) 平成17/18年期の読谷村における春植平均単収は4,695kg/10aで、松田さんの成績13,120kgは村平均に対して約279%の増収となり、高い効果を示した。
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写真6 平成17/18年期沖縄県優良事例全
刈調査(読谷村)
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写真7 春植で13,120kg/10aを挙げた松田
昌俊氏、夏植も含めた審査でも沖縄
県2位となった
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6.今後の課題
(1) プランター利用による植付作業の省力化と苗ほの設置による良質苗の確保
(2) 堆肥、フィルターケーキの部分散布機の開発・改良
(3) フィルターケーキによる覆土は1月植付けにおいて、慣行区に比較して発芽を40日以上早める効果が見られたが、コンポーネントマルチはフィルターケーキのみの覆土より発芽を1週間早くしただけで、その後の生育差も小さかったため、フィルターケーキのみの被覆で良いと考えられる。
問い合わせ先
沖縄県中部農業改良普及センター
農業技術班工芸作物担当
Tel:098−973−5202
中部地区さとうきび生産振興対策協議会
Tel:098−973−9481